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無限なる可能性

「俺は……俺は勇者じゃない!」


「そうだね。今のキミは勇者として完成していない。魔法も剣も剣技も追いついてきたけど、ステータスがまるで足りていないよ。ボクを討ち滅ぼしたいならカンストしなきゃ」


 つまりその確率は――


   0.000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000055103281%




「さあ、どうするんだい? ボクはキミを倒して、この地下迷宮世界のどこかに眠っている残りの人類を抹殺したら、世界に死の嵐を起こして一度すべてをリセットするつもりなんだ。みんな殺してあげるよ。大丈夫……苦しまないようにするから」


 全身を悪寒が駆け抜けた。


 三年後――なにかをきっかけにナビは記憶を取り戻し、実行に移した結果が、俺とガーネットが地下迷宮世界を離れた世界線だ。


 ナビの言う“ゲーム”のタイムリミットだったのかもしれない。


 こいつはこのままだと、間違い無くアレを実行する。


 聖剣の柄を握り、俺は刀身を鞘から引き抜いた。


「そうだよ。それでいいんだ。さあ……ここからはボクらだけの時間だ。殺し合おうよ。今度こそ本当に……決着がつくまで!」


 ナビが俺にめがけて突進する。突きを放つ。俺は聖剣でそれを弾いた。


「戦うしかないのか!?」


「そうだよ。キミはまた世界の命運を背負ったのさ」


 次々と剣檄が飛ぶ。俺は防戦一方だ。


「さあ、ボクに負けて世界の支配権をちょうだい。誰もいない世界でもいいよ。キミとの思い出だけあれば、ボクは幸せな夢を見続けていられるから」


 上段から下段への斬撃から、水平斬り。同門だけに攻撃は読める。ただ、ナビの攻撃速度は加速していった。


 このままでは間違い無く、首を刎ねられるか心臓を一突きにされる。


「ほらほらどうしたのゼロ? ボクを倒さなきゃみーんな死ぬんだよ? 勇者のキミは言ったよね? 何度でも何百回でも何千回でも、みんなを救うって。キミの大好きなみんなをさ! 人類に捨てられたのに……生け贄の羊だよキミってやつは!」


 聖剣メサイア星剣ネメシスがつばぜり合い、七色の光が舞い散った。


 俺は吼える。


「それでお前は満足なのか!?」


「ボクはそういう存在なんだ。さあ、ボクを倒して勇者になりなよ。今度こそ本当の勇者に。そうすれば人類も復活できるし、悠久の平和が得られるんだよ? ただ、復活した人類がキミを恐れるのがボクにはわかるけどね。最初は英雄としてたたえられても、キミのような強大な力を人類は許すかな?」


 俺の手から力が抜ける。


 ああ、勇者がなぜ邪神を倒せなかったか……少しだけわかった気がした。


 こいつは……邪神はこの世界の誰よりも――


 救いを求めているのだ。


 傷つけ滅ぼすことしかできない。最後には孤独に戻る運命を受け入れ続ける邪神という存在であることを。


「そうだな。お前は……寂しいんだ」


「消滅してしまえばこれ以上寂しさを覚えないからね。ボクにとって生も死も等価値なのさ。ボクが生き続けても周囲から誰もいなくなる。死んでも孤独だ」


 互いに剣を引き、間合いをとった。


 が、双方刃を納めることはない。


「ほら、ボクを殺して悠久の平和と、キミ自身のつかの間の安らぎを得るといい。人々がキミを畏怖し離れていく時までね」


「もうそれ以上言うな。わかったよナビ。決着をつけよう」


「そうこなくっちゃ……これでキミの名を呼ぶのも最後になるんだね。ゼロ。楽しかったよ……ありがとう。さようなら」


 互いに剣を天に掲げる。


 世界から色が失われたが、もともと時間の流れすら感じられそうにもない“何も無い”十五階層だ。


 沈黙と静寂――


 そして、ナビとの視線が次に合ったその瞬間――




「「天星流最終奥義……天流星舞メビウスッ!!」」




 互いの刃が互いの心臓を貫き、虹の光に包まれた。


「なんで……ボクの剣を避けなかったんだい?」


「避けられなかっただけだ……お前は強いよ……ナビ」


「ふふ……最後まで優しいんだね……キミは……これならボクも……独りじゃ……ないよ」


 互いに抱き合うようにして俺の意識も光彩の彼方へと導かれるように消える。


 ナビとはなぜか、手を繋いだままのようだった。最後の最後で隣に並ぶことができたような気がして……。


 世界は暗転したが、俺は世界を救い、ナビのそばにいてやることで、ナビも救えたのだろうか。




「ダメでありますよ。ゼロ殿……技の名前はちゃんと正式なものを使ってくれないといけないであります。これで終わっても良いのでありましょうが、それでは勇者とは言えないでありますよ。さあ、恥ずかしがらずに最終奥義をもう一度、口に出して言ってみるであります」


 真っ暗な闇の中で声が響いた。


 俺は応える。


「最終奥義なら使えただろ。それに……俺ももナビも終着駅についたみたいなんだ」


「そうおっしゃらずに、さあ」


「あ、ああ……ええと……天星流最終奥義……天流星舞メビウスッ!」


「チッチッチ……それでは完成しないであります。不完全でありますよ。もう一度、自分がお手本を見せるであります」


 闇の中にぼんやりと光る影が生まれた。剣を掲げる小さな身体に見覚えがある。


 声は少々甲高いものの、耳に馴染むものだった。


 光る影は叫ぶのではなく、しっかりと祈りの言葉のようにその技の名を口にする。


「天星流最終奥義……森羅万象救いし天流星舞メビウス……で、あります」


 森羅万象救いし……か。


 技は放たれることなく、光る影はそっと剣を下ろした。


「聖剣と星剣が揃い、左右の手で無限色彩アンリミテッドを使えるようになった今、ゼロ殿には勇者を越える“可能性”が芽生えたのであります」


「なあ、あんたいったい……何ものなんだ?」


「誰でもないのでありますよ。ただ、ゼロ殿の味方でありたいとは思うのであります」


「そんなことして、あんたにいったいなんの得がある?」


「そうでありますな。得というわけでもないのでありますが……」


 光る影はそっと、俺にだけ聞こえるように呟いた。


 もとよりこの世界には俺とこいつしかいないんだが。


「……と、いうことであります」


「そうか。そう……だな」


「良いでありますか。たとえ世界を救おうとも、ナビ殿を救おうとも、この結末で救われていない存在があるということを、肝に銘じるでありますよ」


「ああ」


 短く返すと光る影はだんだんと輪郭を失いぼやけ始めた。


「間もなく次の目覚めであります」


「森羅万象救いし……つまり、ありとあらゆるものを救えってことか」


「だからこそ、きっちりとご自愛するでありますよ。これにて真の意味での天星流免許皆伝でありますな。さあ、誰かを頼ることを恐れてはいけないのであります。もはやゼロ殿は独りではないのでありますから」


 光る影は言い残すと完全にかき消えた。




――トライ・リ・トライ――

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