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流星の消失

 波一つ立たない幻影湖を水鏡にして、俺は自分の顔をのぞき込んだ。


 黒髪黒目に中肉中背。なかなかに引き締まった自分でいうのもなんだがイケメンだ。


 衣類はエルフ族だったときに近いな。布の簡素な服だ。勇者らしくもないが、まあ、仕方ないか。


 種族は人間族。年齢は18~19といったところだ。


 他の人間族は地下迷宮世界のどこかに引き籠もっているらしんだが、影も形も見当たらない。


 俺を捨てたらしいんだが、あいにく勇者の頃の記憶だけは持ち越してこなかった。


 おかげで恨む気持ちも覚えていない。会えないことは寂しくもあるが、それくらいの気持ちだ。


 なにより人間たちは見込みが良かった。


 俺を勇者に選んだのだから。諦めかけたこともあったが、幸運にも俺には助言をしてくれる人や、支えてくれる仲間と出逢う力が備わっていた俺を……。


「今夜はこのロッジで一泊だね」


 水鏡にナビが映り込む。俺の隣で俺の顔を見上げるようにして、小動物は尻尾をゆらりと揺らすのだった。




 道中は敵無しだ。レベル1のままでも最果ての街に着くだろう。まあ、階層の祭壇には門番のように魔物が配置されているので、そいつらを倒すからレベル1到着というのは、狙ってやらない限り難しいわけだが。


 ともあれ、街で動きやすいよう金策のため魔物とは戦うことにした。


 基本的には三種の属性攻撃魔法を改編アレンジして放てば、ほとんどの魔物は一撃だ。


 魔法が効かない相手には、ドナから教わった女傑流の格闘術で対応する。


 超人魔法ヘラクレスをかけて戦いに臨めば、軽く振るった拳打でも、山のように巨大な機人やビスクーラの類いの連中は、まるで砂糖菓子のように粉々に砕け散った。


 そう……ステータスに表示されなくなった能力も、全部俺の中に残っている。


 オークの超回復力もエルフの目も同様だ。シルフィに教わった黒魔法の学習成果や、ガーネットに叩き込まれた冶金に関する知識なども、今や俺の魂に血肉となって結合していた。


 だから負ける気がしない。この強さは俺一人のものではないのだから。


 レベルが上がると、俺は運の数値にすべて振る。


 真昼の灼熱の砂漠を征く途中、オアシスにさしかかってナビが俺に訊いた。


「どうして運ばかりあげるんだい?」


 まだ試していないから。とは、言えないな。ナビにとってはまだ“初めて”の旅だ。


「運は戦いじゃ鍛えられないだろ?」


「なるほど、なんだか感慨深いね」


 思えばずっと、運ばかりはないがしろにしてきた。


 きっとこの旅の総仕上げに必要な最後のピースは、運なのかもしれない。


 オークだった頃、力に極振りしたのが懐かしいな。


 やれることをやりきったら、あとは天命に身を委ねるだけだ。




 その天命は大深雪山で雪崩のように押し寄せた。


 運の数値を上げたことで――


「見てよゼロ! これで三匹目のメタリックゼラチナムだよ!」


 かつて、本当に幸運にも一度きり倒しただけの、高経験値モンスターだ。水銀をゼリーのボールにしたような姿で、異様に素早い。


 試しに各種魔法で攻撃してみたが、ステータスが足りないのか効かなかった。


 が、一匹たりとて逃がしていない。


 銀色の弾丸のように、逃げだそうとするメタリックゼラチナムに俺は――集中する。


 雪原の一面銀世界から色が消え、全てが灰色がかった世界を悠々と歩いて近づくと、メタリックゼラチナムに拳を叩き込んだ。


 時間の檻による拘束を解いた瞬間、メタリックゼラチナムは赤い粒子に分解された。


 ナビがそれをかき集め、俺のレベルがまとめて三つ上がる。


 メタリックゼラチナムは階層が持つレベルの壁を越える効率だ。


 俺が瞬間移動でもしたように動くのを、最初は驚いていたナビだったが……三匹目ともなると慣れてしまったらしい。


 この技を体得するまで超いっぱい死んだんですけどね。ま、俺の苦労ナビ知らずってところか。


 青い猫は嬉しそうにヒゲをピンっと張った。


「この調子ならレベル99も夢じゃないねゼロ」


「まだ足りないな。できれば同じような高経験値レアで、もっと上の魔物と戦いたい」


「きっとここより深い階層まで行けば、さらにレアな魔物に出会えるよ」


 レベル99なんて通過点だ。計画を完遂するには、もっと効率の良いメタリック系の狩り場探しが必要だな。


 幸い、運だけ上げていても戦える実力が今の俺には備わっているわけだし。


 ――なんてことを思いながら、このあとめちゃくちゃメタリックゼラチナムを倒しまくった。


 運がカンストしたので残りは魅力に振る。街につけばなにより対人関係が重要だからな。




 最果ての街を見下ろす丘の上で、大聖堂の鐘楼から響く鐘の音を聞く。


 朝を迎えた街に降りると、俺はまず獣人族のコミュニティを目指した。


 街の中心街からはずれていくと、ナビが不安そうに俺の顔を見上げる。


「いいのかいゼロ? こっちは獣人族の共同体ユニオンがある方だよ?」


「いいからついてこい」


「うん。キミがそう言うのならね」


 うっかり説明しすぎればコード66が発動するかもしれない。


 まあ、今の俺ならナビに勝つのは容易いが、それじゃあ何も解決しないからな。


 牧歌的な空気の満ちた、共同体の中央広場にやってくる。


 見覚えのある牛族に声をかけた。


「やあ友よ。ここはどういう場所なんだ?」


「おや新顔だね。猿種……にしては短毛というか無毛に近いな。ここは獣人族が暮らす共同体だけど、多様性があって寛容なのだけが売りなんだよ。装備を調えたいならドワーフたちが暮らす鍛冶職人街がオススメだね」


 牛種の青年は、俺が布の服姿ながら、冒険者の目をしていることを見抜いてわざわざ親切に教えてくれた。


 最初にこの共同体にやってきた時も、彼に世話になったんだよな。仕事や住む場所を紹介してくれたんだ。


 今回は別の用件である。


「ええと、つかぬ事を訊くんだが……獣人族の中で近年最強と思われるのは誰だ?」


「おや? そんなことを訊くなんて今年の闘技大会に参加するつもりかい?」


 よしっ! 良い感じに話が転がりそうだ。


「闘技大会? 今年のって言うくらいだから、毎年やってるのか?」


 俺の質問に牛種の青年はうなずいてから続ける。


「収穫のあと、年に一度のお祭りだからね。ほら、野性の血がたぎることってあるだろう?」


「わかるよその気持ち。ちなみにどんなヤツが出場するんだ?」


「今年の優勝候補は龍種のドウジマか……あとは団子状態だけど、昨年優勝の白馬種ソーマあたりじゃないかな。賭けもするんだけど、大本命不在ってところだよ」


 俺は耳を疑った。


「昨年優勝が……ソーマだって? お、一昨年の優勝者は?」


「猛牛種のボンゴさ。というか私の兄なんだ」


 え、ええっ! あのパンツ一丁の変態にこんな親切な弟がッ!?


 じゃない、驚くところはそこじゃないぞ。俺は恐る恐る訊く。


「そ、その前は?」


「武技百般を修めた剣豪の狼種、ムサシさんだね。三年前の決勝戦は近年まれに見る名勝負で、虎種のベンガルさんとムサシさんが人気を二分していたんだ。勝敗は僅差だったよ。ああ、今年はベンガルさんが本戦の主審ジャッジをするみたいなんだ」


 ネズミ種の剣士の名前が挙がらないのはなぜだ?


「こ、今年参加が見込まれる他の有力な選手は?」


「ドウジマにソーマにうちの兄さんでしょ。あとはリンドウにアカメにジャッカルあたりが新勢力って感じで、大穴でヨーマかな。ずいぶん熱心だね?」


 牛種の青年は嬉しそうに笑う。どうやら闘技大会が楽しみで、こうして誰かに話すだけでもわくわくするらしい。


「ね、ネズミ種はいないのか?」


 青年は笑った。


「いや~訊いたことないね。もしいたなら子供たちに人気だろね。小さな身体で大きな相手を倒すなんてさ。おっと、それだとうちの兄さんが倒されてしまうね」


 間違い無い。


 この世界から、俺に……俺たちに天星流を伝えてくれたチューラの存在や痕跡が消えていた。


名前:ゼロ

種族:人間族 勇者

レベル:52


力:(1)

知性:G(1)

信仰心:G(1)

敏捷性:G(1)

魅力:B(83)

運:A(99)


無限色彩アンリミテッド魔法:

   超級回復魔法アムリタ 細胞の欠片さえ残っていれば肉体を完全復元する

超級治癒魔法エリクシア すべての“異常”を修正し“通常”に戻す

   支配魔法インペラトル 知的生物を支配し絶対遵守の命令を与える

   超人魔法ヘラクレス 肉体を強化しすべての能力を爆発的に向上させる

   聖域魔法サンクチュアリ 虹の光彩による究極の防壁で身を守る

   冥王魔法タナトス 死者すらも殺すより完全なる“死”を与える

   輪廻魔法リインカネーション 自身の死亡後にも発動可能。魔法力せいしんの続く限り死をリセットできる

   超級炎撃魔法カグツチ

   超級氷撃魔法ユミル

   超級雷撃魔法インドラ

   混沌魔法ケイオス 対象の全能力を低下させ精神錯乱状態に陥れる

   封印魔法パンドラ 対象の魔法と技をすべて封印する


流派:天星流免許皆伝

  :天星流免許皆伝 最終奥義取得――天流星舞メビウス 森羅万象救いし勇者の剣技


特殊能力:魂の願い 人が向かいたいと思い願う未来へのしるべ これまで得たすべての力が“解放”される

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