躊躇いと免罪符
最初から解説ですが!m(_ _)m
シャクショール学術都市国家、それは錬金術師達の作り出した巨大都市国家である。この世の理を塗り替える学問である錬金術を極めんとする科学者達がこの国に集い、錬金術は一種の極地に至った。やがて、シャクショールは現魔大陸の6割を占める大国にまで成長する。
シャクショールは勢いを増す魔王軍に対抗するべく、当時の錬金術の最新技術を結集させ開発した『錬金合成生物』やゴーレムと人を融合させた『魔鋼強化兵士』等を開発するも、不完全な技術は暴走を招き、シャクショールは呆気なく滅亡する。こうして、魔大陸は魔族の支配下になった。しかし、一部の錬金術師達はダンジョンに逃げ込み、そこで研究を再開しシャクショール復興を考えた。だが、魔鋼強化兵士にされた者、魔物に合成された者を除いた錬金術師達は自らの創り出した怪物の手で葬られ、シャクショール復興は潰えた。
錬金術により作られた怪物達は更なる進化を遂げ、今もダンジョン内を彷徨っている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「その怪物がこの階層にはいるんですね。」
「うむ。愚かな錬金術師は命を弄び、弄んだ命に葬られたのよ。我はああも愚かな連中は見た事が無かったよ。」
俺、アスィ、リリアナの3人は現在森林エリアを抜け、三階層に向かう階段を降りていた。ここの階段は時間が経っているとはいえ、綺麗に整備されていた。所々に見た事の無いエンブレムが彫られている。羽ペンと金槌が交じるその後ろに、力の象徴である竜が描かれているエンブレムだ。
「でもその話って、いつの話なんです?」
「ざっと五千年程前だ。我にとってはついこの間の出来事よ。」
「ねえ、ゴーレムと融合させられた人はどうなっちゃったの?」
「魔鋼強化兵士の事か。アレは哀れだった。自ら死ぬ事は許されず、気は狂えども魔力が供給出来る限り生き続けるのだ。何百年とな。」
「そんな事って...。」
「という事は、今も?」
「分からぬ。ハルバアスはこのダンジョンを踏破はしたが、細かい所までは見ていないだろう。恐らく、まだいるぞ。」
階段が終わると、俺達の目の前には街が広がっていた。街とは言っても、荒れ果てた石造りの家が並んでいるだけなのだが。それでも、そこには人が居たという証があった。そしてここも広い。森林エリア程の広さは無いものの、大きい村程の規模はあったのだろう。
「早速来たな。戦闘態勢!」
「ッ!」
「早いわよ...!」
俺達の目の前には醜悪な魔物がいた。体はライオンだが、背中には巨大な腕が1本と小さな腕が何本も生えている。そして、その魔物は人の声で呻く。
「コロシテクレェ...!アア、アアアア!」
「何なんだよ...アレ...!」
「アレは魔物、なの...?」
「躊躇うな!奴らには外敵を殺す命令が埋め込まれている!もう助けられん!殺すしか無い!」
「クソッ!"エンチャント"!!」
俺は迫る魔物の体当たりを避け、炎を纏った右拳で魔物の横腹を思い切り殴る。魔物は怯むが、背中の腕が俺の腕を掴む。人の手に掴まれる感覚に、俺の心に一瞬躊躇いが生まれる。
「なにッ!?"ファイアボール"!!」
咄嗟に撃ったファイアボールが直撃し、魔物の腕が俺の手から離れる。人の肉が焼ける臭いがする。初めて感じる臭いに耐え切れず、その場で吐いてしまう。
「私が!」
「躊躇うなと言ったろうに...。」
アスィが飛び上がり、背中に大剣を突き刺す。そこにリリアナが飛び出し、魔物の額に手を置く。
「もういい。休め。」
「アア...ようやく、休めるのか...?」
リリアナの手が輝いた次の瞬間、魔物の頭が消し飛ぶ。頭を失った魔物は倒れ、背中の腕も動く事は無かった。
「ハァ、ハァ...すみません。ちょっと、ダメでした...。」
「同族の焼ける臭い等、想像したくも無いな。だがセイエイ、ここではその躊躇いが死を招く。元同族を殺すのを躊躇うな。奴らは既に魔物だ。せめて、我らの手で弔わねばならない。」
「そう、ですよね。」
「セイエイ、辛いのは分かるわ。でもここで死ぬ訳にはいかない。そうでしょ?」
「ああ、そうだな...。アスィごめん。心配掛けた。リリアナさん、俺何とかして克服してみせます。」
「そうしろ。こいつらを今殺せるのは我らだけなのだからな...。」
殺す事でしか救えないなんてな...。でも、それしか無いなら、そうするべきなんだよな。結構心に来るなあこれ...。代われるなら代わって欲しい役だ。
俺達は引き続き街を偵察する。
その中で、一つだけ周りと違いしっかりとした建物があった。不思議と、俺はその建物に掛けられた看板の意味が分かる。
「トール錬金術研究所...?」
「セイエイこれ読めるの?」
「ああ。なんだか不思議な感覚だ。」
「助かったぞ。我も読めぬ文字だからな。中に入ってみるぞ。ここの魔物の弱点等が分かるかもしれん。」
「分かりました。」
俺達は、トール錬金術研究所と書かれた看板のある建物に入る。中は埃まみれで、瓶や様々な植物、本等が積み重なっていた。奥にはまだ空間があるようだ。
最後にアスィが扉を閉めると、部屋に置いてあったランタンの様な物が青白い光を放つ。その光は人の形を作り出す。
「うおっ!」
「びっくりするわね!」
「これは、魔光虚像の秘術か...。」
光で出来た若い男の虚像は、周りを見る動作をした後に口を開き言葉を発する。
"やあ、初めまして?かな。僕はトール・タテデダイ。この術が発動したって事は、僕はもうこの世にいないだろう。その時はシャクショール復興の夢はもう潰えたんだろうね。残念だけど、それで良かったんだろう。なら、もうあの老人達に従う必要は無い。この部屋の奥にここの魔物の弱点を書いた本がある。それを使ってこの哀しみの連鎖を断ち切ってくれ。身勝手なのは分かってる。でも、もうこれを見ている君しか居ないんだ!僕ら錬金術師の狂気に囚われた彼らをどうか...!ッ!魔鋼強化兵士が暴走したんだろう。これだから兵器研究のバカ共は...!暴走するにはまだ早いハズだったんだけど...。僕はもうダメだろう。この虚像を見ている君に竜の加護があらんことを!"
メッセージを再生し終わった光の虚像は霧散し消える。
「トール...。シャクショール最強の錬金術師か。奴がシャクショール復興を潰した張本人だっとはな。」
「取り敢えず、弱点の本を探しましょう。魔鋼強化兵士でしたっけ?弱点は知っておきたいですし。」
「そうだな。」
俺は奥の空間に進み、本棚を探す。太めの本の隙間から出てきたメモには、ここに出てくる魔物の弱点等が詳細に記されていた。
「ありました!コレだよ!弱点が事細かく書かれてる!」
「何が書いてるか分からないわよ!」
「うむ。我も読めぬから分からぬぞ。」
「あ、すいません...。」
「メモは手に入ったのだ。出るぞ。」
リリアナがそう言った次の瞬間だった。
「上だなッ!避けろ!」
「えっ!!」
「気付かれたのか!?」
俺達は咄嗟に回避をする。先程まで俺達がいた場所に天井を壊して降りてきたのは、軽鎧を付けた人間だった。
「外敵を確認。直ちに排除する。」
「アレは、人間じゃないか!?」
「何言ってるの!違うわ!迎撃よ!」
「一瞬で終わらせてくれるわ...!」
「まっ、待ってくれ!操られているだけかもしれない!すぐに殺すなんて...!?」
「馬鹿!ッ!セイエイ、どいてぇ!」
「えっ、あっ!」
「ぬうっ!?」
鎧の人間の貫手がアスィの腹部を貫く様が、スローモーションのようにゆっくりと見えた。
「あぁぁあぁ...ああぁあ...あああぁアアアッ!」
俺の!俺の、せいで!アスィが!アスィがっ!何なんだよ...。なんでなんだァ!クソッ!殺してやる!絶対に殺してやる!殺してやる!殺してやる殺してやる殺してやる!躊躇いなんてッ、うっ、頭が、痛いッ!これは...声、俺の声か...?
(お前は甘い。身体を借りるぜ、俺。お前にはここで俺の、いや、お前の覚悟を見ててもらおうじゃねえか...!)
あの時と同じ自分の声が聞こえ、視界が暗転する直後に何かを告げる声が聞こえる。
ーートゥルースキル"執行者"が発現しました。
どうでしょうか。セイエイのもう一つの人格は果たして、スキルという一言で終わらせていいものなのか...。
更新、危ういです!