どうして?
「よっ」 (右ストレート)
「ほっ」(左フック)
「ほっ」(左ジャブ)
「よっ」(右はフェイント、左からくる)
俺は右手に『エール(ビール)』、左手に『焼き鳥のクシ』を持ちながら『ベネル』の猛攻を交わしていた。
(拳圧からして、一発でも当たれば意識を刈り取られるだろうな。
おっとワンツーだ。
しっかし、どうしてこうなった?)
幸い『ベネル』のスタイルは綺麗な『拳闘士タイプ』だ。予備動作(目の動きや筋肉の溜め等)を追えばどこを狙っているか読みやすい。
攻撃が読まれていると踏んだんだろうか。
足を使いはじめた。
(リズムをとっているだけに、この手のタイプは読みやすいんだよな。)
とは言え、
俺もスピードが増し、フェイントを織り交ぜられると余力がなくなってきた。
(勿体ないので『エール』を煽り、『焼き鳥』を口に放り込む)
『ベネル』にも焦りが見え始めた。
おっ『フリッカージャブ』
後ろにスウェーして避ける。
『クイック』ベネルが何か呟き
ギアアップした。
まだ何とか捌けるが、際どい。
「ちっ、これでも避けるか。『スロー』」
何故か急に身体が重くなってきた。
(しょうがない、『先読み』)
何とか先に攻撃を読み、動くことで『対処』した。
「これはどうだ『コンフェ』」
(右、左?あれ、右ってどっちだ?
まずい。。。
とっさに『外功』を使い筋肉を硬くし、身体にそって薄く『気』を張る。
ゴキッ
「イッテー」
『ベネル』が顔をしかめた。
「ちくしょう『スリーブ』」
『パーン』
「いい加減にしな。」
俺は落ちていく中、酒場の女将が『フライパン』で『ベネル』の頭を振り抜いているのを見た気がした。
※※※※※※
頭の上で、大きな声で男女がやりあっている声が聞こえた。
(俺どうしたんだっけ?
確か、酒場で『ベネル』と飲む事になって、、、
そうだ、急に何故か『ベネル』が切れて
俺に殴りかかって来たんだった。
気絶してたって言うことは、『ノックアウト』されたって事か。)
声に耳をすました。何か事情が分かるかも知れない。
「『人払いして』飲んでいたってことは、
この坊やは、『エレン様』の使者だろう?
その使者をのしてしまってどうするのさ。
しかも、最後は魔法まで使って『眠らせ』までしてさ。」
明らかに酒場の女将はベネルを『非難』しているようだ。
「。。。」
「そんなにしてまで勝ちたかったのかい?」
「ああ、そうだ。そいつには一発いれてやりたかった。いや殴ってボコボコにしたかった。」
「何故さ?」
「そいつは、俺の娘『セラ』を抱いたからだ。」
「えっ。。。」
(えっ。。。。?)
(『セラ』がこのおっさんの子供だと)
それを聞き、俺は『ベネル』が急に殴りかかってきた訳について分かってしまった。
※※※※※※
ここで数刻前に遡る。
俺は『ロタ村』に到着後、
小さい村ということもあり『ベネル』さんの雑貨屋を比較的簡単に探すことが出来た。
出てきたのは中肉中背の赤い髪の男で、
第一印象で言うならば『チャラケタ遊び人のおやじ』だった。
(まあ、知人がいない俺にとってはどんな人でも頼るしかないんだけどな。)
とりあえず店に入り、聞いた通りの合言葉を伝えた。
「ちょいと、用意するから待っててな。」
そう言って『ベネル』さんは、奥へひっこんだ。
暫くの間のあと、お金の入った巾着袋と中くらいの背負い袋を2つ持ってきた。
「ほいっ、ジャガイモに、玉ねぎだ、ニンニクにリンゴだ。数を数えな。」
そう言って、にやりと笑い、巾着袋をカウンターにあけた。
入っていたのは、白い白色のコイン1枚と金色のコイン5枚、銀色と赤褐色のコインがそれぞれ10枚ずつだった。
(餞別か。。。)
「驚いて声もでないみたいじゃねいか。まあ、白金貨や、金貨なんて一般の人にゃ一生縁がないもんだからな。お前さんがどんな仕事したかしれないが、それなりの価値があったと『エレン』のババアは判断したってことだ。」
(困った。金銭価値が分からない。それに。。。。大したこともしてない。
ただ、お金はありがたいな。)
「坊主その金で、酒ぐらい振る舞ってくれてもバチはあたるまい?」
(色々聞くチャンスか。)
「俺の名前は『坊主』じゃなく『カイト』です。
この地方について私も色々教えてもらいたいから、ご馳しますよ。好きなだけ飲んだり食ったりしてください。」
「そうこなくっちゃ。店は俺の知っているところで良いか?」
勿論異論はあるはずもない。
「値段はそこそこするが、味は保障するぞ。俺のこれがやっている店だ。」
とニヤっと笑い小指を立てた。
「となりゃ今日は店じまいだな。」
と『Close』の札を店のドアにかけた。
そして俺たちは、この店『オークのしっぽ』にやって来た。
女将と『ベネル』さんはツーカーの中らしく
入るなり『黒エール』が置かれ、『いつものやつ』っていうと、食べ物が机の上にところ狭しと置かれた。
どれも事前に聞いていた通り旨く、話も弾んだ。
「このサクサクっとした軽い食感の黒い食べ物ってなんですか?」
「タランチェラのニンニク油揚げさ。塩がきいていて旨いだろう。エールには最高のつまみさ。」
(あまり、食材について聞かない方がいいな。普通に旨いし。そういや)
「『ベネル』さん『超強力なニンニクの臭い消しのレシピ』知っているんだそうですね。『エレン』さんが教えて貰うよう言ってました。」
『ガタッ』
急に『ベネル』さんが立ち上がった。
「何故その話を先に言わない?」
「『エレン』さんの『私的な』伝言みたいだったので、後にでもと思ってました。」
『ガタン』
「あのババア。。。って事は、お前は『協力者』ではなく、俺と同じ『銀狼の花婿』ってことか。
「で、お前は誰とやっちまったんだ?
あそこで残っている年頃の娘だと、『サーシャ』か『ミナ』か。
二人とも良い身体してるからなあ。」
「パーン」
女将さんから、フライパンが振り抜かれる。(凄い。見事だ。。。)
(そもそも、『やって』なんていないけど。ただ『マーキング』されたのは『セラ』だから
この場合『セラ』と答えたら良いのか?)
などと思いながら焼き鳥のクシをほうばった。
「あのピチッとした身体に、『ヌルッ』、『チュッポ』そして『ズン』とした後に『ギュッ シュポッー』っと全身から絞り取られる感覚。
男なら、堪らないよな~。極楽ってやつだ。
ただすべて吸われちまったら。。。
待っているのは『死』だけどな。はっはっは」
またもや
「パーン」
女将さんから、フライパンが振り抜かれる。(お見事。)
「兎に角お前は『サーシャ』か『ミナ』に戦いを挑まれ、
『勝った』んだな。どっちに勝ったかは分からないが、二人とも相当な使い手のはずだぞ。凄いじゃないか。
『サーシャ』は 『風のレイピア』使い手で
『ミナ』は確か 『土のトンファ』使い手だったはずだ。
人であれを捌けるなら、かなりの使い手だな。
俺もかなり『拳闘』の世界でならした口だったが、初めて『あいつらの母親』と戦った時は流石に奥の手を使わざる得なかった。」
そして改めて聞かれた。
「で、結局どっちだったんだ?」
そして答えた。
「(多分)『セラ』です。」
そして戦いの火蓋は切り落とされた。