外の世界へ
今回も宜しくお願いします!
「だ!か!ら!私からトレイズ様に結婚を申し込んだんです!トレイズ様は無理矢理したりする方ではありません!」
「じゃ、じゃがイシュよ、七日じゃぞ!?結婚までとはちと早すぎやしないか!?」
「その七日で好きになってしまったんだから仕方無いじゃないですか!」
「じゃがのう...!」
「なあ、早く行かねえか?」
祝祭日の翌日、朝からイシュと村長は喧嘩をしていた。朝イシュとトレイズが出発の準備を整え村長に結婚の報告をすると、慌てた村長が引き止めようとして今に至る。
「トレイズ!イシュを泣かせてみろ!ただじゃ置かんぞ!それと、これは生活費だ。イシュの母が貯めていた物だから、大切に使うんじゃぞ?」
「分かってるって。それじゃ、世話になったな。」
「ありがとうお爺様、行ってきます!アトラ君とカイル君に宜しくね!」
「ううっ...イシュよ、行ってしまうのか...!」
「長老、ここは孫の門出を祝ってやるべきだ。」
「そう言う森神様は同行したいと仰っていたではありませんか?」
「妾は他の森の異変を調べねばならん。最近は何かがおかしい...。なに、イシュには何時か同行すると伝えている。あの娘の歌は素晴らしいからな、すぐ見つかるさ。」
「そう、ですな...。」
イシュとトレイズは森に向かう。結界を一時的に解いてもらい、帝国のすぐ下に出れる様にして貰っていた。そこから北上すれば帝国に到着出来る事になる。
二人は歩きながら今後の目標について話し合う。
「さて、帝国に着いたらどうする?」
「やはり、冒険者になるべきだと思うんです。生活費も稼げますし、強くなれば色んな情報も入ってくると思いますし!」
「そうだな。先ずは稼がないとってか。決定だ。」
「はい!」
暫く歩いていると森の出口が見える。ここに来て結界の凄さを実感してしまう。その出口から森を出ると、丘の様な所に出る。
「おお、本当に出た。」
「これが外の世界...!」
「下に行けば人のいる村に着くらしい。先ずはそこで必要な物買ったりしないとな。」
「私エルフなんですけど大丈夫でしょうか...。」
「大丈夫だ、堂々としろ。せいぜい少し珍しがられるだけだ。手を出す奴がいたら殺すがな。」
「殺しちゃダメですよ...!」
「手加減はするさ。」
「心配です...。」
村を目指すべく林の中の坂を下って行く。暫く坂を下っていると、狼の様な魔物が周りの林から六体程出て来る。魔物はこちらを威嚇しながら攻撃するチャンスを探している。
「なんだありゃ狼か?まあどっちにしろ敵だ。戦闘態勢!」
「分かりました!"目覚めよ!"」
蔦が地面から突き出て狼の様な魔物を襲う。半分の三匹が蔦の薙ぎ払いによって吹き飛ばされ、後の三匹は驚いて逃げて行ってしまう。
「あ、逃げちゃいました。」
「まあこんぐらいでいいだろ。さ、行くぞ。」
「分かりました。」
歩みを再開し暫くすると、すぐ下の方に村が見える。村と言ってもイシュ達の居た村と違い、大きな建物が何棟かある中々の規模の村だった。村に向けて歩を進めながら帝国の法について説明する。
「凄い...!私の村とは大違いです!」
「『帝国領バイコヌール村』か。ここからは帝国の法律が適用されるから、気を付けろよ。」
「て、帝国の法律ですか?」
「そうだ。大まかに言うと、喧嘩を売って殺されても文句は言えない。不満なら力を示せ。この二つが主だな。勿論、殺人強盗とかは捕まるからな。」
「なんというか...その...シンプルですね。」
「元々、戦士の国だったからな。法律なんてあっても無くてもだろう。」
「そういうものですか?」
「俺は分かり易くて好きだぜ?」
「でも、危険そうじゃないですか!」
「お前が考えてる危険なら、とっくに帝国は滅んでるよ。」
「た、確かに。」
「予想以上に戦士ってのは冷静なのさ。」
村は大きな石壁に囲われており、これによって魔物の侵入を防いでいるらしい。早速村に入る為、詰所の様な所にいる四人の門兵らしき人物の一人に話し掛ける。
「すまない、この村に入りたいのだが。」
「ん?何か、身分を証明出来る物はあるか?」
「無い時はどうすればいい?」
「保険料として銀貨一枚を徴収する。払えば村で怪我や盗み等があっても、ある程度は補償が出る。」
「この金貨で二人分だ。釣りはあるか?」
「二人分?そのエルフは奴隷ではないのか?」
反射的とも言える動きで門兵に銃剣を突き付ける。突き付けられた門兵は驚きで剣を抜く事も出来ない。周りの門兵は少し遅れて剣を抜いて構える。
「コイツは俺の妻だ。奴隷なんかじゃねえ。次言ってみろ、殺す。」
「ト、トレイズ様!私は大丈夫ですから!」
「わ、悪かった。非礼を詫びよう。これは残りの銀貨98枚だ。」
銃剣を降ろし銀貨を受け取り、あらかじめ持ってきておいたポーチに銀貨をしまう。
「さ、行くぞ。」
「トレイズ様!すぐ銃を抜くのは悪い癖ですよ!」
「な、なあ君!」
「なんだ?」
「その剣をしまう鞘を作った方がいい。冒険者に絡まれて面倒を起こして貰うと困る。」
「了解だ。」
門をくぐり村に入る。人は多く活気があり、その人の中にはやはりこちらをチラチラと見る視線もあった。
偶然近くに居た、安い鉄の鎧を着けた冒険者風の男に話し掛ける。
「なあ、冒険者ギルドに行きたいんだが、どう行けばいいか分かるか?」
「ギルドか?それならあの建物だ。」
「あのデカイのか。ありがとう。情報料だ。」
「おっ気前が良いな。頑張れよ!」
ギルドの場所を教えてくれた冒険者風の男に銀貨を一枚渡し、入口から見て正面に見える大きな木造の建物に向かう。
「今のは?」
「チップだ。金を少しでも渡せばスムーズに話は進むもんだ。」
「ふむふむ...!」
建物の入口は大きな木の扉で、開けると中は屈強な男から細身の斥候職らしき男等冒険者達でいっぱいだった。中には酒場もあり、昼間からギルド内には酒の匂いが漂っていた。
「凄い!人がいっぱいですよ!」
「そうだな。手早く冒険者登録を済ませたい。身分証明になるやつは必要だし、さっさと生活費を稼げるようにならねえとな。」
「そうですね。でも私がいきなりなれるものでしょうか?」
「分からんが、お前の魔法ならすぐなれんじゃねえか?本気で戦ったら俺でも勝てる気がしない。」
「私とトレイズ様が戦う事なんてありません!」
「論点がズレてるぞ?」
「そ、そうでしたか?」
「まあいい。行くぞ。あのカウンター行けば何とかなるだろ。」
「本当ですか〜?」
イシュを連れて奥のカウンターの様な場所に向かう。カウンターには窓口が三つあり、三つそれぞれに受付嬢がいた。
「冒険者登録をしたいんだが、ちょっといいか?」
「冒険者登録ですね。お二人様ですか?」
「ああ。」
「それではこちらの書類に名前、年齢、種族を御記入下さい。その後はお一人様銀貨五枚で冒険者証をお渡しします。」
「分かった。イシュ、字は書けるな?」
「書けます!外に出る時に備えてちゃんと勉強していたんですから!」
渡された二本の羽根ペンの内の一本をイシュに手渡す。トレイズが書くのと同時にイシュも書き上げる。
「俺とコイツの分だ。宜しく頼む。」
「はい。お預かりしま...こ、これはエルフの王族文字じゃないですか!?」
「何だそれ。」
「トレイズ様、ですね。トレイズ様の書類は大丈夫ですが、お連れ様の書いた文字は帝国領では浸透していない物ですので...。私も辛うじて考古学は少し分かるのですが...。」
「あ、あれ?」
「新しい紙をもう一枚くれ。俺が代わりに書く。」
「かしこまりました。どうぞ。」
「すまんな。...イシュ、誰から習った?」
「その...本を見たりしてお爺様に聞いたりして...。」
「ど阿呆。見る資料間違ってるじゃねえか。」
「あう...。」
「まあいいけどな。これで大丈夫か?」
「...はい。ありがとうございます。冒険者登録は少し時間が掛かりますので、そちらでお待ち下さい。あ、過度な飲酒はお控え下さいね。」
「了解だ。」
「いよいよです...!」
カウンター近くにあった酒場の席の一つに腰掛ける。少し古びた木のテーブルと椅子は固く、テーブルの方は少し傾いていた。イシュとぐだぐだしながら席で待っていると、鎧を雑に着た屈強な冒険者風の男に声を掛けられる。
「なあ、アンタ。冒険者だよな?どこの種族だ?」
「俺か?俺は今から冒険者になる所だ。この肌は生まれつきだから、普通の人種さ。」
「それなら、そこのエルフはなんだ?エルフなんて買おうと思ったら宝石貨10万は必要でっ...!」
「本当にエルフってのは面倒らしいな?イシュ。」
「ト、トレイズ様...!だからすぐ武器を出すのはダメですよ...!」
トレイズは話し掛けて来た屈強な男の頭に銃剣を突き付ける。周りは少しざわめくが突き付けられた男は銃を知らない為、銃剣を見て不思議そうな顔をしながら弁明をする。
「お、おい待てよ。エルフなんて今の御時世見ようと思って見られるもんでもねえ。それなら、奴隷か何かと思うのが普通だと思うんだが?」
「そんなに珍しいのか。だが気に入らん。」
「トレイズ様!私は!大丈夫ですから!」
「おら、エルフの嬢ちゃんもそう言ってんだ。剣を下ろしてくれよ。」
「イシュがそう言うなら仕方が無い。」
イシュの必死の説得に渋々トレイズは突き付けていた銃剣を降ろす。イシュは胸を撫で下ろし安堵のため息をつく。
「トレイズ様、イシュ様、冒険者登録が...どうかされましたか?」
「いや、何でもない。」
「そうでしたか。冒険者登録が完了しましたので、カウンターまでお越し下さい。」
「ああ。分かった。」
先程話していた受付嬢が冒険者登録が終わった事を知らせに、トレイズ達の元へやって来る。受付嬢は周りの冒険者達の様子に疑問を憶えつつも、日常茶飯事として捉え仕事を優先する。
「こちらが冒険者証になります。紛失されますと再発行料金が掛かりますので、大切に扱って下さい。その他の説明はこちらのマニュアルに書かれていますので、こちらを参照して下さい。では、貴方に幸運があらんことを。」
「ありがとう。さて、どうするか。」
受付嬢から冒険者証であるカードを二枚受け取り、早速マニュアルに目を通していく。
「簡単な依頼からやって行きましょう!先ずはそこからです!」
「冒険者ランクに、旅団か。ふむふむ...よし、で何だ?」
「わ、私の話を聞いていなかったのですか!?」
「冗談だ。先ずはこの『ゲイルウルフ討伐』からやるぞ。倒せば倒す程報酬が増えるし、射撃訓練にもなる。」
「真顔で冗談と言うのはやめたほうが良いのでは?とにかく了解です!ふふふ!」
「はしゃぐのは良いが、一応命を賭ける仕事だからな。」
「大丈夫ですよ!」
浮かれるイシュと『ゲイルウルフ討伐』を受注し、来た道を戻ってあの林エリアに行く。林を歩いていると、早速背の高い植物を掻き分ける音がこちらに近付いて来る。
「よし、イシュ銃を構えろ。」
「はいっ...!」
トレイズは銃剣を構えイシュはガバメントを構える。音は着々と近付いて来る。今までとはまた違った緊張に、トレイズとイシュの銃を握る手にも力が入る。
そして、植物と植物の間から二つの大きい影が出て来る。
「アルザ!早くここを離れないと...え?」
「どうしたんだセルカ...え?」
「あ?」
「え?」
草の陰から出て来たのは見覚えの無い黒い長髪の美人と見覚えのあるエルフの男性だった。四人はあまりの出来事に言葉を発する事が出来ない。
「嘘...!」
「何故だ...!?」
「「なんでお前が(貴様が)此所にいる!?」」
沈黙を破るトレイズとアルザの叫びが晴れた丘に響き渡る。
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