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『カオティク✖ルナティック』  作者: ことわり
4/33

語る老婆

老婆は語る。。。


【我らは一族は昔、『人間(ヒューモ)』であった。

そしてその起源は『アルデニア』と呼ばれる小さな領地を治めていた王族にまで遡る。


その国に『シリル』と言う姫がいた。

ある時、隣国『スーバニア』よりの侵攻があった。王都は占領され、たまたま父王の名代で地方に視察へ出ていた『シリル』のみが難を逃れた。

彼女が同じく国境を接する大国『マルタ』に応援を頼み、王都を取り戻した時には、すでに遅く、彼女の一族はすべて断頭台の上で露と消えていた。(処刑された者の中には年端もいかぬ9才になったばかりの弟の名もあった。)

やっとのことで取り戻した祖国も、政治力もない『シリル』に統治できる訳もなく、結局は『マルタ』の隷属国になり下がり、かつて『翡翠の宝石』と呼ばれた都市もその輝きを失った。


彼女は小国の(さが)を嘆き、自分の非力さをもまた憎んだ。

そして、復讐する為の力を数多の神々に望んだんじゃよ。


その願いを聞き届けた一柱の神があった。

混沌を操る神『ナハト』じゃった。


彼の神は『シリル』の夢に現れ言った。

『お前の願いを叶えよう。復讐の為の(ギフト)を与える。力には代償が必要だがそれでも受けるのか?』


全てに絶望していた彼女はその力を受け入れると誓った。



その数日後のある満月の夜、敵国『スーバニア』の王家に連なる者全てが領内で惨殺された。

(目撃したものは口々に『大きな銀狼』を見たと語ったそうだ。)


彼女は、敵国『スーバニア』の王族が同じ日に全員なくなったことと、夢内にナハトが現れたこと二つに関連があると疑っていたが、それ以降数年は何もなく時は過ぎ、そして記憶は薄れた。


代償がなんであったのか分かったのは、そのさらに数年後、彼女がある国の王子と結ばれることになった時だった。


初夜を迎え、幸せが絶頂であった

まさにその時に神は語りかけた。


『汝とその子孫に、更なる祝福を授けよう。


『非力』を二度と嘆くこと無きように、『孤高なる銀狼の力』を。


一族に『弱き血』が入らぬよう、『血の試練』を。


それぞれ与えよう。


また、誰もが汝らを恐れ伝えるように

『銀狼』の名前と姿を与えよう。誰もが分かるように。』


「血の試練とは?」彼女は恐る恐る聞いた。


『自分が好意を持つ者』が現れた時、

その者の生命の(マナ)を欲しくなる。

そして満月の夜が来る度に、その者の生命の(マナ)を貪りたくなる衝動を抑えきれなくなると言ったものだ。


圧倒的な『強者』なら、お前の子孫を抑えることが出来よう。』


「弱者なら?」


「弱者なら、お前の血筋には不要だろう。」


『強者の『マナ』を吸い取れば吸い取るほど、お前達は強くなっていく。愛する者が逃げれぬように、常に分かるよう印はつけられる。』


そう言うと最後に

『お前が望んだ通りになっただろう。』

にやりと笑い


『じゃあ用があるので、あばよ』

とそう言い消えたそうだ。】




「ちょっと長くなったね。少し休憩をとるか。酒を持ってきている。好きなだけ飲むがいい。」


「いくつか聞いて良いですか?」

休憩の後、俺は口を開いた。

(大体のことは推測できるが、確認はしておこう。)


「もちろんだ。」と『エレン』は言う。


(まずはと。。。)

「『マナ』は何に含まれるのですか?」


「血、肉、子種などに含まれているとされる。血が一番濃いな。次に子種か。」



「『つがい』になる相手が強ければ、お互いに生き長らえる可能性は出てくるものなんですか?」


「『可能性』はある。つがいの者が強ければ、我らを抑えることもできよう。

だが、『マナ』を得る(たび)に我らもまた強くなる。

我らの『つがい』となる者は、少なくとも月が次に巡ってくるまでに、『それ以上強くなって』いなければ生き残るのは厳しい。

そして、忘れてはならないのは『老いは誰でもやってくる』ってことだ。

『マナ』を摂取する我らの老いはゆっくりだ。

伴侶よりはな。その結果大概は『悲惨』な結果となる。」


「つがいにつけられる『印』とは?」


「お主には薄々分かっているだろう。」


(『マーキング』か。。。)


「『満月の日』だけ、例えば檻に入ってもらうとかは?」


「その場合、大概の銀狼族は死ぬ。

もっと言えば『発狂して死ぬ』

もちろん我らとて、過去それを考えたものがいなかったわけじゃあないが、結末は悲惨なものだった。


ある者は重圧に耐えられなくなり逃げ出し、遠くの地で自分だけ助かろうとした。結局は無駄だったが。。。


『印』がついた時点で(えにし)が深い所でつながり、

例え、お互いが離れた場所にいたとしても、牽かれあう定めとなるのだよ。」

悲しい顔をし、その(のち)どこか遠い目をした。


「もしかして、その首のドクロは。。。」

気になったことを聞いた。

「。。。私が愛したもの達さ。

私も今はこんなだが、綺麗だった時代もある。

寄って来た男はみな、『俺だけは大丈夫、必ず君と添い遂げる』と言ってくれたのだが。残念ながら誰一人として出来なかった。。。

せめて彼らを忘れないよう、常に見につけるようにしている。」

(予想したこととは言え。。。重いな。。)



(しかしアイツ(ナハト)め。俺も師匠?のアドバイスがなければ、どうなっていたか。。。

『『カオスの神』からの贈り(ギフト)には気をつけろ』か。。。

他人事じゃあないな。)



「質問は終わりかい?さっきの話に戻るとするか。」



「いえ、もう良いです。恐らく悲しい運命だったと想像できるので。」



「まあ、その通りさね。夫となった王子は翌朝血まみれで発見され、彼女は国を追われた。

そして、(ごう)の深さから逃れられず他の者との間に子孫を残した。


その子孫が我らさ。

だから『ヒューモ』の世界では、我らは忌み嫌われる。

だが、こんな我らとて情はある。可愛い孫娘を助けてもらったんだ。お前を助けたい。」


「助ける?」


「まだ、お前と孫娘は一線を越えていない。なら、まだ引き返せる。


お主の血を飲み、マーキングしたとは言え、まだ、『意識して』行為をなした訳ではない。


あの祝福(ノロイ)は『好意を持った時』に発動するものだからね。」


「我らが彼女(あれ)を抑えている間に、ここを離れ、二度と戻って来ないで欲しい。

それを伝えたくて、我らに伝わる最後の『意思疎通の宝玉』を使わせてもらったんだ。」


冷静に考えた末、俺はここを出ていく事にした。


彼女、が俺に『好意』を持っていたように見えたのは、あくまで

『血の味が彼女好みだった』のと、

『危険な状況下で一緒にいる異性に対し好意を抱く、所謂(いわゆる)つり橋効果によるもの』


この2点だったんじゃないかと考えたからである。


(実際、彼女に介護されている間、俺は寝ていた訳で、彼女と話した訳でもないんだ。そもそも恋愛関係に発展する要素なぞ何もない。。。)


俺の血=彼女にとって麻薬?みたいな物なら一緒にいて良い結果になると思えないし。


もちろん彼女達の境遇に『同情』はするし『悪意』に近い感情で人々の人生を狂わせた『ナハト』には、いずれ何らかの代償を払わせたいとは思っている。(出来るかどうかは分からないが。)

その事についは彼女達と共闘は出来そうに思える。


そして今の俺は『ナハト』と敵対するには

あまりに非力だし、あまりにこの世界について知らない。

自分には何が出来て、何が出来ないかさえ知らず、自分の力がどの程度かも知らない。


なので、『出ていく』ことにした。

(広い世界をみて、可能性を広げればいつかきっとあいつのところまでたどり着けるはず。)



別れの挨拶は率直に自分の気持ちを言うことにした。


「実は、俺も長老の語った『ナハト』とは別の因縁があります。」

老婆は驚いた顔を見せた。


「俺の人生もあいつは罪の意識もなく、意図も簡単に奪いました。

そのへんの石を無邪気に蹴飛ばすように。


あいつにとって俺たちは路傍の石にしか過ぎないのかと思います。

でも、石には石の意地がある。いつかあいつに、俺と言う石に、蹴躓かせてやります。


そして、またあなた達を長らく苦しめてきた事に対する『代償』をあいつに払わせてやりたいと思ってます。

その弱点を探しに世界を回り、探しだし、きっとここに帰ってきます。



その時は(ナハト)に対し共闘して頂けますか?」


こう、一気に俺は語った。



「はっはっはっ。『ナハト』を倒す為に世界を回るって言うのかい?大層なこというじゃないか。私が惚れてしまいそうだよ」

と物騒なことを長老が言う。


「そうかい。あんた、我々の呪いまで払ってくれるつもりなのかい。嬉しいことを言うね。でも相手は腐っても神だ。一生かかっても無理かもしれないよ。

諦め平凡な人生を歩むって選択肢があることも忘れちゃいけないよ。まあ選ぶのは『あんた』だ。

でも、、、願わくばあんたの願いが成就するよう祈っているよ。」


そう言って笑顔で送りだしてくれようとした。


(よし、頑張るぞ。)


「あたしも付いていく」

そのような声が聞こえたのは多分気のせいだろう。


そして、『ガン』っていう鈍器で殴るような音が聞こえたことも。。。


※※※※

兎に角決心がついたので、すぐ旅立つ事にした。

元より荷物などない。


「『ヒューモ』の集落の位置を教えて貰えませんか?」


「もしかして、ここがどこか分からないとか?」

何となく、探る様な気配を感じた。


「はい。『ナハト』によって遠い所より連れて来られたので。」


「そういえば、お前大陸共通言語分からなかったし、酷く野蛮な格好していたさね。」


「は、は、は」

そういえば、今更ながら、いつの間にか着ている服は麻で出来たまともな服になっていた。


「臭いが酷かったのであれは勝手に処分させてもらったよ。



「構いま...せ...ん」

ふいに身体が鉛のように重くなってきた。



遠くから長老の声が聞こえた。

「悪いがここの場所は明かせない。色々我々は恨まれているんでね。だから騙し打ちで悪いが保険を取らさせて貰うよ。」



(あの酒か。。。盛られたな。。。)

そこで俺は意識を手放した。






※※※※※

「カポカポカポ」


「カポカポカポ」


「カポカポカポ」


(何の音だ?どうやらまだ生きてはいるらしい。)


頭が少し覚める。


(荷馬車に積まれているのか?

辺りを見回すと畳3畳ほどのスペースに

交易品らしき物が置かれている。)


ふいに荷馬車は止まり

がさがさ何かしている音がした。

(目的地についたんだろうか?)


荷馬車の幌が開けられ

フードを被った女性が、入ってきた。

(『ミナ』だったっけ。確か『セラ』の異父兄弟だったな。)


縄をほどき、皮の水筒に入った水とパン、干した何かの肉を寄越した。


『ぐうっ』と腹がなる。

(いったいどれ程意識を無くしていたのだろうか。)


「ありがとう。」


「礼などいらん。しかし長老も朦朧したな。

生かして里を出すなど。。。

『セラ』にホダされたか。。

まあ、私は役目を果たすだけだが。

今、スープを作っている。その間身体を少しほぐしておけ。

ただ、外を覗こうとしたり、逃げようとしたりすれば

分かっているな?」


アーミーナイフを少し大振りにしたナイフを俺にみせた。

『闘う』と言う選択も無いではなかったが、一応俺を害する

つもりも無いようなので従う事にした。


しばし間があき、幌の隙間からスープが差し入れられた。

干し肉は固く噛みきれるもんじゃなかったので、

スープに浸し、食べる。


「旨い」


腹が満たされたからか、急激に睡魔に襲われ眠りについた。


それから、5~6回起きては『食事を食べ』

『寝る』を繰り返した。


7回目に目覚めた時、外に出るよう促された。旅の終点が近いのだろうか。


(ここまで、生かしたのだから殺される心配はないだろう。

楽観は出来ないが。)


「これから大事な事を言う。一回しか言わないので、忘れるんじゃない。」

と前置きして話始めた。


「間もなく目を布で縛り、馬車からお前を下ろす。下ろされてから300数える間、決して布をとり目を開けてはならない。


その際、決して私を試そうとしない事だ。布をとるかどうかは多少離れていても見えるものだからな。」


話は続く。


「そして、、、

300数え終わったら街道を伝い

『ロタ村』を探し『ベネル』という者を探せ。

その村で唯一の雑貨屋をしているからすぐ分かるはずだ。


そこで今から渡す『指輪』を見せ、『ロックウェル』の『エレン』に頼まれ、食料品の買い付けに来た」と話せ。


相手が応じてきたら、『ジャゴイモ1樽、玉ねぎ5樽、他にニンニクとリンゴを1袋ずつ』と答えろ。


その際、袋の大きさを聞いてくるので、『特大』だと嵩張るので『中位』のサイズと答えると良い。


その後『支払い方法』と、『仕入れの値段』をまず聞かれるので、『値段は言い値』で、『支払いは商品を受けとってから』と答えるように。


これですべてだ。」




「そうそう、あと『エレン』から

『ベネル』へ個人的に伝言をと言われている。


『最近物騒なので『魔物よけ一式』をこの者に渡し、『秘伝』の『ニンニク臭』を消す『レシピ』も教えてやってくれ』

だそうだ。


何の事かさっぱり分からないが。。

まあ、忘れない事だ。」




「もう間もなくお前を下ろすので、

荷台で最後の飯を食っておけ。所詮、干し肉とナツメグにパンだが、次にどこで食べれるか分からないからな。」


ありがたく頂くことにした。

そして、、、気を失った。


「こいつ、本当にアホだな。。。」

最後にこんな声が聞こえたような気がした。




※※※※

あれからどのくらい経ったのだろう?

寝すぎた感じがする。

気がつくと、道脇の木に寄っ掛かって寝ていた。

もっとも『騙された』と自分の迂闊さを嘆いたのは

村人に会うまでの僅かな間だけだった。


「『ロタ村』がどこだあ?ここに決まってるベェ。なに阿保なこと言っているだね。おまいさん、無学たと思って馬鹿にしてるんじゃあないかい。」

そう言って村人Aは去って行った。


(あのフードの女、絶対『S』だ。。。目隠しも何も、元から村まで送ってくれるつもりだったに違いない。)


そう思ったのもつかの間で、


ポケットに当座の金銭が入った財布が入っていたり、


指にちゃんと忘れないよう指輪がはめられたり、


背負い袋に水と食料日用品が入っていたりしたことで

不審は感謝に変わった。


(まあ、長老の心遣いと言う線も無くはなかったが。)


後に、背負い袋に置き手紙があったのが判明し、文字が読める人を探し読んでもらったところ、


『あんた騙されそうだから、ついでに村まで送っておいたよ。それと、財布は私から餞別。無駄に使うんじゃないよ』

と書いてあった。(泣)


何はともあれ俺は『ロタ村』に着いた。







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