極超新星
群体神兵の攻撃は力任せに殴りつけてくるだけで、近づかれる前に魔法で仕留めてしまえばどうということはない。
見る間に数を減らしていった。
ガーネットが銃剣で神兵の胸を一突きにする。神兵は倒れながら赤い粒子に還った。
「なんだい数が多いだけで楽勝じゃないさ」
それもこれもガーネットとシルフィの合作装備あってのことだ。
大群を四人で倒すのに十分とかからなかった。
正確に数えたわけではないが、俺が三分の一を倒し、シルフィが同じく三分の一。残りをガーネットとヘレンで半々ってところだな。
ガーネットは自衛に努めてこの結果だが、ヘレンは明らかに“次”を意識して力を温存しているようだった。
神兵の最後の一体が棒立ちのまま、俺たちをじっと見据える。
彫像のような顔に表情は無い。
白い陶器のような身体に変化が起こったのは、直後のことだ。
その身体が七色のオーロラのような光に包まれた。
俺は全員に告げる。
「シルフィは下がって回復。ヘレンは前に出て俺のフォロー。ガーネットは狙撃を頼む」
「わかったッス。ゼロさんのペースに合わせてたら、ちょっと息切れしちゃったッスね」
呼吸を荒げつつシルフィは苦笑いだ。
「……了解」
スッと音も無く空中を滑空してヘレンは俺の隣に立つ。
「単なる色違いじゃあないんだろうねぇ」
ガーネットは弾倉を隕石鋼弾に変更した。
先手必勝。俺は上級氷撃魔法を左手で改編した。
絶対零度の凍気を纏った氷槍にして、螺旋の回転を加えて投げ放つ。
「上級氷撃魔法回転弾槍ッ!!」
槍としての物理攻撃に魔法の威力も兼ね備えた一撃だ。
槍の穂先は超高速回転をしながら、まっすぐに七色神兵の胸元に飛んだ。
「……これが貴方の……改編能力」
隣で白槍を構えたままヘレンが呟いた。
この一撃で決まってしまえば楽なのだが、そうならないのはいつものことだ。
ただ、少なくとも打撃か魔法か、どちらかが有効なら確実にダメージは与えられる。
氷の槍は――
神兵に直撃する寸前のところで、水の波紋のように広がる七色の光に阻まれた。
回転が徐々に緩まり、氷槍は完全停止すると同時に砕け散る。
「……絶対防壁」
火力不足か!?
後方から石火矢の銃声が鳴り響いた。
ガゴンッ! ガゴンッ! ガゴンッ!
正確に神兵の頭部を撃ち抜くガーネットの射撃も、七色の光の壁に阻まれる。
瞬間――ヘレンが白槍を構えて身を低くしたかと思うと、一瞬で神兵との間合いを詰めてその腹部を穿つ。
が、白い槍の穂先も七色の壁を貫くどころか、まるで時間が止まったように動かない。
即座に距離をとって空高く飛ぶと、ヘレンは上空から白い槍を投げはなった。
が、その攻撃も阻まれる。
「シルフィは正面から攻撃魔法をッ! ガーネットは撃ち続けろ!」
俺は左右に割るように上級炎撃魔法を火焔光弾にして放つ。側面からの攻撃に合わせて、シルフィの上級炎撃魔法とガーネットの狙撃が正面から神兵を攻撃し、上空から回り込んでヘレンが背面からも神兵に一撃を食らわせた。
が、全方位からの攻撃が通じない。物理も魔法も関係なしだ。
得体の知れない光の壁を神兵は広げながら、ゆっくりと俺たちに向かってくる。
「ヘレン戻れッ! アレを食らわせるぞ!」
「…………」
六枚の翼を大きく羽ばたかせて、重力を相殺するように宙を舞うとヘレンは戻りながら魔法の構築に入った。
「シルフィ行けるか!?」
「行けないとは言えないッスね」
俺は左右両手に雷撃魔法を展開させた。
これが通らなければ攻撃手段が無い。
祈るような気持ちで俺たちは超雷撃を放った。
「「「四重奏……超級雷撃魔法ッッッッ!!!!」」」
エレメンタル化した青い巨人神兵を倒した一撃も、七色の光の壁に阻まれた。
同時に銃声が止む。
「まいったね。弾切れだよ」
ガーネットは眼帯型の照準器を左手の指で軽く跳ね上げる。
「こっちも……息切れッス」
シルフィが立てた杖にもたれかかるようにして、息も絶え絶えだ。
「……効果無し」
白い槍の先端は歪み、ヘレンの表情が硬くこわばる。普段、感情の起伏を見せない彼女が恐怖を感じているようだった。
俺は杭打式杖を手に、単身、神兵に向かいながら言う。
「みんな逃げろッ! 逃げてくれ!」
どこへ逃げるというのだろう。
正面の巨大な扉の先にしか道は繋がっていないというのに。
俺は頭の中に“死”を描いていた。軽々しく何度も死んできたから、やり直せばいいという考えがよぎる。
だからだろう。これが最後の攻撃だ。
ガーネットとシルフィが俺を止めようと悲鳴を上げた。
「無茶するんじゃないよ!」
「だ、ダメッスよゼロさん! そんな戦い方……魔導士じゃないッス!」
振り切るように神兵に向かい、左手で各種魔法を試す。
脱力魔法、鈍重魔法、呪封魔法。
効果無し、効果無し、手応え皆無。
操眠魔法……そもそも神兵は眠るのだろうかという疑問は、この白魔法の効果が無かったことで解けて消えた。
ならば――
「即死魔法ッ!!」
黒い風を纏わせて、俺は杭打式杖を連打する。
七色の光の壁は至近距離からの神代鋼の一撃にも、微動だにしない。亀裂すら入らない。ほんの一瞬でいい。隙間があればそこから魔法を流し込めるのだが、八連撃の末……負荷に耐えきれず杭打式杖のメインシャフトが破断した。
頭の中は白く染まった。
勝てない。
たとえ何度繰り返そうと、勝ち筋が見えない。
全ての攻撃が通じないなら、いったいどうすればいいんだ?
レベルは99で、これ以上は上がらない。
魅力を失って力や敏捷性に振り分けて勝てるのか?
装備も神代鋼を超えたものなんて……。
魔法だって超級雷撃が通じないのだ。
俺が死ねば三人は傷つかない。
すべてが無かったことになる。
三人を救うには他にない。
杭打式杖を手放し、自分の胸に右手をあてて、俺は即死魔法に救いを求めようとした――
完敗だ。
再生したところで、どうにもならない。
黒魔法も白魔法も極めたところで通じないのだから。
ふと、こんな時になってヘレンの言葉を思い出した。
『……かつて勇者と呼ばれた存在は、分かたれた相反する二つを一つにする力を持っていた』
相反するものを結びつけ一つにする。
俺は胸に当てた手をそっと離すと、その魔法をただの祈りに変えた。
白魔法の原初の形だ。
左手の魔導式手甲も外して、こちらには黒魔法の知識を集約する。
左右の手は、それぞれナニモノでもなく、何にでもなれる白黒の純粋魔法力が装填された。
ドナの宮殿でマリアの石化病を治療した時に、呪封魔法と肉体硬化を組み合わせたことがあった。
あの時に垣間見た光は確か、虹の輝きだ。
神兵がその力で身を守っているというのなら、俺もその力で応じるしかない。
両手を一つに組んで合わせた。
七色の光が溢れる。
「……右手に祈りを。左手に知識を。右手に光を。左手に闇を。右手に感性を。左手に理性を。合わせ一つに世界を貫け――無限色彩極超新星」
誰かの声がかすかに聞こえた。
力は溢れ、暴走し、目の前の神兵を“壁”ごと消滅させる。
俺の肉体も粒子に分解されていった。
ガーネットも、シルフィも、ヘレンも……。
何もかもを光に還して、世界は滅んだ。
七色の光の暴走によって。
残念ながら、勇者ではない何ものでもない俺に、この力を制御する能力は無かったようだ。
――トライ・リ・トライ――
名前:ゼロ
種族:unknown
レベル:0
力:????
知性:????
信仰心:????
敏捷性:????
魅力:????
運:????
――隠しステータス――
白魔法:中級回復魔法 中程度の傷を癒やし、体力を回復する
中級治癒魔法 猛毒などの強力な状態異常を治療する
操眠魔法 対象を眠らせる&眠っている対象を目覚めさせる
精神浄化魔法 混乱状態やパニックになった精神を鎮める
火力支援 腕力を強化して武器による攻撃力を上げる
肉体硬化 肉体を硬化させ防御力を上げる
氷炎防壁 炎と氷から身を守る
即死魔法 対象の命の灯火を消し去る
蘇生魔法 失われた命を取り戻す奇跡の力
黒魔法:初級炎撃魔法 初級氷撃魔法 初級雷撃魔法
中級炎撃魔法 中級氷撃魔法 中級雷撃魔法
上級炎撃魔法 上級氷撃魔法 上級雷撃魔法
超級雷撃魔法
脱力魔法 対象の力を下げ攻撃と物理防御を弱める
鈍重魔法 対象の敏捷性を下げ速度や命中率を落とす
魔法障壁 敵意ある魔法による攻撃を防ぐ盾
呪封魔法 魔法を打ち消し封じる魔法殺しの術
流派:女傑流格闘術 猫の構え
学習成果:黒魔法の最適化 学習進度によって魔法力の効率的な運用が可能となる。
種族特典:エルフの目 魔法によって隠されたものを見つけ出す探求の眼差し。
:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。
特殊能力:魂の記憶 力を引き継ぎ積み重ねる選ばれし者の能力。
????→無限色彩:左右両手で別の魔法を繰り出す能力 白魔法と黒魔法の純粋な力を合成可能




