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死の超越者

 数メートルほど地面を転がったが、目の前にそびえていた神兵は消滅したのだ。


 俺はゆっくりと立ち上がる。


 終わったのだろうか。


 勝ったの……だろうか?


 奥の壁一面を埋める扉に開く気配な無い。周囲を確認すれば。吹き飛んだシルフィの元にヘレンが飛んで上級回復魔法で回復させていた。


 ガーネットはといえば「盾がお釈迦んなっちまったねぇ」と、苦笑いだ。


「みんな油断はするなよ!」


 上級回復魔法で右腕の損傷を癒やしながら、全員に注意を喚起しつつ、俺はエルフの目を懲らす。


 と――巨人の影が動いた。


 本体は消し飛んだと思ったんだが、どうやら第三形態か。


 しかも影だ。実体がどこにあるかもわからない。


 影は腕を伸ばすと、立ち上がったばかりのガーネットを掴む。


「へっ? な、なんだい……動け……な……」


 ゆっくりと締まっていく感覚に、ガーネットは苦悶の表情を浮かべた。


「影だッ!」


 俺の言葉に即座に反応して、ヘレンが地面に揺らめく巨人の影に白槍を投げ放つ。


 が、影は微動だにしなかった。そのままヘレン単独の超級雷撃魔法インドラが閃光とともに影に落ちる。


「……効果を確認できず」


 その間にガーネットの首が、ガクッと力無く傾いた。


 影の腕がスッと引いて、ガーネットはその場に糸の切れた操り人形のように倒れる。


 影の動きを見ながら、俺は命を呼び戻す魔法の構築を始めた。


「な、なんなんッスか……よくも……よくもガーネットの姐御をおおおおおおおお!」


 やばい。シルフィは仲間の死になれていない。なれたくもない。が、感情に流されれば全滅だ。


 この冷静さも再生リトライの賜物だ。心の麻痺すら今は利用して、俺は魔法を乱射するシルフィを止めに入る。


「よせシルフィ! 頭を冷やせ! 冷静になるんだ!」


 彼女の腕をとり、抱きかかえると空に手を伸ばす。


「な、なんでッスか! だいたい……ゼロさんこそ……鬼みたいな顔になってすッスよ」


「目つきが悪いなら生まれつきだ」


「泣いてるじゃないッスか」


「今は俺のことはいいんだ!」


 影の巨人が俺とシルフィの足下に腕を伸ばす。


 寸前――滑空したヘレンが俺の掲げた腕をとって、巨人から俺とシルフィをさらって上空に逃れた。


 いいな、空が自在に飛べるのは。


「こっちを一方的に殴れるってのはズルいな」


「……打つ手無し」


 空に逃れはしたものの、このまま手をこまねいていてもらちが明かない。


 俺の小脇に抱えられてシルフィが地面に蠢く巨大な影をにらみつける。


「魔法が効かないなんて反則ッスよ」


 もしかすれば、地下迷宮世界のどこかの階層に“影だけの魔物”が存在するのかもしれないな。


「影ってことは……光源はどこだ?」


 空を見上げると、天球のようにはっきりとしたカタチではないが、空間全体が光に満たされている。


「……本体らしきものがないか、探索開始」


 空を舞うように飛ぶと、光源の中に小さな人形ほどの大きさの巨人が浮かんでいた。


「……破壊」


 白槍でその“小さな巨人”を一突きすると、地面を覆う巨大な影も二つに割れて消える。


 ゆったりと地面に俺たちを下ろしてから、ヘレンは再び上空に舞い上がり警戒を始めた。


 俺はガーネットの元に向かう。


 血の気の失せた彼女を甦らせることに、一瞬だけためらった。


 生き返るということは、もう一度彼女を苦しませて……殺すことにもなりかねない。


「ぜ、ゼロさん! ゼロさんなら姐御を……助けられるんスよね?」


 本当に助けられる力があるなら、ガーネットは死ななかった。


 ええい、悩んでどうする。なんのために何度も死んでは再生リトライし、ヘレンから教えてもらったんだ。


 そもそもこの世界線のヘレンを説得するために、目の前で涙をため込んだエルフの少女にも使ったじゃないか。


「ああ……やるぞ。蘇生魔法リヴァイブッ!」


 白い風がガーネットを包み込み、光が舞い降りて彼女の消えたはずの命の灯火を再点火した。


「ん……くはッ! ぷはー! 死ぬかと思った」


 むくりとガーネットは立ち上がって言う。


 いやいや、死んでたから!


 俺はドワーフの女鍛冶職人に、身体の異常がないか確認することなく上級回復魔法を施した。


「っと、大丈夫だって。えーと……どうなったんだい?」


「影の巨人はヘレンが倒した。まだ門は開かない」


「んじゃあ、ぼさっとしてらんないね」


 俺は地面に突き立てたままの杭打式杖パイルバンカースタッフを引き抜いた。


 ガーネットも狙撃型石火矢を回収する。盾は完全にひしゃげてしまって、もはや使い物にはならなさそうだ。




 ザッザッザッザッザッザッザッザ




 軍隊のようそろった足音が俺たちを包囲した。巨人だった神兵は分裂して群体を成したのだ。


 といっても一体の大きさは全長二メートルほど。オークの時の俺と同等くらいだ。


 そんな連中が次々と地面から湧きだしてくる。


「……128……256……521……1024体」


 上空からヘレンが舞い降りて白槍を構えた。


 ガーネットが苦笑いだ。


「まいったねぇ。弾が持たないっての」


 女鍛冶職人は石火矢の先端に鋭利なナイフを装着する。銃剣というよりも、それは槍か薙刀といった方がいいかもしれない。


「一人あたり256体ッスね。早めに終わったら手伝うッスよ姐御」


「……了解。近接戦闘モードに移行」


「乱戦必至だな。ガーネットとシルフィはペアでお互いをカバーしあってくれ」


 亡者の群のように神兵団が襲い来る。俺は魔導式手甲ガントレットで波のように迫る神兵たちに拡散アレンジを施した上級炎撃魔法ファイアノヴァをブチ込んだ。


 幸い、数が多いというだけで魔法も物理攻撃も有効だ。


 神兵もこれで俺たちを倒せるとは考えていないのだろう。


 消耗を強いるつもりなら、こちらはいかに効率良く倒すかを考えるまでだ。


 白磁ビスクーラ精霊結晶エレメンタルシャドウ群体レギオンと来て、次はいったいどんな手でくるんだろうか。


 そこまでして門番が守るあの扉の先には、何があるっていうんだ?

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