これでいいのか治癒魔法
主人公のスキル凄いね(小並感)という回です!
「起きて!セイエイ起きてよ!」
「ふわっ、な、何?」
揺さぶられ目を開けると、目の前にアスィの顔があった。
「やっぱ可愛いよなあ。あ、おはよう。」
「ひゃっ!えっ、おはよう...?」
アスィを褒めつつ体を起こす。
「休憩も取れたし、先に進もうか。」
「そうね。お風呂、入りたいなあ...」
「お風呂、入れるよ?」
「えっ?」
「俺が青魔法で水を出しながら赤魔法で火を出して温めれば...」
「ええ!?でも、それって...つまり...いやダメよ!バ、バカじゃないの!?セイエイの変態!」
「グゲェッ!?」
寝起きで反応が遅れたせいで、アスィの右ストレートが俺の左頬に綺麗にヒットし、俺は後方に吹き飛ばされる。咄嗟に身体強化をしたので意識を失わずに済んだが、危うく首が一回転する所だった。
「あ、ご、ごめんなさい。大丈夫?」
「い、いや、こちらこそからかったみたいで、グフッ、ごめん。でも大丈夫じゃないから今度から強めのパンチはやめてね...」
「分かったわよぅ...。」
あんなのまともに受けたら今度こそ死ぬぞ...。正直魔物よりよっぽど強いよ...。でも、魔王の娘だから当然っちゃ当然なのか...。
「さっ、行きましょう。」
「ああ。」
準備を整えダンジョンの森を歩く。先程まで歩いていた洞窟然としていた所と違い、緑の独特な暖かさがあった。燦々と輝く蝶の放つ光が木の葉に当たり、キラキラときらめく様はまるで本当に森にいるかのように思えてしまう。
森を暫く歩くと思わぬ発見があった。
瓢箪の先から枝が生えている様な、奇妙な植物が他の木に紛れて1本だけ生えていた。
「これは、バロメッツか...?」
「え!バロメッツですって!?本当!?」
バロメッツは特殊な植物だ。瓢箪に似た柔軟な茎を持つ植物で、最大の特徴はバロメッツが付ける実にある。そしてこの実には何と、子羊に似た魔物が入っているのだ。驚く事にこの魔物、骨も肉もあり体には黄金の毛が生えている。そしてその肉は柔らかく美味だと言う。なんて無駄が無い植物なんだろうか。
「凄いわ!しかもこんな立派なのがここにあっただなんて!」
「そんなに凄い物なのかこれ?」
「当たり前じゃない!いい?バロメッツの実から取れる毛は私やお母様、お父様の礼装にも使われるぐらいの物なのよ!しかも売れば貴族達は真っ先に大枚叩いて飛び付くわ!」
つまり、魔王家御用達の植物か。
魔王様から渡されていたこの世界の植物について書かれている本をめくると、確かにあった。『魔力が豊富かつ日光の当たらない場所にしか生えず、環境の変化に弱い為すぐ枯れてしまう。バロメッツの毛は売れば10年は遊んで暮らせるらしい。』
そんなモノなんだコレ。木の実から魔物採れるとか怖いがそんな貴重なモノ、採らないなんてのは惜しい。だが...
「アスィ、勿体無いけど先に進もう。」
「そんなあ...」
「他に取るヤツなんていないよ。戻って来たらその時に取ればいいさ。」
「分かったあ...」
アスィを宥めた後、森林エリアを歩いて行く。今歩いていて気付いたのだが、この森なかなかの広さだ。
「広いなあ...ここに降りる時になかなか降りたと思ったけど、ここまでとはねえ。」
「そうね。でも悪くは無いわ。中途半端な森よりよっぽど心地いいわ。」
「ここがダンジョンでなければね...」
会話の途中、周囲の違和感に気付く。
これは...羽音?
気が付けば羽音のような音に周囲を囲まれている。
「敵か!ここまで気付けなかったなんて...!」
「来るわよ!」
木々の隙間から蜂のような魔物が突撃して来る。俺が地球でよく知る蜂とは、比べものにならない大きさだ。
「ルビーホーネットか...!ここまで大きいとは思わなかったっ!」
ルビーで出来ている美しい針を左手のガントレットで掴み、地面に叩きつけ右の正拳突きで頭を砕き瞬時に絶命させる。
しかしルビーホーネットの数は20をゆうに超える。
「アスィ、あの針に掠りでもしたら終わりだからね。一撃で倒さないと囲まれる!」
「分かったわ!」
ルビーホーネットは主に洞窟近くの森林に巣を作る魔物で、キラーホーネットの亜種だ。主食は何とルビーの宝石である。表皮は硬く、ルビーで出来た針には出血毒が含まれている。存在自体が稀少かつ超危険な存在であるが、ルビーの針はどれも大きいので高額で取引される。
因みに、女王蜂である『マザー・ルビー』だけがルビー以外の宝石を消化し、自らの針を輝かせる。『マザー・ルビー』の針はどれも多彩な輝きを放つので、超高額で取引されるのだが存在自体が稀少かつ脅威、女王蜂を見つけても生きて帰って来る事が難しいのでまず市場には出回らないのだが...
俺は左のガントレットから出す青魔法"ウォータースプラッシュ"で叩き落とし、炎を付与した右のガントレットの正拳突きで絶命させるという作業を繰り返す。
アスィもファイアボールで羽を焼いて落とし、大剣で切り裂くという戦い方で数を減らしている。
ていうかアレ撃ちすぎだろ。あの娘の魔力どんだけあるんだよ。マシンガンと張り合える連射速度だぞ。
アスィのポテンシャルの高さに戦きつつも、ルビーホーネットは確実に数を減らしていた。20匹はいたであろう数は今は5匹にまでなっていた。
行ける。そう思っていた矢先に
「ああッ!?」
「アスィ!!」
大剣を振り終わる隙を突かれたアスィがルビーホーネットの攻撃を受けてしまう。直前で回避行動を取るも、針が大腿部を掠めてしまう。
「大丈夫かっ!」
「直撃は避けたけど...うっ...」
直ぐにアスィの元に駆け寄る。
アスィの太ももには掠っただけとは思えない傷があった。マントをちぎった物で傷を強く結び出血を抑えようと試みるが、血は止まらない。アスィをお姫様だっこの形で抱え、全速力で走る。
ルビーホーネットもチャンスと見たか、追撃をするべく最大戦速で追い掛けてくる。
(早く出血毒を無くさないと大量出血で死んじまう...!何か無いのか...そうだ...!"ステータス"!!)
自分のステータスにあるスキル"神魔回復EX"の解説を開き、速読で頭に内容を入れる。
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神魔回復EX:治癒魔法の至るべき極地。高位精霊、死霊等の精神体や、通常の治癒魔法では完全に直せない毒や傷を完璧に治癒し、神の傷すら癒す究極の治癒魔法。副作用として、対象の傷を治癒する際に対象の痛みを緩和するため強い快感を与える。
※自身には使用不可。
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(これだ...!って、快感って何だよ!!ええいなるようになれ!)
アスィの傷に手を翳し頭の中で傷を治すイメージをする。
「んんんんんっ!」
アスィが身悶える。すると、倍速逆再生もかくやというスピードでアスィの傷が塞がって行く。血の流れも止まっていた辺り、このスキルの凄さが分かるというものだ。
「大丈夫か、アスィ!」
「う、うん...でも...」
「でも?」
俺が思わず聞き返すと、アスィは頬も赤らめ恥ずかしそうに小さい声で呟く。
「凄く、気持ち良かったなって...」
「ゑ?」
「い、いや!何でも無いから!ありがと!」
アスィは恥ずかしさを隠すように残りのルビーホーネットの元に突撃する。
急停止したルビーホーネット達は一瞬の隙を突かれ、瞬く間に殲滅されてしまう。
「ふう...一時はどうなる事かと思ったよ。」
「あ、そう、だね。その...傷、治してくれてありがと。」
「いいんだよ。はあ...俺がもっとフォロー出来ていればあんな事には...」
「もう!あれは私のミスなんだからセイエイが落ち込む事は無いの!」
「いや、でも...」
「何とかなったんだし、いいじゃない!」
「...そう、だな。なんか、ごめん。」
「いいのよ。もしよ?もしも、また私が傷を負ったら...」
アスィは先程のように頬を赤らめながら恥ずかしそうに話す。
「ん?」
「さっきの回復魔法...お願いね?」
「えっ?ああ!勿論だよ!」
「さあ!進むわよ!」
「あっ!先に行くなって!」
一瞬見えた恥ずかしそうに喜ぶような彼女の表情で察してしまう。
(これは...不味い気がしてきたぞ。うん。ナニか不味い。)
まさかあの娘がとそんな考えを振り払い、先に走って行くアスィを追いかける。
果たして副作用(笑)は今後どうなるのかは分かりませんがご期待下さい( 'ω' 三