祝祭日
今回も宜しくお願いします!早く上げたいのですが最近立て込んでおります...!暫くは遅れて投稿なります!
「おはようございますトレイズ様。」
「ああ。衣装、似合っている。」
「えへへ...。ありがとうございます!」
朝、イシュは成人の儀式用の礼服に着替えていた。礼服は緑のワンピースの様な服の上に、細かな装飾が施され前が開いたローブを羽織った様な物だった。
「さあ、行くぞ。」
「ええ。」
いざ村長宅を出て村の中心にある儀式会場に赴く。村の中心には既に村人が何人か集まっており、何時もの村と比べるとかなり賑やかな様子だった。
その中にはアトラとカイルも居た。こちらに気付いた二人が駆け寄って来る。
「来たか。こっちはまだ変わった様子とかは無いぞ。」
「怪しい奴なんかも見えない。本当に今日来るのかって感じだ。」
「成人の儀がもう始まる。全員持ち場に付け。」
「「了解。」」
「イシュ、俺達以外の奴が近付いてきたら誰であっても警戒を解くな。怪しい動きをしたら迷わず撃て。」
「分かりました。」
「よし、行くぞ。」
「はい...!」
イシュと共に村の中心の大木に向かう。大木は綺麗に飾り付けがなされ、近くには祭壇がある。恐らくここに立って祝詞を読み上げるのだろう。
大木の近くに居た妖しげな服装の老婆がイシュの元に来る。
「イシュ様、我等この日をどれ程待ち侘びた事か...。今日は森神様の降誕日と祝祭日が重なる特別な日。本当にめでたい日ですな...!」
「ありがとうございますルータルさん。私もこれで大人のエルフです。」
「それでは、こちらの台に。」
「はい。」
「イシュ、存分にやれ。お前は俺が守る。」
「はいっ!」
イシュが元気良く返事をすると、ルータルと呼ばれた老婆のエルフが集まった村人に呼び掛ける。
「これよりイシュ様の成人の儀式を始める!それではイシュ様、宜しくお願いします。」
「はい...。すぅ...」
深く息を吸ったイシュから聞こえてきたのは歌だった。透き通る様な声で紡がれる歌声に、トレイズを含めた誰もが聴き入ってしまう。少し遅れて、祭壇近くに居た村人達が木製の楽器で伴奏を奏でる。
「これは...森神を讃える歌か。」
「む。歌詞が分かるのか黒いの。」
「誰が黒いのだババアが。歌詞はまあ、なんとなくだが分かる。」
「古代の神祖ハイエルフが使っていた言葉だ。この歌で森神様をお呼びし、成人として認めて頂くのだ。」
「褒めないと来ない森神...。」
「褒めて伸びる御方なのさ。」
「そんなもんか...?」
イシュの歌が佳境に入ると、イシュ自身も気分が乗って来たのか歌声が一層艶やかになる。祭壇の周りには色とりどりの花が咲き乱れ、村一番の大木は枝に花と実をつける。気付けば、上からは花弁が舞い降り、下では鮮やかな花が咲き誇るという状況になっていた。
「こいつはすげえな...。」
「素晴らしい...!」
余りに美しい光景に驚きを隠せない。村人の中には感動で涙を流している者もいた。イシュの歌が終わりに近付いた時、突如として森がざわめき始める。
「おお、森神様が来るぞ!」
「今回の祝祭は何時もと違う!森神様も喜んでおられるのだ!」
「宴の準備だ!」
村人達が騒ぎ始める中、迫り来る違和感に気付いたのはトレイズだけだった。森は確かにざわめいているが、その中にこちらに近付く何かがいる。そして、ソレは唐突に来た。
「......ッ!!イシュ!伏せろ!!」
「えっ!?」
森の中から現れたのは大型の黒いドラゴンだった。ドラゴンはイシュの立つ祭壇に向かって突進するが、トレイズによってその突撃は無意味な物となった。衝突の際、凄まじい風圧で周りの建物が薙ぎ倒される。大型のドラゴンの後、小型のドラゴンが十匹程森から出て来る。
黒いドラゴンの背中には見覚えのある人物が立っていた。
「外したか...。」
『アルザ、奇襲は失敗だ。こうなったら徹底的に殺るしか無い。』
黒いドラゴンの上に乗るその人物はアルザだった。そのアルザを乗せる黒いドラゴンは、さも当然の様に喋っていた。
「アルザァ、やっぱりテメェが敵か!」
「トレイズ、私の前に貴様が立ちはだかるか。...フンッ。異世界だと?主の言った通りだ。貴様は主の敵だ。呪子諸共焼き殺してくれる!!」
『異世界か...。俺は興味がある。』
「セルカ、その話は後だ。今は目的を果たす...!」
アルザはセルカと呼ばれたドラゴンの上で腰の剣を抜き、戦闘態勢に入る。
「アトラ!カイル!ボサッとするな!来るぞッ!」
「アルザ...。クソお!!」
「やるしか、無いのか...!?」
「アルザ...どうしてです!貴方はこんな事をする様な者ではありませんでした!何よりエルフの未来を想う強く優しい戦士だった貴方が、何故!」
イシュはやはりアルザが敵だと信じたくないのか、村を襲撃した理由をアルザ自身に問い詰める。村は既に小型のドラゴンの攻撃により、狭く濃い戦場となっていた。
「うるさいッ!主の力を奪った盗人に何が分かる!?私はお前を殺し、エルフを理想郷へと導いてみせる!」
『良いぞアルザよ!覚悟せよ、我が竜炎に焼かれるが良い!』
「上等だクソトカゲェ...!アトラ、カイル、お前らは小さいトカゲの処理を頼む。此処は俺が持たせる。」
「分かった!」
「死ぬなよ...!」
「イシュ、お前は逃げろ。森の外でも良い、早く逃げろ!」
「嫌です!私も一緒に戦います!」
「こりゃ言っても聞かないヤツか!?」
「はい!」
「仕方ねえ!行くぞ!」
「行きますっ!」
アルザは胸に手を当て静かな表情で剣を空に向ける。
「主よ、必ずや勝利を...。」
『行くぞッ!!』
祝祭日の決戦の幕が今、切って落とされる。
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