白球
『メラ』さんって言っていたな。
はて、右と左どっちの家だろう?
片方は年寄りっぽい服が洗濯され、干されている。こっちじゃないな。と思い反対の家へ向かおうとしたら
「あんたがアルトかい?『べネット』から聞いているよ。本当に黒い髪のヒューモなんているんだね。驚いたわ。」
と声がかかった。
(どうやらこっちらしい。)
恰幅の良いご婦人が出て来て、にこにこ笑っている。
(悪い人じゃあなさそうだ。)
「服は亭主の昔の服を直すだけで、いいか。。。」
俺をジロジロみた後ボソッと呟く
(げっ、もしかして下着も?)
俺の顔から察したのか、言葉を繋げる。
「下着は新たに作って上げるから心配しなさんな。流石に他人の着けてた下着は嫌だろう。」
(まあ、そうだ。)
そう言って亭主のお古らしきものを数枚出してきた。
見たところ服はかなり丈夫に作ってある。
ただ、着古しだからだろうか。結構色落ちして、元の色が分からなくなってはいた。
(古着だと思えばいいか。)
「色は新たに染めてあげるよ。ちょいと着てご覧?」
旦那さんは大柄だったらしく、俺が着るとダボダボになる。
「寸直しと染め直しするから時間をもらうよ。それと色とかリクエストはあるかい?高価な色だと、行商人の娘さんがくるまで待って貰うことになるが。」
(ん~~~。あっ‼)
ぼそぼそぼそ。。。耳打ちをした。
「本当にそんなんでいいんかい?」
コクコク
色は決まった。
「他には?」
「頭にフードと、ズボン、シャツにたくさんのポケットをつけて欲しい。特に左胸のポケットは大きめに作って貰えませんか?」
「大きさはどれくらいかい?」
(おいっ 『エル』お前のサイズを教えろ)
少し顔を赤らめモジモジしている。
(お兄さんもスケベなんだね。僕のスリーサイズ聞きたいなんて。。。)
(ここである意味お約束のボケ?。掴んで放り投げたい。。。まっちょっとは知りたいけど。。。)
(素直にならないと。。。)
ドヤ顔をしてそいつはいた。
「すみません、フライパンちょっと貸してくれませんか?」
とメラさんに頼む。
目を離した隙にやつは消えていた。
(おい、背の高さと肩幅、それと羽を畳めるか。それだけ言ってこい)
再びやつは『ぱっ』と現れ
しゃべり始めた。
にやっ
カキーン
大空に白球は飛んでいった。羽があるから大丈夫だろう。。。多分
聞いたサイズを元にポケットを作って貰うことにした。
「あと、別件で黒い布を少し分けて貰えませんか?ハチマキくらいの大きさの切れ端で構わないので。」
「ハチマキ?なんだいそれは?
まあ切れ端で良いならすぐ用意するよ。
服の方は染める時間と直しで1日は見ておくれ。染めたあと、川でサラス時間を入れればそれプラス半日。
明後日には出来上がると思うよ。」
俺は礼を言って家を出た。
いつの間に戻ってきたのか涙目でキイキイ文句を言うやつに悩まされたのは言うまでもない。
(だってさ、空に飛ばされて行くとこまでがお約束だろ?)