【嫉妬】のちネア、ところにより“■■■■”
八十二話目です。
━━━━どうして? どうして?
━━━━アナタは、■■■なのに。
━━━━私は、■■■なのに。
━━━━妬ましい。妬ましい。
━━━━殺してやる!
━━━━やっぱり、できないよ…………
◇
「おら、おら、おらぁ! どうした? どうした! そんなんじゃ、俺様は倒せねぇぞぉ!」
「うるさいなぁ。少し静かにしてくれない?」
死神が使うような巨大な鎌を振るうディアドレに対し、ネアはなんの武器も持っていなかった。
「武器も持たずに、俺様に挑むとはなぁ!」
「一応あるんだけどねー。ほいっと。」
ネアが金属で出来た五つのボールを投げる。すると、ディアドレの足元に落ちた後、爆発した。
「効くかよ! こんなもの!」
「だよねー。」
無傷のままでいるディアドレは、右手に黒い霧を生み出した、すると、ナイフの形に変わる。ディアドレはそれを投げつけた。だが、ネアの周囲を漂う透明の盾が、ナイフを弾いて消えた。
「ちっ! めんどくせぇ、能力だぜ!」
「キミに言われたくないなぁ。」
次々と武器を生み出すディアドレと、透明な盾により守られるネア、どちらも決定打を与える事が出来なかった。
「まぁいい、お遊びはおしまいだぁ!」
「何を言ってるんだい?」
「くらえぇ!」
ディアドレが腕を振るうと、『パリン』という音がして、ネアを守っていた透明な盾が全て消えた。
「ッ!?(まさか、ナイフを投げて全部壊したのか!?)」
「死ねぇ!」
一瞬でネアに詰め寄った、ディアドレがネアの首目掛けて鎌を一閃する。そして、“吹き飛ばされる”ネア。
「ハハァ! ざまぁねぇぜ!」
「いやー、間に合って良かった。」
「何っ!?」
ネアは無傷だった、そして、その手にはディアドレがもっていたような、黒い鎌があった。それも、直ぐに消える。
「てめぇ、今のは俺様の…………」
「うん。コピーさせてもらったよ。」
そう言って、笑うネア。
「コピーだと? そういえば、【嫉妬】の力はそんなんだったな。」
「そう。ボクの【異名スキル:天才】の“奥義”。【叡知之彗眼】で、キミのステータスを見た後、【嫉妬】の力で、コピーしたんだ!」
「人のステータス勝手に見るのは、感心しねぇなぁ、俺様も覗いてやるぜ。」
そう呟いたディアドレは、直ぐに驚愕の表情を浮かべる。
「てめぇ! なんで、同じスキルを二つ持ててんだよ!」
そうほえたディアドレに対し、ネアは微笑みを浮かべて、
「いいよ、教えて上げる。だから、昔話をしよう。」
◇
昔、昔、遠い遠ーい世界に、一人の女の子がいました。
産まれた時に、お母さんは死んでしまい、お父さんはもっと前に亡くなっていました。
カノジョは親戚に引き取られました。しかし、カノジョはその家で独りでした。誰もカノジョに笑いかけない、話そうとすらしない人もいました。
━━━━初めに無くなったのは感情でした━━━━
ついに、カノジョは他の親戚に引き取られました。しかし、それも長くは持たず、また次の親戚に引き取られ、また次、次と、引き取られて行きました。
━━━━次に無くなったのは希望でした━━━━
学校に行っても、カノジョには友達がいませんでした。誰もがカノジョを遠巻きにし、近づきませんでした。
━━━━次に無くなったのは心でした━━━━
ある高校で、カノジョは一人の女子生徒に出会いました、とても明るく、誰とでも仲良くなり、男子にも女子にも、人気がありました。
その娘は、カノジョにもよく話かけました、他の人が止めておけと言っても話かけました。やがて、カノジョはその娘を殺したくなりました。自分をバカにしてるんじゃないかと、カゲで笑ってるんじゃないかと。
ある日、カノジョはその娘を包丁で殺そうとしました。けれど、包丁を落としたカノジョは、『やっぱり出来ない』と、泣きました。涙なんか、とっくの昔に枯れたハズなのに泣きました。その娘はカノジョを抱き締めて、『大丈夫だよ。』と、言いました。カノジョはその娘の胸で泣きました。
━━━━その娘がくれたのは優しさでした━━━━
その娘と仲良くなり、幾日が過ぎたある日、その娘は子供を助けようとして、トラックに轢かれそうになりました。その時カノジョは
『駄目だ、アナタがいなくなってはいけない。アナタがいなくなったら、たくさんの人が悲しむ、なら━━━━私が━━━━例え死んだとしても、誰も悲しまない、私が。』
そう思ったカノジョはその娘を押し出してトラックに轢かれました。
これで、良かったんだと。心の中で笑ったカノジョは、次の瞬間後悔しました。カノジョの手を握りしめたその娘は泣いていました。死んじゃ駄目だと、置いていかないでと、涙を流しました。
『こんな、私のために泣いてくれるんだね。ありがとう。』
薄れ行く意識のなか、自身の運命を悟ったカノジョは最後に呟きました。
━━━━━ありがとう、ごめんね。━━━━━
その後、カノジョは神に拾われ転生しました。カノジョの自我は消え、別の自我が生まれるハズでした。しかし、カノジョの自我は残りました。そして、恵まれた人生を送る、新たな自分に“嫉妬”しました。そして、新たな自分は、カノジョの頭脳に“嫉妬”しました。
妬み、妬まれ。手に入れた“チカラ”は“異端”でした。
◇
「なんなんだよ、その話。意味がわかんねぇ。」
「分からなくていいんだよ!」
ネアは狂ったように笑う。
「私は大好きなの、あの娘が! ボクは大好きなんだ、あの娘が!」
「私を救ってくれた! ボクを救ってくれた!」
「私は、ボク!」
「ボクは、私!」
「私が妬んだのは、恵まれた人生!」
「ボクが妬んだのは、最高の頭脳!」
【嫉妬】が妬んだのは、【嫉妬】だった。
「手に入れたのは【異端者】!」
「奥義は【常世ノ異物】!」
ネアと、カノジョは喜び叫ぶ。
「“世界”を超えて、ボクは彼の者に変わる!」
「“現実”を超えて、私は彼の者に変わる!」
「「【混沌が奇跡を望んだ日】“八岐大蛇”」」
ネアが、白い霧に包まれ、霧が晴れると。
「………嘘だろ?」
━━━━━純白の鱗を生やし
━━━━━八つの頭と、八つの尾をした
━━━━━大蛇がそこにいた。
◇
「ふん♪ふん♪ふーん♪」
鼻歌混じりにネアは“夢見の草原”を後にした。
残ったのは、おびただしい血の跡、ナニかの肉片、そして、巨大な生き物が動いたような跡だけだった。
色んな意味で、濃い話な気がします。