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エピローグ  ~勇者を越えしレベル∞~

 俺は人間だ。ナビは獣人族で、ガーネットはドワーフ。シルフィはエルフでヘレンは天使族。そしてドナは淫魔族である。


 目が覚めると、俺たちは十五階層の何も無いど真ん中に倒れていた。


 悪夢から覚めたように、ナビは俺に抱きついて「キミは邪神を倒した本当の勇者だから、ボクは一生を賭してもキミについていくよ」と、嬉しそうに笑った。


 邪神としての記憶はきっと、残っているのだろう。


 その役割から切り離す神の力はどうやら失われてしまったようで、最後に放った一撃とともに神聖剣と超星剣も消えた。


 そして、ナビの額の紅玉も消えさり、三眼の邪神は事実上――消滅したのだ。




 俺はヘレンとともに城塞廃虚の塔に眠る人間族を復活させた。


 邪神の脅威が去った今、彼らを解き放つのは元勇者たる俺の義務だ。


 期待も予想もしていなかったが、復活した人間たちから俺に送られたのは“感謝”の声だった。


 世界を救い人々を解放した英雄だ。


 だが、人間たちは永く眠りにつきすぎて、現在の世界の事もろくに知らなかった。


 俺だって似たようなものである。知っているのは地下迷宮世界のことがほとんどだ。


 ひとまず人間たちは天使族の領地で保護されることとなった。


 ヘレンの尽力もあり、教会の威光もあってしばらくの間、人間は天使族に“間借り”する格好だ。


 俺も邪神の復活を阻止したことを認められ、地上世界の天使族のみならずエルフやドワーフの国々の王族や有力者たちと面会し、各地にある獣人族の共同体ユニオンや、闇の種族たちの元にも訪れた。


 地上も問題は多いが、闇の種族がそれぞれの社会に溶け込めるよう支援する組織の立ち上げにも参加した。音頭を取ったのはクインドナである。


 二年があっという間に過ぎ去って、地下迷宮世界は蛻けの殻になった。


 人間の復活により、その防衛機能であった魔物が消滅したのだ。


 赤い光に溶けて消え、地上の魔物とはまったく別の生態をもつ地下迷宮世界の魔物たちは、あの世界の守護者だったようだ。


 まあ、そこで手に入ったお宝は地上世界に残るのだから、謎は多い。


 ナビがこっそり俺に教えてくれたのだが、地下迷宮世界は星の空を今も旅していて、隕石などから“素材”をを抽出し、細かく砕いて成分を再構成している……とか。


 さっぱり意味がわからないので、それ以上訊かないことにした。


 魔物も消え、お宝も手に入らなくなり、作物もできなくなると獣人族の共同体ユニオンも、地上世界に戻っていった。


 ガーネットもシルフィもそれぞれの故郷でしばらく、成すべきことをしてきたのだが――




 今日、俺たちは大きな港のある地上の街で再会した。


 巨大な船がいくつも港に並んでいる。


 係留しきれず沖合にも船団が浮かんでいた。


 俺たちが乗り込んだのは「希望号」という探査船だ。


 船団には、この二年で新天地を目指すため訓練を続けた人間族の若い男女を中心に、ドワーフの腕利きやエルフの知者賢者。治癒能力に長けた天使族の司祭やどんな土地にも適応して開墾できる獣人族の一団も乗り込んでいる。


 行き場の無い闇の種族たちも、新天地に夢を乗せて進む調査船団の一員として加わった。


 雲一つ無い晴天に、風は追い風だ。


 出航を前にして甲板に集まると、船首で俺は仲間たちと再会を果たした。


 赤毛のドワーフが腕組みしながら胸を張る。


「やっと揃ったねぇ。ま、このメンツがいればどこにいってもきっと大丈夫さ。アタイが保証するよ」


 エルフの少女がうんうんと、二回首を縦に振った。


「やっと念願の新大陸を目指す旅ッスね!」


 空に瞬く天の星々の世界に比べれば、まだこの大地と海は狭いかもしれないが、それでも未知の場所はいくらでもある。


 天使族の少女は地下迷宮世界を出て以来、笑顔が増えた。


「……わくわくします」


 以前の彼女なら感情を言葉にはしなかったのだが、この二年で意識的にそれを増やしたらしい。人間関係が円滑になったとは、彼女の言葉だ。


 妖艶な美女は手袋越しに俺の頬に触れた。


「一緒なら寂しくないわね。長旅でしょうし、欲望が暴発しちゃいそうになったら相談するのよぼうや……じゃないわねゼロ」


 この人は相変わらずだ。実は船団に加わったのも、淫魔族のレベルドレインを抑制する魔法や新薬の材料探しという理由があった。


 まあ、本人は旅ができるのが楽しいという感じだ。


 そして――


 この船には、俺が地下迷宮世界で出逢った連中も乗り込んでいる。多くは獣人族だが、闘技大会で戦ったレパードはじめ、門番オークのグラハムや天使族ながら自分を鳥人族といってはばからないリンドウに、猛牛種のボンゴ兄弟の姿もあった。


 船の穂先から青い尻尾を揺らして獣人族猫種の少女が戻ってくる。


「海ってどこまでも広いよね」


 少女は笑った。邪神の宿命から切り離したとはいえ、その罪は消えないと悩んだ時期もあったのだが、ようやく普通に笑えるようになった。


「そうだな。もうまもなく出航だ」


 船の碇が巻き上げられる。


 獣人族の少女――ナビは俺の顔を見上げて言う。


「もう再生リトライできないんだから、あっさり死んじゃだめだよゼロ」


「わかってるって」


 俺たちは甲板の上で一列に横並びして、頬に風を受けながら振り返る。


 街がゆっくりと、少しずつ離れていった。


 前を向けば船団とどこまでも広がる青い水平線。


 いくつもの夢を乗せて、本日ただいま、希望が風を帆に受けて未知なる未来へと旅だった。

好きなゲームの影響から色々ごった煮で生まれた本作。

ゲームの醍醐味には「死に覚え」とか「強くてニューゲーム」もあると思い、筆をとりました。

中でもDQ11の「このまま終わってもいいけど、やり直してより完全な形で世界を救える」という仕掛けがきっかけです。

アドベンチャーになりますが、やり直して展開が変わるという意味じゃLIFE IS STRANGEなんかも影響ありあり。

作中のヒロインの一人、ヘレンはその生い立ちなども含めて、NieR:Automataのイメージでした。

これまで遊んできたゲームに加えてUndertaleに多大なる衝撃を受け(マザーは1.2.3プレイ済み)、ペルソナ5の影響でシティアドベンチャー&ダンジョン+女の子と仲良くなれる要素も加えつつ、主人公がついついやっちゃうところはThe Witcher 3: Wild Huntのゲラルトおじさんな可能性が微粒子レベルで存在していたり。

終盤のサブタイトルは好きなRPGから。わかる人はいるかな?

最後は新大陸への出航。はい、MHWの影響ですね。


というわけで自分の好きなものをこれでもかと突っ込んでみました。最後までお付き合いいただきありがとうございます~!

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― 新着の感想 ―
[一言] 滅茶苦茶面白かったですーーーー!!! 163話中、面白くない話が1話もなかった!!! ヘレンのイメージがニーアなのは、登場初期から自分も思っていたので、勝手に作者様と相思相愛気分です笑笑 …
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