一つの道を究めようとすれば必ず成功と失敗を問われる しかし……その道を歩む事にこそ掛け替えのない価値があるのだ
新月の夜、祭壇を抜けた先の平原で、空へと続く昇降機を前にそれぞれシルフィの調合した秘薬を飲む。
一時的に戦闘力を増加するものだ。能力倍加。レベル0での使用は無意味だが、今の俺が使えば限界突破である。
これですべての準備が整った。
ガーネットが小さな穴の開いた柱を前に、赤い鍵を手にして笑う。
「なんだろうね。たぶんこうするんじゃないさね?」
赤い鍵は収まるべき穴へと吸い込まれ、停止していた昇降機の一つが起動する。
別の昇降機の前でシルフィが同じく、青い鍵を使った。
「ぼくも知ってるような気がするッス」
ヘレンは言わずもがな。白い鍵で天への道を開く。
「……」
この先の出来事を知る彼女だからこそ、表情はますます引き締まった。
ドナが黒い鍵を手に空を見上げ呟く。
「あたしは初めてみたい。どんなことでも初体験はドキドキするわ」
黒い鍵が挿し込まれた。
最後にナビが、首から提げた緑の鍵を俺に見せる。
「ねえ、ボクも一緒に行っていいのかい? ボクはここで待っていた方がいいかもしれないよ?」
「最後まで一緒だろ。それともナビは怖いのか?」
「うん……導く者失格だね。本当は引き返したいんだ。ずっとみんなとこのままでいたいって思うよ」
ナビも邪神としての本性を取り戻すことを本能的に……いや、俺と“決戦”をした記憶の残滓から感じているようだ。
俺はしゃがんでナビの頭を撫でる。
「心配いらないさ。全部俺にに任せてくれ」
そのまま首から鍵のついた紐をとって、緑の鍵で最後の一柱を目覚めさせた。
元から使える昇降機と併せて、六つの光が天へと昇る。
「いくぞ……みんな」
俺の言葉に誰もが頷き、決意とともに光の中へと一歩踏み出す。
ふわりと浮遊感が生まれて空へ。
重力の向きが変わり、天を覆う巨大な扉と俺たちは正対した。
ヘレンが翼を広げ、白槍を手にした。
「……警戒。敵の反応あり」
さも、たった今、感知したかのように超級天使は言う。
ガーネットがハンマーを構え、シルフィは杖に魔法力を込める。
ドナは正対した敵と戦う時の構えだ。
「ナビちゃんはママの後ろでしっかり見ていてちょうだいね」
「う、うん。一緒に戦えないのが悔しいよ」
全員の準備が出来たところで――
「悪いがすぐに終わらせてもらう」
すでに門番の神兵は俺にとって、肩慣らしでしかない。
雲を固めたような地面から、白い陶器の身体の巨人がそそり立つ。
俺は右手に神聖剣を、左手に超星剣を抜き構える。
被害が及ばぬよう、仲間それぞれに個別で聖域魔法をかけた。
当然、俺の攻撃の余波に巻き込まれないようにするためだ。
瞬時に虹色の防壁がガーネットたちを包み、同時に俺自身に超人魔法を起動。シルフィの秘薬の効果もあって、複数の魔法を一挙に走らせることができた。
どれだけ魔法力を注いでも、聖剣と星剣はビクともせず受け止め、加速し、魔法を構築展開する。
輪廻魔法が発動すると同時に、俺は両手の剣を舞うように振るった。
「天星流……流星群ッ!」
白色の巨人に向かい“跳ぶ”と、超人的な強化をされた俺は、ほんの一蹴りで二十メートルほどの高さに到達した。
そこから落下しながら身体を回転させ、巨人の頭から股を割くように斬撃の連打を浴びせる。
五秒で第一形態が崩壊した。
ガーネットが武器を手にしたまま半分口を開けて言う。
「もう最初のを倒したってのかい?」
何と比較して、いつの俺と比較しているのだろう。
シルフィも息を呑み、ヘレンは変わることなく警戒を続けている。
ただし、門番の神兵ではなく誰かがうかつに手を出さないように……だ。
ドナは「一緒に来たのだから、ぼうやのお手伝いがしたかったのだけど、今は信じて母は待つことにするわね」と、無理な参戦はしなかった。
続く第二形態に移行し、巨人の身体が宝石のような黄色いエレメンタルになった瞬間――
「超級炎撃魔法……原初の炎」
荷電粒子砲が巨塔のように神兵の足下から吹き上がり、その身体を滅する。
二秒だ。別の属性にエレメンタルチェンジを起こす時間を与えない。
地面に巨人の影だけが残った。が、すでに次の魔法は完成している。
空めがけ俺は魔法を解き放つ。
「冥王魔法」
漆黒の槍が全方位から、空に浮かぶ巨人の本体を99回射貫いて殺す。
一秒で終わりだ。
ガーネットたちとともに戦った時とは、次元が違う。
ここにみんなでやってきたのは、戦うためではないんだ。
俺一人じゃ邪神を……ナビを説得できないから。あいつには俺だけじゃ足りないから。
だから誰も傷つけさせない。ここで俺が独りで神兵を倒す。最強の力は、きっとそのために必要だったんだ。
神兵の身体が砕け散り、地面に降り注ぐと種が芽吹くように、1024体に分裂した。
一体ごとのサイズは小さくなったが、群体となって俺にめがけ突撃してくる。
「混沌魔法」
混沌魔法によって彼らは同士討ちを始めた。1024体が512体となり、256体へと減り128体となる。
64体から32体になると16体になるのも時間の問題だ。
8体が4体となり2体が残ると、最後の1体が勝ち残った。
その1体に俺は次の魔法を打ち込む。
「封印魔法」
最後の一体が無限色彩を発動する前に、その魔法を完全封印した。
俺は純粋な白と黒の魔法力を剣に込めて、十字に交差させ構えると、一足跳びで最後の神兵の胸先まで肉薄し、魔法を込めた一撃を食らわせる。
「無限色彩極超新星ッ!」
かつて制御しきれず世界を滅ぼした力も、今や俺の制御下にある。
虹の光を纏った十文字斬りが、神兵の身体を四つに分断すると七色の光彩の彼方へと消し去った。
剣を鞘に納めて振り返る。
「ドン引きだわマジで」
「ゼロさん加減ってものを知らないッスね」
「……完勝」
「世界が敵に回っても母はぼうやの味方よ」
哀れむような視線が俺に集まった。もっと協力して全員で倒すと思ってたのかもしれないが、しょうがないだろ勇者を越えた力を手に入れちまったんだから。
最後にナビがドナの背後からひょっこり顔を出して言う。
「今のゼロなら邪神が復活しても楽勝だね!」
お前が言うな!
と、ツッコミを入れるのはまあ、無粋だな。
「ともかくこれで、あの門の先へ行けるはずだ。みんな俺についてきてくれ」
俺の背後で、巨大な門がゆっくりと開き光が戸口から溢れ出した。
行き先を知っているだけに、もうわくわくもしないけどな。
ガーネットとシルフィは目を輝かせ、ドナは「おっきいわねぇ」と嘆息混じりだ。
俺の隣にナビがするするっと駆け寄って笑う。
「ああ、ついにボクらは“真理に通じる門”の先へと行けるんだ。ありがとうゼロ。ううん……これからもよろしくね」
「もちろんだ。さあ、行こうぜ」
意気揚々と尻尾を左右に振るナビを、ヘレンがじっと見据えている。
この門をくぐり抜ければ記憶の封印は消滅し、ナビは本来の自分を取り戻すだろう。
俺はこんなにも強くなったというのに、背筋が震えた。そんな俺のあとを仲間たちがたどってついてきてくれていても、ここから先は何が起こるかわからない未知の領域なのだから。
名前:ゼロ
種族:人間族 勇者(?)
レベル:99 秘薬の効果で倍加
力:SR(100) ガーネットとの絆により限界突破
知性:SR(100) シルフィとの絆により限界突破
信仰心:SR(100) ヘレンとの絆により限界突破
敏捷性:SR(100) 過去の自分を越えたことにより限界突破
魅力:SR(100) クインドナとの絆により限界突破
運:A(99)
無限色彩魔法:
超級回復魔法 細胞の欠片さえ残っていれば肉体を完全復元する
超級治癒魔法 すべての“異常”を修正し“通常”に戻す
支配魔法 知的生物を支配し絶対遵守の命令を与える
超人魔法 肉体を強化しすべての能力を爆発的に向上させる
聖域魔法 虹の光彩による究極の防壁で身を守る
冥王魔法 死者すらも殺すより完全なる“死”を与える
輪廻魔法 自身の死亡後にも発動可能。魔法力の続く限り死をリセットできる
超級炎撃魔法 原初の炎――知力を極め覚醒
超級氷撃魔法 久遠の霜――知力を極め覚醒
超級雷撃魔法 終焉の雷――知力を極め覚醒
混沌魔法 対象の全能力を低下させ精神錯乱状態に陥れる
封印魔法 対象の魔法と技をすべて封印する
流派:天星流免許皆伝 最終奥義取得――天流星舞 森羅万象救いし勇者の剣技
装備:神聖剣――何度でも立ち上がる消えることのない希望の剣
超星剣――未知の未来を夢みて切り開く決意の剣
特殊能力:魂の願い 人が向かいたいと思い願う未来への導 これまで得たすべての力が“解放”される




