沼ゴブリン
(なんかなあ。)
「げえ、げえ、く、苦しい。」
調子に乗って俺の『マナ』を吸い捲っていたばか妖精は悶えてた。
羽をひょいと左手で掴む。
(わあプニプニだ。。。豚妖精)
「『豚妖精』言うな~」
(どの口が言ってんだ。。。)
「この口だ。」
(意思疎通出来るのも鬱陶しいな)
プニプニの頬をつつく。
お腹もポッコリ着ている服がはち切れそうだ。
どうやったらここまで膨れるんだ?
「くすぐったい、止めろこの変態」
「お前こんな体型になって俺に付いてこれるんか?」
このままでは日がくれる。
「妖精界の『スピードマスター』とは我のこと、そんなこと容易いわ。」
(一応こいつ羽あるし大丈夫か)
「付いて来たいなら、付いて来ていい。
今の状態になったのは一部俺のセイもあるから。
それと生きていくのに必要な『マナ』もあげるよ。
ただそれ以外は基本『自力』で頼むな。俺も色々な事情があって、お前の面倒をそこまで見れそうもないから。」
「ふふん。私が面倒みたあげるから安心するがいい。」
(不安だ。。。全くもって不安だ。不安しかない。。。。。。)
「まあ、よろしくな。俺は『カイト』だ。
じゃあ 『スピードマスター』
ちゃんと付いてこいよ」
そういって俺は近くの木に登った。
『パシュッ』
『ザ~』
『ヒュン』
『パシュッ』
『ザ~』
『ヒュン』
遠くで「えっ?えっ?えっ?嘘」
って声が聞こえたのはきっと気のせいだったはず?
※※※※※※
結局、放置する訳にも行かず、迷子を探しにいくはめになったのは言うまでもない。
「『カイト』ゴメンなさい。」
鼻水と涙でぐしゃぐしゃになったエルの顔をみて流石に心が痛んだ。
「しっかりおぶされよ。」
背中を掴ませると、村までの道を急いだ。
何故か耳元で時々『ムリ~』とか聞こえたが、スルーする事にした。
(今度胸ポケットのある服を作って貰うことにしよう。)
※※※※※※
頑張って戻ったおかげで『オークのしっぽ』の営業時間内には間に合った。
「『べネット』さん、今晩は」
お客で賑わっているこの時間に来るのは初めてだ。
「おや、カイトじゃないか。さっぱりしたみたいだね。水浴び場にはいったのかい?」
「いったことは行ったのですが、なかなか入るには勇気がいって。みなジロジロ俺のこと見るもんで。。。」
「あ、ああ、あんたの風貌はここいらじゃ見かけないしね。一応村の連中には、あたしの所に一人泊まっているって伝えてはあるけど、珍しかったんだね。黒髪に黒目なんて港街『フェリシア』以外は見かけないしね。悪気はないんだ許してやってくれ。」
(勿論、許すも許さないもないが。)
「水浴び場にはいけませんでしたが、森の奥の泉で水浴びをしてきたんで、大丈夫ですよ。ただ、『キモロ』は刺激強すぎて。。。」
「何だって?あの泉にいったのかい?」
多少興味をもって『べネット』さんと俺のやり取りを見守っていた他のお客もじっと俺をみた。
(入っちゃいけない神聖な場所だったとか?へんな豚妖精もいたし。)
(豚妖精言うな~)
「森の奥にある綺麗な泉だろ?あそこにはへんなものが住んでいるって話があって、村のもんは近寄らないのさ。子供が溺れかけたってこともあるしね。力をキューっと絞り取られるような感覚を受けた人もいるし。まあ、無事でよかった。」
肩に乗っている豚妖精を見ると、さりげなく口笛を吹いている振りをしていた。残念な事に音はでていなかったが。
(こいつだな。)
「もう、そいつは出ないと思いますよ」
「どうしてさ?」
「今日、俺がついでに退治してきました。」
「おおっ」と酒場にどよめきが走る。
「そうか、あんたこう見えて、あの『ベネル』のろくでなしより強かったもんね。で、どんなやつだったんだい?」
「えっと、『豚のような妖精みたいな』やつでした。」
(本当はここにいるけどね。でも不思議とみな見えていないらしい。)
(豚いうな~)
「ほう、そりゃ『沼ゴブリン』じゃないか?そんな気持ち悪いもん退治してくれてありがとうな。安心してこれからはあの泉を使える。
『べネット』俺から一杯このあんちゃんにエールをご馳走してやってくれ。そして他の野郎どもにも」
機嫌を良くしたビール腹の赤ら顔のおっちゃんが大声で捲し立てる。
(良い事をしたな。)
ふとみると、エルは握り拳を固めブルブル震えている。涙も浮かべているところから、『豚妖精』って言われたことを気にしているだけじゃなさそうだ。
(それも少しはあるかな。でも他になんか事情かあるとしたら?おいエル何か言いたいことあるなら、ちゃんと言ってくれな。)
(事情?
そんな特別な事情なんて、、、ないさ。
ただ僕達妖精はあのような清浄な場所が好きなだけ。
というか清浄な場所しか生きれないってことはあるけど。
ヒューモが森に来ると、土足でそこここに入ってきて、ガシャガシャ汚していく。
調和を壊していくんだ。それが耐えられないだけさ。)
(確かに綺麗な良い泉だったな。この時代の人に『自然環境の保護』とか言っても通じないか。。しまったな。よしっ。)
「ただ、その沼ゴブリン?ですか、複数いるみたいですよ。流石に俺一人じゃ倒し切れませんでした。安心するには早いんじゃないかと思います。皆さんで残りを倒さないと。」
「なんだ、全部倒してくれたんじゃなかったんだ。みかけ倒しだな。。。『べネット』驕りはなしだ。」
あからさまにガッカリした顔が浮かぶ。
「ケチくせいな~」との声も飛びかった。
「まあ、皆さんとの顔繋ぎってことで、エール代は俺が全部持ちます。『べネット』さん、ガンガンもってきてください」
「おおっ、やるじゃないか。にいちゃん、気に入った」との声があちこちから聞こえた。
それからは夜通しのドンチャン騒ぎとなったのは言うまでもない。何故か最後の方は人が増え、後日請求書をみた俺は青ざめることになるのだが。
最後店を出る時にべネットさんから、
「ありがとうね。私もあの場所好きだったんだ」とウインクされたのには驚いた。
(あはは、バレテーラ)
そして、エルからは
『すき』の一言。
(まあ、『ヒューモとしては』好きってことなんだろうけどね、ただ単純に嬉しかった。)