余剰ポイントの行方
続く第17階層は死毒沼地である。灰色の枯れた大地が広がり、瘴気に満ちた環境だった。どこもかしこも墓ばかり。紫色をした毒の沼地からは異臭が漂い、森も陰気で生えている茸ばかりがカラフルだった。
その中から食べられる茸をナビに訊き、そいつをかじって過ごしつつ、襲い来る魔物を倒しながら進む。
毒を持つ大蛇や蠢く死体など、嫌悪感を覚える魔物ばかりの階層だったが、毒耐性のおかげですんなり進むことができた。
祭壇を守るのは巨人ドクロという、全長十メートル近いアンデッドだったが、骨を砕くために生まれてきたようなゴルドラモルゲンシュテルンにとっては、格好の相手である。
足を砕き倒れたところで、その巨大な頭部をタコ殴りにした。レベルも上がっていたが、正直相性の問題を考えれば16階層のクラーケンの方が厄介だ。
レベルが上がった分のステータスポイントは全て力につぎ込んで、ついにA+になった。
が、決めかねて余剰ステータスポイントは使わないままだ。
火炎鉱山は階層の作りそのものが特殊というか、ある意味15階層に近いものがあった。
鉱山へのルートと次の祭壇に続くルートがきっぱりと別れているのである。
ここまで来ると時折、最果ての街から採掘にやってくる冒険者とも出くわすことがあるらしい。たまたますれ違うようなことは無かったが、山道に足跡をいくつも見つけた。
焦らず鉱山の入り口付近でレベルを充分に上げる。坑道の一部は狭く、通路では武器を存分に振るうことができなかった。やはり手斧か何かあると助かるんだが……無いものは仕方ない。
遭遇する魔物の中でも、火炎系の魔法を使う灼熱トカゲは天敵で、戦いを避けるようにした。やり過ごせない時だけ戦うが、何度か真珠岩の盾の魔法反射のおかげで命拾いをした。
火炎鉱山を支配する魔物は鉱山の奥深くらしく、次の階層に続く祭壇を守る魔物は見受けられない。
充分に力をつけたところで、火炎鉱山も抜けてついに19階層へとたどり着く。
世界樹上――巨大な木の枝が道代わりになっている、浮遊する巨木が最後の迷宮階層だった。所々吊り橋があるのだが、足下をみるとどこまでも深い闇がぽっかりと口を開けている。落ちれば二度と戻ってはこられなさそうだ。
とはいえ樹上というのが嘘のように道が整備され、登る分には快適だった。決して平坦ではなく山登りをしているようにも錯覚するのだが、雰囲気で言えば10階層の蒼穹の森によく似ていた。
茂みから飛び出してくる銀狼も懐かしい。無論、最初の頃に戦った、はぐれ銀狼と比べれば、この階層の銀狼は格段に強いのだが――力を極めた俺の敵ではなかった。
敵との戦いは足場の不安定な場所ではなく、切り株のような広場を選び、時には魔物を自らを囮に誘い込むようにして戦う。
銀狼が7~9匹で追ってこようと、盾でいなしモルゲンシュテルンで吹き飛ばし、急所以外を噛ませてやって、向かってくるヤツから各個撃破。パターンが確立されるや一気に効率がアップした。
そのうち、世界樹の上で咲き乱れる美しい花々を楽しむくらいの余裕すらできはじめたほどだ。
「なあナビ。なんだか手ぬるいな?」
「世界樹のどこかに大樹の中に入る道があるらしいんだ。強敵がいるとすれば、きっとその中だろうね」
「探索するより、まずは20階層を目指した方が良さげだな」
「ボクもその考えに賛成だよゼロ。火炎鉱山や大樹に挑むなら、仲間と一緒の方が安心だからね」
「ってことは、ため込んでおいたステータスポイントは魅力に入れるのも……うーむ……まいったな」
戦いではやることがシンプルで悩みようもないのだが、ここに来るまでに稼いだステータスポイントをどう使うか本当に悩ましい。
そんなことを思いながら世界樹を登りきり、俺はついに20階層へと続く祭壇にたどり着いたのだった。
名前:ゼロ
種族:オーク・ハイ
レベル:48
力:A+(99)
知性:G(0)
信仰心:G(0)
敏捷性:G(0)
魅力:G(0)
運:G(0)
余剰ステータスポイント:47
装備:ゴルドラモルゲンシュテルン レア度B 攻撃力80
真珠岩の盾。レア度D 防御力13 時々魔法を反射する
スキル:ウォークライ 持続三十秒 再使用まで五分
力溜め 相手の行動が一度終わるまで力を溜める 持続十秒 再使用まで三十秒
ラッシュ 次の攻撃が連続攻撃になる 即時発動 再使用まで四十五秒
種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。
とりえず身の振り方は街に着いてから考えるとしよう。ここまでナビという話し相手はいたものの、それ以外の誰かと言葉を交わす機会は無かったしな。
運の項目についてもそうだが、魅力だって数値が低くても話のわかる相手なら、たとえ数値が低くても協力してもらえるかもしれない。
まずは魅力0の状態で誰かに話しかけてみて、相手の反応を確認した上でどの程度魅力にポイントをつぎ込むか考えるのが良いように思えた。




