魔王の娘のポテンシャル
燻製、良いですね。
熱燻ならゆで卵と簡単な材料で作れますよ!
何故、この状況になったんだ?
「ふうむ...。ヒトを見たのは何年ぶりだったか...。」
「セイエイは人だけど私は魔人よ?」
「分かっている。娘、名前は?」
「私はアスィよ!アスィ・アドラメリク!」
「ほほう...。あやつに子が出来ていようとは。これは何かくれてやらんとな。」
「えっ!なになに?」
俺とアスィは草陰に隠れていた所を水浴びしていた白竜に見つかり、やられる!そう思った瞬間
『知のある者と話すのは真、久しぶりなのだ。近くに来い。英雄伝の一つでも話してやろう。』
と、言われたのだ。
そう言われて恐る恐る近付いてみると、この白竜、屈んだ状態で5m程の高さがあった。大きさは20m程あり、翼は目一杯広げれば横幅が50mに届きそうだ。
その後白竜が湖から出て懐かしそうにした所で、先程の会話に繋がる。それにしても、まあ威圧感ハンパない。何故アスィはあそこまでフレンドリーに話せるのか、不思議でしょうが無い。てか竜が誕生日祝って何だよ!
「そこのヒトよ、名は何と言う?」
「あ、安曇清英です。」
「セイエイ、か...。」
俺の名前を反芻した後、白竜は静かに問い掛けてくる。
「セイエイ。貴様、自分の中に何か飼っているな?それは、我の知らない事かもしれぬのだ。教えよ。」
「え?飼ってるって、どういう事なんです?」
「自覚が無いと!これは面白いのが来た。せっかくだ。直感でお前の瞳を見た感想を教えてやろう。」
「自覚...?」
「貴様の中には今、自身の心の中の悪とも言える部分が一種の自我を持ち始めているな。悔しいが、分かったのはそれだけだ。どうだ?当たっていなくとも、何かしらの心当たりはあろう。」
「あり...ます。でも、何で俺の心にそんなのがあるんです?」
「分からん。それに貴様、この世界の者では無いな?我の魔眼が効かなかった相手は、アスカントとお前の2人だけだ。」
「そう、ですけど。それが何か関係あるんですか?」
「ここに来るまでに魂に干渉されたか、次元を超えた時のショックが魂に影響を与えと思われるな。だが...」
「だが?」
「"それ"は決して毒ではない。"それ"もまたお前であり、お前の持つ力を解放する鍵でもあるのだ。それを、忘れるな。」
「心に留めておきます。」
「そうするのだな。ところで、貴様らは子供2人で何をしにこのダンジョンに来たのだ?」
「実はですね...」
理由を聞かれた俺は、正直にここに至るまでの経緯を喋った。すると白竜は
「クククク...。ハルバアスめ、なかなかに面白い事をするではないか。貴様ら、このダンジョンがどんな所かは聞いているのだろう?」
「ええ。魔大陸の猛者が挙って腕試しに来る所だと。」
「ちょっと難しい所だって言ってたわ。」
「そうか!猛者の腕試しとな!貴様らハルバアスにまんまと騙されおって。」
「「ゑ?」」
何だって?騙された?ドユコト?
「クク...。ならば教えてやる。このダンジョンは"深奥の消失帝国"と呼ばれる場所でな。猛者気取りが腕試しに来る所では無い!それこそ、命を賭けて力を得ようとする者の試練の場だよ!」
「ワアオ...。」
「そうなのね...。」
魔王コラァ!なんてとこに放り出してくれてんだゴラァ!薄々気付いてはいたがチュートリアル的なのじゃねえなこれ!?
「おお、我とした事が名乗るのを忘れていたな。我の名はリリアナ・グローリー。無論、男だ。」
「リリアナさんですね。分かりました。」
「リリィね!分かったわ!」
「む。それでは、我が女の様ではないか。む。だが愛称とやらを付けられたのは初めてぞ。リリィと呼んでいいのはアスィ、貴様だけだぞ?」
「分かってるわ。大丈夫よ!」
竜にあだ名て。コミュ力高いなんてモノじゃないぞアスィ。
アスィのグローバルさに感心している俺に、白竜さんことリリアナが問いかける。
「時にセイエイよ。」
「改まって何です?」
「貴様らはダンジョンを進むのか?」
「そう、ですね。そうするしか無いですし。」
「リリィも来ない?あなたが居れば面白そうだわ!」
!?
「フハハハハハッ!神竜種たる我と冒険を共にしたいと申すか!よかろう!我も丁度そう言おうと思っていた所だ。セイエイ、いいな?ククク、久々に楽しめそうだ。」
「う、うわあ。」
ん?でも待てよ。
「あっリリアナさん。」
「何だ?」
「その体でダンジョンを進むのは難しいのでは...?」
「案ずるな。我とてこの星と共に生きる竜。人化の術程度なら、習得しておる。」
「そんなものがあるんですか...!」
「うむ。では見せてやろう。"竜人化"!!」
リリアナが魔言を唱えると、彼の身体は眩いばかりの光に覆われ、直視出来ない。そして数秒程で光が弱まり完全に収まった時、そこには白髪の美少年が立っていた。てか、俺より背が低い。そして女の子みたいに可愛い。リリアナという名前も相まって凄いしっくりと来る。
「ふう、何百年か振りの人化は疲れるな。」
「凄いですね...。あれ?その服どうしたんですか?」
「む?これか。」
リリアナの服装は、白いシャツに黒いベスト、黒いズボン、黒い男物のコート、黒いマリンハットという出で立ちだった。
「貴様の来ている物を我に合うように変え、魔力で復元したのだよ!どうだ?なかなか様になっているであろう?」
「凄いですけど、それも"スキル"なんですか?」
「そうだ。我の場合は相性もあり、服や簡素なものしか作れぬがな。それよりも、この帽子、なかなかにいい物だろう?」
「良いものですけど...んん?」
「気付いたか?この帽子は貴様の記憶から再現した物なのだよ!」
「いい、いつの間に!?あっ、さっきの!」
「そうだ。貴様の瞳を覗いた際に、貴様の記憶が少し見えてな。あの海に浮いていた鉄の塊は実に興味深かったぞ。」
そういやここに来る前に映画見てたなあ...。まさかアメリカ海軍将校の帽子とはねえ。
「ねえセイエイ。」
「ん?」
「燻製、しないの?」
「あっ!」
「む?何の話だ?」
「いえ、試してみたい事がありまして...。」
「燻製っていう料理を作るのよ!」
「燻製...聞いた事が無いな。作り方はどうするのだ?」
「肉を塩揉みして、香りの有るものを燃やす火の煙で燻すんですよ。ちゃんとした材料があれば、上手く出来ます。」
せめて鉄板でもあれば簡素な燻製器が作れるというのに...!ん?待てよ。
「リリアナさん、俺の記憶を見てそれを再現出来るんですよね?」
「ああ。簡素な物に限るがな。」
「今から頭に再現してほしい物を浮かべますから、お願い出来ませんか?」
「良かろう。新しい料理には興味がある。」
「ありがとうございます!」
そう言って俺は、前に作った簡素な長方形の薄鉄の箱を頭に思い浮かべる。中には金網が1枚あるだけだ。出来るはず...!
「では行くぞ。」
リリアナは俺の瞳を五秒程見た後、何も無い空間に両手を伸ばす。すると、リリアナの手と手の間に小さい立方体が生まれる。それはどんどん増え、ある形を目指して積み上がって行く。
少し経つと、そこには俺の思い浮かべた燻製器があった。
「どうだ?出来ているか?」
「ええ!ええ!完璧ですよ!後は...。」
「後は?」
「肉です。あそこにいるロッククラッシャーを狩りましょう。」
俺は自分たちのいる場所から少し離れた場所で、俺達の行動を窺っているロッククラッシャー3頭を指さす。
「良かろう。ここは我に任せよ。なに、軽い準備運動だ。それに久々の人化だ。大分鈍っておるわ。」
そう言い、リリアナは地面を蹴って飛び出す。すると、物凄い速度でロッククラッシャーのいた場所に到達する。これには流石に驚いたのか、3頭の内1体は急いで逃げてしまう。しかし、後の2頭はリリアナの手から出た光線で、頭を文字通り"消されて"しまう。
俺とアスィは身体強化を使って、リリアナのいる場所に駆け付ける。勿論、先程作った燻製器を持つのを忘れない。
「こんな物だな。どうだ、足りるか?」
「すごーい!さっきのどうやったの?」
「今のも、魔法なんですか?」
「説明は後だ。それよりも今は燻製を作るのだ!」
「「ええ...」」
俺は頭の無いロッククラッシャーをナイフで手早く捌いていく。一時期自分で鹿とか豚とか捌いてたのだが、そこで得た技術がここで活きるとは思わなかった。
運の良いことに、どちらもまだ大人では無かったようで2頭捌くのに時間は掛からなかった。あっという間に肉塊が2つ並ぶ。因みに、内臓はやる暇も無いので残骸諸共燃やして処理した。
「手際が良いな。なかなかの物だ。だが少し切り方が甘い!」
「セイエイそんなの何で出来るの?普通は使わないわよそんなの。」
「そうだけどサ...。」
美食家の竜と魔王の娘に指摘や褒めけなしを受ける。俺だって使うタイミング少ないことぐらい分かってるよ!
俺は肉塊を湖の水で洗い、燻製器に入る大きさに切っていく。ここで俺は、携帯食料等の入っていたカバンから秘密兵器とも言える物を取り出す。
岩塩だ。この森林エリアに来る時に、岩壁に出来ていた物を見つけたのだ。使えるかなと取っていて良かった...!そして次にエルダートレントの破片である。これが桜の木の香りに似ていてピンと来た。そう、桜チップである。これで擬似的な牛肉の桜チップ燻製が作れるのだ!
燻製方法は「熱燻」と「温燻」だ。前者は熱風で短時間に仕上げるため、保存性が殆ど無いが水分が少し残るので美味しく作れる。後者は一般的な燻製の方法の事で、一週間は持つはずだ。どちらも魔法でゴリ押しして作るが大丈夫だろう。
肉を丁寧に塩揉みし、水でもう1度洗った後にそれを燻製器の中の金網に置き、その下にエルダートレントチップを置いて火を付け、扉を閉める。今気付いたが扉も再現されていて地味に嬉しい。
「これで1時間経てば出来るよ。」
「結構待つのね。暇になっちゃうわ。」
「空腹こそ最高のスパイスだと聞いた事があるぞ。アスィよ、待つ事も料理なのだ。」
「それはそうだけどー!」
「もう一つの調理法は1日掛かるからね。これはまだ短い方だよ。」
「そんなにかかるの?パパッと焼いちゃダメなの?」
「それは燻製が出来てからさ。一応他のも考えてるよ。待つ間暇なら、少し手伝ってくれない?」
「む、何かするのか?」
「はい。魚を捕りたいと思います。」
「ほほう?だが、ここの魚はずる賢く素早いぞ?」
「方法はあります。少し荒っぽいですがね。」
さあ、ダイナマイト漁(仮)の始まりだ...!
次回は爆発、肉、ドラゴンです←
更新遅くなるかもです。