聖戦
遅くなりました!今回も宜しくお願いします!
「アルビオ様、前方から魔物の群れが!その後方には先程の兵士も見られます!目視で"堕天使"も確認!級は..."二枚羽根"ですッ!」
「聞いたな!総員戦闘準備!堕天使は私と聖女様が抑える!」
聖騎士達が到着し敵を撤退させた数時間の後、今度は魔物と堕天使が迫って来る。堕天使襲来の報告にティエレは感慨深げに呟く。
「...何の、因果でしょうか。」
「分からん。だが、運命だとすればますます神が居るのか怪しくなってくるものだな。」
「はい。まさか彼に復讐の機会が与えられるとは。」
「堕天使急速接近ッ!総員防御体勢に移っ」
突然飛来した黒い長剣が呼びかけようとした兵士の上半身を吹き飛ばす。
「よお、聖騎士共。今すぐ挽肉にしてやりてえところだが、お前らに構ってる暇は無い。」
男は地面に刺さる長剣を抜き黒い翼を広げる。直後に真っ直ぐティエレに向かって突撃する。
「『黒蠅』ェ!今度こそぶっ殺してやるッ!」
「アルル...やはりあの時魂まで消しておくべきでしたかっ!」
「似合わねえ喋り方なんてしてんじゃねえッ!」
「ティエレ!!」
アルルの剣にティエレは瞬時に反応し両刃剣で応戦する。やがて遅れて来た魔物達と聖騎士達がぶつかり、獣や人の叫び声が響く。
「この体ならお前を殺せる!」
「容赦はしません!」
直ぐに凄まじい斬り合いが始まる。アルルの斬撃をティエレは両刃剣で防ぎ、ティエレのカウンターをアルルは長剣で防ぐ。
「あの時テメェが裏切らなかったらもう少しスムーズに行ってたのになァ!?」
「"もしも"なんてありませんよ!」
「うるせえ!!」
ティエレとアルルは互いに一歩も退かずに攻防を繰り広げる。しかし、強者にしか分からない僅かな差でティエレが押されている。
「中々厳しいですね...!」
「チッ!あの女どうなってやがる!?」
「メイファ様か!」
アルルが忌々しげに呻きながら向けた視線の先には、鋼糸を駆使して兵士を次々とバラバラの肉片に変える聖女の姿だった。
「テメェから死ねッ!!」
「メイファ様ッ!」
「貴様等に...聖女様は触れさせん!」
「聖騎士ィ!」
美華の背中を狙ったアルルの剣は、横から割り込んで来たアルビオに防がれる。
「クッ...不味いな...!お前ら、俺から離れろッ!ぶっぱなす!」
「...!総員退避!」
「何かするつもり...!?」
「メイファ様、私の後ろに!総員!魔物の相手は極力控えろ!何かが来る!」
堕天使は周りに居た味方の兵士に支持を飛ばすと、真っ直ぐ上に飛翔する。味方の兵士達は何が来るのか分かっているのか、素早く魔物を囮にして退避する。
「神なんざ信じられねえからな...負けられないんだよ...!吹き飛べ!"バルテュス・オルフェイン"!」
「今だ!"ルテチオン・タワーシールド"!」
「ヨハン王!?」
空から放たれる黒い波動をヨハンは虚空から出した巨大な金属の盾で受ける。盾は黒い波動からの凄まじい熱によって徐々に融解して行く。
「耐えろ...耐えてくれルテチオン!」
「これを防ぐだと!!...放熱が間に合わない!?ぐあっ!」
アルルは空中で羽から煙を出して墜ち、地面に叩き付けられる。直ぐに立ち上がるが、翼は焼け焦げ、足取りも弱々しい物だった。
「ぐっ...まだ早かったってのか...!」
「降伏しろ!民には一切手を出さないと約束しよう!国も消さない!」
「クッククク...降伏、降伏だって?そんな事はしねえ!それに...国民はもういない。」
「どういう事だ!」
「おかしいと思わなかったか?小国が聖騎士を抑えられるぐらいの魔物を置いておけるか?直前に用意するしか無いだろ?あ?」
アルルはよろけながらアルビオの提案を鼻で笑う。
「貴様...まさか...。この...魔物は...?」
「"変化"させたんだよ。テメェら聖騎士に対して勝ちの目が最も大きいのがこの手段だった。」
「貴様...!貴様ァ!!!」
「グッハッ...!ハハハ...『黒蠅』...今回もお前の勝ちの様だな。だがな!タダで勝ちはやらん!"メタモルフォーゼ"!」
激昂したアルビオの剣を腹に刺されたアルルは剣を抜こうともせずにティエレを見ながら笑った後、魔言を叫ぶ。
「なっ!?不味い!総員、構えろ!」
「...周りの兵士が魔物に...!」
「なんと質の悪い...。」
アルビオはアルルから素早く離れて支持を飛ばす。敵の兵士達は突撃叫んで喉を掻きむしりながら倒れひとしきり痙攣した後、体が膨らみ次々と魔物に変わっていく。
「な、なんだコイツら!」
「離れろっ!離れろおお!」
「落ち着け!取り乱すな!」
突然人が魔物になった事に兵士達に恐怖が伝染して行く。精鋭の聖騎士はまだしも、第二大隊の若い兵士達には耐え難い恐怖だった。
「良い感じに地獄絵図だな...ヘッ、悪あがきには丁度良かったか?」
「そんなの、関係ない。」
「あ?」
美華は周りに落ちていた剣に鋼糸を刺し、あたかも浮遊しているかの様に自らの周囲に集める。
「どんな手段で来ようとも、勝つだけ。」
「なっ...!?」
美華は無数の剣で魔物だけを的確に、かつ凄まじい速さで斬り捨てて行く。走りながら魔物を斬り、自らの手でも斬って行く。
「クソッ...なんてバケモンだ!!...こうなりゃ、テメェも道連れだァ!」
「フッ!王よ、お願いします!」
「フハハハハッ!やってやるとも!」
「何!?」
突撃して来るアルルの剣を防いだティエレは、そのまま横に回避しヨハンの為に道を空ける。
「食らえぇ!"ルテチオン・メガランス"!」
「ぐおおおお!?」
ヨハンの出した長い細槍は、驚いて隙を晒したアルルの腹を貫通する。ヨハンはそのままアルルを上に上にと押し上げる。
「さらばだ堕天使!"ルテチオン・オーバーロード"!」
「こんな...こんな死に方があるかァッ!!」
ヨハンが魔言を唱えると、細槍はアルルを貫いたまま巨大な爆発を起こす。爆発が収まった後、魔物は次々と倒れ塵に還って行く。
「終わったの...?」
「どうやら、その様です。」
「王の元に行くぞ。主犯格はソイツだろう。」
「ああ。各員、被害状況を報告しろ!少しの休憩を取る!」
そして少しばかりの休憩の後、生き残った第二大隊と聖騎士達、そして美華達は王国の首都に入る。
「人っ子一人居ない...。」
「これはこれで不気味ですね...。」
王城を見つけそこに突入するが、使用人や見張りの兵士すら居ない。廃墟同然の静けさが漂っていた。
そして、玉座には老人ただ一人が座っていた。
「む...貴方達が来たということは、アルルは死んだか。」
「何故この様な事を。」
「アルルは私に言ってくれた。『神に頼らない世界を作ろう』と。その為の戦いだったが...夢半ばで終わったな...。」
老人は少し喋った後、玉座から崩れ落ちる。慌てて他の騎士が駆け寄る。
「死んでいます...。」
「...また堕天使の事は分からずじまいか...。総員、アスカントに帰るぞ。我々の...勝利だ。」
「虚しい、ですね。」
「仕方が無い。弱者は全てを捨てねば強者に一矢報いる事も出来ん。神は、それを許さんのだ。」
アスカント軍はグリナ王国から撤収し、アスカントへの帰路に着く。こうして、聖戦は疑問の残る形で終結した。
更新出来ないのは辛いです...。