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アレコレ興味をもってみないと、なかなか自分の才能に気づけない件

 ガーネットに依頼した装備が完成し、その試運転シェイクダウンのために俺は第十九階層――世界樹上にやってきた。


 独りではなくシルフィと一緒にだ。


 服はドワーフの男物の丈を調整した冒険者風の頑丈なものだ。


 特別火炎や氷結に強いということはないのだが、腕や足の関節部が動かしやすいよう、裁縫に工夫がされていた。


 その上から身につけた軽鎧は、最果ての街で五指に入る名工の作品である。


 動きを阻害せず急所を的確にカバーした軽鎧は、まるで装着している気がしない。が、格段に防御力は高かった。


 手にはオープンフィンガータイプのグラブである。前世エルフの時の手甲とは違い、拳を握った時にナックルパートの部分を厚く覆う金属片が取り付けられていた。


 俺がガーネットにお願いした素材で作られている。その特性は高強度にして、魔法伝導率を黒魔導士の杖並みにしたもの……だ。


 上腕も同じ素材で包むようにしてあった。拳を振るうには重く、装備したがために連打の速度もペースもがた落ちなのだが、手数は力の項目を上げて、この重さを“扱える”くらいまで成長させる予定だ。


 準備万端。久しぶりに宮殿の外どころか階層越えの冒険だ。


 世界樹上はいくつかの“テーブル”というエリアに別れているのだが、中でも風光明媚な満開テーブルに足を運んだ。


 視界一面、色とりどりの花々が咲き乱れる幻想的な場所だ。


 風が吹けば花吹雪となり、花々の香気に吸い寄せられるように、蜜を蓄える蜂などの虫系の魔物や、その集めた蜜を狙う熊の魔物が主なターゲットだった。


 あまりじめっとしたところでキノコ集めをしていると、ショウロダケを見つけてしまってシルフィが暴走しかねないのもあるので、うってつけである。


 なにより満開テーブルは十九階層の中では魔物も弱く、弱体化しつつある今の俺にはうってつけの訓練場所というのが一つ。


 もう一つは、蜂や熊や花の妖精のような魔物を倒すことで得られる素材が、今後のシルフィにとって重要だという点。それが大きかった。


 花園を踏み荒らすのには少し抵抗もあるのだが、ピクニックにきたわけじゃない。


 一気に駆け抜けて花吹雪を切り裂くように跳ぶと、巨大な花蜜熊フラズリーの懐に潜り込んだ。


 拳を握って二つの魔法を同時展開する。


 一つは肉体硬化ストスキンだ。石化病の残滓をヒントに俺は、自分の拳をこの魔法でかためる。少年の柔らかな手が金属塊で出来た鈍器のようになった。


「セイヤアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 ドナに教わった通り、声を上げて正拳突きを熊の分厚い胸板に叩き込む。


 ゴオアアアアアアアアアアアアアアッ!


 ガーネット謹製グラブのナックルパート部分がめり込みはしたが、所詮は子供の膂力だ。


 装備によって重くなったことで、拳の速度も鈍りキレも皆無。


 魔物に有効打を与えることはできなかった。


 が、これでいい。


 めり込んでさえしまえば、あとは――


 俺は声には出さずに黒魔法を右の拳で起動した。




 初級雷撃魔法サンダーボルト!!




 拳から花蜜熊の体内に直接雷撃を打ち込んだ。初級だろうと零距離で浴びれば、その威力はあなどれない。


 名付けて雷撃拳ライトニングブロー傍目はためにはただのパンチにしか見えないところがミソである。


 ガクンと魔物巨体が崩れところで、俺は手の硬化を解き、右手側に飛び退く。


 同時に魔法の構築を終えたシルフィが、杖を天に掲げて起動する。


上級雷撃魔法サンダーフレア!!」


 冒険は久しぶりというエルフの少女だが、俺が魔法の効果範囲をギリギリ脱したタイミングで、花蜜熊を激しい天雷が撃ち抜いた。


 黒く焦げた熊の巨体が赤い光の粒子に溶けて消える。


 光を集めてナビは尻尾をフリフリさせながら上機嫌だ。


 さらに、花蜜熊はブルーローズハニーを落とした。


 普通のハチミツと違って、まるで美しい海を切り取ったような青い色だ。


 魔物が落とすアイテムは、すでに精製されて瓶詰めの状態だった。不思議なことは言い出したら切りが無いが、まあ、不思議だな。


 そんな青いハチミツをそっちのけで、大あわてでシルフィが俺に駆け寄り確認する。


「だ、大丈夫ッスか! 今のはちょっとギリギリで……」


「タイミングぴったりだったよ。シルフィお姉ちゃんは黒魔法が得意なんだね」


「そ、そうッスか。なんだか褒められると照れるッス」


 後ろ手に頭を掻くような仕草でシルフィはホッと息を吐いた。


「これからはもうワンテンポ早くていいからね」


「そんなことをしたらゼロくんを巻き込むッス」


「遠慮しなくていいって。僕がシルフィお姉ちゃんに合わせるから」


 シルフィの魔法の呼吸は、二人で旅してきたからすっかり俺の魂に染みついていた。


 そのことがエルフの少女は不思議なようだ。おどおどした目で俺の顔をじっと見つめる。


「こんなこと言うのは変かもしれないけど、ゼロくんとは初対面な気がしないッス」


 満開テーブルに到着するまで、十回程度戦闘をしたのだが、一戦ごとにコンビネーションのタイミングを早めていった。


「きっとシルフィお姉ちゃんと相性がいいんだよ」


「そ、そうッスね! わかったッス。手加減無しの最速タイミングで魔法を使うッスよ!」


 ブルーローズハニーの小瓶を手にとって、シルフィは金のチェーンの先についた紅玉にしまいこんだ。




 基本的に俺が前衛だ。魔物の注意を引きつけている間にシルフィが黒魔法で殲滅する。この繰り返しで満開テーブルで手に入る香油エッセンスや蜜類を集めに集めた。


 他にもハーブや果実といった実りを狩って、できるだけ種類を多く揃える。


 ブルーローズハニーにレッドガーベラハニー。ゴールデンリリィハニーにパープルロータスハニー。一つのテーブルで四色の蜜ゲットである。


 花の魔物の花粉には、眠りや麻痺や頭がボーッとして身体が熱くなるといった効果があるのだが、前々オークの加護がそれらを無効化した。


 シルフィが麻痺した場合でも、俺には治癒魔法がある。もう少し強くなったら、彼女と死霊沼地でショウロダケ探しもできそうだな。


 まあ、あのキノコが手に入るとシルフィは暴走するんだけど。




 こうして集めた植物系素材を持ち帰った。宮殿の門番オークにじっと見られるたびに、シルフィは腰砕けになってしまうのは少々やっかいだ。


「お帰りなさい坊ちゃん、それにエルフのお嬢さん」


「ただいまー!」


「た、たた、ただいまッス」


 魔物と戦うよりも確実にシルフィはビビッていた。とはいえ、門番オークは傷だらけの見た目と強面のわりに、物腰はどことなく柔らかい。


 ドナの優しさに触れたからかもしれないと、俺は勝手に思うことにした。


 中庭を抜けて宮殿内に戻る。


 ちょうどレパードがシルフィのための部屋を用意したところだった。


 一階の奥の、やや広めの部屋だ。


 俺とシルフィを部屋まで案内して、レパードは小さく一礼した。


「では、その力を試させていただきますね」


 レパードの厳しい視線にも負けず、シルフィは力強くうなずいた。


「望むところッスよ」


 埃をかぶって物置に押し込まれていた錬金術機材が、部屋の棚やテーブルに無造作に並べられている。


 もともと錬金術師を募集していたのだが、常闇街ということもあって求人に飛びつくエルフはいなかったらしい。


 もしそんな仕事を受けたと錬金術ギルドにバレれば、追放ものだ。


 つまり追放済みのシルフィには、痛くも痒くもないのである。


 が、シルフィは部屋の惨状に頭を抱えた。


「まいったッスねぇ。機具は全部Aランクなのに、配置がひどい。本当に誰も錬金術に精通してないんスね」


 おかげで居場所ができそうッス! とシルフィは付け足した。


 俺も錬金術に関しては素人同然だが、彼女と一緒に暮らした間は、道具の配置などもなんとなくわかっている。


「こっちのビーカーは棚の下の方がいいよね」


「あ! そうッスね。じゃあ頼むッスよ」


 テーブルに置かれたビーカー類をサイズごとに分けて、使いやすいよう棚の中に並べ直した。


 他の機材もしまうものはしまうべき棚に。比較的利用頻度の高い器具はテーブルに並べていく。


 と、シルフィが俺の顔をじっと見つめた。


「あの、ゼロくんは錬金術もわかるんスか?」


「え? 全然わかんないけど、使いやすいかなぁって……」


 突然シルフィは俺をぎゅっと抱きしめた。


 当たる胸が無い……が、青い木の新芽のような香りがした。


「きみはとっても良い子ッスね。エルフだったら助手にしてるッス」


「え、えへへ~。照れるなぁ」


 器具を使っての精製やらは、俺が手を出すと失敗するだろう。


 ここは専門家シルフィにお任せだ。


 道具の配置も一通り決まり、本日集めた素材でシルフィが作る最初の品は――


「道具はどれも良いものだし、素材もいいッスけど……本当にこれで力を示したことになるんスか?」


「うん! 宮殿のお姉ちゃんたち、きっとすっごく喜ぶと思うよ!」


「わかったッス」


 シルフィは花の香油や蜜から不純物を取り除き、より純化させて複数の芳香フレーバーを合成した。


 俺には違いがわからないのだが、エルフの中でもシルフィは特に嗅覚に優れる。それに彼女が調合したハーブティーは、素人の俺にもわかる美味しさだった。


 そのセンスをエッセンスに変換し、シルフィはオリジナルの香料フレグランスを完成させた。


 香水や化粧品に石鹸などなど、用途は様々だ。


「思ったより上手くできた……かも」


「すごやシルフィお姉ちゃん!」


「べ、別にこれくらい……というか、男の子なのに良く思いついたッスね。化粧品を作るなんて」


 もとはといえばドナのまと麝香ムスクがヒントである。


 化粧っ気の無いシルフィが化粧品を作ることに気づかなかったのは皮肉だ。


 とろけるようなかぐわしさを必要とするものにぴったりの香りが、宮殿の住人たちをとりこにするまで、そう時間はかからなかった。


名前:ゼロ

種族:中級天使アーク

レベル:40

力:F(19)

知性:D(59)

信仰心:D+(62)

敏捷性:G(0)

魅力:G(0)

運:G(0)


装備:武闘着

   拳闘僧侶バトルモンクの軽鎧 レア度B 防御力77 敏捷性が低下しない

   魔装鉄拳マジカルフィスト レア度B 攻撃力65 防御力12 接触起動で魔法の威力を100%発揮

   

   中級天使のローブ 儀礼用

   銀の十字架 教会の修道士の証


白魔法:中級回復魔法ハイヒーリング 中程度の傷を癒やし、体力を回復する

中級治癒魔法ハイキュア 猛毒などの強力な状態異常を治療する

   操眠魔法スリプコン 対象を眠らせる&眠っている対象を目覚めさせる

   精神浄化魔法マインドクリア 混乱状態やパニックになった精神を鎮める

   火力支援パワゲイン 腕力を強化して武器による攻撃力を上げる

   肉体硬化ストスキン 肉体を硬化させ防御力を上げる

   氷炎防壁サマルシド 炎と氷から身を守る


黒魔法:初級炎撃魔法ファイアボルト 初級氷撃魔法アイスボルト 初級雷撃魔法サンダーボルト

   中級炎撃魔法ファイアストーム 中級氷撃魔法アイスストーム 中級雷撃魔法サンダーストーム

   上級炎撃魔法ファイアノヴァ 上級氷撃魔法アイスクリスタ 上級雷撃魔法サンダーフレア


   脱力魔法ディスパワン 対象の力を下げ攻撃と物理防御を弱める

   鈍重魔法ディスアグレ 対象の敏捷性を下げ速度や命中率を落とす

   魔法障壁マジルシド 敵意ある魔法による攻撃を防ぐ盾

   呪封魔法ディスペルド 魔法を打ち消し封じる魔法殺しの術


流派:女傑クインドナ流格闘術 猫の構え


お姉ちゃん:シスターヘレン

ママ:クインドナ

親公認嫁候補:ガーネット


????:左右両手で別の魔法を繰り出す能力 白魔法と黒魔法でも可能


――隠しステータス――


特殊能力:魂の記憶 力を引き継ぎ積み重ねる選ばれし者の能力。


種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。

    :エルフの目 魔法によって隠されたものを見つけ出す探求の眼差し。


学習成果:黒魔法の最適化 学習進度によって魔法力の効率的な運用が可能となる。

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