キミはヒーローになりたかったのかい? ひとりの力でなにができるんだろう?
ガーネットの工房は新装備のお披露目会場となった。
俺たちの資金は武器防具の素材と、シルフィが作る錬金薬の材料費に消え、このあと最後の壮行会の飲み代くらいしか残っていない。
ガーネットは石火矢ではなく、本来のハンマー装備。
シルフィはローブの杖の黒魔導士スタイルは変わらず、それぞれが最上級のものに変わっている。
もともとヘレンの白槍は最高ランクの装備なので、彼女に追加されたのは聖白金の軽鎧だ。飛行能力の妨げにならない程度に、強化されている。
そして、ドナはスカートに長いスリットの入ったタイトドレス姿となった。
こちらは金属鎧並みに強靱ながら、しなやかな虹絹製である。城一つ買える値段だとか。
俺たちに“認識”されたことで、ナビにも危険が及ぶかもしれないと、ガーネットはナビ用の猫鎧まで作った。
こちらは軽銀鋼製である。
「まるでつけてないみたいに軽いや!」
と、青い猫もご満悦の様子だ。その首には緑の鍵をぶら下げている。先日、蒼穹の森の主級である金色猿帝を倒して得たものだ。
戦闘そのものは瞬殺で終わったが、ともかく発見するまでに手間がかかり森を一週間ほど捜索するハメになった。
そして――
俺は金属鎧の重装備ではなく、ただの布の服を選択した。
どこにでもある簡素な服だ。凝っているのはデザインくらいなものである。
勇者らしい装束ということで、青地の上着に革ベルトと赤いマント。それにブーツという出で立ちとなった。
腰には左右に鞘を下げ、盾は持たない。
俺自身が仲間を守る盾であり、剣となる。
工房のテーブルに白と黒、一対二本の剣が静かに横たわっている。
それぞれをガーネットとシルフィが手にとった。
「アタイの最高傑作……いや、アタイたちのだねぇ」
「錬金装飾でベースの性能の130%は出てるッスよ」
かつて俺とナビが一本ずつ訳あった二つの聖剣は、あの時ですら完全なものだと思っていたのだが、ガーネットの神業的な仕事にシルフィの仕上げが加わって、新たな命を吹き込まれた。
「ありがとう二人とも。それにみんなも」
完成までの間、俺とヘレンはナビのための鍵を探し、ドナは毎日の食事や洗濯など、母親的かつ献身的にサポートをしてくれた。
剣を受け取り両手にそれぞれ持つ。
前々から二刀流はしっくりときていた。
シルフィが自慢げに平ら胸を張る。
「ゼロさんの魔法改編に対応して、グリップにイメージ投影の術式を組み込んであるッスよ」
「試してみるか」
俺は超人魔法を部分展開するイメージを指先に送る。そのままの発動なら全身を超人化する魔法だが、手首から先だけにその力をまとわせ留めることができた。
剣を握ったまま印を結んで魔法を発動可能。しかも剣でありながら、最高レベルの魔法の杖以上の魔法制御力がある。
剣の作者もシルフィ同様胸を張る。ぶるんと振るえるたわわに実ったそれを自慢げに揺らして。
「さあゼロ、名付けてごらんよ。それでこの剣は完成さ」
頷いて俺は白い剣の名を呼ぶ。
「神聖剣」
スッと右側の鞘に納めると、どこまでもスムーズに刀身は吸い込まれた。聖剣を越えた聖剣だ。
ヘレンが「……光あれ」と呟いた。
左手の黒き剣の名も呼ぶ。
「超星剣」
星々の輝きさえも吸い込む漆黒の宇宙を感じさせる刀身を、左の鞘に納めた。
ドナが「黒々として立派だわ」と、おい! まったく締まらないな。
まあ、それがドナらしいか。
準備は整った。
今日まで繰り返してきた再生で、得たすべての縁が結んだ剣と仲間たち。
運命が収束するように、明日の夜は新月だ。今夜は岩窟亭を予約している。
この街にはまだ知らないいくつもの出逢いがあったかもしれないが、俺が知り出逢った連中と、最後に酒を酌み交わし、騒いで呑んで楽しもう。
なぜ呼ばれたのか最初はわからないようだったが、鍛冶職人ギルド長や、新たに就任した錬金術ギルド長。それに獣人族の共同体から、闘技大会で戦った連中や常闇街の住人たち。酒なんて一滴も呑まないと思える天使族の姿もあった。
そこかしこで殴り合ったり笑い合ったり酒の飲み比べと、混沌とする店内は人種のるつぼである最果ての街を凝縮したような状況だ。
というか、ガーネットとヘレンがカードで勝負して負ける度に服を脱ぐという謎の状況やら、無礼講だからと普段は酒を飲まないシルフィが飲んだくれてドナに絡んで「お母さんと呼ばせてください! っていうか、ぼくのゼロさんを誘惑しないでほしいッス!」と、真剣な眼差しで説教を始めた。
そこは大人の対応というべきか、酔っ払い相手でもドナは「ええ、そうね。お母さんと呼んでちょうだいね。それで我が子とはどんな関係なのかしら。詳しく訊かせてほしいわ」と、シルフィにわざと喋らせることで、その溜飲を下げさせていた。
カード勝負はガーネットの圧勝で、ヘレンが下着姿にまで追い詰められる。グッジョブ……じゃない。ああまったく、勝負がついたのだから服を着ればいいのにヘレンは「……生命維持に問題無し」って負けず嫌いにもほどがある。
ガーネットは「次に脱がされたいやつはかかってこいやぁ!」と、酒の勢いでますます暴走気味だ。俺は給仕の狐少女に大きなタオルをお願いした。
ヘレンにそれを羽織らせたところで、闘技大会で俺と戦った連中に外に連れ出される。
ソーマ、レパード、ヴァイス、グラハム、レパード、ボンゴ、リンドウ、アカメ、ジャッカル、ドウジマ、ゴクウ、ヨーマの順で組み手をした。
そのあとも挑戦したいという腕自慢の連中が殺到してきたので、相手をする。
手荒い壮行会だ。
チューラがいないのは寂しいな。結局あいつだけは見つけることができなかった。
朝まで続いた乱痴気騒ぎが収まると、俺たちはドナの計らいで常闇街にある最高レベルの宿で夜までゆっくり休養をとった。
新月の夜に鍛冶錬金街の祭壇が別の場所に通じる――この情報は俺からではなくヘレンが全員に教えている。
誰も疑わなかったし、ナビもルール違反と指摘(コード66)しなかった。
ヘレンから「恐らく“真理に通じる門”を守る門番がいる」ことも伝えられ、再び全員の気持ちが引き締まる。
万全を期して夜まで休む……と、言ったのに、宿にある大浴場で全員お風呂タイムだ。
年頃男子の若い肉体が生殺しである。
全員俺を男と思ってないんじゃないか? 弾ける肌と揺れる胸やお尻やらを、惜しげも無く晒してくれた。謎の光や湯気などの気遣いも一切無し。忖度なにそれ美味しいの?
唯一、直接おさわりするとレベルドレイン発動で計画崩壊になるドナは、一同からちょっぴり離れて浴衣姿だ。
寂しそうだな。これが終わったら、ドナの体質を緩和する方法も地上世界で探したい。
誰より人とふれ合うのが好きなのに、それができないのだから。
ああ、やっぱ負けられないわ。終わったあと、それですべてが収まるわけじゃないんだ。
より良い未来に進むことを考えていかなきゃならん。
湯船にぷかぷか浮かんで犬かきならぬ猫かきをして泳ぐナビが、俺のもとにやってきて告げる。
「ボクの入浴姿に欲情しているのかい?」
「濡れた毛並みもセクシーだな」
「冗談のつもりだったのに、ゼロの守備範囲にボクも含まれるんだね」
「いや、今のはお前が俺に言えと促した感ありだろ」
「じゃあボクじゃダメなの?」
「面倒くさいやつだな」
「ごめんねゼロ」
「謝ることなんてないって。お前はお前が思うことを素直に口にしていいんだ。我慢することはない。全部俺たちが受け止めてやるから」
ナビは目を細めた。
「キミと出逢えて幸せだったよ」
「だったじゃないさ。これからも続くんだ」
「そうだね。ううん……そうしよう!」
ナビは嬉しそうに尻尾を振りながら、泳いでガーネットとシルフィの元に行くと「ガーネットはおっぱいが大きいね。シルフィは小さいね」と、思うままに言葉を発して、シルフィ怒りのナビを拉致からの全身シャンプーでゴシゴシタイムとなったのだが、俺は見てみぬふりでやり過ごすことにした。
そうして――新月の夜を迎えて俺たちは旅立った。
名前:ゼロ
種族:人間族 勇者(?)
レベル:99
力:SR(100) ガーネットとの絆により限界突破
知性:SR(100) シルフィとの絆により限界突破
信仰心:SR(100) ヘレンとの絆により限界突破
敏捷性:SR(100) 過去の自分を越えたことにより限界突破
魅力:SR(100) クインドナとの絆により限界突破
運:A(99)
無限色彩魔法:
超級回復魔法 細胞の欠片さえ残っていれば肉体を完全復元する
超級治癒魔法 すべての“異常”を修正し“通常”に戻す
支配魔法 知的生物を支配し絶対遵守の命令を与える
超人魔法 肉体を強化しすべての能力を爆発的に向上させる
聖域魔法 虹の光彩による究極の防壁で身を守る
冥王魔法 死者すらも殺すより完全なる“死”を与える
輪廻魔法 自身の死亡後にも発動可能。魔法力の続く限り死をリセットできる
超級炎撃魔法 原初の炎――知力を極め覚醒
超級氷撃魔法 久遠の霜――知力を極め覚醒
超級雷撃魔法 終焉の雷――知力を極め覚醒
混沌魔法 対象の全能力を低下させ精神錯乱状態に陥れる
封印魔法 対象の魔法と技をすべて封印する
流派:天星流免許皆伝 最終奥義取得――天流星舞 森羅万象救いし勇者の剣技
装備:神聖剣――何度でも立ち上がる消えることのない希望の剣
超星剣――未知の未来を夢みて切り開く決意の剣
特殊能力:魂の願い 人が向かいたいと思い願う未来への導 これまで得たすべての力が“解放”される




