最強黒魔法
エレメンタル系の魔物は、その色で属性を判別することができる。
トパーズのような黄色は雷撃属性だ。今の神兵に雷撃は通じない。
ガーネットとシルフィの氷撃が黄色い水晶体となった巨人に炸裂し……爆ぜる。
目前でその爆風に吹き飛ばされそうになりながら、杭打式杖(パイルバンカースタッフを地面に打ち込んで耐えきった。
最後尾からガーネットが声を上げる。
「アタイの攻撃じゃ効果薄そうだねぇ」
氷結属性によって点を撃ち抜くことには成功したが、なにぶん相手がデカすぎる。シルフィの氷撃魔法もエレメンタルの膝頭を吹き飛ばしたが、即座にその部分が青い水晶体によって再生され始めた。
同じようなタイプの魔物と以前に戦ったことがあるのを思い出した。アレは灰色の水晶体で、与えた魔法の属性を吸収するというものだった。
ヘレンは攪乱のため、巨人の周囲を飛び回る。が、攻め手に欠くのも仕方ない。
彼女が使える攻撃魔法は雷撃系だ。白槍も物理攻撃なのでエレメンタル化した巨人に通じない。
飛び回るヘレンを巨人は腕を振るって叩き落とす。翼をもがれたようにきりもみ回転しながら地面に激突する――寸前で、俺は肉体硬化でヘレンの防御力を強化した。
「……損耗率7%……戦闘続行可能」
上手く受け身も取れたようで、すぐに立ち上がるとヘレンは中級回復魔法を自身に施した。
回復役が俺だけでないというのは、心強いどころの話ではない。
巨人は身体を起こして俺に視線を落とす。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
空気が鳴動した。肌がビリつきを感じる。上級雷撃魔法の予兆だ。
魔法には標的に当たるよう誘導する性質がある。ただの雷であれば、避雷針に集めるなんて手もできるのだが、ここは素直に魔法障壁を傘のように展開させた。
まあ、神代鋼の防具なら、数発は耐えられるとオークだった頃の我が身で実証済みだが、だからといって直撃を食らってやることもない。
空から落ちる無数の雷撃は猛威を振るったが、六発、七発と受け止めた。
じっと巨人の顔を見上げて告げる。
「どうだい? 俺も強くなっただろ」
相手にしてみれば初対面なのはわかっている。それでも言わずにはいられなかった。
巨人が再び上級雷撃魔法の構築を始めたと、エルフの目で見抜いて俺はシルフィに告げる。
「シルフィ! 次は氷撃同調で行くぞ! ヘレンはガーネットの護衛を!」
「いつでも準備はバッチリッスよ!」
「……了解」
「おっ! アタイを守ってくれるのかい。頼りにしてるよ守護天使様」
「……敬虔な信者を守るのは当然」
ドワーフの信心深さもあって、ガーネットはヘレンと妙に馬が合うようだ。
俺がシルフィの魔法の完成に呼吸を合わせて、左手の魔導式手甲に上級氷撃魔法を装填する。アレンジはせず、微調整してシルフィの放つ氷柱のカタチを模倣した。
神兵の雷撃が再び轟く――寸前でこちらが一手早く相手を詰む。
「「上級氷撃魔法ッ!!」」
シルフィの魔法に俺の魔法が重なり合って、二つを足すだけにはとどまらない威力へと膨れ上がった。
神兵の巨体が巨大な氷柱に閉じ込められる。
その巨体すべてがトパーズのような黄色から、青いサファイアのように染まった。
俺たちの放った氷撃をまるで吸収するようにして、再生する神兵に俺は思う。
魔法が使えれば倒せるなんて嘘っぱちじゃねぇか!
魔法を使いこなせなければ、どうにもならない相手だ。
だが、これで下ごしらえは充分だ。後方でガーネットが鼻歌交じりに呟く。
「なんつーかさ……青ってことは他の魔法が効くってことだわな」
即座にヘレンが黒魔法の構築に入った。
続けざま、息を上げながらもシルフィが集中力を高めて愛用の杖に魔法力を送り込む。
俺は地面に杭打式杖を突き刺したまま、左右それぞれの手に最大火力となる魔法を一つずつ展開した。
神兵の魔法攻撃が氷結属性に代わるや、ガーネットが気を吐く。
「ちょっとしんどそうだけど、ここが出番さね」
狙撃銃を地面にドサリと落とすと、ガーネットは背中に腕を回した。
小さな円形の盾が彼女の背面を守っていたのだが、それを前腕につけなおす。
サイズは小さいが神代鋼製だ。さらにシルフィの錬金術の粋をが詰まっている。放射状のスリットには魔法の指向性を変える効果があった。
そのまま一気に前に躍り出ると、ガーネットは盾に自身の魔法を込めて展開した。
「氷炎防壁前面広域展開だよ!」
通常は全身を包むように放出される熱への防御だが、小さな盾を中心に渦巻きを描くように広がった。
大気が白く染まるように、気温が一気にマイナスの世界に突入する。
ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
青い巨人が咆吼するような振動音を放つ。同時に巨大な氷柱がガーネットを押しつぶすように堕ちてくる。これじゃあまるで物理攻撃だ。
「気張れよアタイ。イイ女ってのは肝心なときほど退かないもんさ」
歯を食いしばるようにして、盾とそこから吹き上がる魔法力の防壁でガーネットは氷柱を受け止めた。
オークだった時も、彼女は俺を守ろうとした。
「今だよ……やっちまいな!」
彼女の号令で俺は……俺たちは魔法力を解き放つ。
恐らく今の世界において、これ以上の火力は存在しないだろう。
目の前でガーネットを雷撃に焼かれた無念は、彼女の力も借りて今、ここで晴らす!
「「「四重奏……超級雷撃魔法ッッッッ!!!!」
シルフィとヘレンの放つ超雷撃に、俺の左右の手からそれぞれ放った雷撃が融合して一つの雷撃となった。
まさに雷神の一撃だ。
負荷に耐えきれず、俺の右腕は全体がひどい火傷を負ったように赤く腫れ上がり、指先の感覚さえも失ったが……雷神は青い巨人に落ちると轟音と爆音を連ねて衝撃波がガーネットや俺たちもろとも吹き飛ばす。
巨人の影だけが残った。
あけおめ~!