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四の異世界英雄譚(旧:四人の悪人)  作者: サンソン
安曇清英編 第1章「魔王国にて」
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魔王様の教育論

今回ようやく戦闘回です、、、

魔法、それは神ギルテカリスのもたらした偉大なる叡智の一つであると言われている。

魔法を授かる以前から人は、自身の中にある魔力を漠然としたイメージによって行使していたが、ギルテカリスのもたらした魔法は「魔言」と呼ばれる決められた言葉を詠唱する事で、より明確な魔力の行使を可能とするまさに神の叡智と呼べる物だった。

そして、魔法には6つの属性がある。

赤の魔術、人間の持つ愛、情熱。戦いの象徴。

青の魔術、万物の祖。生命の象徴。

黄の魔術、裁きの光。激情の象徴。

光の魔術、邪を滅す力。慈愛の象徴。

闇の魔術、光と相対する力。不滅の象徴。

無の魔術、世界の理を司る法。絶対的な天秤。


新たな魔法を創造出来るのは神ギルテカリスのみだと長らく考えられて来た。

しかし英雄アスカントの仲間の一人である賢者カルナは唯一人、新たな魔法を創造しうる領域に達し、新たな魔法を使いアスカントらと戦ったと伝えられている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「一説には、彼が最初の『魔道王』だったと言われているんだ。」

「魔法、ですか...」


俺は、城からダンジョンに向かうため魔王国の街を歩く道すがら魔王様から魔法の歴史についての解説を受けていた。


「この街、意外とキレイですね...魔王の国の街とは思えませんよ...」

「失敬な。でもまあ最近ようやくやっと、城下町周辺が改善出来てきた所だがね。」


街は想像と全く違っていた。道は石畳で舗装されていて周りには石造りの建物が並んでいて店等もあり、活気があった。


「ちょっとやりづらいですね...」

「そこは勘弁してくれ。一応君の話は広まってしまっているからね...。」


周りの魔族から好奇の目で見られるのは流石に落ち着かなかった。それに、明らかに値踏みしてたり侮ってる様なのもいたからさっさと抜けたい...!今更だけどアスィのせいでもあるんじゃないの!?


「ふふふ、凄いわ。有名じゃない?セイエイ」

「やめてくれよアスィ。こんなの本意じゃないし何より落ち着かないよ...魔王様、まだですか?」

「セイエイ君、魔王様じゃない。ここではハルさんだよ?分かったね?」


言っとくけど魔王の娘と並んで歩くアンタも注目されてるからな!!本当に正体隠してんのかよ!!


「まおっ...ハルさん、後どれくらいかかるんです?」

「この城下町を抜ければ貴族街に出る。そこからは獣車さ。」

「貴族街って...」


視線に晒されながらも城下町エリアを出る。貴族街は建物一棟一棟の感覚が広い上に建物がさっきの城下町エリアの建物とは違って立派だった。

貴族街を観察していると前から来た豚のような頭の男に声を掛けられる。


「おやおや、これはこれはアスィ様ではありませんか!何をしに行かれるのですかな?それにお連れの方は...弟様に、例の勇者様ではありませんか!!」


へっ?弟?


「これはクデブ子爵。ごきげんよう。」

「今からダンジョンに行くのよ!」

「あ、安曇清英です。」

「アルル様が外出とは珍しい事で。しかし大丈夫なのですかな?セイエイ殿と言ったか、果たして使い物になるのですか?」


くっ...弟設定にも驚いたが、言わせておけば人をモノ扱いか...!?


反論しようとした所で魔王もといハルさんに静かに制される。


「クデブ子爵、今の言葉は聞き捨てならない。勇者殿は我ら魔族の光となる方だと父から聞いている。それ以前に彼は魔王の客人だ。無礼は許さない。」

「セイエイをモノ扱いするなんて、セイエイが許しても私は許さないわよ!」


誰が許すか。にしても魔王様の気迫凄いな。子爵怯んでるし。


「ッ...!し、失礼しました。そ、それでは私はこれで...」


そう言うとクデブ子爵は護衛の兵士とそそくさと立ち去ってしまった。


「相変わらず卑しい奴だよ全く...」

「お父様、やっぱり私アイツ嫌いよ。」

「魔王様、ありがとうございます。ところで今の奴は...?」

「彼は、クデブ子爵。一応有力貴族だよ...どうやら彼も密貿易に関わってるみたいなんだが、イマイチ証拠が掴めていなくてね。貴族の領地に踏み入るのは魔王でも面倒なのさ。」


そうなのか。にしても、いかにも悪い貴族って感じだ。てかアスィのあの嫌がり様...相当だな。


貴族街を少し歩くと、俺の知ってる2倍のサイズのたてがみの物凄い長い馬のような生物の引く乗り物が止まっていた。


「さあ行こう!乗って乗って!」

「これは何て名前の生き物なんです?」

「これはゴブホース、ナリア人的には魔大陸馬ってとこなのかな?。ここら辺では荷馬車を引いたりするのには欠かせないんだ。ナリア大陸の馬と違ってより厳しい環境に適応するため筋肉がより発達しているのさ。あ、一応魔物だからね?蹴りを食らったら人間なら首が普通に飛ぶから、気を付けてね。」

「サラッと怖い事を...」

「その話は行きながらでいいじゃない!早く行きましょうよ!」

「分かった分かった。それじゃダンジョンに向けて出発だ。 言っていた場所まで頼む。出してくれ。」


魔王様が従者に声を掛けると魔大陸の馬車は走り出す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「まさかセイエイ君が馬車ダメな人とは思ってもいなかったよ...フフフッ...」

「ダメな男ね...」

「いや、俺もここまでダメとは思わなかったし...笑い事じゃ無いですよ...」


あの後、馬車に乗ったはいいものの自分が馬車酔いする事等分からなかったせいで酷い目に会った。


「あああ...まだ少し揺れる感じがするな...」

「これからダンジョンだけど、大丈夫かい?」

「大丈夫です。やれるだけやってみますよ。」


ダンジョンは遺跡のような入口をしていた。なんでも腕試しや特殊な性質を持つダンジョン製の武器やアイテム、通称"マジックアイテム"目当てに入る魔族も大勢いるらしいから入口だけでも整備したんだとか。


「挑む者は居ても帰ってくるのは少ないのさ。ここを踏破したのなんて歴代魔王や規格外の戦士ぐらいだよ。」

「そんな所なんすかココ!?」

「まあね。近いし、強くなれるし一石二鳥かなって。」

「死んだら意味無いでしょォ!?何言ってんです!?」

「私も行くのは初めてなんだから!!大丈夫よ!お父様が居るんだもの!大丈夫よ!」

「え?初めてなの?実戦は久しぶりって...」

「ダンジョンには入った事は無かったの!お母様がダメだって聞かなくて...」


魔王様から耳打ちで話される。


(アスィは英雄譚とか好きな娘でね。魔王とか勇者に憧れてるんだ。実戦って言っても、僕の見守る中で弱った下級の魔物を倒したぐらいなんだよ。言うなよ?怒るから。)


マジかよ益々心配だよ。大丈夫か...?


ダンジョンに入ると、入口からは想像出来ないぐらい洞窟だった。それでも松明で照らされているから中は思ったより明るいのだが。

少し歩くと目の前に俺の身長程はあるだろうかという程の巨大な蟻がいた。


「コイツは...?」

「キラーアントだよ。ここでは最上層の魔物さ。」

「これが、魔物...」


話を聞くのと実際に見るのとでは話が違う事を嫌でも理解させられてしまう。足が竦んでしまう程、初めて見る魔物の威圧感は凄まじい物だった。

思わず篭手を着けている手に力が篭もる。


「セイエイ君、魔力は単純に身体能力を強化する使い方もあるんだ。体の中にある魔力を循環させて体を守るイメージをするんだ。出来るね?」

「えっ、こう、かな...?」


自分の体の中に確かにある漠然としたエネルギーを血流に乗せて全身に運ぶイメージをする。

不思議な感覚だった。体が軽くなる。最高に調子の良い時みたく体が動く。


「凄い...!これが身体強化...?」

「凄いぞセイエイ君!アスィでも習得するのに1週間掛かったのに!」

「お父様!そんな事より、正面から3匹追加!来るわ!」


俺達をようやく敵と認識したキラーアントが巨大なアゴを開いて猛然と襲いかかる。


「ハッ!」


飛びかかってきたキラーアントの1匹を魔王様は後ろ回し蹴りで粉微塵にしてしまう。


「さあ!セイエイ君!アスィと協力してキラーアントを殲滅するんだ!」

「手伝ってはくれないんですか...アスィ、やるしか無いみたいだ。」

「分かってる。お父様の力を借りなくたってやってみせるわ...」


俺は先程覚えた身体強化を使い、覚悟を決め一気に踏み込みキラーアントに肉薄する。近くで見ると、その大きさがイヤと言うほど分かるキラーアントの頭に、習っていた空手の要領で渾身の正拳突きを叩き込む。


「ハアッ!!」


身体強化で勢いを増した俺の正拳突きを受けたキラーアントは頭を粉砕され飛んでいってしまった。


「やった...!やったぞ!」

「凄いなセイエイ君。予想以上だ...」

「私だって...やってみせる!」


この篭手、凄いぞ...!殴った衝撃で来る痛みが殆ど無い!それに傷一つ無いなんて、魔王様が熱中する訳だ。


「てぇいッ!」


アスィは背中に納めていた大剣でキラーアントを横から刃を叩き込み1匹倒すと、剣を抜く勢いでもう1匹のキラーアントも叩き切ってしまう。


「お父様!私やれたわ!」

「アスィ、君もやるね。やはり僕の娘みたいだ。」


本当にあの大剣を振り回すとは思っていなかったから物凄く驚いてしまった。可愛い見た目して使う武器が大剣とは、ねえ?


キラーアントを倒した俺達はダンジョン探索を再開するべく再び歩き出す。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「次は魔法を習得しよう。」

「魔法ですか。」

「ああ。セイエイ君の篭手を見てて面白そうな事を思い付いてね。だがまず初級編だ、正面から来るキラーアントに"ファイアボール"と唱えるんだ。」

「...?分かりました。こうか!?"ファイアボール"!」


右手をキラーアントに向けて突き出し、言われた通りに詠唱する。すると右の篭手からバスケットボール大の火の玉が飛び出しキラーアントに着弾する。たちまち爆発、炎上しキラーアントは一瞬で消し炭になってしまった。


それを見ていた魔王様は唖然としていた。


「.......おかしいな。あんな威力出たっけ?

...あっ、ラルド石で効果が増幅されて...!成程あの大きさなら納得が行くぞ...!」

「あっ俺、合格ですか?」

「合格も合格さ!フラフラしたりしないか?初めての魔法だからね。」

「ええ。大丈夫みたいです。」

「私だって!"ファイアボール"!!」


しかし、アスィの手から出て来たのは明らかに小さい野球ボール大の大きさの火の玉だった。当然、キラーアントに傷を付けられるはずも無く、逆に怒ったキラーアントはアスィ目掛けて飛びかかる。


「うるさいわね!!」


キラーアントの奮闘虚しく、呆気なく大剣で真っ二つに切り裂かれてしまう。


「アスィの場合は赤の魔法は苦手なのかな?その分他の魔法に適正があるよ。ハイ落ち込まない。過去にもそういう戦士は大勢いたさ。でも身体強化に特化した戦士もいたからまだ可能性はあるよ。大丈夫大丈夫。」

「そうだよアスィ。赤魔法が使えなくたって何とかなるハズだよ。アスィは強いから他の魔法と身体を鍛えれば良いんだよ!」

「そう、よね。そうよ!セイエイになんか負けてられないんだから!」


俺でやる気を出してくれたようで何よりだが魔王様と二人がかりで励まして良かった。もしかして、この娘案外扱い易い?


そしてダンジョンを更に歩いた先で魔王様は突然立ち止まり、後ろを歩いていた俺達の方に向き直る。


「どうしたんですか?」

「お父様?」

「すまない。君達に言わなければならない事がある。」

「なん、ですか?」


唐突な物言いに思わず身構えてしまう。


「セイエイ君、アスィ。君達にはこれから2人でダンジョンを踏破、もしくは行ける所まで進んで貰う。」

「「.........は?」」


思わず声が重なってしまう。魔王様の言っている事がすぐには理解出来ない。


「必要な食料なんかはある程度用意した。ここで君達には自分の限界を知って貰いたい。そして、超えるんだ。」

「えっ?...えっ?本気で言ってるんですか?」

「本気さ。君達が本当に危ない時は助けるし、ここで出るモンスターの特徴や弱点、色々な魔言をまとめた本も渡しておく。」


魔王様の目は笑っていなかった。

知っているぞ。あの目は死地に自分の子供を送り出す親の目だ。


「このダンジョンで得られる色々な物を、得られるだけ得て僕の元に帰って来るんだ!勿論、逃げる事は許さないよ?英雄となる者には試練が必要だと思っているのでね。」

「お父様......」

「アスィ、セイエイ君と力を合わせて進め。必ずやこの試練は君達に力を授けるだろう。見守っているから大丈夫さ。では!」


そう言うと魔王様は黒い霧に包まれてしまう。その霧が晴れた頃には、もう誰もいなかった。


「...セイエイ、行きましょう。」

「行くしか、無いのか...!」


魔王様の言っていた事を信じてみる。


「腕の1本くらい、直るよね...?」


独り言を呟きながら動かす足は、今まで生きて来て感じたことの無いぐらいの重さだった。

感想、誤字の指摘などありましたら是非お願いします!!

しばらくは更新出来るだけ更新して行きたいと思っています!

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