ルリィの賭け
今回も宜しくお願いしますm(_ _)m
〜シュレア王国 某所〜
「『極星』のクリスが戻ったというのは本当なのか?」
シュレア王国にあるとある貴族の屋敷で、立派な服を着た二人の人物が深夜密かに話をしていた。
そこは大きく広い屋敷で、広大な庭に牧場と農園があった。
「確かな情報です。ルクエのギルドマスターからの報告でしたので。」
屋敷の主である貴族とは思えない程の逞しい肉体を持つ人物の問いに、細身の人物が答えた。
「これで、今いる五騎士が揃ったと。まあ、今は四人だけだから揃ったとも言えんのだがな。」
「そうですな。昨今は優秀な冒険者はいても、一際目を引く者は居なかった。しかし、じき勇者殿がその五人目となられるでしょう。」
「その勇者殿は使えるのか?トーチスが戦の準備を進めているとも聞く。」
「ご心配無く。正直に申しますと、アレはバケモノですよ。底知れぬ魔力、神話級の槍にプレシャススキル持ち。おまけにカリスマと怜悧さも持つ男です。」
「ふむ...。ところで魔王軍の動向も気になるが、何か報告は無かったか?」
「魔王軍も勇者の召喚に成功した様です。」
「何ッ!?それは本当か!」
「ええ。 しかし、その勇者がどうなっているかまでは分かりません。ダンジョンに向かったまま帰らないと報告を受けています。」
「チッ。使えない豚人だ。」
「それと、ルクエに優秀な新人冒険者が出たと報告が。なんでも、襲って来たルーキー狩りを逆に狩り返したらしいのです。」
「ほほう...?実に興味深いな...。」
「そのルーキーなのですが、『極星』と行動を共にしていたらしいのです。そして、黒髪に黒目という特徴的な姿だったと。」
「極星が目を付けた冒険者か...!実に興味深い!気付かれないよう監視を続けろ。」
「分かりました。ところで、お嬢様の事なのですが...。」
「ま、また娘が何かしたのか...?」
「い、いえ。ですが、そろそろ解雇か辺境への異動もやむを得ない程らしく...。」
「ああ!全くあの娘は!家に戻ってくればいいものを何でギルドの受付嬢なんぞに!阿呆な冒険者共に襲われたりでもしたら!」
「心中お察しします。では私はこれで...。」
「う、うむ。ご苦労。次もいい報告を期待している。」
そう言うと、細身の人物は部屋から出て行く。一人になった逞しい方の人物は、部屋にあった大きい机の椅子に深く腰掛ける。
「ふう...。アスカントの連中も何かを企んでると聞く...。全く気苦労ばかりが増えていくが、ようやく楽しみも出来たというものだ。」
逞しい人物はそう言いフッと微笑を浮かべる。
そうして、シュレアの夜はゆっくりと更けていく...。
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『コロナル亭』裏の宿屋で朝を迎える。
「んんっ...。あ、おはようございます。」
「うむ。もう昼になるぞ。」
「もうそんな時間ですか...。」
昨日はお酒も飲んでたしつい昼前まで寝てしまった。俺を起こしたクリスさんは既に鎧を着け、準備万端と言った様子だった。
「そうだ。言い忘れた事がある。」
「なんです?」
「予定変更だ。しばらくルクエで依頼をこなしたりして行きたい。」
「分かりましたけど...。」
「それと、聞きたい事もある。」
「は、はい。」
そう言ってクリスさんはおもむろに部屋を見渡した後、魔言を唱える。
「"サイレント"」
部屋にはこれといった変化は無い。だが、心做しか下の階や外からの雑音がなくなった気がする。
「今のは?」
「私達の会話が外に漏れない様にな。空気の揺れを遮断した。窓の僅かな揺れからでも会話を聞き取れる魔道士もいると聞くのでな。」
「はあ...。それで、聞きたい事と言うのは?」
「貴様は何故自分が魔物と戦えるかと考えた事は無いか?」
「え?あ、確かに...。」
言われてみて気付く。何故自分は今まで戦った事が無かったのにダンジョンであそこまで動けたのか、対人戦素人の俺が何故ベテランであるはずの者達を殺せたのか。
「前にも言ったが、スキルとその武器のお陰と言ったところか。ステータスを確認してみろ。」
「分かりました。"ステータス"」
言われた通り魔言を唱えると、頭の中に自分のステータスが出てくる。更に念じ、スキルの確認画面に移る。
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保持スキル
プレシャススキル:____
トゥルースキル:『決心』 『高速思考』 『人間観察(体)』『復讐心』『冷静』『執行者』
スキル:拳術Lv.5、神魔回復術EX
称号スキル:____
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(ん?一つ増えてるぞ...?)
拳術のレベルが上がっていたのも気になったが、トゥルースキルが一つ増えていたのだ。そのスキルの解説へと進む。
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『執行者』:保持者にもう一つの人格を形成する。もう一つの人格は独自のスキルを持ち、それを行使できる。精神攻撃耐性が上昇する。
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俺の持つトゥルースキルの解説と新しく増えた物の解説をクリスさんに伝える。
「と言った具合です。」
「ふむ...。冷静時に使える『高速思考』が『冷静』により、更に加速するといった所か。」
「はい、つまり、どういう事ですか?」
さっぱり分からん。
「貴様は戦いの前に瞬時に慌て、瞬時に決心し、そして幾重にも引き伸ばされた時間の中で敵の動きを見極めて倒す訳だ。」
忙しいやっちゃなー...。
「覚悟を決める時間があるのはいい事ではないか?死んでも後悔が残らんのだぞ?ハハハッ!」
「わ、笑い事じゃねー...。」
「すまんな。だが、後悔が無いというのは良い事だ。亡霊にならんからな。」
「ゾッとしない話ですね...。ていうか、ガングさんとの待ち合わせがありますし、そろそろ行きましょうよ。」
「む。もうそんな時間か。では行こう。」
俺とクリスさんは『コロナル亭』裏の宿屋を出る。泊まった料金を支払う際、昨日の夜の酒代も一緒に払う。
これはガングさんに請求せねば。
「おーい!」
冒険者ギルドに向かうと、ギルド入口の方でガングさんがこちらに手を振っていた。
「昨日はよく眠れたか?」
「まあまあ、ってとこですよ。」
「それは何より。んじゃ、入ろうぜ?」
「そうですね。」
ガングさんと合流し、冒険者ギルドに入る。中は相変わらず冒険者で賑わっていた。
受付カウンターに向かうと、見覚えのある受付嬢に名前を呼ばれる。
「セイエイ様!良かったー!」
「ル、ルリィさん?どうしたんです?」
「昨日お伝えするはずだった事を伝え忘れてまして...。ギルドマスターがお会いしたいそうです!」
「は、はあ。」
「ではこちらの部屋にどうぞ。あ、お二人もご一緒に!」
「え?俺もかい?」
「待っていても暇だしな。お言葉に甘えるとしよう。」
そう言って受付カウンター右脇にあった応接室に案内される。少し広い応接室の更に奥に、「ギルドマスター室」と書かれた扉があった。
扉を開け部屋に入ると、中に少し低い机を前に椅子に座る老人がいた。
「ようこそ...ん?ルリィ、私はアズミ君を呼ばせたのだが...?」
「はい!アズミセイエイ様をお呼びしましたが、何か問題でも?」
「いや、大丈夫さ。でもねルリィ、こういう話は本人と一対一でする物だから今後気を付けてね?」
「...?分かりました!失礼します!」
「うん。うん。まあいいんだけどね。ああ、すまない。そこに座ってくれ。」
どうやらギルドマスターは俺と一対一で話をしたかった様だ。ルリィさん、おそらく天然なんだろうなあ...。
ギルドマスターに促され、机の手前置かれていたソファーに座る。
「うん。まずは自己紹介からかな。私が冒険者ギルドのルクエ支部ギルドマスター、ソリット・ルテートだ。」
「アズミ セイエイです。」
「把握してるよ。ところで話なのだが、単刀直入に言うとルーキー狩りの件だね。」
「は、はい。」
「君の倒したルーキー狩りの三人なんだが、少し前からルーキーが襲われたとか報告は上がっていたんだ。けれど、その正体までは掴めていなかったんだ。なにせセッツ達はベテランだったし、それ故に私も疑っていなかったんだ。だから今回は非常に助かったんだよ。だから、特別依頼扱いで君に報酬をと思ったんだ。」
「それは有難いですけど...。」
「うん。今回の報酬として、アズミ君の冒険者ランクを鉄から銀まで上げようと思うんだ。彼等を倒したのなら、それくらいが妥当だろうしね。」
おお...かなり昇進したぞ...。ガングさんと並んじゃったよ...。
「最近は森の魔物も凶暴化しているとの報告もあってね。アズミ君は将来有望だし、何より『極星』のお気に入りだからね。」
「『極星』って何です?」
「知らないのかい?君の後ろにいるクリスさんは、ギルド公認の最強クラス冒険者『五騎士』の一人、『極星』のクリスなんだよ。」
大層な二つ名と役職だなと思っていると、クリスさんは不満らしく『五騎士』のシステムについて文句を言う。
「アレは貴様らギルドが、国の傲慢を冒険者に投げる為のシステムではないか!お陰でいい迷惑だよ。なぜ国家間の諍いに私達冒険者が巻き込まれなければならんのか、まるで分からん。」
「耳が痛いね。『五騎士』はギルドが勝手に任命する物でね。任命されれば、指名されやすくなる一方で国からの指名依頼で戦争に参加させられる時もあるんだ。クリスさんの言った通り、ギルドは国と冒険者との仲介役をほぼ放棄したに等しいんだよね。」
「そんな事が...。」
「まあ、話はこれで終わりだよ。アズミ君、期待しているよ。頑張ってくれ。」
「はい。有難うございます。」
「ああそうだ、この書類をルリィに渡してくれ。そうすれば、君の冒険者ランクを上げれるから。」
「分かりました。では、失礼します。」
ソリットさんから書類を受取り、俺達はギルドマスター室から出て、応接室を通りそのままカウンターの所に出る。
「まさかクリスさんがそこまでとは知らなかった!すまん!」
「大丈夫だ。私もアレに頼るつもりは無い。」
応接室から出るなりガングさんはクリスさんに謝る。クリスさん自身、本当に『五騎士』が嫌いみたいだ。
「あっセイエイ様!お話は済まれたんですか?」
「はい滞り無く。あ、この書類を渡せば昇進出来ると言われたんですが...。」
「お預かりします...。はい!では窓口までどうぞ!昇進手続きを行いますので!」
「分かりました。」
カウンターの窓口まで案内され、ルリィさんに冒険者証を手渡す。ルリィさんは奥に行き、三十秒程で戻って来る。俺の冒険者証は、色が鈍い灰色から輝く銀に変わっていた。
「昇進、おめでとうございます!二日で銀ランクなんて凄いです!」
ルリィさんは大声で祝ってくれるのだが、よく通る声のせいでギルドに響いてしまっている。何かざわつき始めたんですけど...?カウンターの向こうの受付嬢さん達も何かこっちみてるし...。
「そんな事よりルリィさん!」
「そんな事じゃないですよ!謙虚は美徳ですけど!」
違うそうじゃない!
「パーティーを組みたいんですよ!」
「パーティーですか?分かりました。セイエイ様の冒険者証と、登録される方の冒険者証をお預かりしても宜しいでしょうか?」
「お願いします。」
「これだ。」
「頼むぜ。」
三人それぞれが自分の冒険者証を手渡す。
いざパーティー結成となるはずが、何やらルリィさんが何か言いたそうにモジモジしている。
「あの、セイエイ様。」
「何でしょう?」
「四人から旅団と言う大規模なパーティーが組める様になるんですね。これはより多くの冒険者同士が集まる事で、街の防衛や魔物の大量発生に対応しようという物なんですね。」
「なるほど。」
「本当は登録の時に話すべきだったんじゃねえか...?」
そう言えばそうだったな。
「うっ!すいません忘れてました...。そ、その旅団なのですが!実は私も冒険者なのです!」
そう言ってルリィさんは、鈍い灰色の冒険者証を見せ付けてきた。
「私もその...パーティーに入れて貰えませんか...!」
当然....。
「無理ですね。」
「無理だな。」
「無理だろ〜。」
「そっ、そんな!?」
だって明らかに戦闘力無さそうだし...。
「ルリィ、冒険者と言うのは常に死と隣り合わせの職業なんだ。というか、いい加減父の元に帰った方が安全に暮らせるぞ?」
「父の話はやめて下さいクリスさん!あんな所に戻るくらいなら野垂れ死にますよ!ううっ...!」
「そこまでなんですか...?ルリィさんのお父上って?」
「ルリィの父はシュレア王国の上級貴族でな。冒険者になりたいと言うルリィをなんとか説得し、ようやく受付嬢で抑えたという訳だ。」
「貴族だったんですね...。」
苗字あったし、やっぱり貴族だったのか...。でもリュカオンってなんか聞いた事あるな...?
「セイエイ様お願いします!私をパーティーに入れてくださいよぉ!」
「ええ〜...。なら、俺達が見守る中で魔物を倒せたら良いですよ。」
「だな!ゲイルウルフ位一人で狩れたら、俺も大丈夫とは思うぜ?」
「ほっ、本当ですか?」
俺達が条件を出した事に可能性を感じたのか、ルリィさんは顔を輝かせる。しかし、話を聞いていたのか、後ろからそれを許さない人物が来る。
「ギ、ギルドマスター...。」
「ルリィ。君にそんな危ない事をさせる訳にはいかないんだよ。すまないねアズミ君。」
「いえ、俺は大丈夫ですけど?」
「ソリットさん!お願いします!無理だったらキッパリと諦めますから!」
「私も君のお父上に任されているだから、そう簡単に放棄する訳には...。」
悩むソリットさんだったが、何かを思い付いた様な顔をする。
「許可しよう。でも、駄目だったら王都に戻るんだよ?後、念の為お父上に連絡しておくけど、いいね?」
「はい!有難うございます!」
どういう風の吹き回しだ...?
突然のソリットさんの変わりように呆気に取られていると、そのソリットさんに肩をポンと叩かれる。
「頼んだよアズミ君...?」
「ま、まさか...?アンタって人はー!」
「悪く思わないでくれアズミ君...!?もう胃潰瘍にはなりたくないのさ...!」
「しょっ、職権乱用だ!!」
気配を感じ、後ろを振り返る。
「宜しくお願いします!セイエイ様!」
どうやら、面倒事を引き受けてしまったようである。
明日更新出来るかナ...。
誤字脱字報告やコメント等随時受け付けております!( ・ω・)ゞ




