雪山を迂回して
星屑砂漠を横断するのに三日を要した。
城塞廃虚で手に入れた固めたパンは早々に食べきり、横断の最中に立ち寄ったオアシスで小まめに水とナツメヤシを採取して、次の砂漠越えに備える。
朝方一通り準備を済ませると、空いた時間はオアシス付近で戦ってレベルを上げた。
昼から夕方にかけてナツメヤシの木陰で身体を休め、行軍は夜間に行う。
途中、全長数十メートルにもなる巨大なミミズの魔物――地鳴りの主が砂の海を渡っていくのを遠目に見たり、砂嵐に遭遇して足止めを食らったものの、なんとか無事に砂漠を渡りきった。
次の階層に続く祭壇の奥にも、ナツメヤシの林を抱えるオアシスが広がっており、湖畔にテントが建つ。冒険者たちの備品置き場だ。
出発時に借りた装備品をそのテントに返却し、持てる分だけナツメヤシを城塞廃虚で見つけた袋に入れると、残りは感謝の意を込めテントに寄付をした。
第十三階層に続く祭壇そばには強力な魔物の姿がない。意外だったが助かった。熱砂が試練ということかもしれない。
おそらく道中の途中で遠目に見た地鳴りの王が、この階層の支配者なのだろう。
レベルは15になっていた。
名前:ゼロ
種族:オーク
レベル:15
力:D+(50)
知性:G(0)
信仰心:G(0)
敏捷性:G(0)
魅力:G(0)
運:G(0)
装備:ゴルドラモルゲンシュテルン レア度B 攻撃力80
スキル:ウォークライ 持続三十秒 再使用まで五分
力溜め 相手の行動が一度終わるまで力を溜める 持続十秒 再使用まで三十秒
第一目標は力の数値を極めることだな。99が最大で、条件が揃えばその上に行けるとナビが言うのだが、肝心の条件がなんなのかはナビにもわからないらしい。
街には時折、項目の数値が100になっている冒険者がいるのだとか。
どうやったかは当人たちのみぞ知るといったところである。
次の階層は大深雪山――ナビ曰く、麓から始まって峠を越えたその向こう側が、次の祭壇ということだ。
肌寒く吐く息は白かった。が、日の出ているうちはコートやマントがなくともどうにかなりそうだ。
オークの身体の特徴なのか寒いのには比較的強いらしい。
麓には針葉樹林が広がっている。先には天蓋のようにそびえる山々が連なり、深い雪に閉ざされている。まさに階層の名前通りだ。
道は山頂を目指す上級者コースと、緩やかなルートを通って山を迂回する初心者コースに別れていた。
道なき道を行く砂漠と比べれば、先達の冒険者たちによって登山道が整備されているおかげで迷うことはなさそうだ。
スタート地点となる祭壇近くのログハウスで砂漠と同様に旅支度をする。
ここでも防寒具など一通り借りることができた。食べ物は樹氷林檎という赤い果実だ。シャリシャリとした食感で瑞々しく甘いのだが、食べるともれなく身体が冷える。
暑い砂漠で食べたらさぞ美味いに違いない。
夜間は極寒が予想されるため、日の明るいうちに出発した。
歩けば自然と汗ばむくらいの陽気だ。雪が溶けて雪崩にならないか心配だな。
幸運にも山道を快調に進むことができた。雪崩も起こらず道を阻むのは魔物ばかりだ。
切り立った崖に面した細道で、遭遇したのは狼系――雪原の殺し屋だった。真っ白な体毛は美しく青い目の狼を、モルゲンシュテルンで粉砕して血に染める。
相手も強くはなっているのだろうが、はぐれ銀狼と戦っていたころと比べて俺も成長しているのだ。
ウサギ系の魔物――シラカバウサギは逃げるばかりだった。仕掛けてこない相手は無視して先を急ぐ。
やっかいなのはフクロウの魔物――オウルーラで、こいつは氷結系の魔法を撃ってくる。倒せなくはないができるだけ刺激しないよう、距離をとって進んだ。幸い、木の枝に止まって船を漕いでいる個体は、大きな音さえ立てなければ俺に気づきもしなかった。
ナビのペース配分のおかげもあって、なんとか体力を残したまま山間部のログハウスにたどり着き、その周辺で再び魔物と戦いレベルを上げた。ついでに焚き付けや薪も集める。
夕刻前には切り上げて拠点のログハウスに戻った。
ログハウスには暖炉があるので、夜、気温がぐっと下がってきたところで拾った薪で暖を取る。
暑さにも寒さにも強いというナビだが、猫だからか暖炉の前を気に入ったらしく、すっかり占領されてしまった。
初日は登山の疲れもあって一晩ぐっすりだ。
目が覚めるとナビが俺の腹の上で丸くなっていて、それがなんだかおかしくて独り笑ってしまった。
早朝、日が明るくなるのに合わせて出発する。
ゆっくりではあるが着実に最高峰が近づいてきた。といっても、下から見上げるばかりだが。
本気で登ろうというのであれば、ログハウスに用意されているような装備じゃ凍え死ぬだろうな。
どうやらこの階層を支配する魔物は山頂付近にいるらしく、時折、雷のような吠え声が響いて雪崩が起こった。
幸運にも巻き込まれずに済んだが、油断はできない。
急ぎ峠を越えて山の反対側に出ると、夕日が赤く灯る前に俺たちは次の祭壇にたどり着いた。
この頃にはもうレベルは18になっていた。
名前:ゼロ
種族:オーク
レベル:18
力:D+(61)
知性:G(0)
信仰心:G(0)
敏捷性:G(0)
魅力:G(0)
運:G(0)
装備:ゴルドラモルゲンシュテルン レア度B 攻撃力80
スキル:ウォークライ 持続三十秒 再使用まで五分
力溜め 相手の行動が一度終わるまで力を溜める 持続十秒 再使用まで三十秒
「もう少し先だけど、力の項目がさらに上がると種族が変化しそうだね」
種族が変わる? オークからなにか別のものになるというんだろうか。どういうことか詳しくナビに訊いてみたものの「どうなるかはなってみないとわからないんだ。ごめんね」と肩すかしをくらってしまった。
そして――祭壇を抜けた先で、鬼門とも言える巨石平原に俺たちは降り立ったのである。
ナビからの事前情報によると、この階層の風景は不思議なもので、なだらかに広がる緑の丘陵地帯に、無数の巨石を並べた遺跡が点在しているというのだ。
誰が作ったものかわからないものだが、巨石に記された古代文字には魔法を増幅する力があるらしく、その影響か、この階層の魔物はどれも魔法を得意としているらしい。
場合によっては大深雪山に戻って、レベル上げが必要かもしれないな。
1+6=7
7÷2=3.5
こ、これやきっと……(震え)