悪魔の尾
お久しぶりです。お仕事忙しいでした(語彙力)
シェイズ・ユース。アスカントの巫女宮の守護騎士長にして、五騎士の一人。ユース家の長女であり、アスカント唯一の大巫女であるアイリエ・ユースの姉でもある。
...信じる主は自分の知る物ではないと知った彼女には、守るべきはただ一人の肉親であるアイリエだけだった。
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「アスィ!撃つんだ!」
「分かった!」
アスィは右手に持っていた鉄製の大きい筒を迫るアスカント軍に向け、魔力を込める。
「喰らえッ!メガビーム砲!!」
重く大きな鉄の筒から光が漏れ、それは徐々に強くなる。そしてそれが最大に達した時、眩い光が轟音と共に放たれる。
「ッッッ!審判級魔術が来るッ!全員下がれ!入れる者から『壁』の中に入れ!」
シェイズの周りにいた兵士と聖騎士は慌てて展開された巨大な壁の内側に全力で走っていく。
「伏せろ!『ソルッッジンスクッッ!』」
シェイズが叫び盾を地面に突き立てると、展開された壁は輝き、それと同時にアスィの放った光が激突し目が眩む程の輝きを生む。
「ぐっ...!おおおおおお...!!」
「消ぇし飛べええええ!!」
「ははっ!予想以上の出力だ!...ん?...これは...!」
眩しくて見えにくいが、アスィの持つメガビーム砲の発射口とその付近からは火花が出ていた。そして火花は光が強くなるごとに徐々に勢いと量を強めていく。
「アスィ!このまま撃つのは危険すぎる!!アスィ!聞こえないのか!?このままじゃ!」
「まだ...足りない...!」
「砲身が熱に耐えられないぞ...!仕方ない!」
「セイエイ!何を...!?」
俺は熱で煙を上げるメガビーム砲をアスィから奪い取り、すぐさま明後日の方向にぶん投げる。
ビーム砲は落下の衝撃が引き金になったのか、地面に落ちた瞬間激しい爆発を起こす。
「危なかった...。」
「セイエイ!大丈夫?ごめんなさい...もう少し耐えられるかと思って...。」
「いや、いいんだ。データは十分に取れたよ。試作品を失ったのは痛いけどね。」
「セイエイッ!アスィ!何をしている!敵がまた来るぞ!」
見ると、立ち上る煙の中から輝く障壁が覗いていた。障壁の周りの地面は深く抉れておりまだ煙が残っていたが、内側にいるシェイズ含め他の兵士は無傷だった。兵士達は再びこちらに向かって来る。
「まだこんな魔法を放てる者がいたとはな...!噂に聞くシュレアの王城魔導師『マーリン』か!?」
「違うわよ...っとお!!」
「オオアッ!甘いんだよ!」
瞬間的に近付き攻撃を仕掛けるアスィの剣をシェイズは右手の長剣で受け止める。
「シェイズ様っ!」
「やめろ!来るなッ!こいつは...」
「邪魔。」
「うっ...あっ...!!」
アスィと切り結ぶシェイズを助けようとした聖騎士をアスィは貫手で貫く。
「吹き飛べッ!」
「や、やめろおおおおおッッッ!!」
シェイズの叫びも虚しく、アスィが放つ魔力によって貫かれた聖騎士は無惨に爆散する。
「貴様は...!貴様は...!そんな...そんな事をしてなぜ!!なぜ平然としていられるッ!?」
聖騎士を殺しても表情を変えないアスィに対し、シェイズは驚きと怒りの混ざった声で問いかける。
「...?何、言ってるの?敵なんだから...殺さないといけないでしょ?殺すなら、確実に殺さないと。」
アスィはきょとんとした表情になり、当然の事を言うようにシェイズに問い返す。
「お前は私が殺す!今日!ここで!はァァァ!!!」
シェイズの怒りは臨界点に達し、勢いのままアスィに剣を振り下ろす。
「そんな剣が当たるか!」
「しまっ...ぐあっ!」
シェイズの剣はアスィに弾かれ、逆に反撃の蹴りで吹き飛ばされてしまう。
「シェイズ様ァー!!」
「我らで隊長の危機を救うのだ!」
「来ォい!」
「やめろ来るな!!犠牲は...私だけで...うっ!」
援護に来た聖騎士達を制止しようとするも、シェイズは立ち上がれず、剣を地面に突く。
「シェイズ様っ!大丈夫ですか!?」
「私に構うなっ!...ッ!避けろっ!!」
「なにをっ」
シェイズに気を取られ余所見をした聖騎士はアスィの振り下ろした大剣で真っ二つにされてしまう。
「二つ。」
「くっ!このバケモノっ...!?ああが...あががが...!」
「はああっ...!ふんっ!」
アスィが向かって来た別の聖騎士に掌を向け、手を閉じると、聖騎士は内側から爆発したように四散した。
「なんだコイツは...!魔力量が桁違いだ...!溢れてるッ...!」
「ハッ!」
「...ぐっ!速」
アスィを見て戦く聖騎士はアスィの一撃に反応し、剣で受けようと構えるが、剣ごと体を真っ二つにされてしまった。
(私では...奴に勝てない...!だが殺された同胞の為、国民の為、刺し違えてでも!ここで殺さなければ!!)
混沌とする戦場で、シェイズは確かな覚悟を決める。だがその時
「アスィ!待つんだ!」
「セイエイ!?ここは危険だから下がってて!」
「それは聞けない!アスィだけ前に出すわけにはいかないだろ!それに、この戦いはもう終わる戦いなんだ!もう誰も殺さなくていい!」
「なんで!」
「枢機卿達は降伏を...」
黒髪の少年は目の前の青髪のバケモノじみた強さを持つ魔人族の少女を言葉だけで制止出来ている。
(成程...貴方が...『大切な者』か...。ならば...ッ!)
「少年ッ!覚悟ォ!」
(戦場で敵に背を向けるとは自殺行為...!死にゆく前に手向けとするッ!)
シェイズは長剣を構え、背中を向けているセイエイに向かって勢いよく踏み出す。
「しまった!」
「ハァッ!」
「うぐッ!ガっ!」
セイエイは殺気に反応し、咄嗟に振り向くがシェイズの剣はまっすぐにセイエイの腹部を貫く。
「避けられた!なかなかやる!」
「アスィ...!俺は大丈夫...だから...怒るな...ッ!」
「怒るな?」
(怒るな?何を言っているんだ?まさか、あの少女が怒るのがそんなにも恐ろしい事なのか!?自分の身よりも優先される事なのか...?)
「イヤ...イヤああああああああああ!!!
ダメ!セイエイ!しっかりして!お願い目を開けて!死んじゃダメ!」
「アスィ!俺は大丈夫...!だから、戦っちゃダメだ...!」
「殺してやる!殺してやる殺してやる殺してやる!殺してやるぞおおおおおお!!!!」
「アスィ!!!!」
アスィの長い髪は叫びに応えるかのように煌めき始め、自身も赤いオーラを放ち始める。そしてその目は理性のある者の目では無かった。
「虎の尾を踏んだ...いや、悪魔か!」
ぼちぼち書いていきます。年内にもう1話...!