可愛い副隊長
遅くなりました!気付いたら寝ていたのです...。
「いやいや、本当にごめんねトレイズ君。」
「俺は大丈夫だ。それで、俺達が軍に入る件は大丈夫か?」
「心配無いよ。僕の推薦って事でもう配属される部隊と階級なんかも決まってる。」
「流石、仕事が早い。ありがとう。」
闘技大会のあった日の翌日、トレイズ達は宮殿にあるカレンの私室に訪れていた。
「そしてトレイズ君...後一つ、頼みがある。」
「何だ?」
「君には『第七混成部隊』の隊長を頼みたいんだ。あの部隊は除け者にされた亜人達や犯罪者達みたいな社会不適合者を集めた部隊でね。君ならこの部隊を纏められると思ったんだ。」
「前の隊長はどうした?何かあったのか。」
カレンは一旦何か考えた様な表情をした後、若干引き攣った笑いを浮かべて話を再開する。
「ハハハ...笑えない話、前任の隊長はこの前部下と喧嘩して、文字通り八つ裂きにされた状態で見つかってね...。副隊長も逃げちゃったからもう誰も居ないんだ!頼む!」
「そんぐらいなら大丈夫だ。まあ矯正の過程で一人二人居なくなっても構わねえよな?」
「あくまで先に仕掛けられた時だけなら何してもいいよ。それで問題が減るなら安いモンさ!」
「よし。なら早速そこに向かうか。」
「そうだ。これが軍属である事を示す階級証に、自分の階級を示すバッジ。はい、イシュ君にセルカさんも。」
「ありがとうございます。」
「ふむ。」
カレンはそう言うと机の上にあった箱から金属製のカードと、キメラの様な生物が描かれている金属製のバッジをトレイズ達に差し出す。
「『帝国軍 第七混成部隊 隊長 トレイズ少佐』か。」
「『帝国軍 第七混成 部隊 副隊長 イシュ大尉』ですか!何だか凄そうです...!」
「『帝国軍 特別戦術顧問 セルカ大佐』...ってオレだけ階級高くないか!?しかも役職よく分からないのだし...。」
「一応セルカさんもトレイズと同じ部隊だから安心してくれ。」
早速トレイズ達はそれぞれの服の上からバッジを着ける。トレイズとイシュのバッジも意匠等が少し違う様で、セルカのバッジは一際細かく装飾が施されていた。
「行こトレイズ!なんだか面白そうだし!」
「そうだな。じゃあ行ってくる。結果を楽しみにしててくれ。」
「頼んだよ。君達が最後の砦なんだから。」
カレンの私室から出てルイスの先導で玉座の間から出ると、大扉の前で何故かロッシェが待っていた。
「おおセルカ姉様!やはり軍に所属すると言うのは本当だったのですか!」
「何でお前がここに居る!?」
「朝姉様に会いに行こうと思っていましたら見かけたので付いてきました!」
「お前の熱意には呆れたよ...。」
「僕もセルカ姉様と同じ部隊になれる様皇帝陛下に直談判して参ります!ではっ!」
「は!?おい、待て!!」
ロッシェはセルカの静止も聞かず、玉座の間に走って行ってしまう。
「ええ...。」
「諦めろセルカ。行くぞ。」
「何故だ...。」
項垂れるセルカを連れ、ルイスの案内で帝国軍の帝都本部に赴く。帝国軍の本部という事もあって鎧を着た大勢の兵士達が訓練をしていた。
「第七混成部隊の宿舎なんかはこっち。好きに魔法とか撃つ連中だから場所を広く取って貰ってるらしいんだ。まあ単に近くに置きたくないだけだろうけど。」
「良いじゃないか。型にはまらない連中程面白いもんだ。」
「トレイズ分かってるう!」
ご機嫌のルイスの案内で本部を奥に進んだ所の更に奥に、無駄に広い訓練場と第七混成部隊の拠点はあった。拠点であろう建物に向かって歩いていると、前方から狼人の男が歩いて来る。手には酒瓶らしき物を持っており、鎧をだらしなく着て腰には剣を差していた。
「誰だアンタら?こんな厄介者の集まりになんか用か?」
「本日付けで第七混成部隊の隊長になったトレイズ少佐だ。宜しく頼む。」
「副隊長になりましたイシュ大尉です!」
「ハハハハハッ!!冗談だろ?何でお前みたいなのとエルフ何かの下に『バガンッ!!』...あ?」
笑い出す狼人の男の足元に深い穴が穿たれていた。男は一瞬の出来事を理解出来ずに固まってしまう。
「口の利き方に気を付けろクソ野郎が。さっさと自分の階級と名前を言ってほかの連中連れて来いや。それと次そんな口聞いたら腕切り落とすぞボケ。」
「うっ...モ、モンシア中尉だ...これでいいか...?」
「モンシアだな。よし、他の連中を全員連れて来い。言う事聞かない奴は報告しろ。殺してでも連れて来る。」
「な、何だってんだ...!」
モンシアは全力であろうダッシュで建物の中に走って行く。暫く待っていると、建物の中から続々と兵士らしき男達が出て来る。
「つ、連れて来たぜ...。」
「モンシア、何だってんだ?」
「新しい隊長が来たってのは本当なんスか?」
「う、うるせえ!まずは隊長の話を聞いた方が速そうだぜ...。」
「珍しいじゃねえか、モンシアがそんなにビビるなんてよ?」
総勢30名ほどの兵士達はカレンの説明通り、多種多様な種族で構成されていた。モンシアに話し掛けている大柄な牛頭の男と細身の男を始め、主にガラの悪い兵士達が集まっていた。
「今日から第七混成部隊の隊長に任命されたトレイズ少佐だ。」
「副隊長のイシュ大尉と申します!」
「特別戦術顧問のセルカ大佐だ。」
「大佐だってよ...。」
「何だって急に...。」
「何かあったのか?」
何故かセルカの階級を聞いた兵士達が驚く。どうやらセルカの階級は相当高い物らしい。
「早速だがお前らには俺、イシュ、セルカの三人の中から選んで一対一をやってもらう。それでお前らの一通りの実力を測らせてもらう。やりたい奴から名前と階級を言って来い。」
「ガリオ伍長だ!俺はそこの大佐とやりてえ!」
「よし。ご指名だセルカ。竜化を許可するから存分に頼む。」
「そうか!なら良いぞ!」
セルカは意気揚々と訓練場の真ん中に行く。志願したガリオは腰にだらしなく下げていた剣を抜き構える。
「それじゃあ始めてくれ。」
「"竜化"!」
トレイズが開始の宣言をした瞬間にセルカは竜化魔法を使い、元の巨大な竜の姿に戻る。
「は?...何だこれ?」
『フハハハハッ!久々の竜化だ。楽しませて貰うぞ!』
ガリオは勿論、他の兵士達も驚きの余り声を出すことも忘れていた。
『行くぞッ!』
「まま、待ってくれ!」
『何だ!』
「降参だ...。」
「認めないと言ったら?」
「あんなのと戦える訳ないだろ!?」
「まあそんなモンだろうな。戻れ。セルカも戻ってくれ。」
『そ、そんな...ううむ...。』
ガリオはセルカが腕を振り上げた途端に降参してしまう。相手を無くしたセルカは残念そうに人の状態に戻る。
「さて、次の奴は?」
「ユズカ二等兵、俺は副隊長とやるぞ。言っとくが手加減は出来無い。ドラゴンとじゃねえんだ。楽勝だろ。」
「だそうだ。イシュ、頼んだ。」
「はい!張り切ってお相手します!少し痛いかもしれませんが我慢、して下さいね?」
イシュは可愛らしくお辞儀し、ユズカ二等兵に断りを入れる。
「それでは開始。」
「久々の戦闘だ...行くぞ!」
「"目覚めよ!"」
イシュの呼び声に応じ、地面から巨大な蔦がイシュを囲むように何本も突き出て来る。
「な、何だこれ!?」
「痛いのは我慢して下さいね!」
「そ、そんなっ!ぎゃっ!」
ユズカは蔦に殴り飛ばされてしまい、そのまま気絶してしまう。
「嘘だろ...あんな小さい娘が...。」
「ギャップ...良い...!」
「どうするんだよ!?」
「クソッ!もう少佐に挑むしかないだろ!?『黒蝶』と戦いたいのか!」
「セルカ...?ハッ!姉貴ってまさか!」
「セルカ様になら殺されても良い...!」
一番容易いと思っていた相手に仲間の一人が瞬殺された事で残りの兵士達の間にざわめきが走る。その中の何人かはイシュとセルカに熱い視線を送っているのだが。
「面倒になってきたな。よし、鬼ごっこをやろう。俺達が鬼だからお前らは逃げろ。全員死...捕まったら終わりだ。」
「「「今何て言おうとした!?」」」
「良いなー!ボクもやりたーい!」
「良いぞ。俺、イシュ大尉、セルカ大佐、ルイスが鬼だ。一人でも逃げれたらお前らはまた自由だ。」
「ちょ!ちょっとまっ...!」
「十数えるからさあ逃げろ。言っておくが敷地内だけだぞ?10...9...8...」
「逃げろおおおおお!!」
「まだ死にたくねえ!」
「うおおおお!」
トレイズが適当な説明を終えカウントダウンを始めた所で残りの兵士達は蜘蛛の子を散らす様に逃げて行く。
「1...0。よし、鬼ごっこ開始だ。」
「やりますよお~!」
「こういうのも悪くない...。」
「捕まえちゃうよー!」
四人は一斉に別々の方向に走って行き、暫くした後帝国軍本部のいたる所で兵士達の悲鳴が聞こえて来る。
「ぐあっ!何だ爆風が...うわあああああ!」
「な、何だこの蔦!?は、離せ!」
「クソッ!こっち来るな...は、速」
「なんで俺の所に来るんだよおおおおおお!?」
その後一時間と経たない内に第七混成部隊の全員が捕まり、この鬼ごっこは後に帝国軍の兵士達の間で噂になったと言う。
長引く予感...!?