不自然な襲撃
遅れました!今回も宜しくお願いします!
「早く始めましょうお爺様!」
イシュはいつの間にか茶緑のワンピースの様な服にケープを羽織り、準備完了といった様子だった。
「待て待て。まずステータス確認からじゃ。頭の中で"ステータス"と念じればいい。」
「分かりました...。」
長老にそう諭されると、イシュは目を閉じて考え込むような表情になる。本当に魔法を使ってみたいのだろう。先程から眉が細かく動いている。
「ところでトレイズ。」
「なんだ?」
「魔力を使った身体能力を強化する方法があるが、試してみないか?」
「そんなのがあるなら早く言えよ!」
「まあ待て。」
「待てじゃあ無いだろ!何で俺は魔物と力比べしてたんだよ!」
「落ち着け。これは簡単に出来る物では無いのでな。まず、自分の中を流れる血液の様に魔力を全身に回すのをイメージするのじゃ。そうすれば自然と出来る様になる。」
「...んっ。こうか...?」
「まあ、出来たら大したもんじゃよ。」
言われた通り、全身に魔力を循環させるイメージをする。最初は体が少し温かくなるだけだったが、徐々に体が軽くなっていく様な感覚がする。
「こりゃあすげえ...!力の入り方が違う!」
「出来たのか!?」
「分からん。フンッ!」
まだ強くなってるか分からない。足元にあった小石を持ち、遠くにあった的目掛けて全力で投げる。石は信じられない速さで飛んで行き、石の当たった的は粉々になってしまう。
「すげえや。」
「冗談のつもりだったんじゃがの...。まさか本当にやってのけるとは...。」
「あーーーっ!」
「どうした!?」
身体能力強化の凄さを体感していると、突然イシュが大声を上げる。
「ありました!」
「何が?」
「何がじゃ?」
「スキルですよ!プレシャススキル!」
嬉しそうなイシュの言葉に長老は一瞬固まってしまう。ようやく認識したのか、今度はなにやら青ざめながら驚く。
「幾つなんじゃ?」
「一つですよ!」
「俺は二つだ。俺の勝ちだな。」
「トレイズ様ずるいですよ〜!」
「ええい!勝ち負けではないわ!イシュ、スキルの名前と内容は!?」
「ええと...名前は『森の御子』です。内容は...植物を自在に操れんですって!凄い!」
「『森の御子』...じゃと...?」
長老は酷く驚いていた。その驚きの理由が分からず、トレイズとイシュは首をかしげてしまう。
「そのスキルがどうかしたのか?」
「いや...何でも無い。」
「お爺様...?」
「大丈夫じゃよ。イシュ、魔法の注意事項等はトレイズに聞け。魔言を纏めた本も渡しておくが、気を付けて練習するんじゃぞ?」
「分かりました!」
「それとトレイズ、練習が終ったら仕事について話がある。」
「分かった。」
「早速やりましょう!トレイズ様!」
「イシュは本を読んで適当にやってくれ。俺はコイツを試さないといけねえ。」
「朝にお使いになっていた武器ですか?変な形の剣ですね?」
「ああ剣だ。だが...?」
的に向けて引き金を引く。弾丸が放たれ、的を粉砕する。
「こういう武器でもある。」
「凄い!矢を飛ばした訳でも無いのにどうしてですか?」
「この武器は魔法で作った矢を放つ専用の武器なんだよ。」
「珍しい武器ですね...!私も負けてませんよ!"目覚めよ!我が同胞達!"」
イシュが魔言の様なものを唱えると、地面から大木の如き太さの巨大な植物の蔦が3本程生えてくる。その巨大な蔦は鞭のようにしなり、的を叩き潰す。
「すげえな...。今のも魔法か?」
「いえ、自然と魔言が浮かんで来たんです。植物を自在に操れるなんて、森神様に怒られないでしょうか...。」
「森神様?」
「私達エルフの住む森を守護して下さっていると言われている神様です。森神様が森を守ってくださっているからこそ、私達エルフは森で暮らせますし、植物達や動物達も健やかでいられるんですよ。」
「森神様、か。」
「七日後には私も成人と認められるんですよ!日付を数えるのがこんなに楽しいなんて!」
「成人か。成人と認められたら何かあるのか?」
「晴れて森の外に出る事が許されるんです!勿論、お目付役の方が付きますけどね。」
「その時は俺が付いていってやるさ。護衛としてな。」
「本当ですか!?冒険者になりたいです!母と同じ冒険者に!」
「親御さんも冒険者だったのか。」
「そう聞いています。」
「聞いている?」
「はい...。私が物心付いた時には父は既に亡くなっていて、母も冒険者を辞めていました。母は弓の名手でしたが、魔物の襲撃で私を庇って亡くなりました。」
「お前を庇って...か。それでもなりたいのか?冒険者に。」
「私は父と母が見た外の世界を見てみたいんです。それに...。」
イシュは服のポケットから小さな箱を取り出した。箱には金の装飾が細かに施されており、黒く重厚な物だった。
「母が死ぬ前に書いていた手紙に
『もし貴女が無事成人を迎えられた時はこの箱を開けて。箱には私達から伝えるべき事が入っています。そして、貴女は外の世界を見る義務があります。貴女が鍵なのです。』と書かれていました。」
「鍵?」
「分かりません。お爺様も答えてくれないんです。でも、私は外に出なきゃいけない。そう思えるんです。だって、これだけが父と母の事を知る唯一の手掛かりの様な物なんです。」
「親か...良いもんだな。」
「トレイズ様のお父様やお母様はどんな方なのですか?」
「俺の親は俺が5歳の時に殺された。目の前でな。」
「え...?」
「俺はその後に兵士として戦った。戦わないと殺される、戦えばいつ死ぬか分からない。そんな日々が続いた。運良く助かったが、結局俺に残ったのは戦う術だけだった。俺が食っていくには戦場で人を殺すしか無かった。」
「トレイズ様...。」
イシュは潤んだ目でこちらを見ていた。"守ってあげたい"という気持ちは本当にあったんだと思える表情だった。
「すまない。そう...なんだ、お前の話を聞いたんだから、俺も話さない訳にはいかないと思ったんだ。」
「トレイズ様...わた、私、てっきりトレイズ様を騎士の様な方かと思ってて...。ヒック!そんな経験をされていたなんて思わなくて...。」
「分かった!分かったから泣かないでくれ!」
「ううっ...でもぉ...。」
「どうしたものか...。」
泣き止む様子の無いイシュに困っていると、突如地響きの様な音が鳴る。
「なんだ!?」
「な、なんですか!?」
裏口から村長の家を出ると、村の中心に数体の石の像が歩いていた。数人のエルフが既に戦闘を始めていたが、その攻撃は石像達に大したダメージを与えていない様だった。その内の何体かはイシュを見て他の者には目もくれず迫って来る。
「あれは...ゴーレム様!?」
「アレが本物のゴーレムか。思ったより岩がそのままくっ付いたみたいなモンなんだな。」
「でもアレは余りに歪です!まるで...そう!人形です!神の森を護って下さる守護者様ではありません!」
「そうか。まあいい下がってろ。俺が全て倒す。」
「あの話を聞いたのに戦わないなんて出来ません!私も戦います!」
「言い出したら聞かないタイプか!分かったから無理はするなよ!」
「はい!分かりました!行きますよぉ〜!」
本日二度目の襲撃は唐突に、かつ不自然な程短い間隔で訪れた。
早めに村の外に出してもいいのかな...?とか思ったり。