前倒し
寝てました。以上。
ではなく遅れてすいません!今回も宜しくお願いします!
「そう言えばトレイズ、君の妻のイシュ君はエルフだったな?」
「そうだが、それがなんだ?」
「いや、大変だろうと思ったんだ。キュレルも今まで色々あってな。今でこそ実力を認められて尊敬される立場だが、帝国の悪習のせいで辛い時期もあったからな。」
「まあそうだな。今ではウチの部下を訓練してるぐらいだ。」
トレイズとロンスは一週間研究室に篭っていた。目的は魔法工学を駆使した銃の開発である。
「それは頼もしいな。」
「トレイズ様ー!」
「ロンスー。居ますかー?」
階段を降りて来たのはイシュとキュレルだった。手にはバスケットを持っている。
「ご苦労さん。ありがとよ。」
「えへへ...。」
「イシュさんは見れば見るほど可愛いですね...。でも私より年上なんですよね...。」
「私なんてまだ200を過ぎた程度ですし...年上なんかじゃないですよ。」
「200年か。皇帝が何代前になるんだ。」
弁当を持ってきたイシュの頭をトレイズが撫でていると、キュレルはその様子を顔を綻ばせながら眺める。
「そうだ。イシュ、これを。」
「二つ目ですか!ありがとうございます!」
前々から作っていた二丁目のコルトをイシュに手渡す。それを見ていたロンスはキュレルの持ってきた弁当を食べながらも身を乗り出して興味を示す。
「トレイズ、イシュ君に渡したそれは何だ?お前の持つ銃剣の小型版と言った形だが?」
「ああ正解だ。威力を抑えて携行性に特化した銃だ。このサイズなら反動も少ないからイシュでも扱える。因みに俺が作った。」
「あのパーツはそれか!ああそうだトレイズ。魔法工学を使うのは構わないんだが、どういう方式で弾丸を出すのかまだ聞かされていないんだが。」
「そうだったか?ングッ。そうだな、実はそれを解決出来る知り合いを知っている。」
トレイズは食べかけのサンドイッチを飲み込んでから話を続ける。
「知り合い?」
「ロッシェ・ランドールって奴でな。アイツの使う武器にその技術がある。本人も再現できると豪語していたからな。そいつを使う。」
「ランドール家の長男と知り合いだと...!?」
「あ?知ってんのか?」
「当たり前だ。魔法工学を専攻する者としてランドール家の魔法陣刻印技術は憧れだ。剣から防具、果ては人の体にまで魔法陣を刻む技術はやはり魔術の一つの到達点とも言える。」
「そんな家の生まれだったのか。なんかただのアホにしか見えんかったが。」
「ランドール家の人間は何故か出世するから案外馬鹿には出来んぞ。」
「なんだそれ...。まあいい、作業を続けるぞ。本体が出来たら後は魔法陣を刻むだけだ。イシュ、暇なら第七に戻ってもいいんだぞ?」
「私はトレイズ様のお側に居ます。セルカさんとルイスさんが心配していましたよ?」
「あれはいいだろ。まあ一週間も顔を見せなきゃそうなるか...。」
イシュの報告にトレイズが悩んでいると、階段を急いで降りる音が突然聞こえて来る。
「ロンス少将!!大変です!!」
「イルナか。どうした?」
「合同演習を来週に早めると通達が...!おそらくシュトルヴ中将の提案が通ったと思われます!」
「それは困ったな...。何を急ぐ必要があるんだか。」
「ウチの隊も後少しはかかるってのに...。」
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「良かったんですか?合同演習、早くしろーなんて言っちゃって。」
第五衛生兵大隊の隊長執務室で白い制服に身を包んだ若い男がシュトルヴに慣れた口調で話しかける。
「ふふふ、大丈夫。第七混成部隊の変わり方を見たら居ても立ってもいられなくなってつい提案をしてしまっただけなんだから。それに、姪も来るかもしれないから。」
シュトルヴは椅子に座り、微笑みながら男に応える。
「姪、ですか?」
「そうよ。あの娘を見守り、導く事が私に許された唯一の贖罪なの。...あら、そろそろお祈りの時間ね。」
「自分は部屋の前で待っとくんで。何かあったら呼んで下さい。」
「ハティス、いつもありがとう。」
「どーいたしまして。」
ハティスと呼ばれた若い男は気怠げに返事をした後部屋を出る。部屋で一人になったシュトルヴは、座っていた椅子から立ち少し離れた位置で片膝を付く。
「我が主よ...迷える私をお導き下さい...。」
真っ白な執務室にシュトルヴの祈りの声が静かに響く。どこか神秘的な光景が生まれる中、時間はゆっくりと過ぎて行く。
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「えええ!?一週間後ォ!?」
「そんな無茶なあ!」
広い訓練場に第七混成部隊の隊員の悲痛な叫びが響く。
「言った通りだ。一週間後に合同演習が行われる。一週間で更にレベルを上げなきゃならん。気合い入れるぞ!」
「くそぉ...やるしか無えのか...!」
「やるしか無いなら覚悟決めろ!俺はやる!」
「イシュの姐さんと姉貴の顔に泥を塗るマネは出来ねえぞ!」
「隊長、組み合わせ表はもうあるんですか?」
戸惑う隊員をトレイズが鼓舞すると、隊員達は選択肢が一つしか無い事を悟り全員が闘志を見せる。そんな時モンシアからトレイズに質問が飛ぶ。
「これだ。自分が見たら他の奴に回していけ。」
「どうも...これは、うーん...。」
トレイズは丸められた紙をモンシアに渡す。受け取った紙に書かれた文字を見たモンシアは途端に険しい顔になる。紙にはこう書かれていた。
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合同演習 大隊組み合わせ表
第一、第五、第六大隊 対 第二、第三、第四大隊、第七混成部隊
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「これは...なんとも...。」
「まあ最悪の予想が当たったわー...。」
「第五と第六が敵かー。詰んだ。」
組み合わせ表を見て先程とは打って変わって次々と絶望し始める隊員の前にセルカとルイス、そしてイシュが立つ。トレイズは三人に何やら耳打ちをする。何かを聞いた三人は少し恥ずかしげに戸惑う。
「一緒に頑張ろ...?」
「オレの為では頑張れないか...?」
「ボクじゃダメ?」
「「「やります。」」」
「ハハハッ!それなら早速行くぞ!」
そして六日間の特製訓練と休日の後、いよいよ合同演習が始まるのだった。
さてトレイズ編、そろそろ畳まないとですね!




