アルザの矜持
遅くなりました!今回も宜しくお願いします!
異世界モノか分からないのではと思いタイトル変えました!
『俺から行くぞ!"獄竜炎"!』
「フンッ!」
セルカが魔言を唱え口から赤黒い炎を勢い良く吐く。トレイズはそれに瞬時に反応し、銃剣で顎を撃つ。大きな衝撃で顔が逸れ、炎はトレイズとイシュには当たらなかった。
『何をしたっ!?』
「セルカ、気を付けろ。奴は見た事の無い武器を使う。」
『小癪なッ!』
「"目覚めよ!我が同胞達!"」
「なにっ!?」
イシュが魔言を唱えると地面から巨大な蔦が突き出てくる。本数も十本に増えており、イシュの感情で変わる物の様だ。
「『森の御子』...やはり神話通りの能力だが...。そのスキル、返して貰おうか!」
「アルザ...もう引けないのですね...。トレイズ様、私決めました。」
「ん?どうした?」
イシュは何かを決心した様な表情をし、少し声を震わせながら決意を述べる。
「アルザ、私が貴方を殺します。私が貴方を狂わせたのなら、私が終止符を打ちましょう。」
「...出来るものならやってみるがいい。ハアアアッ!」
アルザが剣を構えながらセルカと共に突進して来る。
「"守れ!" 今です!トレイズ様っ!」
「おう!」
「なっ!?」
『クッ!』
大木と見紛う太さの蔦が集まって壁となり、セルカの突進を阻止する。蔦の壁は想像以上の硬さだった様で、アルザとセルカは驚愕していた。その隙に横に回り込んだトレイズはアルザに向け、銃剣の引金を引き絞る。大量の弾丸がアルザに向かって一斉に殺到する。
「遅いッ!」
アルザは殺到する弾丸を全て見切り、凄まじい速さの剣技でそれを切る。あまりの速さにトレイズは自分の目を疑う。
「なんて奴だよッ!"リロード"!」
「確かにアルザは村で一番の戦士でしたが、あの速さの弾丸を見切るなど、普通では有り得ません...!」
「当然だ。私は主に選ばれし使徒なのだからな。」
「理由になってねえよ...!」
『ええい邪魔だ!"獄竜炎"!』
「うおおお!」
「熱いっ!?」
セルカが先程と同じ魔法で赤黒い炎を吐き、蔦の壁を焼き払う。炎は蔦の壁を焼き払った後も勢いは衰えず、危うく炎が当たってしまう所だった。
「なんだこの炎...消えねえぞ...?」
『俺の炎は魔力で出来ている。そうそう簡単には消えんぞ?』
「面倒だな...。」
「ハアッ!」
セルカの魔法の面倒さに困るトレイズにアルザが攻撃を仕掛けて来る。アルザとセルカは二つで一つと言った動きで攻撃を行ってきた。
「オラッ!」
「私の剣を受けるか!ならば、これならどうだ!"ストラトス"!」
セルカの上から振り下ろされる剣を銃剣で受ける。互いに押し合い、膠着状態となった時アルザが魔言を唱える。すると、アルザの剣が輝き始める。
「ぐっ...うおおお...!」
「おおお...!」
受ける側のトレイズが徐々に押され始める。
(何だコレは...!?急に剣が重くなりやがった...!)
「"貫け!"」
「くっ!」
その時、イシュの言葉と共に新しい蔦がセルカに一斉に突撃する。セルカは瞬時に回避行動を取り、大きく距離を取る。
「すまない。助かった。」
「いえ...。不思議な魔法にあの身体能力といい、アルザは最早エルフなのかも分かりません。気を付けて下さい...!」
離れた位置にいるセルカとそれに乗るアルザには、依然として大したダメージを与えられていなかった。踏み込もうとした時、アルザが突如胸を掻きむしり苦しみ始める。
「ぐうぅぅああ...!」
『発作か...!アルザ、しっかりしろ!』
「ハァハァ...こればかりはどうにもならないな...。さあトレイズ、次で終わらせてやろう!」
暫くして落ち着いたアルザは呼吸を整え、再びセルカと共に突撃して来る。
「ふぅん...ノーリスクじゃねえってか?望む所だァ!」
「行きますよ!"森の兵士よ!立ち上がれ!"」
トレイズが迎撃するべく弾丸をばら撒くのと同時に、イシュは新しい魔言を唱える。地面から生えた蔦が互いに絡まり合い人の形になっていき、五秒と経たない内に三体の木製ゴーレムが完成する。
「コイツはまたすげえな。"リロード"!」
「兵隊さん!お願いします!」
イシュの声によりゴーレム小隊はアルザに向かって行く。両腕から鋭い棘を生やしさながら槍兵の如く突撃して来るゴーレム達に、アルザとセルカは驚きを隠せない。
「こんな事も出来るのか!?」
『面白い!全て焼き尽くしてくれる!』
セルカから赤黒い炎が放たれ、ゴーレム達は炎に包まれる。
『たかが木偶如きが俺を足止めなど...何...?』
ゴーレム達は炎の中から再び姿を現す。体は至る所が焦げて炭化していたが、三体が動ける状態で立っていた。
「おーすげーなアレ。なんで燃えないんだ?」
「生木は水分があって燃えにくいのでは?」
「本当かそれ...。」
ゴーレム達はアルザに木の槍で攻撃を仕掛ける。アルザもセルカの機動力を生かし、ゴーレムを翻弄しつつ剣を輝かせる魔法で強引に斬り裂いていく。
「オー、ライッ!」
アルザの注意がゴーレムに向いている隙に、対物ライフル弾による狙撃をする。
「ぐああっ!」
『アルザ!』
音速で飛んで来る弾丸をアルザは驚異的な反射速度で防ぐも、セルカから弾き飛ばされてしまう。
「チッ、アレを防ぐたあ本当に生き物か?」
「クッ...何て速さだ...。」
『早く乗れ。アレがまた飛んで来ると流石の俺でも避けれん。』
「すまん...。」
弾き飛ばされたアルザは急いでセルカの背中に戻る。ゴーレムも三体全てが倒され、戦況は振り出しに戻る。
「"潰せ!"」
「ハッ!」
『てぇい!』
イシュが蔦による叩きつけを繰り出すも、アルザが斬りセルカが燃やすという連携により即座に防がれる。
「イシュ、援護を頼む。最悪俺ごと吹き飛ばしても構わん。一応、死なない程度にな!」
「分かりました!頑張ります!」
トレイズは弾丸を撃ちながら突撃する。アルザは剣で弾を斬り、セルカは鱗で弾丸を防ぐ。アルザとの距離が縮まる。
「これでも喰らってろ!」
アルザに銃剣を向け、弾丸を放つ。
「遅い!」
「やっぱりな。お前ならそうしてくれると思ってたよ。じゃあな!」
アルザは剣で弾を防ぐが、その剣には弾いたはずの弾丸が突き刺さっていた。
「何だ...!?」
「イシュ、伏せろ!」
「えええ!?なんですか!?」
『その剣を捨てろッ!不味い!』
「くっ...。」
急いでイシュを抱いて地面に伏せる。一秒後、剣に刺さった弾丸が凄まじい爆発を起こす。爆心地の地面は抉れており、近くには爆発に当たったアルザとセルカが倒れていた。
「ぶはっ!死ぬかと思ったぜ...。」
「トレイズ様っ!何をしたんですか!!」
「徹甲榴弾つってな。アレだ。壁を壊す用の爆弾使ったんだよ。」
「何でそんなもの撃っちゃうんですか!?」
「だってアイツ防ぐし...。」
イシュに注意されていると、倒れていたアルザとセルカが起き上がる。アルザは鎧が所々破損し、そこかしこから出血していた。
「今のは、魔法か...?一体何をした...!?」
『俺の鱗に傷を付けたな...!許さん!』
「うっわ...アレで生きてんのかよ...。」
「どどど、どうしましょう!?」
『死ねえっ!』
「ぐっ!」
怒りに燃えたセルカの突進を銃剣で辛うじて防ぐが、トレイズが徐々に押されていく。
「こんのトカゲがァ...!」
『このまま潰してやる!』
「なら...これでも喰らってろや!」
『なっ!?』
セルカを強引に引き剥がし、銃剣に『太陽弾』を装填、セルカに零距離を敢行する。放たれた『太陽弾』は前方に熱を放出しながら、回避行動を取ったセルカの胴体に直撃する。貫通とまでは行かなかったが、凄まじい熱風に晒されたセルカの胴体部分の鱗はドロドロに溶けていた。
距離を取るセルカは地面に前足をつき、苦しそうに呻く。
『グフッ...俺がこんなダメージを負うだと...!?有り得ん...。』
「どうしたセルカ!立て!貴様はそれでも"グローリー"か!」
片膝を付いていたアルザがセルカを叱咤する。その間トレイズは素早くイシュを守れる位置に移動する。
『うるさい...うるさいうるさいうるさいッ!俺を...私を...私を兄様と比べるなああああ!!』
「セ、セルカッ!」
『穏便に済ませろだと...?そんな事等知るかッ!"憤怒光"!!』
「不味いな...!」
「私に任せて下さい!"守れ!"」
激高したセルカが大翼を前に出し魔言を唱えると、口から赤黒い炎で作られた光線が放たれる。放たれた光線はイシュの作った蔦の壁に当たり、何層にもなる壁をどんどん貫いて行く。
「このままじゃ...持たない...!」
「森神ぃ!いんなら出てこいや!!こんの...クソボケがあああ!!」
トレイズが全力で叫ぶと、周りの森から光の玉が飛んで来る。光の玉は互いに集まり、人の形を作って行く。出来た形は髪が長く耳が尖っている典型的なエルフそのものだった。
そして、そのエルフの様なものは開口一番にこう宣う。
「様を付けろ!様を!」
「え、誰だお前。」
「??」
「森神だよ!!お前か!クソボケって言ったのは!!...ゴホン。『森の御子』の歌は素晴らしいと思っていたらこの状況。ならば、歌の礼をしようと参上したまでだ。」
イシュの作る蔦の壁に森神が触れると、地面から何十本かの大木が生える。大木が集まった壁はセルカの放つ光線を完璧に防ぎ切る。
魔法を防がれたセルカは、反動でダメージを受け力無く崩れる。
『ガハッ...!こんな...ハズでは...!』
「逃げろセルカ。トレイズがここまで出来ると予想出来なかった私の負けだ。死ぬのは私だけでいい。」
『ならばお前も...!』
「フッ...。セルカ、お前は最初から奴等に協力する気等無かったんだろう?なら、ここで死ぬ理由は無い。」
『......分かっていたのか。』
「ああ。どうせ私はもう持たない。奴等の企みが失敗すると考えれば、少し楽しいのさ。」
「アルザ...。」
「トレイズ、私は私なりにけじめを付けさせてもらう。...行け、セルカ。」
『......生憎、俺はそう言うのが嫌いなんだよ。行くぞ!』
「セ、セルカ!?」
突如セルカはアルザを掴み、空に舞い上がる。
『トレイズと言ったな!何時か世話になるかもしれん!その時は宜しく頼むぞ!ではな!』
セルカはアルザを掴んだまま生い茂る枝を焼き、飛んで何処かに行ってしまう。残されたトレイズとイシュはただただ釈然としないまま立っていた。
「一先ず...終わった、か。」
「そう、ですね...じゃないですよ!まだドラゴンいます!」
「そうだったな。よし、行くぞ!」
「お、置いて行くんじゃない!」
トレイズとイシュ、そして森神は急ぎ小型のドラゴンを殲滅しに行く。しかし、ドラゴンの影は無く代わりに死骸ばかりが見つかる。更に探していると突然爆発音が聞こえ、その方向に走るとそこにはアトラとカイルが立っていた。
「...トレイズ!生きてたか!イシュ様も!ん?そこのちっさいのは何だ?」
「あ、本当だ。誰なんだい?」
「お前ら!生きていたのか!このちっこいのは森神だ。本当から知らん。」
「この娘は森神様なんだよ!ちっこくて可愛いよ!」
アトラとカイルはローブがあちらこちら焦げていたり破れていたりしていたが、大した怪我は無く無事だった。
「誰がちっこいのだ!正真正銘の森神だ!アトラとカイルだな?お前達の歌は憶えてるぞ。かなり下手だった!」
「森神様...?」
「これが...?」
「な、なんだ。」
「嘘だろ?」
「さすがに信じられないよ。」
「お前ら...!」
怒った森神はアトラとカイルに木を操る魔法を使い、動く様になった木をけしかける。 何分かアトラとカイルと木達の追いかけっこが続いたが、カイルが木を燃やした事でお開きになる。
その後、焼け跡が多く残る村で宴が始まった。あれ程の襲撃にも関わらず犠牲者は一人も出なかったのは、アトラとカイルが直ぐに避難誘導をしたからだった。トレイズはエルフの宴好き根性に呆れつつも、イシュと共に森の幸で作られた料理と地酒を楽しむ。森神は村長や他の老人達と談笑しながら酒を飲み、アトラとカイルはとっくに酔いつぶれて寝てしまっていた。
「んぐっ...ぷはぁ!戦った後の酒は旨い!この魚か?分からんが旨い!」
「に、苦いです...。」
「イシュにはまだ早かったかもな。」
「そ、そうみたいです。」
「イシュ、明日にはこの村を出るぞ。また何時敵が来るか分からんからな。」
「分かりました。アルザの言っていた『奴等』を私達は探し、潰さなければなりません。アルザをこの様な事をさせた『主』を私は許しません...!」
「ああ、もしかしたら元の世界に帰る方法も見つかるかもしれんしな。」
「はい!」
「少し早いが俺は寝る。疲れちまった...。」
「あ、それなら私も!」
イシュと共に部屋に行く。イシュは途中でドラム缶風呂に入りに行ったので、トレイズは一人で部屋の床に寝転がる。暫く寝転がっていると、なにやら薄く少し透けているワンピースに着替えたイシュが部屋に入ってくる。
「...どうした?」
「エ、エルフは成人を迎えると、その、永遠を誓う伴侶にこ、告白をするそうですよ?」
「お、おう。」
「わた、私はその、トレイズ様が良い、です。だから...私とその...結婚を...。」
イシュは目に若干の涙を浮かべながら声を震わせながら告白してくる。
「俺は良いぞ。お前が良いなら断わる理由なんて無いからな。でも、なんでその格好なんだよ?」
「こ、これなら私の貧相な体でもトレイズ様は抱いてくれるかなと...。ルータルが『あの黒いのはこういうのが好きそう』と言っていたので...。ダメだったでしょうか?」
「あんのババアは...!まあ、着る奴によるが好きだ。......こっちに来いよ。」
「は、はい...!」
イシュと一緒にベッドに腰掛ける。イシュの手を握ると、一瞬肩を震わせる。
「その...なんだ、俺はお前を大切にしたいと思う。それに、俺も一目惚れしてた様なモンだしな。」
「そ、そうなんですか。」
「...。」
「ぁ...。」
「ええいめんどくさい!」
「キャッ!」
沈黙に耐えかねたトレイズはイシュの肩を掴みベッドに押し倒す。こちらを見上げるイシュの目は潤んでいる。
「あの、トレイズ様...。」
「......何だ?」
「その......優しく、して下さい...!」
目を瞑りながら可愛いらしく喋るイシュに、トレイズの理性は何処かに飛んで行ってしまう。
こうして、祝祭日の夜は静かに更けて行く。
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