かんべん
泉の中に頭から突っ込み、暫く身悶えしていると徐々に痛みが引いてきた。
(死ぬかと思った。。。
ヌルヌルするってことは、溶けてる?
『べネット』さんが微妙な顔をしてた訳だ。
たしか燃やした木灰を水に溶かして洗浄液を作ったなあ。
あれと似た感じのものかな。なら牛指さえ手に入れば石鹸が出来そうだ。)
前世の自給自足の生活の中で培った生活の知恵が頭に浮かんだ。
(しかし、この泉、誰か先客がいたのか?)
先ほどの笑い声が気になる。
水から上がり、辺りを見回すが何も変わった様子はない。
(気のせいか?いや?九鬼師匠の言葉が過る。『自分の五感を信じよ。生死の分かれ目はほんの些細なことを感じとれるかどうかにかかっている』だっけな。生死までいかないにせよ、念のため調べるか。)
とは言え、何も変わりがないように見える。
そういや、『第3の目』を使ったらどうだろう。。。
心で『開眼』と念じる。
そうすると。。。
『いたっ』
俺の右手数十センチ離れたところに
俺を興味深そうに見ている『そいつ』はいた。
(おおっファンタジーだ。)
身長10cm 羽が生えた黄色の妖精が飛んでいた。あきらかに油断している。
(捕まえられそうだ。)
(ケガをさせないよう捕まえられないか?
内功を使う。。。か。)
気を込め『はっ』という掛け声とともに放つ。
『ぽとっ』
落ちた。。。
慌て手を差しのべる。
『キャッチ』成功。
「あいたたた、お兄さん酷いよ。ちょっと笑っただけなのにさ。」
涙目になっている。
(ケガさせちまったかな。)
「ゴメン。何かな? と思って。」
「ひっどいな~、身体に傷ついたらどうするつもりなんだい?」
プンプンと怒っている。
そして。。。。
「えっ? キャア、キャア、きゃあ、ギャアー」
(打ち所悪かったとか?)
「お兄さん、僕のこと見えている?見えている?」
「あっ、ああ、しっかり見える」
「やっぱり。見えちゃあダメなんだよ。見えちゃあ。」
ワンワンと泣き出した。
数刻のち、やっとの事で泣き止んだ妖精に話を聞いた。
「僕たち妖精属は、他の種族に決して姿を見られてはならないんだ。」
「見られると?」
「仲間の元に帰れなくなる。他の種族に『認知』されるとその世界に固定されてしまい、もとに戻れなくなるんだ。。。」
「戻るには?」
「見られた相手を消すしか方法はない」
「えっと、消すと言うのは?」
「。。。。消えてなくなってもらうってこと、僕の為に『死んで』」
えっ??
水鉄砲で打たれたくらいの水流が顔にあたる。
(ぜんぜん痛くないんだけれど。。。)
「まさか。。。効かないとは」
そう言って、ガクっと崩れおちた。
(こいつもしかして、俺を殺そうとした?
でも、何か俺悪いことしちまったみたいだな。)
「えっと、そこの妖精さん」
「『そこの妖精』じゃなく『エル』よ」
「じゃ、『エル』」
「『きゃー。きゃー。きゃー。』」
何かやってしまった?
「名前を呼ばれるなんて、名前を呼ばれるなんて」
「名前を呼ばれると?」
(まさか?)
「名前を呼ばれると、その呼んだ相手に固定されるのっ。そんなの常識でしょう。きちんと責任取りなさいよね。責任」
(今の、『俺のせい?』いや流石に違うはず。)
服を着て、さっさとこの場を去ることにした。
色々メンドクサイし。。。
「じゃ、また。」
「えっ、えっ?逃げる気?
この可愛いエルちゃんが付いていってあげるって言ってるのに何よその態度は。。。」
と言いながら何故かそいつは『バタッ』と倒れた。
しかも『何故か』俺の服の端をしっかり握っていた。
(かんべんしてくれ~)