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四の異世界英雄譚(旧:四人の悪人)  作者: サンソン
トレイズ編 第1章 「戦場は無くならない」
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種族の秘密

思えばかなり急展開というか、いきなり過ぎたかもしれません...。

何はともあれ、今回も宜しくお願いします!

「内通者がいる...。この村に...?」

「亜人狩りって言ってたな。それは何だ?組織でもあるのか?」

「あ、ああ。大陸全土に会員が居る、人種至上主義を掲げる『ユベンタ』っていう組織だ。人種以外をモノ扱いする奴等だ。一説にはアスカントの一部派閥から生まれたらしいが...。」


思わず頭を抱えてしまう様な事案だ。どこの世界でも宗教による争いはあるらしい。しかもそれが差別から来るものなのだから、余計に頭が痛い。


「...まあいい。石ころはまだ居る。さっさと全部片付けるぞ。」

「はいっ!」

「イシュ様...!」

「お強くなられた...!」


何やら魔道士二人組が目を潤ませながら感動しているが、そんな事は気にも留めずに残りのゴーレムを掃討するべく走る。


「ハアッ!」


別の場所でゴーレムとアルザが戦っていた。脆い関節部分に傷を付け、そこに魔法を撃ち込むという方法で着実にダメージを稼いでいく。最後に、魔法による攻撃で四肢を無くしたゴーレムの胴体部分に剣を突き立て止めを刺す。

戦っていたアルザに走り出したアトラが大声で呼び掛ける。


「アルザー!無事かー!」

「アトラ!俺は大丈夫だ。イシュ様は?」

「イシュ様ならトレイズと一緒にいたから無事だ。」

「またあの人間かっ!」

「落ち着くんだアルザ。どうした?」


アルザはひどく取り乱していた。周りを見ると、そこらじゅうに石の塊が転がっていた。どうやら彼が一人で残りのゴーレムを掃討したようだ。


「いや、すまない。少し...な。」

「アルザ、今日はもう休め。疲れているんだろう。」

「...そうさせてもらう。」


遅れてカイルがアトラの下に到着する。その後にトレイズとイシュも来る。戦闘の一部始終と会話の様子を遠目で見ていたカイル達はアトラに尋ねる。


「アルザ、どうしたんだ?」

「分からない。疲れているんだろう。アイツが残りのゴーレムを全部やってくれたんだからな。」

「それなら仕方が無いか...。」

「俺は疲れた...。先に戻っとくぞ。」

「そう、だな。」



疲れ果てた足取りで自分の家に帰って行く二人を見ながら、トレイズは思わず首をかしげてしまう。実はアルザが戦っていた時、助けに行こうと言うイシュを止め、遠くからアルザの戦闘を観察していたのだ。そして、その戦闘には気になる点があった。


(アイツの戦っていたゴーレム、明らかに俺が戦った奴より脆かった...。俺の推測が正しいなら、まるでイシュだけを狙って他の村人は傷付けない様な配置だった。)


「トレイズ様!何故アルザを助けに行かなかったのですか!?無事だったから良かったものの、もしもの事があったら...!」

「なあ、イシュ。」

「は、はい?」

「今から俺が言う事は絶対に他言無用だぞ?」

「え?え?あ、はい!」


突然声を小さくして喋り出すトレイズと『他言無用』というワードに思わずイシュの体が強張る。


「あくまで推測だが、アルザが一番怪しい。」

「!?」

「推測だからまだ分からんが、朝にアイツの姿を見なかった。そしてその後にこの襲撃だ。だが、動機が分からん。イシュ、アルザはどんな奴なんだ?」

「ア、アルザはこの村で一番の戦士です。兄弟のいない私にとっては、兄の様な存在です。彼は、エルフの繁栄を夢見る純粋な若者でした。でも何時からか、彼は神ギルテカリスに傾倒し始めたのです。おかしい、とは思っていました...。」

「神、か...。」


しかし、それとイシュがどう関係しているのかが分からなかった。


「よし。村長を問い質すぞ。」

「え?お爺様を?」

「あのジジイ、何か隠してやがる。行くぞ!」

「えっ?えっ?あ!ま、待ってください!」

「そうだったな。よっ!と。」

「ひゃあ!?」


自分のダッシュに付いてこれないようだったイシュをお姫様抱っこし、村長の家に身体能力を強化した足で向かう。

少し走ると村長の家に着く。イシュをお姫様抱っこしたままの状態で家に押し入る。


「オイジジイ!!」

「どわっ!な、なんじゃあ!?なっ!イシュは嫁には出さんぞ!?」

「違いますお爺様!!トレイズ様がお爺様に聞きたいことがあるって!」

「そ、そうなのか?そうじゃ!ゴーレムの襲撃はどうなった?」

「全部片付けたぞ。ところでジジイ、この村の戦力はどうなってる?」

「まともな戦力はアトラ、カイル、アルザの三人だけじゃよ。だからこそ、お主にも頼っている。」


村の戦力の少なさにトレイズは眉をひそめ、イシュは呆然としてしまう。今までの襲撃を全て彼らが凌いでいたのかと思うと、イシュの心は無力だった自分への憤りで満たされる。トレイズに頭をポンと叩かれ、イシュは慌てて我に帰る。


「お前が悪いんじゃねえんだ。女子供が無闇に戦おうとする方が間違ってるんだからな。」

「そう...でしょうか。」

「俺の経験からするとな。なあジジイ、イシュのスキル『森の御子』ってのは何なんだ?それにアルザの事といい、気になる点が多過ぎる。」

「そうじゃな...。」


村長は暗い面持ちで話し始める。トレイズはイシュと共に近くにあった椅子に座る。


「...エルフ族の英雄、ルプスは森神とエルフとの子だったと言われておる。ルプスには植物を自在に操れるスキルがあり、それを使って森の守護者となる筈だったのじゃ。しかし、彼女はかの英雄アスカントと出会い行動を共にする。そして、旅の末に戦いの傷が元で亡くなる寸前に彼女は神ギルテカリスに力を渡す事を断った。スキルは消え、神は森の力を得る術を失った。ギルテカリスがこの力を得られなかった故に、森は自由だと言われておる。」

「それで?」

「彼女の遺言には『森の御子』を持つ者が変革を齎すとある。それがイシュ、お前なのじゃ。」

「私が...?」


イシュは祖父に告げられた唐突な事実に、しばし呆然とする。イシュにとってはただの便利スキルとも言うべき物が、実は自分の種族の命運を握っていると言われたのだから無理もない。


「一応言っておくが、嘘では無い。...この際じゃ、わしらの事も教えておくぞ。これはわし以外知らない事じゃ。」

「私達の...秘密...?」

「我等は森神の血を継ぐエルフ『シント・ハイエルフ』じゃ。シント・ハイエルフは森の魔力を吸収すると言う強力な能力を持ち、それを『森の御子』が治めるという特殊な種族が故に、同じエルフからも距離を取りハイエルフよりも森の奥に籠る様になった。勿論、我等は皆ルプスの子孫じゃ。」

「ハイエルフ...?それって、王族のエルフ達ですよね?」

「うむ。わしは今もハイエルフの長と親交があっての。たまに用心棒を借りたしておる。」

「どうりで知らない方が居たりしたんですね。」

「そこはすまんの。わしもこれまでの襲撃と此度の襲撃は同じ者の仕業と見ておったし、監視もしていた。トレイズ、来たばかりのお主にはすまんが、正式に我が孫であり『森の御子』たるイシュの護衛を頼まれてはくれまいか?」

「そうだな...。」


顎に手を当てて考え込む。長老としてはトレイズ程の戦力を易々と手放す訳には行かなかった。


(ここに来てまだ一日だってのに、唐突すぎるが...面白そうではあるな。どうせ地球に帰るんだ。土産話の一つや二つ持っていくに越した事は無いな...!)


「いいぜ。その代わり...」

「な、なんじゃ?」

「今回の騒動が収まったら、俺はイシュを連れて外に出る。それがダメなら俺はもう好き勝手にやるさ。」

「なん...じゃと...。」

「え!?えええ!?」

「ダメならいいんだぜ?」

「ぐぐぐぐぐ...!し、仕方が無い、か。イシュもそろそろ成人じゃし、お目付け役にも困っていた所じゃ。うむ、いいじゃろう。」


長老は歯ぎしりをしながら考えた後、諦めたように首を縦に振る。戦力をこれ以上減らせない現状を考えれば、トレイズの提案のタイミングはかなり良かったと言える。


「良かったな、イシュ。」

「ええ!?あっ!はいっ!」

「さて、早速警護を...と思ったが眠い。俺は寝るから、イシュも来い。」

「えええ!」

「冗談だ。」

「冗談じゃったか...。」

「冗談ですか...。」

「何ガッカリしてやがる。」

「そ、そんな事はないです!」

「そうか。さっ、これからどうする?俺はお前に付いていくぞ。」


そう言うと、イシュはキョトンとした顔をした後すぐさま何かを思い付いた様な顔をする。


「私、トレイズ様とトレイズ様のいた世界の事をもっと知りたいです!」

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