新スタイルは格闘系?
採寸と前金の支払い(一千万メイズ取っ払い)を終えて、俺はドナと手を繋いで新しいホーム――常闇街に向けて街を歩く。
子供が黒ずくめの女と一緒というのは、街を行く間もどうしても人目についてしまうのだが、これも計算のうちだ。
道行く天使族の何人かは、教会のニコラスティラ司祭に繋がっているだろう。
喪服のようなベールがついた帽子をかぶっていることもあり、ドナの顔は隠れたままだ。
教会から見れば「たかが買い物」に本物のクインドナが常闇街の外に出たとも思うまい。
影武者と考えがちだが、どっこいご本人なのはご愛敬というかなんというか。
せいぜいそういう報告をしろよ。監視者どもめ。
「せっかく二人でお出かけしたのだし、帰りにどこかで食べていこうかしら?」
「ぼ、僕はママの手料理がいいなぁ」
「あら、じゃあお昼はぼうやが大好きな、サーモンとほうれん草のキッシュを焼きましょうね」
「わーい! やったー!」
普通に美味いので普通に嬉しい。料理の腕は岩窟亭の出張料理人仕込みなのだとか。ドナの料理は飲み屋の飯よりも優しい味がする。
見ず知らずの俺を本当の子供のように大切にしてくれるんだ。
前回、自分を見失ったのも仕方が無い。
俺は少しだけ心配というか、心苦しくなった。正体を隠しドナを欺いているのもあるのだが、加えて装備の代金まで全部ドナ持ちだ。
「あ、あのね……僕が冒険したいって言ったからだけど、あんなお金を……」
「ぼうやの安全を買えるならお買い得よ。それにガーネットはぼうやの将来のお嫁さん候補かもしれないものね。腕も良いと噂は耳にしているし、とても素敵な女性で気に入ってしまったもの」
俺の心に200のダメージ! なんとか顔に出さずに告げる。
「う、うん! とってもカッコイイお姉ちゃんだったね!」
防具については一通りガーネットにリクエストしたのだが、問題は武器である。
前世の時と同様、杖などが無くとも黒魔法を打つことは可能だ。だが、表だって黒魔法を連打するのはマズイ気がした。
マリアの受けた石化の呪いを解呪した時は、ドナも含め周りの誰からも「ただの高位白魔法」と思われてたしな。
そこで一計を案じた結果、新しい戦闘形態で行くことに決めたのである。
ずばり――格闘戦だ。武器も前世の時とは違うタイプの手甲にした。
そもそもシルフィの協力抜きにはエルフ用装備は作れないので、仕方ないという部分もあったのだが……。
俺の目論見がうまくハマれば、遠距離こそ前世に劣るものの、近接戦闘では凌駕する可能性すらあった。
「ね、ねえドナママ! 装備ができあがるまで僕に護身術を教えてくれるんだよね!」
「本当は乱暴なことは良くないと思うのよ。だけど、話合いの通じない相手というのはいるものね」
腕力で説得である。謎の奥義で俺を止めようとしたのは話合いの末と言えたかどうか。
ともあれ、魔法や装備を抜きにした裸一貫の勝負の場合、前々世の俺より強いぞクインドナ。
純粋な腕力ならオークが上かもしれないが、ドナの格闘技術は底が見えない。
もし少しでも彼女から学ぶことができれば、この先、剣でも棍棒でも杭打式杖であろうとも、何を装備していても体裁きが別物になるだろう。
「本当はぼうやには、女の子と仲良くする方法をいっぱい教えてあげたいのだけれど。さわり方とかなで方とか、味わい方なんていうのもあるわ」
「へ、へぇ~~よくわかんないや」
「まだ早すぎたわね」
「け、けどさ、僕が強くなったら、好きになった女の子も守れるよね!」
「うふふ♪ ぼうやの言う通りね。それまではあたしがぼうやを守っていーっぱい愛してあげるわ。強くなってしまうのは寂しいけど」
「もちろんドナママのことも大好きだから、僕が守ってあげるよ!」
ドナは立ち止まると、そっとしゃがんで目線を俺に合わせてから、顔を隠すベールを少しだけめくってそっと唇で俺の頬に触れた。
「本当に将来が楽しみだわ。もしぼうやがもうちょっとだけ大人だったら……うふふ、ごめんなさいね。変なことを言って」
そっと離れると、再び俺の手をとって彼女は歩き出した。
装備の完成が早いか、ドナのレベルドレインで赤子同然にされるのが早いか――
幸せなのに危険な状態はしばらく続きそうだ。
名前:ゼロ
種族:中級天使
レベル:36
力:G(0)
知性:D(59)
信仰心:D+(62)
敏捷性:G(0)
魅力:G(0)
運:G(0)
装備:冒険者風の服
中級天使のローブ 儀礼用
銀の十字架 教会の修道士の証
白魔法:中級回復魔法 中程度の傷を癒やし、体力を回復する
中級治癒魔法 猛毒などの強力な状態異常を治療する
操眠魔法 対象を眠らせる&眠っている対象を目覚めさせる
精神浄化魔法 混乱状態やパニックになった精神を鎮める
火力支援 腕力を強化して武器による攻撃力を上げる
肉体硬化 肉体を硬化させ防御力を上げる
氷炎防壁 炎と氷から身を守る
黒魔法:初級炎撃魔法 初級氷撃魔法 初級雷撃魔法
中級炎撃魔法 中級氷撃魔法 中級雷撃魔法
上級炎撃魔法 上級氷撃魔法 上級雷撃魔法
脱力魔法 対象の力を下げ攻撃と物理防御を弱める
鈍重魔法 対象の敏捷性を下げ速度や命中率を落とす
魔法障壁 敵意ある魔法による攻撃を防ぐ盾
呪封魔法 魔法を打ち消し封じる魔法殺しの術
お姉ちゃん:シスターヘレン
ママ:クインドナ
親公認嫁候補:ガーネット
????:左右両手で別の魔法を繰り出す能力 白魔法と黒魔法でも可能
――隠しステータス――
特殊能力:魂の記憶 力を引き継ぎ積み重ねる選ばれし者の能力。
種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。
:エルフの目 魔法によって隠されたものを見つけ出す探求の眼差し。
学習成果:黒魔法の最適化 学習進度によって魔法力の効率的な運用が可能となる。
※警告 レベルドレイン発生 戦闘力の低下に注意




