まさに別世界
久しぶりの解説回。今回もよろしくお願いします!
「つまりここは『地球』では無く『ナリア大陸』の『帝国』の下にある『ナリア大樹海』にある『エルフ』の隠れ里なんだな!?」
「何度も言ってるじゃろうて。第一、何故村を囲う結界を越えられたのかも分からんしのお。」
エルフの村の長老兼村長の家で話を聞いているのだが、どうやら予想が当たってしまったらしい。ここは自分の知っている地球では無い、全く別の惑星なのだと。
(どうする...!?元の世界に帰る為には一体何をすればいい!?)
「なあ村長!」
「なんじゃ?」
「別の世界に行く方法ってのはあるのか!?」
「落ち着け落ち着け。あるにはあるが、それは神の使う魔法になるな。」
「魔法...だって...?」
魔法。自分の中のイメージでは杖から火を出したりする手品の類、という認識しか無い。
「その魔法ってのは俺にも使えるのか?」
「ああ使えるとも。決められた魔言を口に出せばありとあらゆる魔法を使う事が出来る。身の程を弁えねば死ぬがな。」
「つまり、自分に出来る範囲の魔法しか扱えねえ訳だ。」
「ふむ。お主見た目の割に理解が早いのう。」
「失礼なジジイだ。そんなに俺の見た目は珍しいか?」
「当たり前じゃろ。肌の黒い人種なぞ、生まれて初めて見たわい。」
「ハッ!こんな所に引き篭もってるからだろ?ジジイは何歳なんだよ?」
「ふむ...大体じゃが三千は行っていたと思うが...。」
「すげえなそれ。まあ歳の事はいい。俺に魔法を教えてくれないか?」
「お主が聞いたんじゃろ...。まあこれも何かの縁じゃしな。いいじゃろう。どうせ暇じゃし。ただし...。」
「ん?何だ?」
「暫くこの村で働いて貰うぞ?最近は村に強い魔物が迷い込む事が多くなっておるのだ。まだ誰にも被害は出ておらんが、この先どうなるか分からんしの。」
「へっ!用心棒って訳だな?それなら得意だぜ。警備員はあっちでもやってたんでね!」
「話は決まりじゃな。では早速始めるとしようか。」
「おうよ!」
そこから"魔法" "スキル" この世界の歴史等を村長から学んだ。
話を聞いて分かった事は
・この世界の種族は、最も多い『人種』、動物の遺伝子が残る『獣人種』、魔物と似ている部分が見られる『魔人種』、エルフやドワーフ等の『亜人種』(獣人種も入る事があるが、主に差別用語として使われる)、妖精や高位生命体、長い年月が経ち力を得た神獣等は『精霊種』の五つだ。
『魔人種』の中の『デーモン族』は修行やスキルで『悪魔』と呼ばれる精神生命体になる。
神の従える魂の無い兵士達を『天使』と呼び、稀に魂と自我を持つのが『堕天使』。
・1年は400日であり、1〜100日を『地の月』、101~200日を『陽の月』、201~300日を『天の月』、301~399日を『霞の月』、最後の400日目を『月落ち』と言う事。『月落ち』は新しい年が来るのを祝う祝日。昔からある英雄譚の暦をそのまま使っているらしい。
・帝国の通貨は『帝国貨幣』で、一番上の宝石貨から白金貨、金貨、銀貨、銅貨となっている。
シュレア王国は『ギルカ』と言う単位の通貨で、『王国通貨』とも呼ばれる。一番上から白金貨、金貨、銀貨、銅貨、鉄貨、青銅貨という順だ。
アスカントはどちらの国の貨幣も扱っており、両替の手数料等でも儲けているそうだ。
・ナリア大陸は北アメリカ大陸の下に巨大なオーストラリア大陸がくっ付いた様な形だった。
・ナリア大陸はメルカトル図法の地図上ではユーラシア大陸と同じ位置にあり、左側に魔大陸がある。
・魔大陸は大きく、ユーラシア大陸より少し小さいくらいだった。
・『魔法を覚える』と言うのは一般に『魔法を自分に合うように調整出来た状態』の事を言う。
・魔力は生命力の様な物で完全に切れると死亡し、枯渇しても死の危険がある。
・使っても身体に支障が出ない魔力の量は漠然とした感覚でしか分からない。
・この世界の『神』と呼ばれる、もしくはそれに近いのは『主神ギルテカリス』『死神(一部の地域では『天上神』とも呼ぶ)』『白神竜グローリー』の三つ。
という所だった。指導は長時間に及び、終わる頃にはもう外は暗くなっていた。
「ふむ、これで終わりじゃな。久々に暇が潰せて良かったぞ。」
「久しぶりの勉強は眠くなるもんだな...。」
「スキルや魔法は明日じゃな。しばらくは二階の部屋を使うといい。今日はゆっくり休むのだ。なんせ、お前はまだここに来たばかりだからのう。」
「ああ、助かる。」
外の空気を吸うために外に出る。久々の深呼吸は心地よく、森の綺麗な空気は格別だった。伸びをするついでに上を見上げると、昼間上を覆っていた枝は真っ直ぐになっており、昼の時間には見えない空には朧気な月と満天の星空が見えた。
「別の世界ってのも、悪くねえな。ふわあああ。寝るか...。」
村長に言われた通り、自分の荷物を持って二階の部屋に階段を登って向かう。部屋はなかなか広く、家具は一通り揃っていた。初めて見た時は簡素な木の家だと思っていたが、入ってみると非常に丁寧に作られており、かなり丈夫な家だと分かった。部屋も同じく丁寧に作られていて、木の温かみを感じる事の出来る部屋だった。
ベッドに寝転び、目蓋を閉じる。
(今日はハードだった...。明日からはいよいよ魔法を使う訳だから気を引き締めねえとな。一応、他の奴らにも声掛けといた方がいいのか?チラチラ見られるのは集中力が削がれるしなあ...。)
明日の事を考えている内に意識は遠のき、眠りに落ちて行く。トレイズにとっては滅多に無い深い眠りだった。
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早朝、唐突に目が覚めて起床する。脳がこれ以上休む必要は無いと判断したのだろう、そう考えながら体を起こし一階に降りる。体操でもしようと外に出ると、村の中心にある大木の前に少女が静かに立っていた。
髪は美しい緑のショートで耳はエルフらしく尖っており、こちらを見る目は茶色で顔立ちは美しかった。初めてまともに見たエルフの女性だったせいか暫く見とれていると、少女から声を掛けられる。
「あの、何か?」
「すまない、凄く綺麗だったからつい見とれてた。俺はトレイズ。昨日からこの村にいる。」
「長老様からお話は聞いています。私はイシュ。トレイズ様はこの村の用心棒になって下さるんですよね?」
「そうだな。俺が役に立てるかは分からんが、受けた恩は返すさ。」
「義理堅い方なんですね。長老様や大人の方から『人間は信用出来ない』と聞かされていたので、少し安心しました。」
「それで合ってる。何で俺がこの村に入れたのかも、仕事を任されたのかも分からんし、入った時点で殺されてても文句は言えなかったしな。俺みたいに用心棒とかやる奴の方が珍しいと思うぞ。」
「そうなのですね...。でも、私はトレイズ様が良い方で安心しました。」
(昨日まで何人も殺してたなんて言えねえな...。)
花の様な笑顔に良心が痛む。自分の過去を少しでもいいから話そう。そう考えた時だった。
ガオオオオオォォォォアアア!!
「キャッ!何!?」
「魔物か!?来い!村長の家の二階の部屋に俺の武器がある。俺はそれで戦うから、お前は部屋で終わるまで待っていてくれ。」
「わ、わかりました!」
イシュの手を取り村長の家の二階の部屋まで走る。遠目で確認したが襲って来た魔物は、大型の狼の様な魔物だった。
部屋にイシュを入れ、銃剣を手に取る。
「それがトレイズ様の武器なのですね...。」
「ああ。少しばかり行ってくる。此処で待ってろよ!」
「はい!お気をつけて!」
階段を降り、家の外に出る。外にはもう狼の様な魔物が何匹もおり、あちこちで戦闘音がしている辺り、既に開戦している様だった。
「さあ、初仕事だ...!俺のキャリアになってもらうぜ!」
まだ日が昇らない早朝にトレイズの初仕事は開始されたのであった。
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