年甲斐
遅れました!今回も宜しくお願いします!
グリナ王国での聖戦の後アスカントに戻ると、入国したそばから国民達に囲まれ凱旋パレードの様に盛り上がる。
「アルビオ様!」
「クリナ様...。何故このような所に。」
「それは勿論、私の将来の夫であるあなたを迎えに行く為です!」
「ハハハ。ご冗談を。」
馬に乗るアルビオに駆け寄って来たのは、オイア枢機卿の娘クリナだった。短い髪の可愛いらしい少女は不満そうな顔を作る。
「アルビオ様はそう言って何時も誤魔化します!」
「そんな...私などは貴方様に釣り合わないだけです。他にも良いお相手は沢山います。」
「......あの女のせいなのね。」
突然豹変したクリナの顔にアルビオは驚きを隠せず思わず声が出てしまう。
「は...?」
「大丈夫よアルビオ様!要らないゴミは私が全部片付けてあげますから!それではまた!」
「クリナ様!?お待ちを...!......行ってしまった。」
クリナはそう言うとパタパタと走って行ってしまう。
「...大変そうだねアルビオ。」
「メイファ様...。ええ。前から言い寄られてはいましたが、あの様子は何かおかしい。この前の犯人が彼女だとしたら、狙いはおそらく......。」
「ん......殺しとく?」
「だ、駄目ですよ。これは私事、しかも女性問題です。騎士としてこのような事、あってはならないのですが...。」
「分かった。でも、邪魔だと思ったら容赦はしないから。」
「そこはメイファ様にお任せします。さて、教皇猊下にご報告に行きましょう。」
「おお聖女様!勝利の報告を聞きました。よくぞ勝利をもたらしてくれました。」
「大した事無いよ。」
「そんな事はありません!アルビオ君、堕天使の残骸か何かは残っていなかったかな?」
「その事なのですが、戦闘中に堕天使は爆散、残骸は残りませんでした...。」
「貴重なチャンスだったのですが...相手の方が一枚上手だったという事ですね。」
「キュレアデア、お願いがある。」
「なんでしょうか?」
「船を作るところ、何処か紹介してくれないかな?そこそこお金も貯まってきたから。」
「え、ええ。了解いたしました!此度の勝利、枢機卿殿達も大変お喜びになっています。さあ、今日はお疲れでしょう。ゆっくり休んで下さい。」
「そうする。じゃあね。」
美華とアルビオが部屋から出て行き、一人になったキュレアデアは焦った様に呟く。
「不味い...メイファ様が魔大陸に行ってしまうのは不味い...!御尊顔を拝められなくなってしまう!...対策を打たねばなりませんか。」
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「初めてにも関わらず、見事な鼓舞でしたメイファ様。」
「ありがと。結局この聖剣も一回しか使ってないけど。」
「そんなのもありましたね...。まあ持っておきましょう。売ればお金にはなりますでしょうし。」
「そうだね。」
家に入ると、リビングのソファーでティエレが寛いでいた。
「教皇様とのお話は終わりましたか。お風呂は今王が使っていますので少々お待ち下さい、メイファ様。」
「そう。あ...この鎧、どうしようかな。」
「あのドレスよりはこちらの方が良いでしょう。あれは...少し脚が見え過ぎる。」
「うーん...アレ少し気に入ってたんだけどな。」
「着るのは良いのです!非常に!しかし冒険者達にあの露出は酷でしょうなあ...。」
アルビオとドレスについてリビングで話していると、風呂上がりのヨハンがやってくる。
「おおメイファ帰ったか!私の活躍を見ただろう?どうだ、私の妃となる気になったか?」
「ヨハンが堕天使を爆発させちゃったから天使の鎧が得られなかったらしいよ?」
「そ、それは...というか、天使の鎧が何なのだ?硬いのか。」
「そうだな...確かに一般の鎧と比べると遥かに天使の鎧は強固で、かつ魔法にも耐性がある。だが一番の特徴は、胴鎧に着ける天使の階級に応じた数の羽を出す機構を備えている事だ。」
「羽を?直接出しているわけじゃないのね。」
「はい。天使は人の魂が入る事によって自我を持つ事から分かるように、その体は人体を強化した物なんです。なので、特殊な鎧を着ける事で初めて自在に飛ぶ事が出来るのです。」
「へー。あ、お風呂入るね。」
「それを先に言えば捕まえる手段もあったというのに。」
「それはまあ、忘れていた。何ぶん私も初めて目にしたのでな。なんせ、百年に一回あるか無いかだ。ところで...。」
少し反省する様な顔をしたアルビオの視線はソファーで寝転がっていたティエレに向けられる。
「ティエレ、あの堕天使と知り合いだったのか?」
「正確には堕天使に入っていた"魂"とですがね。」
「そうだったな。で、何があった?」
「詳しくはまた今度ですが、まあ昔私が殺した相手です。同じ魔人族の。」
「ティエレは元指名手配の犯罪者でな。『黒蠅』と呼ばれていて、かなりの荒くれ者だったのだ。想像出来るか?」
「そうなのか...。」
「王が起きるまで暇でしたので修行がてら暴れてたらこんな姿になってまして。いやはや不便なのか便利なのかで。」
「懐かしいものだな...。さて、私は寝る。アルビオ、貴様も風呂に入って寝るがいい。」
「そうするか。待て.........メイファ様の入った後の湯に浸かる...のか!?」
「なっ!?...今日は二度風呂の気分だ...!!」
「なんだと!?させるか!私が一人で堪能...入るのだ...!」
「...何やってるの二人共。」
「お風呂頂きますメイファ様!おやすみなさい!」
「ゆっくり休むといい!こら待てアルビオオオ!」
「う、うん。」
何やらとても急いだ様子で風呂場に駆け込んで行く二人を美華は不思議そうに見送る。
「二人共何かあったの?」
「まあ...お湯がどうこう...。」
「私は軽く流しただけだよ?今日はお湯に浸かる気分じゃなくて。」
「あっ...。」
ティエレは勘違いをしているだろう二人を憐れみながら再びソファーに寝転ぶ。その後、ティエレから話を聞かされた二人はまたケンカをする事になるのだが。
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深夜人が寝静まる時刻、黒い服に身を包んだ人物が美華の眠る部屋に忍び込んで来る。手には小振りのダガーを持っており、何に使うかは火を見るより明らかだった。
(無防備に寝やがって...。だが、本当に美人だな。殺すには惜しいが...!)
男は静かに、だが確実に仕留めるスピードで美華に向かってダガーを振り下ろす。
だが
(何だこれは...!見えない糸!?まさか...起きている!?)
ダガーは美華に届く少し手前で止まる。もし張られていた鋼糸に男が気付けていなければ、今ごろ手首を失っていただろう。それだけでは無い。こうして止まっている今も、見えない糸は男の体をゆっくりと覆っていく。
「ふわぁ...。残念だったね。」
「なっ...!?」
「依頼主は誰?答えないと死ぬだけだよ?拷問なんてしないし、面倒だから。ただ疑わしい人を殺すだけだから。」
美華は男が喋れる様に器用に糸を外していく。
「ふふ...動いて死ぬのと喋るの、どっちが先かな?」
「...魔女め。」
「...依頼主は、キュレアデア?」
「.....!」
男は無言の肯定とも言える驚きをほんの一瞬だけ見せる。しかし、それだけで美華には十分だった。美華は一瞬悲しげな顔をした後、浅く頷く。
「うん。それじゃあ、じゃあね。」
そう言うと男に絡みついていた鋼糸の一本で男の首を斬る。血が噴き出さない様、糸を重ねて蓋がわりにして切れ口を覆う。
「メイファ様ァ!ご無事で...既に来ていましたか。」
「アルビオの所にも?」
「ええ。やはりクリナ様が仕向けた者でした。」
「私の所に来たこの人は...キュレアデアの仕向けた暗殺者だと、思う。まだ可能性の域を出ないけど。」
「なん、ですと.....?」
アルビオはあまりの衝撃にこめかみを抑えてウロウロと歩き始める。そしてしばらく考えた後、美華にこう切り出す。
「私の方でも少し調べを入れてみます。詳しい事が分かるまで決して教皇猊下とは会わぬように。」
「うん。お願い。」
「教会とて一枚岩ではありません。まして、現教皇猊下も謎の多いお方ですから...。」
アルビオに男の死体を片付けてもらった後、美華はこの世界に来たときの事を考えながら眠りにつく。
(キュレアデア...何で?)
この世界の事を教えてくれた恩人に、かつて自らに生きる術を授けてくれた人を重ねながら。
そう言えばもう少しでこの視点を終わらせたいのですが、次のは物凄く早く終わりそうです。