さっぱり
(まだ日が高いなあ。どうしよう。
そういや、この村に来て毎日同じ服ばかり着ているな。風呂にも入っていないし。
服は着替えも含め数着欲しい。
いったん宿に戻って女将さんに相談してみるか。)
宿に戻り帳場を覗いてみるがいない。(この時間だと、夜の仕込みかな。)
案の定、『オークのしっぽ』に女将さんはいた。
「女将さん、昼の弁当お手数おかけしました。とても旨かったです。今ちょっと聞きたいことあるのですが時間取れますか?」
「ちょっと待ちな。今仕込んでるこいつの下味つけたら、手が空く。それまで、店の椅子でもかけてな。」
「店って確か2階でしたよね。」
着いた日、ベネル師匠と上がった2階の部屋に向かおうとすると、
「あそこは商談用の個室。
今は。。。 今は『飲んだくれ』がくだ巻いてるからやめとき。
1階の方でちょっと待ってな。まだ店を開けてないから、好きなとこにかけていてくれていい。」
(昼間っから酔い潰れているなんて、ダメな大人の見本じゃん。まあ、誰だか知らんが嫌なことでもあったのかな)
世の中には、知らないでいた方が良いことも多いと言う。。。。
それから20分ほど待つと女将さんがやってきた。
「で、何かようかい?」
「女将さん、服一式をどこかで手に入れたいんだけど、どこか良い店ないかな。
それと『風呂が入れる場所』を教えて貰えると助かります。」
「べネット」
「?」
「あたしの名前だよ。それと、あたしはあんたの名前すら聞いてないよ。
物を聞くにせよ、順番が違うんじゃないかね。『エレン』様が人物保証してるってことと、『セラ』ちゃんの「想い人」ってことはあたしも聞いて知ってる。『名前も』ね。
だけど。あんたの口から何一つも聞いてない。
礼儀としてどうかと思うよ。」
(確かにそうだ。。。)
「挨拶遅れ、失礼しました。私名前は『カイト』といいます。縁あってこの村に滞在することになりました。色々常識に疎いところもあり、迷惑をかけるとは思いますが、『べネット』さん、これからどうぞ宜しくお願いいたします。」
「あ、ああ。ちゃんと挨拶もできるじゃあないか。
そこまで堅苦しくなくて良いんだよ。ただ、人として『挨拶なし』っていうのはどうかと思っただけだ。こちらこそよろしく頼むよ。
で、服だっけ?この村は全体でも20戸ほどの小さな村だ。なので街にあるみたいな『洋服店』なんてないよ。みな自分で織って作ってる。
そうさね。。。ここから馬で3日ほどの街に買い物にいくか、簡単なもので良ければ手先な者に頼んで織ってもらうかだが。知り合いに声がけしようか?手間賃と材料費はもらうが。」
(是非もないか。)
「それでお願いします。で、風呂の方は?」
「あんた、いったいどこの『ぼんぼん』なんだい?風呂なんて王候貴族ぐらいしか持ってないだらろうに。
まあ王都じゃあ公共の風呂なんてものもあるそうだがね。
ここじゃあ、井戸で手拭いを濡らして身体を拭くか、公共の泉で水浴びするかのどちらかだよ。」
「水浴び場を『是非』教えてください。」
さっぱりしたかった。
「『公共の水浴び場』はあんた達が修行していた森に向かう途中にあったはずだよ。
途中道が2つに分かれていたのに気がつかなかったかい?
分岐している所を左に折れたら水浴び場、直進したら森になる。」
(そういえば、そう言われるとあったような気もしてくるから不思議だ。まあ、いってみれば分かるか。)
「奥が男で、手前が女間違えるんじゃないよ?」
「奥が男、手前が女ですね。了解です。それと石鹸とタオルどこで手に入れられますか?」
「『石鹸?』」
「身体についた汗や汚れを落とす為に、泡立て使うもののことです。
って言うか、身体を洗う時に何を使って洗うんですか?」
「『キモロ』の枝を折って、出た液を水で薄めて使っているよ。正直ヒリヒリするから、あたしはあまり好きじゃないけどね。この店の前にも植わっているよ。泉の近くにもあるから、葉の形を覚えていくと良い。手拭いは、わたしがプレゼントしてあげるよ。」
礼を言い、手拭いと見本に『キモロ』の枝をもって水浴び場に向かった。