母の温もり
大変遅れました!今回も宜しくお願いします!
10000pv越えました!これからも宜しくお願いします!
この村に来て早くも七日が経っていた。当初は居ても二、三日のつもりだったが、エクリジットの特訓をやっていたらいつの間にか日を重ねていた。
クリスさんは何かに気付いている様子だった。聞いてもエクリジットを頼むとしか返さない。こういう時は決まってクリスさんは何か大きな事を隠している。
「アルビオさん、少しいいですか?」
「おはようございますセイエイ殿。どうか、されましたか?」
「『ポリュージョン』について、少し。」
「...分かりました。」
朝、宿から散歩をしつつアルビオさんに話を聞く。
「『ポリュージョン』は今どういうのが居るんです?」
「すみません...私も最新の情報は持っていません。何分アレは枢機卿会議の直轄の、しかも非公式の"実在しない"部隊です。部隊名を知るだけでも命がけでしたから...。」
「そうですか...。クリスさんは何かに気付いています。アスィも漠然とですが、何かを感じているようで...心配になったんです。」
「死神殿が?それは...。」
アルビオさんが何かを言いかけた時、背後に分かりやすく出現した気配に気付く。
「セイエイ、貴様らしく無いな?」
「ゲエッ...聞いてたんですか...。」
「当たり前だ。」
「死神殿、一体何が...?」
「不味い事になったぞ。もう奴らはこの村に居る。」
「『ポリュージョン』が...!?」
驚くアルビオさんに、クリスさんは重ねて事実を告げる。
「そして聖騎士襲撃は嘘だ。シュレアに裏切り者が居た!そしてこのデマのタイミング...アスィが旅団から離れた事も知られている。」
「あ...まさか、裏切り者って...!!」
「アトリア・レゼン...奴だ。理由は分からんが奴しかいない。『魔人解放戦線』には功績がある。このタイミングで奴が防衛を買って出たとしたら......?」
「シュレアは奇襲を受ける...?」
衝撃な真実を聞かされる中、アルビオさんは崩れるように片膝を突き項垂れる。
「くっ...!あの時教皇猊下が引き止めなかったのも!追手も暗殺者も来なかったのも!全て!......全て私がメイファ様の元に出向き死神殿にこの情報を届けさせる為だったのかッ...!」
「ここまでキュレアデアが読めるとは思えん。恐らく...ギルテカリス...奴だ。」
「じゃあどうするんです...!?今すぐにでもシュレアに戻りますか?」
「それは難しいだろう。昨日この村に冒険者一行が来た。」
「それが何か...?」
「怪しい。奴等は特に私を"見ている"。敵がヤツなら、恐らく狙いは私だ。もしあの三人が敵だとして、たった三人で私を倒すつもりなのか...気になるな。」
昨日アスィの川遊びに付き合った帰り、エクリジットが何やら女の子と話してたけどまさかあの時隣にいた子だろうか?そうだとしても信じ難いが...。
「俺、エクリジットの家に行ってきます!」
「下手な真似はするな。村に被害は出したくない!」
「分かってます!」
俺は走ってエクリジットの家に向かう。もしクリスさんの予想が当たっていて、あの少女が敵なら......俺は...。
「エクリジット...!」
「あ、セイエイさん。今日は特訓あるんですか?」
エクリジットの部屋のドアを開けると、エクリジットはあの時の少女と一緒に何かをいじっていた。
「あ、ああ。それ...ドールハウス?」
「よくご存知ですね!そうだ、紹介します。昨日から家に泊まることになった冒険者のアリスです。」
「アリスです。よろしく。貴方がエクの師匠?」
「一応...そうなるのかな?俺はセイエイ。」
「セイエイさん、今日は特訓あるんですか?」
俺は答えを用意していなかった。確信も無く行くべきじゃ無かったか....。
「今日も特訓は無いんだ。クリスさんが...その、話があるって...。」
「もう行ってしまうんですか?お茶出しますよ。」
「いいよいいよ。こうして言いに来ただけだから!」
「そうですか...分かりました。」
「ああ、それじゃあ。」
急いでエクリジットの家から出て宿に戻る。
「どうだった?...その様子だと、何も無かったようだが。」
「はい。エクリジットの家に泊まっている冒険者の少女...アリスは見た所普通の女の子です。これと言った所は何も。」
「まだ普通と決まった訳では無い。...そうだ。セイエイ、エクリジットの家にもう一回行ってこい。」
「え?何でです?」
クリスさんは一度ニヤリと笑った後、その顔のままこう言い放つ。
「カマを掛けると言うのだよ。運が良ければ今日にでも仕掛けてくれるかもしれんからな。」
「ん?それってつまり。」
「なに、今すぐにという訳じゃない。そうだな...夕方辺りが良い。真実味がある。」
俺は囮って事か...。
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セイエイが出て行った後、エクリジットとアリスは部屋で遅めの朝食を取っていた。
「ねえ、クリスって...『極星』の?」
「そうだよ。セイエイさんの上司らしいんだ。」
「ふーん...そう。そういえば...エクはパパやママはいないの?」
「えっと...僕の両親は二年前に盗賊に襲われて死んじゃって...。居ないんだ。」
「そう。じゃあ私と同じだね。」
「え?」
アリスはドールハウスの人形と小物を弄りながら微笑む。
「私も両親居ないんだ。ママの顔は覚えてないけどとっても優しかったのは憶えてるんだ。ドールハウスもママの趣味なの。エクのママはどんな人だった?」
「そうだなあ...。僕が小さい時、怖い夢を見た時とかは抱き締めてくれたな。」
「へえ...こういう風に?」
「おおっと!?」
アリスはそう言い、唐突にエクリジットを引っ張り抱き締める。
「...アリスって意外に力強いよね。」
「エクは可愛いし軽いね。」
「はぁ...。でも、温かいかな...。」
「私はママが欲しい。『アリス』って呼んで欲しいの。」
「アリスのママがもう居ないならそれは無理だよ。」
「でも...。」
「アリスがお母さんになればいいんだよ。結婚して...子供を産んで。そうすれば、君の言う『ママ』の気持ちが分かると思うんだ。」
「エクはパパやママに会いたいと思わないの!?だって...二度と会えないなんて...まだ一度も名前、呼んでもらった事無いのに...。」
アリスは急に悲しそうな顔で問い掛けてくる。悲しむ様なアリスの手を握り、上げた顔の目をしっかりと見る。
「アリス、死んだ人は生き返らないんだ。だから残された人は精一杯、何があってもその人の分まで生きないといけない。」
「その人の分...。」
「どんなに辛くても、生きなきゃいけないんだ。僕達は大切な人から貰った命で生きてるんだ。その命を粗末に扱うとか、死んだ人を無理矢理生き返らせるなんて絶対にダメだ。」
「......私も、生きて良いのかな。ママになっても...良いのかな。」
「アリスには一生懸命自分の命を生きて欲しいんだ。アリス、頑張って生きるって約束してくれ。」
「約束する......。」
「アリス...。」
「ありがと。少し溜め込んたみたい。でももう大丈夫。私にも選べる未来があるって、今ならそう信じられるから。」
笑顔になったアリスを見て安心していると、部屋のドアが開く。
「セイエイさん?またどうしたんですか?」
「いや明日の朝に村を出るって決まったから知らせに来たんだよ。」
「いきなりですね...どうしよう。」
「俺もなんだか寂しいなあ。でも、もっとエクリジットの事が分かる人が側に居た方が良い特訓になると思うからさ...。俺は荷物を纏めるから戻るよ。それじゃ!」
「あ、ちょっと...!...いきなり過ぎるなあ。」
余りにも唐突過ぎる知らせに少し呆然としていると、アリスがベッドの下にしまっていた長い箱を持って立ち上がる。
「アリスどうしたの?」
「...少し仲間の所に行ってくるね。」
「う、うん。」
アリスは部屋から出ると、一度扉をから顔を出す。
「さっきはありがとう。...あと、約束破っちゃう...。」
「え...?どういう事?」
「よく聞いて。エクリジット、家族や友達の娘と一緒に逃げて。今日中に。」
「え?え?待って。どうしたのいきなり。」
「本当にごめん...。私...ママにはやっぱりなれないよ...。じゃあねエク!」
「待ってくれ!アリス!」
アリスは走って家から出て行ってしまう。残されたエクリジットは残された言葉の意味を探るしか無かった。
「何を隠しているんだよアリス...!約束...守るって言ったのに...!僕も、行かないと...!」
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「...上手く引っかかりますかね?」
「分からん。」
宿では全員がクリスさんの指示で装備を整え、戦闘に備えていた。
「私の予想が正しければ、今日中に何か仕掛けて来るはずだ。」
「なら村から出ないと...!」
「敵の狙いが分からない以上、安易に離れられんのだ。人質に取られるのは不味い。戦場は移しつつ戦う。」
「...ったく、聖騎士と戦うなんてなあ!久しぶりにのんびり出来たのによお...!」
「ガングさん...お気持ちはお察ししますがどう言っても仕方無いですよ。」
嘆くガングさんをルリィさんが頑張って宥める。男部屋にと取った広い部屋には純白の鎧を着けたメイファさんもいる。
「大丈夫?緊張してる?」
「してますけど大丈夫です。寧ろ、緊張しないといけないんです。慣れたらダメですから。」
「そうなのね。でも大丈夫。お姉ちゃんが守るから。」
「それは男しての面子が立ちませんよ...。」
会話で少しでも緊張を解そうとしてくれている義姉の気持ちが痛いほど伝わって来る。
「セイエイ。」
「アスィ、どうした?」
「セイエイ、絶対に敵に対しては躊躇っちゃダメ。敵も退けないからこうなっているの。敵は迷わず、何が相手でも殺すの。」
「うぐ...ごめんアスィ、まだ踏ん切りが付かない。頭では分かってても何処かで躊躇ってるんだ。」
「その気持ちも大事だけど、今は......ダメ!セイエイ!避けて!!」
「えっ!?う、うわっ!」
突然アスィに突き飛ばされた瞬間、部屋の天井が爆発音と共に炸裂した様に砕け、俺の座っていた位置には赤く滾った細身の長い剣が刺さっていた。
「敵襲!応戦するッ!」
「クソッ!何でこんないきなり!!」
全員で急いで外に出ると、宿屋の屋上に赤熱した剣を二本持った少女が立っていた。
「あ、アリス...なのか?」
アリスは鎧に身を包み、悲しげな表情で屋上に立っており、目には涙を浮かべていた。
変な切り方になりましたが...。
急いで次を書きますが...忙しくて遅れそうです...。