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Aグループ

 本戦出場者は八名。それを四人ずつの二グループに分けて、まずは総当たり戦が行われた。


 俺はグループAに組み込まれた。俺以外の三人は全員優勝も可能な実力者として、名前が挙がる強者つわものだった。


 拮抗している混戦のグループだ。


 獣人族白馬種の槍使いのソーマ。その突進チャージはまさに閃光の一撃……だとか。


 大槌を携える猛牛種のボンゴは、予選で俺が倒したオークのグラハムと並び今大会で一~二を争うパワーファイターだ。


 小柄な金猿種の少年――ゴクウはリュートという弦楽器の使い手だった。森での予選会では遭遇しなかった楽器使いだ。


 この三人と俺を含めたのがAグループである。


 一方、Bはというと優勝候補筆頭にして前年度の覇者の姿があった。死のグループである。


 闘技大会開幕を宣言した小柄なネズミ種の剣士――チューラだ。


 噂ではチューラの師匠のそのまた師匠とたどっていくと、勇者に行き着くというらしい。


 嘘か誠か真偽のほどは定かではないが、並み居る強豪の中でも突出しているとの下馬評である。


 次いでBグループは幻獣という希少種の龍種ドウジマが、これまた珍しい小型石火矢で参戦していた。片手持ちできる特別製の石火矢は銃身も短く、曰く“拳銃”というらしい。


 小型ながらカートリッジ式で半自動装填セミオートマチックと、小さくまとめられているあたり、使われている技術はガーネット以上だ。


 今回は特別に弾薬の火力を下げての参加となった。


 残る二人はウサギ種の棒術使いワサビと犬種の円月輪使いウルフォーンの二人である。


 大会中に選手の体調不良などあった場合のリザーバーとして、羊種の青年が待機していた。これまた珍しい“本”の使い手で、名はサフォークと言った。


 出場者の経歴や武器に武技などもろもろが張り出され、運営委員会が胴元となった賭けが始まる。


 優勝者に賞金が出ないのに、こうして利益を確保するなんて共同体もちゃっかりしているな。まあ、自信があるなら自分の優勝に賭ければいいわけだが。


 優勝候補はBグループチューラが今の所、倍率1.1倍で優勝の大本命だ。


 次いでドウジマ2.5倍。以下、ソーマ、ボンゴ、ゴクウと並び、ウルフォーンにワサビと続いて、本戦出場枠ではないサフォークの名前が挙がった。


 無名にして穴馬ダークホースというほど期待もされない俺が、ぶっちぎりの再会である。倍率は256倍となった。


 森の予選では有力者同士がつぶし合い、幸運のみで勝ち残ったと噂されていた。


 うーむ、優勝を狙うならマークされないにこしたことはないが、心配なのは対戦者が俺を侮って本気を出してくれないことだ。


 倉庫前の投票所で俺は腕組みをした。


 隣でナビが財布ごと投票券の販売員に渡す。


「ゼロに全部ね!」


 お、おい。その財布は俺のじゃないか。ナビにもお金は持たせているが――


「あ! ボクのお金も全部!」


 カウンターにナビも小さな革袋さいふを乗せる。


 慌てて腕を伸ばしたが、それよりも早く販売所の係員――岩窟亭の狐少女は財布ごと回収した。


「かしこまりました~!」


 いきなり無一文だ。ナビはエヘンと胸を張る。


「これでボクらはお金持ちだね」


 投票締め切りまで倍率は変動するだろうが、俺が勝てば所持金から逆算して三千万メイズ近くになるな。


「今日の夕飯どうすんだよ」


 呆れ気味にナビに訊くと、赤い瞳がキラリと光った。


「勝てばみんながおごってくれるよ」


 だといいが、しかしずいぶんと楽天的だなお前は。




 予選は一日一試合を戦う。総当たり戦が終わり勝ち星が多い者が決勝進出だ。


 同点の場合は直接対決の勝敗で勝者が上がるというものだった。


 俺の試合には予選を戦ったリンドウやヴァイスたちに加えて、ガーネットまで応援席にやってくる。


 ナビを中心に客席の最前列で俺に声援を送ってくれた。


 楕円形の遺跡コロッセオの中心に作られたステージの上に立ち、俺は対戦相手と見合う。


 審判は虎種のオッサンだった。一昨年で引退したが、過去二回優勝経験のある実力者だとか。判定は場外負け、降参、KOに加えて審判によるレフェリーストップによる決着なので、決勝のジャッジには優勝経験者がなるのも風習らしい。


「双方前へ!」


 ジャッジに促され俺は歩き出す。


 対戦相手は賭けの人気第四位の大槌使い――猛牛種のボンゴだった。


「がーっはっはっはっはっは! 残念だったなアンちゃん! このボンゴ様が最初の相手なんて不幸すぎるぞ!」


 図体も大きければ声もデカイ。しかもぴっちりとした黒いパンツ一丁に覆面マントと巨大槌という出で立ちだ。


 夜中に出逢ったら変質者として即魔法攻撃をする自信がある。


 いや……初めて最果ての街に来た時のオークの俺もひどい格好だったけどな。


「ぶっ飛ばされたくなかったら、とっとと場外に自分から歩いていくがいい! がーっはっはっはっはっは!」


 ふんぞり返って笑うボンゴ。態度もデカいしビッグマウスだ。当然、ハッタリではなく実力を伴っての人気四位なのだろう。


 俺は無言を返した。


 というかな、ふんぞり返りつつ股間を突き出して大きさアピールやめてくださいうれしくないです。


 客席から一段高いところに作られた特設実況席には、試合を盛り上げるための実況役を勤めるアルパカ種の女性と、隣に狼系の犬種の男が解説として座っていた。


 拡声器で実況の声が場内の歓声に負けず響く。




『ついに開幕となります。Aグループの初戦を飾るのは人気四位の実力者ボンゴ選手と、無名のラッキーボーイと噂のゼロ選手の対決。実況はわたくしビ=クーニャが。解説には武芸百般の剣豪ムサシ氏をお迎えしております。よろしくお願いします』


『ああ……心得た』


『ちなみにムサシさんも過去に優勝経験がおありだそうですね』


『五年前の大会だ』




 よく見ると、ムサシという犬種の獣人に見覚えがあった。


 そうだ――


 俺がオークだった頃、ガーネットの店に住み込みで働いていた時に来ていた客の一人だ。


 確か片刃で緩やかにソリがある剣――刀の使い手だった。




『その頃と比べて今大会のレベルはいかがでしょうかムサシさん?』


『平均しても非常に高い。前年度優勝のチューラが参加しなければ、混戦になっていただろう。もしチューラの参加が無ければ、ボンゴも優勝を争う一角だ』


『ということは、やはり今年もチューラ選手の優勝はかたいと?』


『彼は三年連続優勝し、殿堂入りが確実視されている』


『えー、手元の情報によりますと賭けの最終オッズですが、チューラ選手は1.01倍となったそうです』


『ふむ。妥当なところだ』


『圧倒的人気ですね。さて、ではこの試合についてですが、間もなく開始というところでムサシさんはどのような戦いになると予想されますか?』


『大槌のリーチと威力は圧倒的だ。方や新人のゼロについては情報が無いが、手甲による格闘が推察できる』


『ボンゴ選手の懐にいかに入りこむか? ということでしょうか?』


『それはボンゴもわかっている。本戦に残る者が自身の弱点に対して何もしないということはない』


『なるほど! では近接戦にも注目したいところですね。試合、間もなく開始となります』




 自分よりも図体のデカい相手となら、魔物を含め場数は踏んできている。


 それにドナの宮殿の門を守る巨漢のオーク――グラハムとも特訓済みだ。


「まずはスカッと勝たせてもらうぜー! がっはっはっは!」


 ボンゴが肩に担いだ大槌を両手持ちして身構える。


 ボンッ! ボボンッ!


 と、空砲のような花火が真昼の空に打ち上がった。


 ジャッジが腕を振り上げる。


「試合……開始ッ!」


 花火の残響が完全に消えたところで、戦いの火蓋が切って落とされた。

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