表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/163

手を携えて

 新月の夜――


 俺とナビは立ち入りを禁じられている、鍛冶職人街の中央祭壇に踏み込んだ。


 本来なら海底鉱床へと続くはずが、この夜に限ってまったく別の場所に通じている。


 巨石平原のような遺跡群のが広がり、天を仰げば巨大な門が空に蓋をしていた。


 ナビがブルッと全身を震えさせる。


「ねえゼロ。ここは本当に鉱床なのかな?」


「わからない。が、あの空を埋め尽くす扉に何か感じないか?」


 ナビは小さくコクリとうなずいた。


「うん。きっとあれが……ボクらが探していた門なんだ。けど、どうやってあそこまでいけばいいんだろう?」


「この遺跡、一つだけ稼働してるみたいだが……他の遺跡も調べてみよう」


 天上へと誘う昇降装置のうち、最初から使用可能なのは一つだけ。


 残りは起動に鍵が必要だ。


「ねえゼロ! 鍵穴みたいなのがあるよ!」


「炎竜王を倒した時に鍵を拾ったけど、まさかな」


 ナビは額の紅玉から赤い鍵を取り出した。鍵穴にはめて回す。


「ぴったりだね。遺跡が起動したよ……うわあああああ」


 昇降機は動き出し、ナビの身体がふわりと浮き上がった。


 起動済みの昇降機を使ってすぐにそれを追う。戦いを前に、俺は早くも聖剣を抜いていた。




 巨大な扉と正対すると、ナビは見上げながら言う。


「この向こうに新しい世界があるんだね」


「どうだろうな」


 何が待っているのかはわからない。なにせ、こいつにずっと阻まれ続けてきたのだから。


 白い影がゆっくりとせり上がるように地面から身体をもたげた。


「ま、魔物だよゼロ!」


 慌ててナビが星剣を鞘から抜く。


「慌てるな。今の俺たちならどんな魔物にだって負けやしないさ」


 白と黒、両方の魔法を使いこなし、最強の剣と勇者の技を体得した。


 しかも俺一人ではない。


 ナビが隣にいるのだ。


 結局、出逢った時と同じだな。


 最果ての街でたくさんの出会いがあったが、最後は二人きりになる運命だったのかもしれない。


「いくぞナビ。あのデカブツは見たところビスクーラの仲間みたいだ」


「じゃあ魔法より物理攻撃が有効だね?」


 真理に通じる門を守る神兵が立ち上がる瞬間――




「「天星流……帚星斬ッ!!」」




 俺とナビは流れる星のように駆け抜けて、神兵の大木のような足を一本ずつ水平に斬り捨てた。




 神兵はもはや敵ではなかった。


 エレメンタル化しようが影になろうが分裂しようが、俺とナビは互いに背中を守りあい、魔法と剣技を駆使して倒していった。


 群体レギオンの最後の一体になると、神兵は虹の光彩をまとう。


 絶対防壁だ。こいつを破壊しようと、俺は制御しきれない無限色彩アンリミテッドを暴発させてしまった。


 ナビが星剣で七色の防壁に斬りかかり、弾き返される。


「ど、どうしようゼロ!? 剣が通じないよ? さっきみたいに超級雷撃魔法インドラの重奏をためしてみる?」


「おそらく無駄だろうな。だが、俺たちには……」


 最後まで言わずともナビは理解したらしい。


「そうだね。最終奥義を使うなら、きっと今だよ」


 ゆっくりと近づきながら神兵は防壁の範囲を拡張し続ける。このまま空間すべてを埋め尽くし、俺とナビを押しつぶそうというのだろう。


 そうはいかない。そうはさせない。


 七色の光の力を俺もナビも制御できるようになったのだ。


 ゆっくりと息を吐き、切っ先を天に掲げて構える。


 ナビも呼吸を合わせた。


「やろうゼロ。次の一撃でこいつを倒すんだ」


「ああ……決めるぞ」


 世界から色が失われ、ゆったりと着実に俺たちに向かってきた神兵の足が止まった。


 同時にうなずきあって、俺とナビは一歩を踏みだし、踏み込み、神兵に向かいながら剣を振るう。


 俺は上段から袈裟斬りに。


 ナビは下段から斬り上げる。


 二つの剣の軌道が交差した瞬間――


 世界にヒビが入った。それは拡大し神兵が生み出した七色の防壁すらも砕く。


「もう一撃だ!」


「うん!」


 俺とナビは絶対防壁という盾を失った神兵めがけ突きを放った。


 神兵の胸を穿って、七色の光が溢れる。


 聖剣メサイア星剣ネメシスは響き合うように協調し、溢れ出る虹の光彩が∞の円環を描いた。




「「天星流最終奥義……天流星舞メビウスッ!!」」




 突き入れた剣を俺は天にめがけて斬り上げる。


 ナビは地に向け斬り落とした。




 ゴウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンッ!




 時間の檻の中を数多の光が駆け抜けて、神兵の身体はその光の渦に呑まれて……完全に消滅する。


 ゆっくりと七色の光は収まり、世界が色を取り戻した。


 どこかで俺たちの勝利を祝うファンファーレが鳴り響いたような気がした。


 剣を鞘に納める。


 ナビがそっと前方を指差した。


「ねえ見てよゼロ! 扉が……真理に通じる門が開くよ!」


「ついに……やったんだな」


 ここまで幾度となく死んでは再生リトライを繰り返してきた。


 ついに終わりがやってきたのだ。


 門の向こう側は白く輝く光に満ちている。


 ナビがそっと俺の手を握った。


「ありがとうゼロ。ボクはきっとあの扉の向こうに行かなきゃいけない。だけど……キミは……キミを一緒に連れて行く権利はボクにはないんだ」


「急に何を言い出すんだ?」


「こちらの世界に留まりたいというのなら、ボクは止めない……止めることはできないよ」


 先に進めば戻ってはこれない。


 この地下迷宮世界……いや、こちら側の世界にはガーネットがいる。シルフィがいる。ヘレンがいる。ドナがいる。


 たくさんの出逢いが、俺とナビを導いてくれた。


「不安なのか?」


「そう言えばキミは一緒に来てくれるよね。だけど……ううん、だからこそキミに委ねたいんだ」


「一緒に行くよ。ナビを独りにする方が心配だからな」


 この世界との別れることを俺は決意した。


 ナビと始めたことだ。


 どんな結末が待っていようと、最後まで見届ける。俺を愛してくれた、たくさんの恩義を返せないのは心残りだが、扉が閉まってしまう前に俺は一歩を踏み出した。


 ナビと握った手を離さないまま。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ