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四の異世界英雄譚(旧:四人の悪人)  作者: サンソン
安曇清英編 第2章「七剣姫編」
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リミッター

おそくなりましたー!今回も宜しくお願いします!

灯りのある部屋でその少女は黙々と手を動かしていた。そのまま縮小した様な精巧に出来た家の中には同じく精巧に作られた物があり、そして家の住人である人形の位置を少女は次々変えていく。


「よし。出来た。」


出来上がったのは人形による微笑ましい家族の食事風景だった。


「それさ、新しい人形とか無いのか?」

「新しい家族って事?その予定は今は無いかな。」

「ふーん。なんだっけそれ?ええと...。」

「『ドールハウス』。」

「そうそれ。」


部屋の隅で静かに弦楽器『アリオイ』を弾いていた短髪の少年は少女にそう話しかけた後、また演奏に耽る。


「カイトもいつも同じのしか弾かないじゃない。」

「何度も言うけどこれはアスカントを讃える名曲なんだよ。飽きるはず無い。」

「ふうん。」

「アリス、少しいいか。」


少年と少女が慣れた様子で話していると、扉が開き部屋に男性が入ってくる。服装こそ平凡だが、放つ雰囲気とはまるで合っていない。


「アルフレート。何か?」

「カイトはいるな。メルテは...奥か。作戦は明日になった。貴様達には先に薬を渡しておく。」

「少し早いなあ。まだ覚えたい曲があったのに...。」


そう言い、カイトと呼ばれた少年は渡された粉状の薬を一気に飲む。


「アリスは私の部屋に来い。」

「なんで?」

「今回は私も作戦をサポートする。準備が多く忙しいからな。少し疲れている。」

「シたいなら言えばいいのに。」

「...生意気だな。」


アルフレートと呼ばれた男性と金髪の少女アリスは共に部屋を出て行く。それとほぼ同時に、部屋の奥の台所から人が出て来る。


「出来たよ〜。あれ?アリスは〜?」

「アリスならアルフレートといつもの。」

「残念だな〜。カイト食べる?パウンドケーキなんだけどさ〜。」

「ああ食べる。それと、アリオイ弾いていいか?」

「いいよ〜。」


少しウェーブのかかった髪をした少年はゆったりとした口調で答え、ケーキを皿に取り分ける。


「これ薬。早めに飲んどけよ。作戦は明日ってさ。」

「今回は潜入とかなんでしょ〜?結局戦うだけなのに〜。しかも冒険者に偽装するなんて何考えてるのかな〜?」

「俺達は戦わないと薬が貰えないだろ。考えるだけ無駄。」

「う~ん。カイトの言う通りかもな〜。」

「ん...始まったかな。」


そう言いカイトは静かにアリオイで力強い曲を弾き始める。隣室から漏れる嬌声をかき消すように。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「本当にすいませんでした!!」

「だから大丈夫だって。怪我なんて無かったし。寧ろ俺達がリザードマンを仕留めるのが遅かったのがいけなかったんだ。」


俺達は村に戻り意識の戻ったエクリジットと借りた宿屋の一室で話していた。


「森で何をしてたんだい?」

「薪探しです。今日はあまり取れなかったのでつい奥まで...。僕魔法が使えないので自分の分は自分でなんとかするしか無いんです。」

「...なるほど。話を聞く限り、セイエイを襲ってしまったのはスキルのせいだな。単刀直入に聞くが、プレシャススキルか?」

「いえ、トゥルーです。」

「名前と内容は?」

「『リミッター解除』と言うスキルで、何かのきっかけでセイエイさんを襲ってしまったあの姿になるんです。」

「今までに何回あった?その時の状況も聞きたい。」


俺の後ろで聞いていたクリスさんは原因を突き止め、次の質問を投げる。


「今までに3回あって、最初は小さい頃にゴブリンに襲われた時です。気付いたらゴブリンの群れを全滅させてました。」

「幼少期から発現したのか...。次は?」

「次...次は...!す、すいません。...2回目は僕の村が盗賊団に襲われた時です。両親が殺されたのを見た瞬間に意識が無くなって...。目が覚めて生き残りに起こされた時には襲って来た盗賊団が死んでて...。」


エクリジットを見ると、体が細かく震えているのが分かる。


「...辛い事を聞いてしまった。すまない。」

「大丈夫です。今は祖母の家で普通に暮らせてますし、僕は両親の分まで生きなきゃいけないんです。いつまでも沈んでてはいられませんから。」

「芯はある様だな。...そして、3回目が今日か。」

「...はい。サナリィがリザードマンに襲われそうになった時に意識が無くなりました。でも、意識は無かったのにサナリィの声が聞こえて...そこから今に至ります。」

「最初は生命の危機。2回目と3回目は身近な人物の危機、もしくは死。.....つまり、自分から発動出来ない防衛手段と言った所だ。」

「なんとか出来ませんか?せめて、自分でコントロール出来るぐらいには!」

「プレシャススキルに昇華させるしかあるまい。昇華させる為の条件は様々だ。こればかりは私も分からない。」

「そうですか...。」


分からないと言われたエクリジットは肩を落として落ち込んでいた。

こうなったら、一肌脱ぐしか無い...!


「なら特訓だ!」

「な、え!?特訓ですか!?」

「自ら危険に飛び込んでそれを乗り越えれば、冒険者としても経験を積めるしスキルの制御にも繋がるかもしれない!」

「な、なるほど...!特訓ですか...やります!やりますとも!」

「善は急げだ!早速行こう!」

「いや待て。」


立ち上がった俺とエクリジットはなにかを思い出したような顔をしたクリスさんに止められる。


「武器は...どうする?」

「あっ。」

「そうでした...。」

「武器持ってないの?なら私の貸してあげるわ!」

「アスィさん!こんな立派な剣、いいんですか?」


話を聞いていたアスィは腰の長剣を鞘ごとエクリジットに渡す。


「だって七本もあるんだもの!あんまり使わないし、一本ぐらい大丈夫よ!」

「なんて懐の広い...!」

「武器は解決した...次は鎧か。」

「私に...考えがある...!」

「姉さん?」




「な、なんですかこれ!?」

「チャイナドレス。私の貸すよ。」

「足がスースーしますし...なにより恥ずかしい!」

「良いんじゃないかな?似合ってるよ。」

「セイエイさん!目を合わせて下さい!」

「エクリジット...!悔しいけど似合ってるわ...可愛い...!」

「サナリィまで何を言うんだ!なにより防御力あるのかこれ!」


エクリジットはメイファの持っていた青いチャイナドレスを着せられていた。先程まで着ていた質素な服の時とは違い、言われなければ男と気が付かない程似合っていた。


「衝撃を吸収するコーティングと合金が入ってるから見た目より硬いはず。」

「問題は解決した。行ってくるがいい。」

「はい!行こうか!」

「ええい、ままです!行きましょう!」


パーティー編成は先程の俺達三人にエクリジットを加えた四人だ。エクリジットが死なないよう護衛しつつ、命の危険に晒す。これが最短距離を行けるらしいが...。


「リザードマン見っけ!」

「あれ?さっきの取りこぼし?」

「あ、本当。」

「よし早速ゴーだよエクリジット君!」

「わ、分かりました。うおお!」


エクリジットは一匹だけ残っていたリザードマンに向かって長剣を構え突撃する。


「このこのぉ!」

『グガァ』

「あれっ!?剣が!」

「不味い!援護を!」

「分かってる!」


エクリジットの構えた剣はあっさりとリザードマンの木槍で弾かれ、離れた場所に飛ばされてしまう。


「エク!」

「『リミッター解除』!!頼むよ!!」

「ぐあっ!?なんだって言うんだ!?」


リザードマンの木槍がエクリジットに迫ったその時、エクリジットの叫びが出ると同時に衝撃波の様な物がセイエイを襲う。


「セイエイ!大丈夫?」

「あ、ああ。...上手く行き過ぎたかな。エクは制御出来ているのか...?」

「分からないけど...一旦退避ね。」

「了解。」

「分かった。」


エクリジットは襲い掛かるリザードマンを吹き飛ばし、あの黒い狼になっていた。初めて会った時とか違い、巨大な黒狼は静かに佇んでいた。


「何もしない...一体どうなってる...?」

「まだ動かないで。今は敵を探してると思う。自分を殺そうとした敵を。」

「本当に自己防衛の為のスキルなのか...!」

「あっ、リザードマンが起きあがって来た。」

『ガガガガ!ガガ!』

「な、なんだ!?」

「敵を見つけたからよ!それにこれは...凄い魔力...!何かする気ね...!もう少し離れるわよっ!」

「りょ、了解!」


アスィの判断に従い、巨狼化したエクリジットから更に距離を取る。見ると、吠える巨狼の前に三つの赤黒い玉が出現する。玉はパチパチと赤い電気が走っており、禍々しい雰囲気を持っていた。


「...!!来るわっ!伏せて!」

『ガアアアア!!』


アスィの言葉と同時に、エクリジットの出した三つの赤黒い玉から凄まじい爆音と共に光線が放たれる。


『ギェ........!』


光線の直撃を受けたリザードマンは断末魔を上げる間も無く文字通り消滅し、射線上の木は全て焼き払われていた。


「戦艦以上だよ...。」

「あんなのおとぎ話のドラゴンじゃないの!」

「敵じゃなくて良かったねセイエイ。」

「今はそう思えますよ。」

「あっ、エクリジット戻ってるじゃない!話してないでほら!助けないと!」

「え?あ!本当だ。エクリジットー!」


うんうんと姉さんと話してる間に、エクリジットは既に元の姿に戻っていた。


「あ...セイエイさん...どうでした...?僕意識がハッキリしなくて...あのリザードマンを倒そうと思ったら...倒せました...。」

「なんか凄いビーム出てたよ!アレは戦艦も一撃だよ!」

「びーむ?戦艦は分かりますが...それより...。」

「ん?」

「起き上がれません...おぶって下さい...。」

「そういう事なら。」


俺は恥ずかしそうに呟くエクリジットを持ち上げ、背中におぶる。何この子軽い。


「すみません...背中あったかい...。」

「お疲れ様。アスィ、姉さん、今日は帰ろう。」

「そうね!メイファさっきの見た!?凄かったなー!」

「本当に凄かった。CGとは比べ物にならない。」

「しーじー?メイファもセイエイもたまに変な事言うけど何?」

「地球の知識だよ。」

「地球の!?知りたい!」

「宿に帰ったらね。」

「うん!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「着いた...。」

「任務は...『極星』クリスの暗殺か。五騎士位ならアリス一人でやれるから今回楽だな。」

「そうだね〜。僕はチーズケーキでも作っておくよ〜。」

「アルフレートは後から来るんでしょ?薬を飲まないと戦えないんだけど。」

「到着は後からだよ。一応潜入任務だからってさ。」

「ふーん。まあいいわ。行きましょ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


エクリジットです!今回はセイエイさんの背中にお世話になりましたが次こそは使いこなしてみせます!でも何でしょう...少し嫌な予感がします...。


次回『来訪者』 僕はやりますよ!かなり!

長い休みに入ったけど寝まくってるので更新遅めです。相変わらず。

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