魔大陸上陸
終わらなかったぜ!今回も宜しくお願いします!
「うん、準備完了。」
「メイファ様が来て少ししか経っていないはずですが、なんだか寂しいですね。」
「大丈夫。もしも直ぐに戻って来なかったら探して。海に落ちる事は無いと思うから、海は最後の最後に探してね。」
翼を受け取ってから数日後、美華達はアスカントの港に来ていた。
「魔大陸は人間に厳しいが、お前の強さなら大丈夫だろう。私達の事は気にせず、行ってこい。」
「本当は寂しいくせに〜。あ、メイファ様、魔大陸に『ハルバアス』って奴がいると思います。居たらティエレがよろしくと、伝えて下さい。旧友なんです。」
「うん分かった。...キュレアデア、そんな顔しないで。余程の事が無い限り戻って来るって。」
「うう...メイファ様、お達者で!毎日祈ります!」
「ありがと。じゃあ行ってくる。」
そう言うと美華は背中から翼を出し、一度踏ん張った後に一気に上昇する。あっという間に美華は遠くに飛んで行ってしまう。
「...行ってしまわれた...。」
「さて、暫く暇になるな。ティエレ、どうする?」
「まあ日銭でも稼ぎながら、気楽に行きましょう。」
ヨハンとティエレはそう言って港から街に戻って行く。
「さて、ヨハン君。君には聖騎士隊長としての仕事が溜まっているからね。さあ、メイファ様が居ない時に片付けてくれ!」
「なっ!?」
「...彼女には大切な役割がありますから。審判の日はそう遠くないのです。我々が聖女様を支えるのです。」
「は...?」
アルビオにはキュレアデアの言っている事がよく分からなかった。主神教の教えに審判の日の言い伝えはあるが、『世界が争いに満ちた時』という条件付きだからだ。
(教皇猊下について『純潔会』とも合わせて調べる必要があるな...。確か...トレイズだったか...?彼を頼れるだろうか。)
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「まだ着かない...かなり速いはずなんだけど。」
美華はアスカントから飛び立った後、高速で魔大陸を目指して飛行を続けていた。顔にあたる風は気持ち良く、痛くはなかった。
「聖剣...返しとけば良かったかな。」
気付かなかったが、腰には例の聖剣がささっていた。何か災厄を遠ざけるとか聞いたが、顔にあたる風も入っているのだろうか。
「まあいっか。...あ、見えてきた...!」
見れば遠くに巨大な大陸の様なものが見える。美華は少しずつ高度を下げながら大陸に近付いて行く。
「そうだ。スキルで透明になれるはず...。」
頭の中で念じた後自分の手を見てみると、綺麗に透明になり下の海が見えた。腕の線の様なものが分かる辺り、このスキルの使いやすさを感じる。
「魔大陸、到着...!生の魔人族見なきゃ...!」
翼をしまい透明な走ってみる。当たり前だが音は消せない為鎧が揺れて音が鳴る。仕方無く美華は摺り足気味に魔大陸を進む。
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(き、緊張する...。)
歩くのを止めて飛ぶ事を選んだ美華は魔王国の一番端の村に居た。透明な上に魔人族にはなるべく近づかずに移動しているので気付かれる事は無く、普通に移動出来た。
(魔人族か...アルビオから聞いた『主の教え』には魔人族は敵って書かれてたのに...。)
美華の目に映るのは、見た目こそ普通の人間からしたら異形のそれだが、普通の暮らしを営む魔人族だった。村には笑顔があり、なにより穏やかだった。
「ねえ。」
「はっ!?えっ!?」
「あ、見えてる?」
「え、見えませんが声は聞こえます。」
(姿消してたんだった〜!!)
「まさか、『悪魔様』ですか!道理で見えなくて声だけな訳です!」
「えっ。あ、そんな所、かな。」
「修行お疲れ様です!御用は何でしょうか!」
「あ、魔王様、どこかな?」
「魔王様は魔王城でしょう。そのまま真っ直ぐ歩いていけば着くようになっています!今の魔王様のお陰で商売がやり易くなりましたよ!」
「ありがと。じゃあね。」
「お達者で!」
美華は素早く走って距離をとる。見れば先程話していた角の生えた魔人族の男性は自慢げに周囲の魔人族に話していた。
(あ、危なかった。...となると、ティエレって結構凄いのかな?)
そんな事を考えながら魔王城に向けて全速力で走る。勿論人がいない所を。
暫く走ると、村のエリアから立派な建物の並ぶエリアに着く。美華は先程の様に近くに居た良い装いの牛頭の魔人に話しかけてみる。
「えーと、悪魔なんだけど少し良いかな?声だけでごめんね。」
「おお!悪魔様とは!精神体はやりづらいものでしょう。どうかしましたか?」
「アスカントから来たんだけど、ここはどういう所なのかな?」
「アスカントとは、辛かったでしょうに。ゴホン、此処は魔人貴族の住む地域です。悪魔様も近くに来られるのであれば、今度ゆっくりお茶を。悪魔様は何か器が必要ですな...。」
「ああ、ありがとう。じゃあね。」
「姿が見えないのが残念な程可愛いらしい声ですなあ。出来れば修行前の姿とお会いしたかった...。」
牛頭の魔人族は残念そうに呟いていた。今の会話で美華の中の予想は確信に変わる。
(ティエレって凄いんだ...あの鎧も凄いんだ...。)
ティエレの凄さを実感しつつ、魔王城に向けて今度は静かに移動して行く。
「お、大きい...!」
思わず声が出てしまう程、魔王城は大きかった。城下町らしきエリアも中々見ていて楽しかったが、本物の魔王城と来るとやはり凄い。
(お、お邪魔します...!)
魔王城に入ると、中はとてつもなく広かった。天井を見上げようとすれば首が痛くなった。ずかずか進んで行くと、玉座の間らしき場へ入る扉が開いていた。そこから覗くと、なにやら巨大な鎧と隣に居た青い髪の女の子の話が聞こえる。
『お父様、本当に呼べるの?』
『恐らくね。とは言っても、シュレアは既に呼んでいる。僕達もやらないとね。』
『うーん。』
『やって見なきゃわからないさ。行くよ...!』
鎧と女の子の足元には緻密に描かれた魔法陣があり、鎧の掛け声と共に魔法陣が妖しく光り出す。
(これって...!?)
魔法陣の発光が止み目を開けると、魔法陣の上には制服を来た男の子が立っていた。男の子の顔が一瞬だけ見えた。
(涼...!?でも...当たり前違う...けど...!)
美華は魔法陣から出て来た男の子に、今はもう会えない弟を重ねてしまう。
『お目覚めかな?我ら"魔王軍"の勇者殿?』
『このニンゲンが勇者なの?召喚魔法は失敗したのかしら?』
男の子に鎧と女の子が話しかけている。男の子は何か叫んだ後、鎧と少し会話を交わして気絶してしまう。
『アスィ、少しこの子を部屋に運んでもらえるかな。』
『?分かったわ!』
『そのまま部屋で待っていてくれ。バトルドレスを持っていくから、楽しみにね。』
『やったわ!!』
鎧は女の子に指示をし、女の子は男性を担いでスキップしながら玉座の間から消える。暫く動けなかった美華に鎧から声がかかる。
「さっきからそこに居る君ー。こっちに来たまえ。」
「あっ、バレてた...。」
「割と最初からね。魔大陸に飛んできた時点でバレてたから。うん。」
「ええ!?」
「途中で反応が消えたからなんだと思ったけど、今は気配で分かるよ。」
「わ、分かった...。」
美華は諦めて姿を現して玉座の間に入る。鎧は近くで見ると更に大きく見えた。
「"聖女"が何故魔大陸に?」
「き、興味があったから。魔人族の事をもっと知りたかったし、後聖女じゃない。決めつけよ。」
「ふむ...。まあ、何か問題を起こす気じゃなければ好きにしていいよ。何かあったらボクの名前を出せば良いし、必要な物はあげよう。あ、紹介が遅れたね、ハルバアス・アドラメリク、現魔王だ。」
「私は美華で...ってハルバアス!?」
「ん?僕の名前が何か?」
「いや、ティエレがよろしくって」
「ティエレが!?...良かった、死んでなかったんだ。今度会いたいな。彼は今どこに?」
「アスカントで自称錬金術の王って言ってるヨハンのお供。」
「......ヨハン?...まあいいか、そうだ、少し待ってね。」
ハルバアスはそう言うと、上から鎧を外していく。最後には美華より身長の少し低い男の子が出て来た。
「改めてハルバアスだよ。宜しく。諸事情でこの鎧をつけてる。理由は...分かるだろ?」
「うん。じゃあ、適当にぶらぶらする。」
「泊まってくかい?なにせ、部屋が無駄に多くてね。」
「いいの?」
「ああ。聖女様に『魔人族は凶暴じゃない』って言ってもらえるなら、これに勝る宣伝はないからね。精一杯、おもてなしさせてもらうさ。」
「ありがと。...あと一つ、良いかな?」
「ん?なんだい?」
「さっき召喚された男の子を見たいな。出来れば、側に居たい。」
「...もしかして、知り合い?」
「に、似てるの。」
「ほうほう。明日ぐらい、ダンジョンに連れて行くつもりだ。透明で見守るだけなのを条件にするけど、行くかい?」
美華の顔はその問でパッと明るくなる。
「行きたい!」
「分かった。それじゃあ娘の紹介も明日くらいに出来ればしよう。メロー!お客さんだ!部屋に案内してあげて!」
「かしこまりました。」
「それじゃ。」
「色々ありがと。」
ハルバアスと別れて山羊頭の魔人族に案内された部屋に入る。手っ取り早く鎧を脱いでベッドに倒れ込むと、凄まじいスピードで眠気が襲って来る。
(あ、飛行で魔力使ったのかな...ずっと透明だったし...。)
自分と同じ境遇のあの男の子に思いを馳せながら美華は眠りにつく。
第7話のセリフを大幅に変更しています。気付いた方も居ると思いますが、ミスです。