キキョウとレウル
七十八話目です。
「【参之太刀:土】」
『ザシュッ!』
「くっ!」
「これで、三文字目でありんす。後二文字で、災いがふりかかるでありんすよ。」
「なんて、速さだ。」
音速を超える速度で移動し、すれ違いざまに切り裂き文字を刻むキキョウに、レウルは苦戦していた。
「ならば、【変化】」
━━━━━天獅子
レウルの髪と耳、尻尾の毛が真っ白になり、身体から白い雷が迸る。
「【変化】でありんすか、それでなんとかなるんでありんすか?」
「問題ない。」
「……………行くでありんす。【肆之太刀:金】」
キキョウが、四つ目の文字である『金』を刻むため、動いた。
「ッ! そこだっ!」
「ッ!? なんと!?」
レウルは先程まで見切る事が出来なかったキキョウの刀を掴み取った。そして、その腕は放電していた。
「ふっ!」
「くぅ! やるでありんすね。」
レウルは、掴んだままキキョウに雷撃を加えた。
「成る程、あんさんの【変化】は、スピードを強化するんでありんすか。」
「そうだ。次は此方から行くぞ! 【仙術:雷光砲】」
「遅すぎるでありんす。」
レウルが放った雷の砲弾を軽々とかわすキキョウ、しかし
「ここだっ! 【雷爪】!」
「なっ!? がふっ!」
レウルは、雷光砲を囮に使い、キキョウに爪による一撃を浴びせた。
「くっ。あんさんの武器は、それでありんすか。」
「あぁ、代々獣王の血族は、己の爪を使い戦う。」
「そうでありんしたか。」
「まだまだ行くぞ! 【飛爪】!」
「ふっ!」
続いて、レウルが腕を振るうと、キキョウに三つの斬撃が飛んでいった。そして、キキョウはその斬撃を刀の一振りで消した。
「やるな! はぁっ!」
「あんさんもやるでありんすね! ふっ!」
爪と刀がぶつかり合い、火花が散る。
「ふふっ。こんなに楽しい戦いは、久しぶりでありんす。」
「奇遇だな、俺もだ。」
互いに微笑み、見つめ会う二人。
「出来ることなら、あんさんとはこんな戦い、したくなかったでありんす。」
「? どういう事だ?」
「無駄話は終わりでありんす。次で決めさせてもらうでありんす。」
キキョウは、悲しそうな表情をした後、首を振り、刀を構えた。そして、消えた。
「何っ!?」
『『ザシュッ!』』
「二ヶ所同時か。まだ速く動けたんだな。」
「騙したようで、申し訳ないでありんす。でも、これで終わりでありんす。」
レウルの胸と背中にはそれぞれ、『金』と『水』の文字が刻まれた。そして、刻まれた五つの文字が赤く輝き。
『カッ!』
爆発した。
◇
━━━━━リンドウ。身体の方は大丈夫でありんすか?
━━━━━けほっ、けほっ。大丈夫や、お姉ちゃん。
━━━━━そうでありんすか。
━━━━━お姉ちゃん、ウチは大丈夫や、そやから魔王軍なんてやめてや。
━━━━━それは…………無理でありんす。
━━━━━なんでや!
━━━━━リンドウ、大丈夫でありんす。今日で終わりでありんす。
━━━━━どういうことや?
━━━━━今日、獣王国に攻めいるでありんす。
━━━━━なっ!? 駄目やお姉ちゃん! そないな事、したらあかん!
━━━━━大丈夫でありんす、リンドウの事はきっと治してあげるでありんす。
━━━━━駄目や、お姉ちゃん駄目………
◇
「リンドウ………………。」
爆発の際に発生した土煙を見ながら、キキョウは小さく呟いた。
「これで、いいんでありんす。これで…………リンドウを治せるでありんすから。」
「成る程、そういう事か。」
「……………え?」
土煙が晴れると、無傷のレウルが現れた、先程キキョウにつけられた刀傷も、すでに癒えていた。
「は、ははは。無傷…………わっちの負けでありんすね。殺すでありんす。」
「お前、誰も殺した事ないだろ。」
「っ!? 何を………」
「なんとなく分かる。俺を殺すのも、最後まで躊躇っていたみたいだしな。」
「そうでありんすか。」
「とりあえず。お前の妹がいる場所に案内しろ、治せるかもしれない。」
「!? 本当でありんすか!?」
「あぁ。」
「では…………っ!?」
レウルをリンドウの元へ連れていこうとした、キキョウ。だが、頭の中に声が聞こえた。
━━━━━裏切り者には死を━━━━━
「う………あ………」
「どうした? っ!?」
突然持っていた刀を自身の、喉元へ突き付けようとするキキョウ。
「あ………や………つら…………」
「っ!? そうか、なら………ふんっ!」
━━━━【百獣統ベシ、王ノ覇気】
レウルから放たれた、王の覇気がキキョウにかかっていた、支配の力を吹き飛ばした。
「え? あれ?」
「言っただろう。 災いなど吹き飛ばしてやると。」
「あんさん。かっこ良すぎでありんす。」
不敵に笑ったレウルに、キキョウも微笑みかえした。
「レウル兄様!」
「リミルか、ん? アリアに、ルーネ、グレアもか。ちょうどいい、こいつの妹が病気らしい。治してやってくれ。」
「分かりました!」
「ちょっとリミル。レウル兄様、そちらの方は敵ではなくて?」
「ル、ルーネ!? 本当なの?」
「確かにそうみたいだね。」
「俺の婚約者だ。」
「「「「「え?」」」」」
「…………は!? 待つでありんす! 何の事でありんすか!」
正気に戻ったキキョウが、顔を赤くしてレウルに詰め寄る。
「ん、なんだ? 俺の婚約者は不満か?」
「そ、そんな事は言ってないでありんすけど………。」
ゴニョゴニョと、言葉を濁すキキョウ。
「あらあらまぁまぁ。リミル、アリア、ルーネ、治してあげればいいわ。」
「お母様。ですが…………。」
「ルーネ、大丈夫よ、レウルが言ってるんですもの。キキョウさん? だったかしら。」
「は、はいでありんす。」
「わたくし、レウルの母でルティエといいます。妹さんは何処に?」
「【魔大陸】に入るでありんす。」
「なら、今回の事が終わったら、すぐ参りましょう。“魔王”も、もうすぐ倒されるでしょう。」
「母上、何故そんな事が?」
「勘よ。」
ルティエはそう言って、微笑んだ。
“四魔将”の女性二人が、味方……………偶然なんですけどね。