合同演習 中編
寝てました。遅れてすいませぬ...。
6000pv達成しました!今後とも宜しくお願いします。
カレンとグリッジル、そして白いフードに全身を包んだ小柄な黒髪の人物は、演習場から少し離れたテントから戦闘を見ていた。
「凄まじい戦いですな。やはり副隊長以下の兵士の参戦を止めて良かった。陛下、今後はどうなさるおつもりですか?」
「どう、とは?」
「この戦力ならばアスカントは簡単に攻め落とせますでしょう。それだけでは無い!そのままの勢いでシュレアをも落とし、我らダートスがナリア大陸の真なる統治者にも成れる!そしてゆくゆくは神の庭すら攻略し、神聖皇帝と相成るのです!如何でしょうか?」
「ハッ!グリッジル、私を笑わせるのもいい加減にしろ。時代は変わったのだ。これ以上戦争の傷を増やす訳には行かん。それにこの戦力は対魔物であり、『純潔会』殲滅の為の物だ!!それをゆめゆめ忘れるな。」
「うっ......。言葉が過ぎました...お、お許しを...!」
「貴様のそういう好戦的な所以外を買ったから帝国軍の指揮を任せているのだ。私を失望させるな。」
「ハッ!」
大陸の征服を熱弁するグリッジルをカレンは見もせずに窘める。グリッジルは途端に顔を青くし、片膝を付いて許しを乞う。カレンをそれを一瞥した後、グリッジルに許しを与える。
「皇帝よ、敵は我々の想像以上に回りくどい方法でこちらを崩しに来ます。」
「ノル、それはどういう事だ?」
白いフードの人物は静かな調子でカレンに話しかける。
「奴は陰湿な手を使って来ます。人の心を弄ぶ。」
「だがまだ予想の段階だろう?」
「はい。しかし、その可能性は高いかと。」
「...分かった。念の為調査を進めておく。」
「ノルはまだ仕事がありますので退出させて頂きます。それでは皇帝、またいつか。」
「ああ。何かあったらまた来てくれ。」
ノルはスタスタと小走りでテントから出て行って何処かに行ってしまう。ノルの姿が完全に消えたのを確認したグリッジルは恐る恐る喋り出す。
「い、今の方は?何やら怪しい感じがしましたが...。」
「私の師である方の側近だ。あんなナリでも強い。」
「は、はあ...。」
「てぇあ!」
「フッ!」
ルイスは刀から黒い魔力の刃を飛ばすが、シュトルヴはそれを正拳突きでいとも簡単に掻き消す。
「めんどくさいっ!」
「それが...ううん。そろそろ終らせなきゃね?"リリーフショック"!」
「あああっ!?か、体がい、痛い!?こ、心がはが、剥がれっ...!た、助け、助けてっ!トレイズっ!嫌っ!嫌ぁぁぁぁっ!!」
「いけない!?やはりまだ早かったって言うの!?」
シュトルヴが魔言を唱えながらルイスに拳を放つと、それを受け止めたルイスは突然胸を掻きむしる様な動作をしながら苦しみ出す。ルイスが泣き喚きながら尚も苦しんでいると、声を聞いたトレイズが猛烈な勢いで走って来る。
「ルイス!おい!大丈夫か!?」
「やだ...お父さん...死んじゃ嫌...。」
「ルイス!しっかりしろ!」
「お母さん...私...。」
トレイズは倒れたルイスを抱き上げ必死に声を掛けるが、ルイスは虚ろな目に涙を浮べながら今は居ない父母を呼ぶ。ルイスはふっと目を閉じ体から力が抜けて行く。
「ルイス!おい!ルイス!!」
「......気絶しているだけよ。」
「テメェがやったんだろ!?」
「うるさいッ!私だって、私だってこんな事になるなんて思わなかったの...ルイス...!」
「何を...やったんだよ。」
「...呪いの類から対象者を救済する魔法。でも、もうアレは私の手に負える物じゃない...!」
「...医務室に連れて行く。俺一人で良い!」
トレイズはルイスの刀を鞘に入れ脇に挟み、そのままルイスを抱いて走って行ってしまう。シュトルヴはその場で立ち尽くし、涙を流すしか無かった。
「ごめん...なさい...!」
「中将、何したんだろ?」
「ルイス...!」
「姉貴、目の前の敵に集中して下さい。"ヒールハルシネイション"。」
異変に気付き余所見をしてしまったセルカに向け、ハティスが拳から虹色の波の様な物を出す。
「幻覚の類か、オレには効かん!」
「やっぱ風邪じゃないと効かないっすよねー。分かってたからショックでも無いけどっ!」
ハティスはセルカの放った高速の踵落としを瞬時に見切り、負け惜しみを言いながら軽快に避ける。目標を失ったセルカの踵は地面を深く穿つ。
「うひゃあ。あんなの当たったら治癒どころじゃ済まないでしょ。蘇生モンだよ。手加減して下さいよ。もしかしたら死んじゃいますよ。」
「これでも力を抜いている方だ。これ以上となるともう動かなくなる。」
「やっぱり人外ですわ...。どうして普通の人間が周りに居ないかなあ。」
「お前も十分異常だがな!妙に傷の治りが速いし!」
セルカは手から炎で剣の様な形を作り、ハティスを一瞬で数度切り付ける。ハティスの着ていた制服に無数の穴が開き、同時に肉の焦げる嫌な臭いがする。
「があああっ!!」
「これなら動けま......なんだと?」
「熱いじゃないですか...。一歩間違えたら死んでました。いやぁ治癒魔法使えてよかった。」
「唱えてもいないのに回復したのだが...?」
「体質ってヤツです。」
ハティスに出来た切り傷は瞬時に塞がったばかりか、無数の穴が開いていた制服もみるみるうちに修復されていく。
「さて、もう少し遊びましょか。久々に戦いって感じがして来ました。」
「良い気迫だ。オレも雑魚ばかりで退屈していた所だ...!」
「トレイズが居なくなってしまったが、ロンス!お前でいい!行くぞォ!!」
「うおおっっ!?結局こうなんのかよ!」
ロンスは必死にガイドの攻撃から逃げ回るが、ガイドの攻撃も激しく、捕まるのは時間の問題だった。
「埒が明かないな!"出て来い"!」
『久々に戦闘だァ!!行くぜええええ!』
ロンスが何かを呼び出す様に声を上げると、突然黒い骨だけの巨人がその場に現れる。骨の巨人は高揚した様に叫ぶと真っ直ぐにガイドに突撃していく。骨は力任せにガイドに拳を放つ。ガイドは辛うじてそれを受け止めるが、徐々に押され始める。
「ぬ、ぬおおお!!」
『ケケケッ!んー!?どしたァどしたァ!』
「あまり俺を舐めるなよ骨がぁぁぁ!!」
『うおおおい!』
ガイドの放つ渾身の一撃は綺麗に骨の胴体部分に直撃し、骨はバラバラになって飛んで行く。
『ケケッ。んじゃ悪あがきってね!バイバイ!』
「何をする気だ!?」
「俺も危なくねえかこれ!?」
遠くに飛んでいった髑髏はまたも高い声で笑った後、骨は怪しく光だし凄まじい大爆発を起こす。
「クソ野郎...帰ったら一部魔力に還元してやる...!!!」
立ち込める砂埃の中から傷が少し付いたガイドが出てくる。その様子から目立ったダメージは無かったらしい。
「嘘だろ...。」
「ロンス!貴様なかなかやるな!」
「まだやんのかよぉ!?」
「"アブソリュートエンチャント"!凍れッ!」
「やーだね。"圧撃風槍"。」
コレンは剣に絶対零度を付与し高速で切りかかって来るが、シミュルは槍を空中に一突きし槍から強大な風圧を発生させる。その勢いにコレンは後退せざるを得なかった。
「ぐっ...流石だな。」
「へへへ、褒めても何も出ないよ?んじゃこっちから仕掛けますわ。"アクロスホライズン"。」
シミュルは一度大きく後退した後に槍投げの構えを取り、魔言を唱えつつ衝撃波が発生する強さで槍をコレンに向けて投げる。
「見えるッ!"プリズムゼロ"!!」
音速で迫る槍をコレンは瞬時に捉え、氷で巨大化した剣で受け止める。槍は氷に刺さってそのまま止まってしまう。
「あらっ。」
「これで武器は無いぞ?」
「対策はあんのよ。元々投げるから取りに行くのめんどかったし。ほいっとな。」
「何ぃ!?」
シミュルが遠くから槍に手をかざすと、槍は独りでに動き出しシミュルの手元に戻る。
「いやあ便利便利。さて、続きと行こうや。」
「面白い...確かに今回は少し本気が出そうだ...!」
中編とは。とは。この後後編が来るかも分からないという想定外。