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決着! 闘技大会決勝

 舞うように華麗な技を次々と繰り出すチューラと、攻防を重ねるうちに俺自身の動きも無駄なく洗練されていくように感じた。


 こちらに生じた隙があれば、すかさず突きが飛んでくる。


 俺の蹴りも突きもチューラは読み切り、かわし、カウンターの剣を振るった。


 息つく暇もない攻防と、ぎりぎりを狙いあう応酬に、いつしか会場中の視線が釘付けになった。


 食い入るように、静かに、どちらかの“一撃”が決まるのを待つ。


 嵐のような剣檄が俺に襲いかかった。


 一瞬でチューラは七連撃を浴びせたのだ。


 意識を集中し時の流れを緩めながら、かわす。かわす。かわす。


 最後の一撃――その刹那。


 俺の拳はチューラの脇腹をとらえ、チューラの剣が俺の左肩を粉砕した。


 相打ちだ。反射的に俺は飛び退いた。チューラもまた下がって身構える。


 左腕に走った激痛も、興奮しているからか脳が感覚を遮断したように鈍いものに変わる。


 こちらの腕が上がらなくなったが、常に素早く動き続けたチューラの足も止まった。


 正対したまま距離にして五メートル。俺の視線の先で肩で息をしながらチューラが言う。


「天星流七光刃の七断ち目でやっと左腕一本……しかも肋骨をごっそりもっていかれるなんて、割に合わないでありますな」


「今みたいな技が山ほどあるのか?」


「山ほどはないでありますよ。それに自分が使っているのは、本来あるべき姿の天星流ではないのであります」


 小柄なチューラにとって一般的なサイズの長剣は、大剣にも等しい。


 本来の使い手が相応の武器を手にして放つことで、真価を発揮するとでも言いたげだ。


 チューラは剣を両手に構えると、天に掲げて俺に告げる。


「次の一撃で決めさせてもらうでありますよ」


「そいつを防ぐかしのぐか避けるかすれば、俺の勝ちってことか?」


「左腕が利かないゼロ殿が防ぎきれるとは思えないでありますが……」


 スウウウッと息を吐いてチューラは俺を見据える。


「そう言うお前だって、本来ならまともに剣を振り回せる状態じゃないだろ」


「だからこそ、次の一撃に全てを賭けるのでありますよ。自分が使うのもおこがましいでありますが……天星流最終奥義――行くであります」


 空気がヒリついた。チューラの小さな身体が大きく見える。


 まっすぐ天へと向けられた切っ先は微動びどうだにしない。


 これまでの気迫や気合いが鎮火したようにチューラの気配が消えていく。


「森羅万象救いし天流星舞メビウス……で、あります」


 静かに祈りの言葉を神に捧げるようにして、チューラは呟くゆったりとした足取りで俺に向かってきた。


 会場から音が消える。


 音だけではない。色も感じられない。


 この感覚は――時間が緩やかに流れ始めていた。


 俺は力を使っていない。だが、世界の時はさらに遅くなり、その激流の中を一歩一歩、チューラが俺に近づいてくる。


 こいつも時間の流れに干渉できるのか!?


 俺が動き出すと、チューラの表情が変わった。一瞬の驚愕……だが、ニッコリと微笑む。


 そうでありましょう。そうですとも。勇者殿なら容易いことであります。


 と、チューラの笑みに言われた気がした。


 上段に構えた長剣をチューラは振り下ろす。


 同じ時の潮流の中にいれば、それをかわすことも容易い。


 俺が半歩身を引いてチューラの左側面に回り込むように剣を避ける。


 完全に避けきった。


 一撃をしのいだと確信した瞬間――


 チューラの空を斬った剣筋がその場に“残り”続けた。


 切れ目から七色の光が放射状に広がる。踊る輪のように。


 目の前で多彩な光芒が舞い散る花吹雪となって押し寄せた。


 この色を失った世界でも変わることなく、光は俺を包み込む。


 やばい。この力は危険なんだ。


 試合のルールを無視して左腕を回復魔法で癒やす。


 これで負けだな。いや、もう勝敗なんてどうでもいい。


 チューラが切断したのは“世界”そのものだ。


 この光は、溢れ出てきてはいけない“何か”だ。


 俺の両手は白と黒、双方の純化した魔法力を生みだし合わせる。


 暴走すれば全てを消し去るこの力を、なぜ俺は使ってしまったのか。


 自分が死ぬことなんて慣れている。


 それでも、止められるのは同じ力だと本能が感じ取っていた。


 チューラの放った時を超え空間を切り裂き破滅の光を呼ぶ剣を、この身に受けて消滅すれば良かったはずなのに……それだけで終わらないような予感がしたのだ。




「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」




 光の渦に包まれた俺は、その渦中で左右の手を組み、渦とは逆の光の流れを生み出す。




 ブウゥンッ!




 組んだ手の指先から全身に振動が伝わる感触の直後、灰色に染まった世界がヒビ割れるように砕け散った。


 世界は緩やかな時の流れから解放され、その色を取り戻して歓声が会場中に響く。


 とっさに魔法を使ってしまった。一歩間違えなくとも、使えば世界を滅ぼしていたはずの力だ。


 だが、世界はそのまま健在で、俺自身も消えていない。手にはあの魔法――無限色彩アンリミテッドを使った時の痺れるような感触が残っていた。


「無傷でありますか。ということは、どうやら時間の檻にもとらわれることなく、天流星舞メビウスの輪を断ち切ることが……できるので……あります……な」


 チューラがステージの上でばたりと倒れた。




『目にもとまらぬ攻防です! というか、何が起こったのかさっぱりわかりません! 解説のムサシさんはいかがでしたか?』


『超高速移動ではない。剣を大上段に構えたチューラが、次の瞬間にはゼロの間合いに入って剣を振り下ろしていた。ゼロもかすかに動いてそれを避けた……が、それはあくまで結果だ。途中の動作が存在していないかのようだ』


『解説のムサシさんにも理解できないほどの何かがあった! そういうことですね! ですが、結果は結果として受け止めるべきでしょう。三連覇のかかったチューラ選手がダウンしました!』




 実況の言葉を訊いて気づいたように、虎種の審判がカウントを始める。


 10カウントの途中から、会場中がそれに合わせて数を唱えだした。




「「「「「「「5……6……7……8……9……」」」」」」




 チューラは動かない。俺も心臓が口から飛び出そうなほど、心拍数が上がっている。




「「「「「「……10ッ!!」」」」」」」




 虎種の審判が俺の脇にたち右腕をとって掲げさせた。


「勝者――ゼロ!」


 高らかなコールとともに、闘技大会の制覇者の名が響き渡る。


 勝つには勝ったが魔法を使ったのだから、本来なら俺の反則負けだ。


 ただ、俺が魔法を使ったことを会場内で誰一人気づいていない。


 チューラも緩やかな時の流れの中で、俺を認識こそしていたが俺が何をしたかまで、理解しきっていないようだった。


 客席からナビが飛び出してきてステージにあがると俺の首に抱きつき笑う。


「すごいやゼロ! 優勝だよ!」


 掛け金が数百倍になって戻ってくるのが嬉しい……のもあるかもしれないが、それ以上に俺の名誉をナビは祝福してくれているように思えた。

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