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幕間

 俺は最期の力を絞り出して、聖剣にこめる。

 幾度となく復活する邪神の額には、もう紅玉は存在しない。

 邪神は笑う。

「さあ、キミの勝ちだよ。ボクを殺すがいい」

 膝を屈して首を差し出した青い巨人に俺は告げる。

「なんでお前は人間を滅ぼそうとしたんだ?」

「それはキミたち人間に『なぜ生きているんだい?』と質問するようなものだからね」

「答えになってないぜ」

「最初に人間を滅ぼせなかったのが今でも悔やまれるよ。キミたちは亜人種よりも格段に強いから……他の種族は少しずつ、ボクに取り込まれていく予定だったんだ」

 邪神は闇の呪いを世界にばらまいたのだ。

 その呪いは人間を殺し、亜人種を闇に堕とすものだった。

 すでにその侵食によって、一部の種族は邪神側についた。

 邪神はどす黒い血を吐き出して続ける。

「世界を作り替えてボクが暮らしやすいようにしたいだけだよ。そのためには人間が邪魔だった……ただそれだけさ。そうだ、取引しないかい? キミだけは人間だけど助けてあげるよ」

「今さら何を言ってるんだ」

「今だから言えるのさ。ボクにはもう抵抗する力は無いからね。こうして言葉でキミを勧誘するしかないんだ」

 俺は聖剣を振り上げた。

「ねえ……キミはその一撃を放てば死ぬよ」

「もとより本望だ」

「それでキミは幸せなの?」

「世界を救うのが勇者の役割だからな」

「ボクもさ。世界を壊すのが邪神の役割だった。そして勇者と戦い対消滅する……それって悲しくないかい?」

「黙れ」

 邪神はゆっくりと身体を起こした。

 両腕を広げて俺に告げる。

「キミたち人間がボクの呪いから逃れるためにつくった、あの空間を……ボクにおくれよ。ボクが欲しいのは世界なんだ。あの空間にボクを封印すればいい。そうすればキミはボクと相打ちになって死ぬこともないのだから」

「そんなことをしてどうなる?」

 あの空間には残された人間が眠りについている。幾多の防衛機構によって人間という存在を保管した箱船だ。

 よりもよって、邪神はその箱船を所望した。

 俺の問いに邪神は告げる。

「キミの命を救うことができるじゃないか」

 赤い瞳は純粋だ。

「俺は……」

「ねえ、今ここでボクを倒しても地上に人間の戻る場所なんてもう無いんだよ? むしろ亜人種たちと戦争になるかもしれない。キミが守った他の種族の命たちを、キミの同胞が殺すんだ。ボクがいなくなったって、死が世界を満たすことに変わりないじゃないか」

「やめろ……」

「ああ、天使族は違ったね。キミら人間の側につくだろう。なにせキミらを守るために人間の手で作られた存在なんだし」

「やめろ……」

「本当にいいのかい? キミはすべてを救うといって、結局誰も救えないんだ」

「救って……みせるさ」

 邪神はゆっくりとうなずいた。

「それじゃあ賭けをしようよ。キミがすべてを救えたならキミの勝ちさ。あの空間でボクが人間を滅ぼせばボクの勝ち」

「なぜそんな賭けをしなきゃならんのだ」

「それはね、ボクを今殺すと……この身体から死の風が溢れ出て世界を覆い尽くすからだよ。キミだってここにくるまで見たでしょ? 眠るように死んだ街の一つや二つくらいはさ」

「ハッタリだな」

「そう思うならご自由に。さあ、その虹の光でボクの首を落としてごらん。世界を終わらせるのはキミさ。だけど、そうならない可能性もあるんだよ」

 光の刃を振り下ろせばすべてが終わる。

 俺は――

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