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四の異世界英雄譚(旧:四人の悪人)  作者: サンソン
トレイズ編 第1章 「戦場は無くならない」
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存在証明

今回も宜しくお願いします!

「水先案内人...?」

「俺の死を持ってお前さん達を導いてやる。もし、主の教えが間違っていた事が証明された時は俺の墓に酒でも掛けてくれ。」


マルクは後頭部を掻きながらそう言うと、ダガーを六本同時に投げ、更に追加で取り出した十本を投げた後真っ直ぐ突撃して来る。その間に新たにダガーを取り出す。対するルイスは大剣を作り出し、両手持ちで真っ直ぐに構える。


「潔いな...ならば飛び込むまでだ!」

「これで、終わらせてみせる。」


飛来するダガーを極最小限の足の動きだけで回避し、大剣を突き出し羽を出して加速する。


「アレを避けるのか...やっぱ敵わねえな。」

「......バカ野郎。」

「そんな事言うなよ。一応今だって好きなんだぜ?」


ルイスの突き出した黒剣はマルクの構えたダガー全てを貫き、そしてマルクの腹部も貫いていた。マルクは少し苦しそうな表情を浮かべ微笑み、近くの壁まで後退りもたれかかる。


「治癒魔法の一つでも覚えときゃ良かったかね...。」

「喋り方、戻ってるね。」

「ああすりゃ決別出来るかなと。駄目だったから何も言えねえがな。さて、あんま長くねえし喋るとするかね。ゴホッ!」


マルクは血を吐きながら軽い口調で喋り始める。


「前にも言ったが、俺は孤児だった。原因は反皇帝勢力と帝国軍の武力衝突だった。俺が居たのはちいせえ村だったから、戦場になったらすぐに壊滅したよ。俺は運悪く生き残っちまってな...。」

「その後に、アスカントの連中が?」

「まあ、そうだ。俺は『純潔会』っていうメンバーの運営する帝国の孤児院預かりになった。そして、『俺』は消された。」

「『消された』?」

「文字通り、出生記録や親が居たことすらも『無かった』事にされた。消された後は、暗殺を中心とした戦闘技術や会話術の訓練をしたし、語学や様々な歴史、観光名所の情報なんかも叩き込まれた。表向きは『帝国のスパイ』としてな。

それと同時並行で主の教えも知った。主は俺を見てくれていると思ったし、枢機卿の命令通り、反抗的な異教徒や教会の邪魔になる人物や村は片っ端から消していった。

でも、任務を遂行している間に疑問が生まれた。『主は本当にこんな事を望んでおられるのか?』と。その時までに子供を何人も殺した。」


マルクは壁にもたれながら半ば自嘲する様に小さな笑みを浮かべながら話を続ける。


「枢機卿はこう言うんだよ。『主は平和な世界、主を信じる者のみの世界を望んでおられる。お前の行いはは正しいのだ。』と。俺はそれを信じた。そして、ある有力な枢機卿の娘が、魔法の真理に迫るかもしれない技術を持って逃げたという情報が入った。その娘は行方をくらましたが、結婚して国境近くの街に隠れて住んでいるという情報が入り、俺は仲間と共にその街に魔物を放った。」

「...それって。」

「ルイス、お前はアスカントで最も教皇に近いと言われるレヴナン枢機卿の娘であるシルヴァ・レヴナンの娘なんだ。一緒に来ていた仲間の一人、ジェスタはお前に『黒』が混ぜられてると知って激昂してシルヴァを殺し、お前に殺された。その後、俺は帝国のスパイとして『例の事件に関わった子供』を監視する為に派遣された。そしてお前達と出会った。帝国のスパイってのがバレた時は少し焦った。」

「マルク、バレバレだったから。思わず声に出て。」

「手も出てたけどな。お前と話せば話す程、心が痛かった。そして、恥ずかしいがお前に日に日に惹かれて行った。潔い性格に可愛らしい笑顔、類稀な戦闘センス。日を追う事にお前の全てが好きになっていった。フッ......死ぬ間際ならこんな事も言える...何だか不思議な気分だ。」

「そう、だね。マルクの気持ち、嬉しいけどごめんね。」

「良いんだよ。狂信者の事なんざいちいち気にしちゃ駄目だ。それと、ルイス。」

「なに?」

「遺言だ。お前かカレンが皇帝になれ。この事を知る重鎮はついでに殺しといた。もうすぐ応援が来るだろうから、まあなんだ、無理矢理やればなれるさ。カレンが起きねえ内に限界とは...情ねえ......じゃあな、ルイス。ありがとう。カレンによろしくな。これで、俺が居た証明が出来た...良い人生だったな...。」


そう言うとマルクは静かに目を閉じ、満足そうな笑顔で静かに息を引き取る。暫くして、気絶していたカレンが起きた後に応援が来る。


「これは...一体...!?」

「皇帝陛下...!!」

「皇帝陛下は反乱分子の手にかかりお亡くなりになった。犯人である暗殺者は私達で討伐した。」


兵士達が信じられないといった様子で次々と驚きの声を上げる中、カレンがそれを静かに制す。


「私が...『皇帝』になろう。」

「なっ!?」

「そんな無茶を...。」


カレンの突拍子も無い発言に兵士達は(どよめ)く。


「反対の者は私と戦い、勝て。一番の強者が皇帝となる。異論はあるか?」

「...っ。」

「...了解、しました。」

「玉座の間の片付けを頼む。そして新皇帝の発表、帝国七星への連絡も頼んだ。」

「ハッ!」

「これで、良かったんだよね?」

「仕方が無いじゃないか...僕達は託されたんだろ?」

「そうだね...。マルク...本当にバカ。」


『こうして、カレンは晴れて皇帝になった。本人は後からボクに代わる予定だった様だけどね。とにかく反対意見を持つ者は来い!でやってたら人気も出て、今に至る訳さ。』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「簡潔に話したけど、あんまり面白い話でも無かったでしょ?」

「いや、お前の印象が変わった。」

「?なら良かった。」


ルイスが自身の過去をひとしきり語った後、宿の部屋に窓から光が指し込む。


「ふああ...トレイズ様、おはようございますう...。」

「おはようイシュ。」

「ん...朝か?」

「セルカもおはよ!」

「朝から元気だなお前は。さて、風呂にでも入りたい気分だ。」

「ならボクも行く!」

「わ、私も行きます...ふわわ...。」

「そうだな。俺もついでに行っておくか。」


宿の浴場に四人揃って向かう。浴場はまだ朝早いせいか、人が居なかった。おかげでトレイズ達はゆっくりと眠気を取ることが出来た。浴場から出たトレイズ達は先日寄った服屋に『四日後に受け取る』と連絡した後、適当に依頼を受けるべくギルドに向かう。


「お!セルカ姐さん!」

「姐さんだ!」

「やはり美しい...!」

「あ?」

「どういう事だ...。」


ギルドに入って真っ先に出迎えたのは、この前セルカが蹴散らしたブリドとあの時周りで見ていた男性の冒険者達だった。


「姉貴!俺達みんな志は同じだったんで、『姉貴を守る会』を作ったんだ!どうだ!?」

「俺達で姉貴を守って見せますよ!」

「誰が貴様等みたいなのに守られるかッ!!ええい貴様らそこに並べッ!」

「姐さんが怒ったー!」

「うわー!!」


その後集まっていた冒険者の殆どがセルカに捕まえられ、椅子に脚を組んで座るセルカの前に冒険者達が正座させられていた。


「それで、そのなんたらの会というのは何だ?」

「違いますよ姉貴。正確には『麗しきセルカの姉貴を守る会』ですッ!あ、ちなみに旅団(ブリゲード)登録はとっくに済ませてます。」

「アホか貴様は!?何勝手な事してくれてんだ!?後そこのお前はさっきからチラチラオレの脚を見るなッ!」

「グハァ!」


セルカの着ていたスカートは丈が少し短く、脚を組むと長く美しい脚が一層綺麗に見えた。しかも男達は正座をさせられていた為、視線が低かった。男の(さが)を考えれば仕方の無い事だった。

しかし、そんな事は知らんと怒るセルカの一撃を喰らった男は紙切れの様に飛んで行ってしまう。


「セルカ、それくらいにしてやれ。お前に尽くすって言ってんだ。コイツら案外使えるかもしれんぞ?」

「そうですよセルカさん!これは愛ゆえの行動なのです!」

「イシュの言っている事は分からんが、トレイズの意見には一理あるな......。う、うーむ。」

「姉貴!トレイズのアニキの言う通り、誠心誠意姉貴に尽くしますから!だから何卒!」

「「「お願いします!!」」」


カレンは首を捻りながら暫く考えた後、溜息をつきながら呆れた様子で答えを出す。


「分かったよ...。認めるが、条件があるぞ。これを守れんのなら、実力行使のみだ。」

「何でも言って下さい姉貴!」

「一つ、オレとトレイズの命令には絶対服従。二つ、帝都の治安維持に努め、尚且つ色々な情報を集めて定期的に持って来い。これならどうだ?」

「楽勝ですぜ!!!」

「「「おお!!」」」

「返事早すぎだろ。少しは考えんのか。」

「姉貴に尽くせるんなら、どんな形でも!お前らァ!やるぞおおお!全ては姉貴の為に!!」

「「「うおおおお!!姉貴ー!!」」」


こうして、『麗しきセルカの姉貴を守る会』は正式に結成を許可された。そして、セルカを直接見て憧れた冒険者や噂を聞きつけて集まった冒険者達により、旅団は着々と規模を広げて行くのだった。

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