魔王のセンスと心の闇と。
出したかったモンスター、出せたけど相性的には主人公のサンドバッグに...南無。
アスィと携帯食料を食べながら広い森林エリアを歩いている最中に、ふと気になった事があった。
「なあアスィ。」
「何?」
「その大剣ってさ、名前とかあるの?」
「勿論あるわ!だってお父様直々に作った魔剣なんだから!見る?」
「ああ。気になってたんだよ。」
"ステータス"の解説を受けていた時に、魔王様が言っていた事を思い出してみる。
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「いいかい、セイエイ君。武器にも長い時を経て、色々な特性やスキルを持った物があるんだ。君のそのガントレットみたいにね。そういうのを見たい時はその武器なんかを持って"ステータス"と念じれば、持っている物にある名前、スキルや特性、状態が分かるんだ。さあ!せっかく教えたんだ。ガントレットのスキル、教えてくれないか?」
「ハハッ、大丈夫ですって。分かりました。俺も知りたかった事ですし。」
内心物凄く心配だが。
(頼む!良いのあってくれ!"ステータス"!!)
今後の人生に関わる事だ。
俺は祈る気持ちで念じて、ステータスにあった武器欄を見る。
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武器名:ディバインランカスター
種類:戦篭手
装具ランク:EX
命名者:???
製作者:???
スキル
・与える者の慈愛
効果:自身から他の者へ与える魔法効果
等を大幅に上昇させる。
・薔薇の加護
効果:治癒魔法等の対象が女性だった場
合、効果を大幅に上昇させ稀に『幸運』
を付与する。
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「トリッキーだねえ。しかも女性に効果アップとは...」
「何かの誤解ですよ...。俺そんなにガッつかないですし。」
「ならいいんだけどね〜。」
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(マジでアレは何だったんだろう...アイツホントに神かあ?)
まだ一度しか会っていない神に心の中で呪詛を吐きつつ、俺は大剣を手に取り観察する。
ファンタジー映画なんかでよく見る大剣より少し横幅が短いのだが、長さも十分にある。それに、鞘の装飾が豪華だった。鞘は青色に輝く金属で成形されており、その上から金で魔物、これはグリフォンというやつだろうか?それが2頭、左右に描かれており、アドラメリクの家紋である龍が茨に囚われている図に向かい合っている構図だ。
「セイエイ、まだなの?」
「もう少しだけ!」
「早くしないと、またルビーホーネットに追いかけ回されるわよ!」
「それは嫌だなあ。」
慌てて剣の観察に意識を集中させる。敵を斬る剣自体も綺麗な物だ。握りの部分は銀色の金属が握りやすい様に整えられている。鍔は金で百合に似た花の装飾が施されていて、清らかな印象を受ける。剣身には何やら文字が彫られていた。おそらくだが魔法陣と同じ役目を持つ物だろう。
ここまで見ていて頭に浮かんだ事がある。
(これ...魔王の作った剣だよネ...?妙に装飾が煌びやかだし...でも、アスィも魔剣って言ってたし...。まあ、見れば分かるよな!"ステータス"!)
俺は色々な期待を含ませながら念じると
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武器名:正義完遂剣 ジャスティスブリンガー
製作者:ハルバアス・アドラメリク
命名者:ハルバアス・アドラメリク
スキル
・呑まれる奔流の絆
効果:パーティーメンバーと心の繋がりが深い
程攻撃力、防御力、精神力上昇。
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武器の解説を見て思わず固まってしまう。
それもそうだ。なぜなら...
(えええええええ!?これ魔王が作る剣じゃないよね!?聖剣とかああいうヤツだろコレ!何してくれてんだあの魔王様は!正義完遂とか魔王の使うワードじゃねえだろ!)
「いや...えええ...俺の常識は...」
「セイエイ!剣返して!多分敵!ほら早く!」
「ハッ!敵だって!?」
「そうよ敵よ!ほらアレ!」
言われた方向に目を向けると、そこには7m程の大きな木があった。立派な木なのは分かるが、良く見ると目のような物がある。コイツ、動くぞ!?
「あれは、トレントの上位種か...?確か、エルダートレントだったかな?」
「木のバケモノなんて面倒ね。前に出るわ!援護はお願い!」
「だから突っ込まないでよ!?治癒魔法目当ての特攻は危険だってさっきから言ってるのに!」
俺の悲痛な叫びも空しく、アスィは巨大なエルダートレントに突っ込んで行く。アスィはジャスティスブリンガーを抜き、エルダートレントの幹を横から切ろうと試みるも木の枝を操った攻撃で反撃され、アスィは殴り飛ばされてしまう。
「ッ!」
身体強化と大剣で辛うじてトレントの一撃を防ぎ、飛ばされたアスィを受け止めて地面に降ろす。
「アスィ、無闇に突っ込んでも勝てない。奴は木だ。つまり?」
「つまり?...あっ!」
「そう。木なんて焼けばいいのさ。」
俺はそう言いながら試してみたかった魔法の魔言を唱える。
「焼畑にしてやる!"プロミネンスピラー"!!」
魔言を唱えると、右のガントレットから炎の柱が出て来る。成功した事を確認し、一旦炎の柱を収めてエルダートレントに向かって走る。先程と同じ様に枝を鞭のようにしならせ攻撃してくるが、それをそのまま掴み魔言を唱える。
「"プロミネンスピラー"!!」
再び噴き出した炎の柱がエルダートレントの枝を焼き尽くす。その枝から凄まじい速さでエルダートレントの枝は延焼して行く。流石に慌てたのか、土に埋まっていた足を出して消そうと体を揺らすも、誰も消していいなんて言っていない。俺は、今年最高であろうゲス顔を浮かべつつ、再度魔言を唱える。
「楽に木炭にしてやるよ...なんてなァ!"プロミネンスピラァー"!!」
右のガントレットから出た極太の炎柱は巨大なエルダートレントを糧にし、更に勢いを増す。そして、1分も経たないうちに巨大だったエルダートレントは灰になってしまった。
「えええ...私の剣が全く通らなかったのにこんなにアッサリ倒せるなんて、なんだか納得行かない!」
「まあ、エルダートレントは木が魔力を吸って生まれる魔物だからね。火には弱いと思ったのさ。」
「そうだけど...。あっ、セイエイは何で最後あんな顔になってたの?親の仇を見ているような顔だったけど。」
「えっ、そんな顔してた...?いや、心当たりはある、のかな?」
「なになに?」
「いや、アスィが殴り飛ばされた時に、一瞬だけ心にドス黒い物が流れてきた気がして...。直ぐに気付けたからアスィを助けられたけど、アレは何というか、そう。まるで自分の弱さを見せられてるようで...。そのまま身を任せたい衝動なんかも、確かにあったんだ。えーっと、これが、理由、かな?」
「セイエイの心に何かあったのかしら?でもそれが理由なの?」
「いや、単純にアスィがやられてカッとなったからだと思う。」
アスィは一瞬考える様な動作をした後、顔を赤くし首を横に激しく振っていた。
「えーと、アスィ、さん?」
「いや、大丈夫だから!このくらい大丈夫だから!心配しないで!治癒魔法だけ掛けてくれればいいから!」
「いや、大丈夫なら治癒魔法要らなくない...?」
「そんな事は無いわ!アレは...その、私には...必要なんだから!」
「あっはい。ええ?」
「分かったなら早く行くわよ!」
「1人で先に行っちゃダメだって!」
俺とアスィは半ば追いかけっこの形で森林エリアを進んで行く。
(まだまだ次のエリアに進むポイント的なのが無い辺り、自給自足も考えなきゃな。)
そんな事を考えながら、俺はアスィの背を追って再び走り出すのだった。
もう少し森林エリアは続きます。次はエコな自給自足、そしてまたまた虫が出たりします!