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何度目かの炎竜王

 チューラが言うには、それは“本来の姿”ではなく、チューラもその師もそのまた師匠も、勇者の放つ技を再現しきることはできなかったらしい。


 その威力があまりにも高く、全力で打ち込めばどんな業物わざものをもってしても、刀身が耐えきれず崩壊してしまうのだという。


 訓練用の剣でその力を――七色の輝きをかすかに発動させただけで剣が光に分解された。


 闘技大会でチューラが大会参加用の刃引きした長剣を使い、放ったこと自体が彼の技量の高さを物語る。


 俺もナビも、時の流れが止まった一瞬――”世界”にほんのかすり傷をつけるのが精一杯だ。


 七色の光はかすかに漏れただけで、握った剣の刀身は崩れさり光も止む。


 時の流れが元に戻り、世界が色を取り戻すとチューラは目を丸くした。


「いきなり成功でありますか!?」


 ナビは柄だけになった剣をみて「ごめんなさい借り物なのに」と、持ち主であるチューラに謝った。


「いやいやいや良いのでありますよ。はぁ……肩の荷が下りるとはこのことでありますな。これ以上は言葉は必要ないでありましょう。合格であります。一発でとは思わなかったでありますが」


 ナビが両手をばんざいさせて「やったねゼロ!」と、素直に喜んだ。


 が、チューラの方は溜息交じりだ。


「問題はお二人の力を受け止めるだけの名剣でありますが、これは世界広しといえども早々手に入るものではないであります。まずは剣を探すのが良いでありましょうな」


 技を伝授して安堵半分、その先にある完成まではまだまだ遠い――といったところか。


 俺たちを心配するチューラに返す。


「ありがとうチューラ。俺もまた、この力をいつか誰かに伝えればいいのか?」


「その必要があれば……とだけ申し上げておくのであります」


 なにやら含みのある言い方だが、チューラは「では! これにてお二人とも免許皆伝であります! お祝いをするであります。みなを集めてくるでありますから、今夜は鍛冶職人外の岩窟亭で大騒ぎでありますよ!」と、こちらに口を挟む隙をみせずに、あっという間に走り去った。


 取り残されてナビと二人、顔を見合わせる。


「チューラって忙しい感じだね」


「そうだな」


「けど、良いお師匠様だったと思うよ」


「俺たちを信じて力を託してくれたんだ。この力、無駄にはできないな」


 柄だけが残った剣に視線を落として、ナビが眉尻を下げた。


「けど使う度に剣が消えちゃうのはどうなんだろう。チューラみたいに上手く技を使えるようになればいいのかな?」


 より技の精度を上げるため、練習は必要になるだろう。


 とはいえ、その度に剣の刀身が崩壊していては話にならない。


「それもあるが……やっぱり全力をぶつけられる剣が必要だろ?」


 すべてを出し切りぶつけなければ、真理に通じる門を守る神兵が張る“防壁”は突破できない。


「それじゃあ次は剣探しだね」


 ナビがわくわくした顔で尻尾を左右にゆらりと振る。


 だが俺は「実はもう見つかってるんだ」と返した。


 まだ街にガーネットが残っている。


 一度は去ったにもかかわらず、何かをやり残した気がすると、地下迷宮世界に戻ってきた彼女が。




 魔法禁止しばりで戦った闘技大会のおかげで、すぐに魔法に頼ることがなくなった。


 それにナビもいる。今や俺と同等に近い力で、魔物を蹴散らす速度は二倍になった。


 俺とナビはフラリと火炎鉱山に赴くと、常に氷炎防壁サマルシドを展開した状態で、その地下深く最下層まで降りる。


 途中で幾度も魔物の襲撃があったが、六本ずつ持ち込んだ安物の剣と天星流剣術の敵ではなかった。


 三本ほど使い潰したところで、溶岩の泉の中心に浮かぶ島への道にたどり着く。


 島の中央で眠るのは炎竜王アグニールだ。


「どうするナビ? 独りでやってみるか?」


「倒せないことはないと思うけど、勝利の栄光はゼロと分け合いたいな」


 ナビが耳をピンっと立てた。


 俺たちに気づいて炎竜王が巨体を起こす。


「いくぞナビ。一撃で仕留める」


「いつでも準備はオッケーさ」


 俺とナビは中央の浮島に続く道を駆け抜ける。


 炎竜王が巨大なあぎとを開き、獄炎を吐き出そうとするその刹那――




「「天星流最終奥義――天流星舞メビウスッ!!」」




 時間が凍てつき停止する。


 まるで大あくびをしたように、口を開けそこに炎の魔法力が集約して吐き出される瞬間で、炎竜王の動きもピタリととまっていた。


 俺は左から回り込み、ナビは炎竜王の右側面で刃を振るう。


 時間の檻の中で炎竜王ごと“世界”にヒビを入れる。


 ほんの一瞬、七色の輝きがはなたれ、俺とナビがそれぞれ作り出したヒビから溢れると繋がり、たがいの尾を食らう蛇のようにからまって∞の軌道を描いた。


 こんな現象は初めてだ。


 最終奥義はあくまで素振りでしか使ったことがない。攻撃を当てたのはこれが初めてだ。


 俺とナビは止まった世界を走り抜け、炎竜王の後背で足を止めると振り返る。


 時間の流れが元に戻った瞬間――




 ドサリ――




 炎竜王の首から上が地に落ちた。


 そのまま赤い光にドラゴンの巨体が溶けて消える。


 ナビは無邪気に「ボクら強いかも」と笑顔を浮かべた。


 刀身は砂のように脆く崩れ、剣の柄を握る手が震える。


 オークの頃にあれだけ苦労した強敵を、一撃で仕留めたことに驚きはない。


 だが――あまりにも強すぎる。


 最終奥義の名に恥じない威力だが、ここまでの威力が必要だろうか。


 勇者が邪神を倒すために生み出した、時間を支配し空間を切り裂く防御不能の絶対攻撃。いかなる巨体もこの一撃を前にしては、為す術無し。


 こんな力を俺は……俺たちは託されてしまったのか。


 世界のことわりすら破壊する力をもって勇者は邪神を倒そうとしたのかと思うと、背筋に冷たいものを感じずにはいられなかった。

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