聖戦前夜
遅れました!今回も宜しくお願いします!
アルビオの部下に連れられ美華達はダンジョンから出て教皇の居るガエリア大聖堂に向かっていた。
「ねえアルビオ、聖戦って?」
「主神教に対して明確な敵意を持つ国との戦争の事です。普通は大国との戦いなのですが、今回の相手は小国なのです。」
「アルビオ様お急ぎを。先程第2隊が苦戦を強いられているとの報告が来ていました。」
「何だと!?相手は小国の軍だぞ!?数では我らより第2大隊の方が多いはずだ!」
部下から告げられた事実にアルビオは驚きを隠せない。
「今回はかなり面倒な事になりそうです。もしかすれば我ら聖騎士にも損害があるかもしれんません。」
「何故だ?」
「敵側に"堕天使"が居ます。非常に戦闘能力が高いとの事。」
「"堕天使"...。まさかこの目で見る事になるとはな...。本でしか見た事が無いぞ。」
アルビオは深く考える様な表情をするが、美華には何を言っているのか分からなかった。
「ねえ、"堕天使"って?」
「そうですね...。神ギルテカリスに仕える兵士達を"天使"と呼びます。天使達には魂はありませんが、稀に死んだ人間の魂が入り込む事があるのです。これを"降天使"と我々は呼称しています。魂の入った天使は性格が偏る傾向にあります。
攻撃特化で性格の荒い天使が"熾天使"。守護に特化した温厚な天使が"守護天使"です。そして悪に染まった魂が入った天使が"堕天使"。天使は何れも人とは比べ物にならない力を持っています。」
「小国が大国に挑める理由にまでなるのね。」
「ええ。だからこそ今回は負けてはならない。文字通りの"聖戦"なのです。」
アルビオの解説を聞きながら急ぎ足で歩いていると、ガエリア大聖堂に到着する。
「アルビオ殿はこちらへ。貴女がメイファ様ですね?聖女様は審議室へ。教皇様がお呼びです。」
「何故...まさか!?」
「アルビオ様、お早く!」
「くっ...!メイファ様!絶対にお一人で決断等なさらぬように!」
別の騎士に呼ばれアルビオは悔しそうに美華達の元を離れる。
「聖女様、こちらへ。」
「分かった...けど。」
後ろを振り返るとヨハンとティエレはハッとした様な表情を作った後、暫く考えてティエレが騎士に告げる。
「私達はアルビオ殿に雇われた追加の護衛です。聖騎士様の依頼を蔑ろにする訳には御座いません。私達は審議室の前で待ちます。」
「了解しました。では、行きましょう。」
騎士に連れられ教皇室のものとは違う意匠の大扉の前に着く。
「聖女様をお連れしました。」
『入りなさい。』
「失礼します。」
審議室は広く中は庭のように植物池があり、前方にある大きいテーブルにキュレアデアと四人の人物が座っていた。
「ご苦労でした。」
「ハッ!失礼致します。」
兵士が退出し、一人で立っているとキュレアデアに手招きされる。言われた通りにテーブルに近付いて行くと、着席する様に促される。
「聖女様、お呼びして申し訳ございません。」
「大丈夫。それで、何?」
「実は...。」
「教皇猊下!その小娘は一体何者なのですか!」
「黙りなさい!」
キュレアデアが頭を下げた後に重苦しい表情で話し始めようとした時に同じテーブルに座っていた別の男性が割り込んで来る。キュレアデアはその男を一喝する。
「この方は主が遣わされた聖女、メイファ様です。」
「この女性が...?」
「まさか...神話通りだと?」
「聖女様、こちらは枢機卿の皆様です。皆様、自己紹介をお願いします。」
キュレアデアは枢機卿達に向かって小さく一礼をする。枢機卿達は一度顔を見合わせた後、自己紹介を開始する。
「アルク・メデと申します。本物の聖女様かどうか私自身、まだ信じ難いですね。」
「アロウ・ニルム・ハルルスです。私もアルク殿と同じ意見と言っておきます。」
「オイア・アルドトア・ハエバルと申します。以後お見知りおきを。」
「...グリウ・ガルラ。フン!どうせ偽物でしょうが、一応自己紹介はしておきますよ。」
「グリウ殿......。メイファ様、お話というのはですね...。」
「うん?」
キュレアデアは一度考えた後、意を決した様な表情で言葉に出す。
「聖女様には今回の聖戦で前線に立ち聖騎士を鼓舞して頂きたいのです。堕天使との戦いを恐れている若い聖騎士も居ます。聖女の鼓舞となれば、彼らの士気も高まると思うのです!メイファ様お願いします!」
「教皇猊下が頭を下げるなんて...!」
「私が、鼓舞...!?」
(どうしよう...。聖女は嫌だけど、アルビオにはお世話になったしな...。死んじゃったら駄目だし、うーん...。)
「分かった...。やるよ。だから顔を上げてキュレアデア。」
「ほ、本当ですか!?有難うございます!有難うございます!」
「応援なんて初めてだし少し怖いけど...頑張るね。」
「聖女様に鎧を!メイファ様、直ぐにご支度を。明日には出陣ですぞ!」
「え、ええ!?」
そのまま部屋に入ってきた使用人に連れて行かれ、審議室の隣の別室で鎧に着替えさせられる。鎧は白い可愛いらしいドレスに必要な所を守る防具を付けた物だった。
(あ、糸、出せる。よかった...。)
着る服を変えても鋼糸を出せるというのは思わぬ収穫だった。着替え終わり鎧を確認していると、部屋にキュレアデアが来る。
「おお!やはりお美しい...!メイファ様、どうぞこれを。必ずや貴女様のお力となるでしょう。」
「これは?」
「聖剣、と呼ばれる聖遺物です。五英雄の一人である守護天使サティトリが使用したと言われる物です。持つ者と周囲の者を一切の災厄から守ると伝えられています。」
「ありがとう。上手く使えるか分からないけど。」
「私がお力になれるのもこれまでです。心苦しいのですが後はメイファ様のお力に頼るしか無く...。」
必死に謝るキュレアデアを励まし教皇室に返した後、美華は審議室から出る。
「おお...!まさに聖女と言ったところだな。」
「お美しいですなあ。いやはや良い肴になります。」
「そういうのやめて。アルビオはどこ?」
「まだ来ないが......おや?」
待ってくれていたヨハンとティエレと話をしていると、アルビオが走ってこちらにやって来る。
「メイファ様!お一人で決めてはならないとあれほど!」
「でも私、アルビオに死んで欲しくない。私が力になれるなら、頑張るよ?それに、ここで恩を返さないとだしね。」
「メイファ様......分かりました。どの様な場所でも必ずや貴女様をお守り致します!」
「威勢は良いなアルビオ。出陣は何時だ?」
「明日朝だ。ヨハン達も参加できるように話はつけておいた。では明日に備えて色々準備がある。ではまた!」
アルビオは元来た道を足早に走り去って行ってしまう。
「忙しい男だ。さて、私達は帰ろう。疲れている。」
「そうしましょう。」
「分かった。」
美華とヨハンとティエレは借り家に帰る。美華とヨハン、遅れて帰って来たアルビオは風呂に入って夕食を取った後にすぐ寝てしまったが、ティエレだけは皆が寝静まった後星空を見つめていた。
「あの国に堕天使ですか......運命、とでも言うんでしょうかねえ...全く...。」
書ける時にバーッと書いていますが、次の視点から清英に戻したい!