127.5 RE:DO
俺は――
三年後に世界が滅ぶ。
なんのためにまた、こうして立ち上がったのかを自分に問いかけ直した。
救いたいんだ。
オークの俺を迎え入れてくれたガーネットのためにも。
持てる知識を授けてくれたシルフィを。
ともに未来を切り開こうとしてくれたヘレンを。
包み込むように癒やしてくれたドナを。
赤い瞳が俺をじっと見つめる。
ナビにとっては、俺と結ばれることが救いなのかもしれない。
「なあナビ。真理に通じる門を開くのが俺たちの目的だろ?」
ナビは小さな肩を落とした。
「それはそうだけど……」
「なら、このまま終わっていいはずがない」
「うん……」
「その門を開いて一緒に進むよ」
ナビの潤んだ瞳から一粒雫が落ちた。
「本当かい?」
「約束する。それまでは俺を導いてくれ」
扉の先に何が待つのかはわからない。ただ、世界の謎を一つでも多く解き明かすことが、この閉塞感を打ち破ってくれると信じるしかなかった。
ナビは深くゆっくり頷いた。
「わかったよゼロ」
「これからもよろしくな」
麦の穂がどこからか吹く風に揺れて、波打つように平原を駆け抜けていった。
獣人族の共同体は、他の種族の集まりと比べて人数も規模も大きい。
エルフやドワーフが街を中心にしているとすれば、獣人族は二十階層の至る所に小集落を作っていたりもした。
平和で争いも起こらず、対立もないのだが……年に一度の祭りが近づいてきたのは、俺とナビが共同体に合流して半年後のことだ。
最果ての街から離れた集落からも、ぞくぞくと集まり共同体は一気に賑やかさをました。
種族も様々だ。普段、街の近くでは見ない龍種という種族までいたのには驚いた。
共同体の中心にある集会広場は黒山の人だかりだ。
そのはずれで俺はナビを肩車した。ナビが集会広場の真ん中にある櫓の上に立った、小柄なネズミ種の青年を指差して言う。
「もう少し背の高い誰かが発表したらいいのに」
ネズミ種の青年は背中に自分の身長ほどもある剣を背負っていた。
拡声器の魔導具を使って、ざわつく群衆に告げる。
「えー! 諸君静粛に!」
甲高い声が広場にエコーがかって響いた。
シン……と、広場の喧噪がかき消える。ネズミ種の青年はそれを確認してから続けた。
「今年も無事、祭りを開催できることを嬉しく思っております。さて、新たに共同体に加わった者もいるかと思うので、改めて説明いたしましょう。我ら獣人族の野性を解き放つ、大闘技大会の開幕であります!」
俺が頭上げると、ナビが下を向いて言う。
「闘技大会だってゼロ。なんだかわくわくするね」
「そんな催しがあったんだな」
参加は自由。殺しは御法度。野蛮だからと教会からは毎年中止を要請されているのだが、皆が平和に一年を過ごせるのも、これからの一ヶ月間の熱狂あってこそ……なのだとか。
ネズミ種の青年が続けた。
「武器と防具はこちらで用意したものを使い、性能は全部一律化! 魔法は厳禁でありますぞ! あくまで武技戦技闘技のみを純粋に競い合う祭典の開幕を、ここに宣言するものであります!」
燃え上がるように周回広場を埋め尽くした獣人族たちが咆吼し、喝采があふれかえった。
これは……チャンスかもしれない。
ナビが尻尾をパタパタ振った。
「すごいね。けど、参加者はいるのかな? 優勝しても賞金も賞品も出ないみたいだよ」
「賞賛と祝福と尊敬を得られるみたいだな」
「ボクはごちそうがいいな」
俺たちの会話をかき消す雪崩のようなコールはなかなか鳴り止まない。
が、櫓の上のネズミ種の青年が剣を抜くと、再び静寂が訪れた。
「では諸君、参加希望者は一週間のうちに大会運営委員に書類を提出するように。死なない程度の大怪我は回復魔法で治るとはいえ、痛みが無いわけじゃあないので、覚悟無き者は参加を控えることッ!! ご清聴ありがとうございました!」
機敏な身のこなしでネズミ種の青年は櫓から飛び降りた。
ナビが俺の頬を太ももの内股でギュッと挟むようにしてから訊く。
「それでゼロはどうするんだい? まさか参加するつもりじゃないよね?」
「観戦もいいんだが、腕自慢の連中が集まるなら、是非お手合わせ願いたいな」
と、言ってから思い出す。
そういえば、共同体でナビとの暮らしが安定したこともあって、最果ての街に到着して以来まともに鍛錬をしてこなかった。
俺はナビに告げる。
「これから一週間で闘技大会に向けてレベルを上げるぞ」
「ゼロがそう言うならボクも協力するよ。けど、名誉を得ることが“真理に通じる門”とどう関係するのかな?」
「なんでも積み重ねだからな」
ナビは俺の言葉に首を傾げる。
やるからには大会を制覇を目指す。が、一番の目的は武器を使った技を覚えることだ。
それを覚えたところで、神兵を打ち破れるかはわからない。
だが――
勇者はすべてにおいて完璧だった。
天使族の少年だった頃、ドナの語った英雄譚の勇者はありとあらゆる武技に精通していたのだ。
無敵の神兵を打ち破るなら、勇者になるつもりで掛かるとしよう。
久しぶりに明確な目的ができて、目の前がひらけた気がした。
名前:ゼロ
種族:獣人族 シヴァ種
レベル:30
力:F(30)
知性:E(33)
信仰心:E(33)
敏捷性:F(27)
魅力:G(1)
運:G(1)
白魔法:中級回復魔法 中程度の傷を癒やし、体力を回復する
中級治癒魔法 猛毒などの強力な状態異常を治療する
操眠魔法 対象を眠らせる&眠っている対象を目覚めさせる
精神浄化魔法 混乱状態やパニックになった精神を鎮める
火力支援 腕力を強化して武器による攻撃力を上げる
肉体硬化 肉体を硬化させ防御力を上げる
氷炎防壁 炎と氷から身を守る
即死魔法 対象の命の灯火を消し去る
蘇生魔法 失われた命を取り戻す奇跡の力
黒魔法:初級炎撃魔法 初級氷撃魔法 初級雷撃魔法
中級炎撃魔法 中級氷撃魔法 中級雷撃魔法
上級炎撃魔法 上級氷撃魔法 上級雷撃魔法
超級雷撃魔法
脱力魔法 対象の力を下げ攻撃と物理防御を弱める
鈍重魔法 対象の敏捷性を下げ速度や命中率を落とす
魔法障壁 敵意ある魔法による攻撃を防ぐ盾
呪封魔法 魔法を打ち消し封じる魔法殺しの術
流派:女傑流格闘術 猫の構え
学習成果:黒魔法の最適化 学習進度によって魔法力の効率的な運用が可能となる。
弟子:ナビ
――隠しステータス――
特殊能力:魂の記憶 力を引き継ぎ積み重ねる選ばれし者の能力。
:無限色彩:左右両手で別の魔法を繰り出す能力 白魔法と黒魔法の純粋な力を合成可能
種族特典:エルフの目 魔法によって隠されたものを見つけ出す探求の眼差し。
:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。