翼
遅くなりました...今回も宜しくお願いします!
「ええ。どうも、船の建造を延ばそうとしています。」
「そう...。直接殴り込みに行くしか無いのかな。」
「流石にそれは出来ませんが...。ですが、この前の一件と合わせて考えてみると、教皇猊下が何らかの理由でメイファ様が魔大陸に行くのを防ごうとしている、となりますね。」
「うーん。」
突然の襲撃から七日後、美華は家でアルビオの調査報告を聞いていた。
「一応、ティエレにお願いして脅し...もとい催促はしてるけど。」
「やはり、教皇であるキュレアデア様に直接お聞きするしか無いかと。」
「だね。でもその前に、片付けておくべき問題もある。まずはそれから。」
「承知致しました。」
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「アルビオ様!よくぞおいでくださいました!...聖女様も、ええ。」
「你好。」
「クリナ様、今回は大事なお話があって来ました。突然の訪問、お許し頂きたい。」
美華とアルビオは真相を問い質すべく、ハエバル家の屋敷を訪問していた。
「アルビオ様なら何時でも大丈夫ですとも!お話とはなんですか?結婚式の会場ならい・つ・で・も!ご用意出来ますわ!」
「外では些か話しにくいですね。良ければ中に入っても?」
「はぁい!メルケェン!お茶の用意を!さあお入り下さい。」
「ありがとうございます。メイファ様、お先にどうぞ。」
「ありがと。お邪魔します。」
アルビオに会えて上機嫌のクリナに迎えられ屋敷に入る。中には緻密な構成の絵画や、誰かの胸像等の美術品が数多く並べられていた。二人は屋敷の中の一室に案内される。
「アルビオ様、お話とはなんですの?」
「...単刀直入に申しましょう。先日、メイファ様の屋敷に何者かが侵入し、あろう事か聖女たる彼女の命を狙い襲撃した事件がありまして。その際の刺客にお心当たり、ありますね?」
(あ、はっきり言うんだ。)
美華は出された紅茶を啜りながらアルビオが質問する様子を眺めていた。一方のクリナは悔しそうにアルビオを見ていた。
「...アルビオ様には分かっていましたのね。」
「ええ。教皇猊下をお守りする立場でもありますので、依頼主を言わせる事位は。それに、聖騎士を殺せる可能性を持つ暗殺者など、アスカントには殆ど居ませんから。」
「甘かったの、ですね...。」
クリナはそう呟いたと思うと、椅子を倒し唐突に立ち上がる。
「その女がいけないのです!!ぽっと出の女が何故当然の様にアルビオ様の隣に居るのですか!?アルビオ様もアルビオ様です!!何故...何故私では無くこの女なのですか!」
「??」
「ク、クリナ様。落ち着いて下さい!」
「これが落ち着いていられますか!うぅっ...。」
クリナはそう捲し立てると、起こした椅子に座り直し泣いてしまう。
「ねえ、クリナさん?」
「うるさいわ!この...ワイバーン!」
「分かんない。でもね、アルビオは私の事好きじゃないと思うよ?聖騎士として、仕事をこなしているだけ。私もアルビオを異性として好きとは思わないかな。可愛い所はあるけどね。」
「ふぇ?」
「ゑ?」
「なんでアルビオまで驚いてるの?」
「な、なんでもないです。」
「だから、アルビオから告白させる位惚れさせればいいと思うよ。私も、応援するから。」
美華は精一杯、その場で考え付く限りの言葉でクリナを励ます。クリナは手にしたハンカチで涙を拭く。
「とと、となると、わ、私のか、勘違い......?」
「うん。」
「そう、なりますね。」
「なにそれ!!凄く恥ずかしい!!え!?」
何かに気付いたクリナはまた椅子を倒して立ち上がる。
「あわわわわ...ど、どうしましょう!?私ったらまた!!」
「初めてじゃないのね...。」
「本当にごめんなさい!そ、その...アルビオ様を守りたい一心でその...!」
「アルビオは私にも良くしてくれてるからね。好きになる気持ちも分かる...かな?私も応援するから、今回の事はもう大丈夫。気にしないで。」
「メイファ様...!ありがとう...ございます!」
アルビオは思わず安堵の溜息を漏らす。
「ふう...。今回も何事も無くて良かった。クリナ様、これで5回目ですが、これ以後は暗殺者など雇わない様に。」
「ええ!分かっていますとも!このクリナ・アルドトア・ハエバル、これからも一層アルビオ様に尽くして行きます!」
「5回って...。」
美華はクリナの問題行動の多さに困惑しつつ、アルビオと共に屋敷を後にする。
「さて、次は教皇猊下へのお話ですね。」
「うん。行こうか。」
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「教皇猊下にお話がある!通るぞ!」
「お待ち下さいアルビオ隊長!」
「ごめんね。キュレアデア、いるかな?」
「せ、聖女様...。教皇猊下なら、お部屋にいらっしゃいますが...。」
「話があるの。入るね。」
「あっ、お、お待ち下さい!」
美華とアルビオは警備をしていた聖騎士の制止を振り切り、教皇の居る部屋に押し入る。
「どうかしました......せ、聖女様!?」
「キュレアデア、話があるの。」
「...私は大丈夫です。退出を。」
「...っ。了解しました...。」
キュレアデアの指示を受け、なおも止めようとしていた聖騎士は部屋から出ることを余儀なくされる。
「キュレアデア、私の依頼してた船の建造、キュレアデアが邪魔してるって本当なの?」
「あ......そ、それは...!」
キュレアデアは秘密のバレた子供のように慌てる素振りを見せる。
「教皇猊下!貴方のように敬虔な方が何故このような事を!」
「それは...。ひとえに、聖女であるメイファ様を出来るだけ長く見ていたい、という所でしょうか。」
「??」
「教皇猊下?それは、どういう...。」
キュレアデアの予想もしない理由の告白に、美華とアルビオは開いた口が塞がらない。
「本当に身勝手で申し訳ありません。このキュレアデア、年甲斐も無く『恋』をしてしまったのです...。」
「それはメイファ様に、ですか?」
「他に誰が居ますか?花のような美貌、黄金比の体、大海の如き心!この老骨を恋に落とすのには充分過ぎました...。ずっと眺めていたい、傍に置きたい...名前を呼ばれる度私の心はメイファ様に惹かれて行きました...。」
「ええ...。」
「キュレアデアは、私の事が好きなの?」
「当然です!しかし、叶わない恋が故にこの様な行動に走ってしまった...お許し下さい聖女よ...。」
「私の事好きなら、お願い...聞いてくれない...?」
「は、はいっ。」
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「こんな物が...!」
「凄い。」
「私しか入室が出来ませんから。これですね...アルビオ、取ってくれますか?」
美華とアルビオとキュレアデアは、教皇室の奥にある聖遺物保管庫に入っていた。保管庫には輝く剣や鎧、古い書物や何かを包んでいたであろう布等が置いてあった。アルビオはキュレアデアの指示通り、棚に置かれていた小さめの鎧を取る。
「これは...!!」
「どうしたの?なにそれ?」
「これは...天使の鎧、しかも天使翼を出せる胸鎧です...。本当にあったのか...!しかし...!」
「そう。これがあれば魔大陸など散歩程度ですとも。もしもの時にと取っておいて良かった。」
「これ、私の着てる鎧と合うのね。」
「その為の鎧ですからな。フフフ...。」
キュレアデアはなにやら嬉しそうに薄笑いを浮かべる。
「どうしたの。」
「いや、翼をだすメイファ様を見れる。それが楽しみでして。寂しいですが、見送らない訳には行かないですね。」
「教皇猊下...。(凄い分かる。)」
教皇室に戻り、キュレアデアから翼の出し方を教えてもらい退出しようとすると、声をかけられる。
「メイファ様、これを。」
「こ、これっ。もしかして、落ちてた?」
「はい。眺めていたら返すのが遅れてしまいました。申し訳ありません。」
キュレアデアが渡したのは美華の写った家族写真だった。四人家族の真ん中に幼い頃の美華が写っている。
「ありがと。失くしたかと思ってたから。」
「ええ。では練習、お気を付けて。魔大陸に行く時はお声を掛けて頂きたいですな。」
「分かった。じゃあね。」
「失礼致します。」
写真を受け取った美華とアルビオは教皇室から退出する。
「失恋、したのでしょうかね...。」
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「着けてみた。」
「普通の鎧と違って、なんだか豪奢ですね。流石は天使の鎧。」
美華とアルビオは天使翼の練習をするべく、郊外の森に出向いていた。アルビオの配慮で、一応人気が無い所を選んだ。
「背中に魔力を回せば鎧が反応する、か。でもこれ手に入ったのは百年位前なんだよね?合ってるのかな。」
「恐らく合っているかと。先日の堕天使も自由に操っていましたから、使い方は同じなのでしょう。」
「分かった。こう、かな?...おお。」
「これは...凄い...。」
美華の背中からは白く大きな翼と少し小振りの翼が生えていた。翼の大きさは美華の身長を軽く超しており、堕天使の翼より遥かに大きかった。
「美しい...まさに天使だ...。」
「凄く大きい。これなら盾がわりにも使えるし、鈍器にもなるね。」
「勿体無い使い方ですね...。」
「次は翼を動かすのね。...どうやるの?」
「私は何も言えません...なんとなく、でしょうか。」
「ええー。」
美華はアルビオの何とも言えないアドバイスに困惑しつつ、一応なんとなくで翼の操作を試みる。
(こう...かな?上昇!)
「わわっ!」
「メイファ様っ!」
美華の翼が突然動き急上昇する。上昇速度は速く、直ぐにアルビオの手の届かない高さにまで上昇した。
「出来た......わっ!」
「メイファ様ー!...おおっと!」
「ごめん...滞空の仕方分かんなくて...。」
「大丈夫ですよ。怪我は無いですか?(鎧の上からでも分かる柔らかさ...。)」
滞空出来ずに落ちてしまったのをアルビオが咄嗟に抱きとめる。翼の重量も相まって中々の質量兵器となっていたが、アルビオは何処か嬉しそうだった。
「うん。お陰様で。これ、背中に魔力を回しながら、頭の中で念じれば操作できそう。問題はどう移動するか、かな。」
「背中に翼があるなら、少しばかりでも感覚があるはずです。感覚があれば、それを動かすだけで良いはずです。」
「そうかも。やってみる。」
「何時でも抱き止められる様にします!」
美華は本来無い背中の感覚を確認し、再び空中に上昇する。アルビオに言われた通り、翼を動かしてみる。
「出来た...ふふっ、空って気持ちいい...。」
翼の感覚を掴んだ美華は更に高度を上げて飛行する。
「メイファ様ー!お、お待ちを!」
驚くアルビオを忘れて、美華は高速で周囲を飛び回る。何分か後、美華はようやく慌てるアルビオに気付き降下する。翼を広げて空気抵抗を増やし、横に一度回りながら着地する。
「降下はこんな感じか...。」
「メイファ様、上達がお早いですね。いや、慌てました。」
「ごめんね。でも、空を飛ぶのは楽しい。これならもう少し練習すればもっと自由に出来る。」
「そうですね。ではもう一回、ですよね?」
「うん。落ちたら受け止めてね。」
「ええ!お任せを!」
その後、飛行練習は夕方まで続く事になった。
「あ、ヨハンとティエレは。」
「あっ。」
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「船の建造は中止だと!?聞いてないぞ!?」
「話を聞く限り私達が少し遅かったようですね。」
「ぐっ...貝など食べなければ良かったな...。」
「まさかアタるとは...。」
次で終わります(多分)
終わらせたいです(迫真)